39話
「お、見えてきたね、村」
「くんくん、確かにこの辺は匂いが強いのじゃ」
「エ? いや、村? どこ??」
うん、無事に日が落ちるまでで着きそうだ。
……っと、その前に、あれはー、
「レコウ、何か仲間がいるけど、知り合い?」
「んー? ……いや、ただのでっかいトカゲじゃのー?」
「うん。知り合い??」
「いや、だから、トカゲじゃって、」
うん、だから、知り合いじゃないの???
「なー、さっきから、何見えてるんだー??」
……まあいいや、とりあえず会って話してみよう。
「こんにちはー、」
「誰に話しとるんじゃ、」
ガルガル。
お? うんうんなるほど?
「この子は、喋らないね?」
「いや当たり前じゃ!?」
「ウワ、ホントにいた、どうなってんだ??」
喋る用の魔法使えないのかな?
ガルガル、
お、なんだろ、
『グルル』
「ッ、あぶねえ!!」
お、炎を吐く気だ、やっぱ親戚では?
うーん、普通の炎魔法? いやちょっと違うな、もっと純粋と言うか、単純なんだ。
効率はいい? 面白いね、再現できるか試してみよう。
「万象の杖、『反論』」
逆位相で、
おー、消えた消えた。魔物も人も、根底の魔法はやっぱ変わんないんだね。
「ナッ、イマのって、」
「うーん、元気な挨拶だったね、」
「……そろそろ、我とはなんの関係もないと気づいてほしいのじゃ」
とは言っても、流石に気が引けるしね、
ほら、森へおかえり?
「『水弾(もりへ、)』『雷弾』『風弾(えり?)』」
がるー!!? …………、
うん、無事に傷つけずに済んだよ。
「もの凄い力技だったのじゃ」
「スゲー、」
しかし、弱かった。
これ、もしかして本当にレコウとはなんの関係もないのか? まあいっか。
「な、なあ、今の、どうやったんだ!?」
「え? これは、万象の杖と言って……、なんか凄いやつ!!」
「へーー? じゃあその前の、炎消した奴は!?」
「んー? あれはうまいことまったく逆の魔法をぶつけただけだよ」
正直、おとなしく障壁でも作った方が何倍も簡単な、ただの宴会芸だね。
まあ、今みたいな、森が燃えないようにする時は便利かもだけど。
というかあのトカゲ普通に炎を吹いてたけど、よく今までこの森無事だったな。
「魔族領って、みんなこうなのー?」
「どうだろうナー、そうそうこんな奴いるとは思わネーけど」
「というか魔物ってことは、レコウの知り合いじゃなくても、魔族の知り合いの可能性もあるか?」
君の可能性も、昔に生き別れた義兄弟とか、
うん。ありえないね。
「いや、野生だろ? 流石に、あんなんペットにする奴いるんかねえ?」
「魔物はみんな魔族のペットみたいなもんじゃないの?」
「なわけあるかよ??」
そうなん? いやでも君、別にそこら辺、詳しくなさそうだしなー。
「まいっか。もう村だね、」
「そうじゃのー、」
「……あ、見え、やっぱまだ見えねえよ、」
そのデカいので視界塞がってるからでは?
くそう、
「…………うわ、ホントに村あった、」
「やっと見えたー?」
ふむ、門番とかはいないのか?
まあ、ただの村だしな、
しかし、魔族の村ってどんなとこなんだろ、
金銭の代わりに殴り合いで交渉するとか? ありそう、実際そんな場所もあったし、
とはいえ人が集団生活できてるなら、そこまで酷いってことは、フラグだこれ、
「……今のうちに筋トレしといた方がいいかな?」
「何故じゃ!?」
冗談だよ、僕筋肉つけたくないし、
「魔族のことは、いざとなったらレコウに任せるよ、」
「ナー、オレはー??」
いや、多分君の運動能力、僕以下だし、
あ、膝をついて倒れ込んだ、本当に身体能力低いんだなー。
「……筋トレ、するかの?」
「してもつかねえんだよこの体、」
食料不足では?
いや、栄養は確実に保ってやがるな、くそくそう、
「……村、つくよ」
「オー……、」
「……はあ。なんか礼儀作法とかあるの、シファ?」
「あ? いや、そんなの、村次第だろ??」
使えな、
「グスグスン。どうせワタシは世間知らずの社会不適合者ですよー。アア、ニンゲンの礼儀作法は覚えさせられたのに、」
「ちょっとー、セシィ? 思っても言っちゃダメなのじゃー、」
「レコウさん???」
めんどくせ、ほら、村の中入るよー、
宿とかー、この規模じゃないのかなー?
まあ別に、いつも通り二人で収納空間の中でー……、一人は野宿。
流石に、かわいそうかな??
「でも、あそこに男を入れたことなんて無いし、悪いけどやっぱ、」
「いやー、あんまりじゃよー?」
「グスグス、よくわかんないけど、男あつかいしてくれるならそれでもいいや、」
うぐぐ、ま、まあ、まずはこの村がどんな感じか、見るのが先だよね。
魔族の村、一体どんな場所なのか。
気を、引き締めなければな……、
……魔族の村、そこで僕たちは、今までで初めての体験をした。
うん、凄い変な感じ、慣れない、もはや怖い、
これは、いったい、何が起きた?
「いやー、くるしゅうないじゃー!!」
きゃー、、
レコウがモテてる、主にご高齢の方に、
「あ、どうも、おかまいなく、」
「ア、ホントに、大丈夫なんで、」
そして、僕たちも、めちゃくちゃ配慮される。
主にご高齢の方に、すなわち町の住人ほぼ全員に、
僕たちは、今、体験したことがないほど、
はちゃめちゃに歓迎されていた。
「ナ、何が起きたんだ?! 魔族ってミンナこうなんか!?」
「君がそれ言っちゃうの??」
何故だろう、理由はいくつか推測できる。
まずこの村、やけに若い人間が少ない、本当に幼い子が一人二人いるくらいで、残りは全部老人。
少子高齢化の波が、こんなところにまで、
世界を跨ぐほどとは知らなかったよ、いや冗談。
次に、僕たちの外見。
中身は色々と詐欺もいいとこだけど、全員保護欲をそそる少女の外面。
つまり、僕たちは、ご老人たちのアイドルになったんだ。
最後に、何故かこの村、生活に余裕がある??
働いている姿が見えない、わからない、魔族も別に普通に食事するはずなんだけど。
なんだろう、この歪さは、
「ふははー、気分がいいのー!! それじゃあレコウ、歌います!!」
きゃーきゃー。
……いやあの子、ノリノリすぎでしょ、
あと本当に歌うのは色々と面倒臭いからやめてくれ、
「どうすんだー、これ? 逆に休まんねえぞ」
「まあ、合理的に、この外見が役に立ったことを喜ぼう」
「よろこべねえよ、くそー、」
我先にと自分の家に泊めようと争ってるな、みんなそんなに部屋余ってるの?
「アー、もしかして、そーいうことかー??」
「知っているのかシファ!」
「ほらあれだよ、オレたちの目的の、な、」
そう、わかるだろって顔だ、
うん、知らねーよ?
でも、それを聞くのは、なんか癪だなー、
「みんなー、ありがとーなのじゃー!!」
あ、レコウのライブが終わった。
どうする? とりあえず、村長とか居る?
「おお、夕飯!? どうもなのじゃー!!」
え? うわ、そのままプチ宴会始まったよ、
あ、僕らも? あらこんなに、
どうも、でも別に水だけでいいです。
ちょ、なんで、なんでさらに増えるの??
「また山盛りだ、どう、シファ? これ食える??」
「アハハ、すっかり胃が縮んじまったよ」
やばい、まだくる、いや、ほんとに、もういいですって、
い、う、え、助けてー、レコウー、
——お礼にもう一曲歌うのじゃー!!
——きゃー!
「……シファ。男の子なら、いっぱい食べなよ??」
「オ、おう。……オマエこそ、いっぱい食った方がいいんじゃ??」
…………流石にこれ、アレンのにするわけにもいかないしなー、
うーん、変なものは別に入ってないけど、本当に普通のご飯だ、量が多いよ。
「ほら、レコウも見てるよ。シファのかっこいいとこ見て見たい〜」
「お? そ、そうか? じゃあ、しょうがねえなー!」
おお、いい食べっぷ、り?
うわ、飲み込むのおっそ、
一瞬でほっぺたパンパンになって、リスみたいだ。
ちくしょう、ちょっと可愛いな、
「ふ、ふう。どうだ!?」
「え、あー……、もうお腹いっぱいなの?」
「いや、まだ、八分目だゼ!」
まじか、一皿すら片付いてねえ。
この子、下手すりゃ僕より容量少ないんじゃ、
……そういや僕はなんやかんやで、馬鹿どもとかに食わされたせいで容量あがってたんだな、この積まれた皿くらいなら、
「……うっぷ。やっぱ無理、」
この、僕の、猟犬スピリッツを持ってしても、いやこれ無茶だって、
なんなら減らすたびに追加が来たもん、何これ、……ん、ワンコ、側?
なるほど、猟犬のための催しか、まさにそれだね!
「……ア、オレよりいっぱい食ってた、」
「おかげでお腹がほら、イカだよ、よくわかんないけど、」
「ウェ!? いやこんなとこで見せんなよ、」
そう? 悪いね、確かにこのボディは不気味だ。
メスガキボディ、こう言うと何か悪くなさそう? 雑魚? 何が? ざーこ♡ うわなんかしっくりくる、なんだこれ??
「この程度も食べれないなんて、ざ〜こ♡」
「ウ、エ、うおー!?!?」
あ、頑張ってる、これは応援のセリフなのか。
また一つ賢くなれた、ありがとう夢、しかし何でこの記憶はこんなに思い出しづらいんだろう。
「ウ、コプ? オゥゥ、」
「うわ、顔が紫になってる!?」
元からか、いやまずーい!
「もー、なんでそんなに無理するのー、」
「ウ、オエー、キモチワルイ、」
「でも絶対に吐かない。わかるよ、その気持ち、」
だからとりあえず、横になって安静になってましょうねー、
じゃあ、とりあえず、今あるものを枕にと、
「……エ? あ、柔らかい、なにこれ?」
「どう? 少しは楽になった?」
「ア、下から顔が見える、」
「悪かったな⁇」
君はこの体勢になると顔が見えなくなるのか!?!?
ちなみに、今君が枕にしてるのは、袋に入れた鶏肉だ。
僕毛布とか使わない派だから、ちょうどいいクッション無かったんだよねー、
ンー、スヤー、
あ、寝た。安らかな寝顔だ、
こうしてみると、完全に幼女だ。普段はちょっと表情怖いからね、気を張ってるんだ。
安心できるか、その鶏もも肉は。
うん、ま、僕の膝だと硬いし、首を痛めないなら何よりだよ。
昔よりは、ちょっとくらいマシになったかもだけどね、まだ君に使うには貧相だよ。
何せ君は、贅沢だから。




