4話
悲鳴、怒号、全てどこか遠い。
痛みも、苦しみも、悲しみも、全部全部、感じてる暇なんてない。
私は過去も未来もない均一な底の中で、夢を見たかったのかもしれない。
これは現実ではない、ここは私の世界でない、私は私なんかじゃない。
一瞬の思いをはせる旅行に消えて、二度と帰ってこなくなりたかった。消えてしまいたかった。
でも、そんな余裕もなくて、終わらないのが奇跡のようで、終われないのが当然だった。私に選択肢なんてない。
物、感情のないそれが、夢なんて見れるはずがなかった。今しか底しかしらない私は、馳せるものなんてなかった。
だから、多分、私は、とっくの昔に、もう死んでいたのだろう。
なら、全部、彼にあげたって良かったはずだ、だって彼はまだ夢を見れていたのだから。
でも、それじゃあ、イマ、
オマエハイマ、ナニヲウバッテイキテイルンダ?
「…………、」
「お、起きたのじゃ?」
「……いま、。まだ、夜か。何で起きてるの?」
「いや、よくよく考えたら我、夜行性だったのじゃ。まあ、この中だと時間も分かりずらいがの」
「そう、じゃあ、おやすみ」
「あ、また寝るのか。しょうがない、我も寝るか、折角外に出たのだし、昼夜逆転悪い子生活なのじゃ。さてとクマさんは」
「…………」
……トカゲって夜行性だっけ。
単純に元から逆転してただけなんじゃ。
「しっかしセシィは、寝てる間に全く表情が変わらなくてつまらんの。まあ起きてる時も大差ないけどな」
……そう、それは、よかった。
町に着いた。
そこまで小さくはないけど、今までの拠点は王都周辺だったから、やっぱりちょっと小さい町。
一応の柵があって門番が立っている。
うちのドラゴンは、変に尻尾とか羽とか生えてないから、そのまま町に入れても多分大丈夫だろう。
いや、もしかしたら尻尾は切り落としたからか。いや、確か昨日の時点でもう生えてたっけ。
こんだけ早いなら素材が取り放題かも、最終手段に覚えておこう。
「おお、人間の町じゃ。ここに入るのは初めてじゃ」
……そういえば、思いっきりモンスターを人間の町に侵入させてる。
外患誘致罪、最低が死刑、最大が死刑。
死刑が最大って、なんか笑えるな。
まあ別に、仮にこの子が暴れたとして、別に人類なんでどうなったっていいけど。
その時は、アレンに倒してもらおう。
「……ってお、何してんのじゃ、」
「うん、一応変装。アレンが次に来る町だし」
「変装で髪を分けて顔を出すって、難儀な奴じゃのー。……あ、それなら折角だし、服装も変えてみてはどうだ。とりあえず、スカート履くとか」
「……女装?」
「いやお主メスじゃろ、それも割とガッツリめの」
「……もしかしたら、心は男性でオスが好きなだけかもしれない」
「はいはい、だとしても変わらんよ。じゃあ行くぞー」
とりあえず、先立つものがなければ何もできない。
アレンの朝食だって、泣く泣く元の収納空間から作ったのだ、早くお金を得なければ。
てなわけで早速ものが売れそうな、とりあえず質屋的なところに直行。
「といっても、これしか取れなかった」
狼の毛皮、爪牙付き、需要も微妙な割にはむしり取れたが、大した額じゃない。
そいえば、元々宝石類を探していたのに、すっかり有耶無耶になって忘れていた。
「ほー、手慣れたもんじゃのー」
「うん、ずっとやってたから。でも大した額じゃない」
「ふ〜む。だとすれば、やはりここで任せるのが一番価値が上がるか」
なにを、と聞く前に、レコウは勝手に小さめの財宝を提出してしまう。
僕が取り出した覚えはない、多分最初からそのつもりで、朝から持ち出していたのだろう。
まったく、ドラゴンが自分から財宝を手放すなんて。それに提出する前から、交渉は始まっているというのに。
まあいいか、僕の物じゃないものを僕のお金じゃないものに変える。いつも通りだ、全力で行こう。
交渉開始だ。
「はー。鮮やかなものだったの。なんか最初の時とは熱意が違ったぞ」
「そりゃ、そっちの方が、単価が高いし」
「そうか? しかし、これで先立つものとやらはできたの、安心じゃ」
「そうだね。でも僕はどうしようかな。宝石を取ってきても、ちょっとやり過ぎた。あそこはしばらく、買いっとってくれないだろうな」
「うん、まあ、しばらくは無くならんじゃろ」
「レコウはいいけどさ、」
「……ん?」
「……なに?」
この子とは、たまに話が噛み合わなくなるな。まあ全部僕が悪いけど。多分。
「ふむ……、つまりこれは、全て我の金にしていいということじゃな?」
「え、うん。どういうこと?」
「いや、これはセシィが交渉して増やした金じゃろ?」
「うん。?」
「ほれ、さっきみたいに交渉すれば、愛しの人間に使う金が手に入るぞ?」
「……え。いや、流石に、そんなことは」
「ほう、つまり例のオスよりも、我を優先してくれたということじゃの。いやー、嬉しいのー、
…………、
僕が、アレンより数時間前に会ったばかりのトカゲを優先した?
そんな。嘘だ。あり得ない。
だって、あんな、アレンに比べれば、覚える価値なんてないあんな、あんな、
トカゲ? いや違う、彼女には名前があって、レコウ、何だっけ、レコウロスからとってレコウ、思い出せない、少しくらい可愛く呼べるように自分で決めた、訳がない、今目の前で話している相手のことを忘れてしまったらそれこそ精神異常者だ。
その通りだって? うるさい黙れよ、アレンが精神異常者をそばに置いておくわけないだろ、だから追い出された? ああそっか。
僕は最初からおかしかったっけ、でも確かにアレンと一緒にいた時はおかしくなかったんだ、だってアレンと一緒にいておかしくなれるわけがないから、じゃあ何で追い出されたの? あれ? それは僕が余計なことをしたから、余計なこと? アレンがいるのに余計なことなんて何でできたしてないした煩いしてないしだっけわからないおかしいおかしくないおかしいわけがないわけがないわからないなんでアレンがいないから何でいないのわからないボクが悪いなんで
……あー、失敗したの。まだ、ダメじゃったか。
「ふっふっふっ、おかけで我は気分がいいぞ。もしアレンとやらに会ったら、感謝のあまり戦うのをやめてあげそうじゃ。セシィのおかげじゃの」
ボクはボクはボクはボクはボクはアレンのタメになってる?
「おうとも、全く、羨ましい限りじゃ。さあ、これで晴れてこの金ば全て我のものじゃ
。自由に使ってやるぞー!」
………………なにに、つかうの?
「さっきいい店が見えたのじゃ、ほら、さっさと行くぞ!」
あ、まって、やだ、無理やり引っ張られるのは、アレンだけでいいのに」
気づいた時には、僕は服屋で着せ替え人形にされていた。
この規模の町にしては、品揃えがいい、多分職人がいいんだな、覚えておこう。
アレンはすぐ服を汚すし壊すから、それはずっと僕が直していたけど、僕がいないから。この店を、使うこともあるかもしれないし。
「おお、いい、やっぱり磨けば光る鉱石なのじゃ。キラッキラにして持ち帰ってしまいたいのじゃ」
よくわからないうちにフリフリの服を着せられていた、せめてスカートにしても旅に向いた服装にしてほしい。
呆れた目を向けると、我の金だから好きにしていいんだもんという顔をしていた。
この服、高そうだな、いくら値切れただろう。値切れた分は僕より高そう。
記憶が曖昧だ、確かに覚えているのは強引に引っ張られた記憶で、なのに嫌な記憶じゃないのが不思議だ。痛みがないからかもしれない。
あの子は竜のくせに力加減がやたら上手だ。モノを管理する荷物持ちとして、人間にも見習ってもらいたいものだ、彼らはすぐにものを壊す。
それで、まあ、何も覚えてないけど、とりあえず彼女に感謝をするべきかな、
なんて、
ボクがアレンに関する記憶を忘れられるわけないのに。なんてことを聞いてきやがるんだ、アノ、
あの。
僕の、
何だろう。
……え、友人扱いすらしてくれてなかったのか!? 何でじゃ!?!?
なんて、僕の、都合のいい、夢だ。
——昨晩。
勇者パーティ一行は、ダンジョンを出てすぐ近くの場所で野宿をしていた。
いや、正確には野宿未満だが、
「ちっ、おい。まだ俺様の寝具は見つからねえのか?」
「もう、しょうがないでしょ、あいつが適当にものを詰めたせいで取り出せないのよ!」
「は、くそ、いなくなってもイラつかせる野郎だぜ」
当初の予定ではもう少し町に近づけるはず、いやそれどころか足手纏いがいなくなった分、すでに町に着いて不味い飯を食わずにすむはずだったのだが、
何故かいつもより狼一匹程度に手間取ってしまい、その上途中で道を間違えたせいで、すっかり暗くなっていた。
「もういい、飯だ飯。なんかねえのか?」
「そんなこと言ったって……、あ、何かしらこれ、妙に上の方にあるわね」
「ああ? まあ何でもいいや、くれ」
それは何故かラッピング、というか包装されたご飯だった。
収納空間の中なら常に出来立て、いや実際にそれは作られたばかりで、取り出しやすいところにたった今置かれたものなのだが。
「……これは、確かギルドのマーク。こんなもん売ってたか? しかし、てことはこれはあいつが勝手に、俺様の金で買ってやがったものってわけだ。ムカつくぜ」
ちなみに、描かれているのは彼の言う、ギルドのマークとはわずかに異なるもの。
とりあえず、既製品っぽくすれば良いという思考で、彼女はあまり創作は得意ではないのだ。
でも、彼はどうせそんなこと一日経てば忘れてしまうので、まあ良いかと。
実際、本来ならその推測に間違いはなく、彼は昨日に食ったものがどこで出来たものかなんて、わざわざ覚えている人ではないのだが、
「……うめぇな、だが何故かイラつく。うめえってことはそれだけ高いってことで、それをあのゴミクズが勝手に買い漁ってやがったのがイラつくんだな」
「だが、まあ、また買ってやっても良いか。俺様に買えないほど、高いもんなわけがねえしな。特別に覚えておいてやろう」
その食事は、とても彼の好みに合っていたものだった。