36話
さて、随分長く居てしまったこの国とも、そろそろお別れだ。
「さみしいわねぇ。いつでも帰ってきてくれていいのよ、歓迎するわ」
「帰りはしないよ、遊びに行くことはあるかもだけどね」
「ええ、今は、それで十分よ」
……ま、うん、次に来るのは、もう少し時間を空けようかな。
「次の行き先って、決まってるのかしら?」
「あー、どうしよっかなー、」
結局、ダンジョンの奥まで潜っても、あんまりめぼしいお宝は無かった。
まあ、国の中心近くにある場所なんて、そりゃあらかた探索され尽くしてるか。
「残念だったねー、レコウー、」
「ま、しょうがないの。そもそも多分、あそこで眠っとったのは……、」
「んー?」
「あー、我には、別に欲しくないものじゃったろうからの」
しかし、となると、また別のダンジョンを探さないとか?
なんかあったかな。いっそ、どっかの宝物庫でも襲ってそっから奪うとか?
人間としてはどうかと思うけど、僕ら、ドラゴンらとしては、悪くないかも。
「……予定、ないのかしら」
「今はねー、なんかいい場所知らない?」
「…………そうね、」
お、なんか考え込んでるな。
この国の宝は、なんか古代の神聖遺物とかばっかで、微妙だったんだよね。
アレンにあげる分が無くなったらいけないし、むしろこっそり補充しといた。
ダンジョンの、微妙なのはいっぱいあったから、懐はあったかいよ。
「これは、私自身は馬鹿馬鹿しいと思っていたから、話さなかったのだけど、」
「お、なに? 宝の話??」
「予言の話よ。なんで、この国は腐っていたのに、人間の奴隷だけは禁止されていたと思う?」
え? いや、一応別の国も基本はそうだよ??
政治家のイメージ戦略じゃ? いや王は政治家とは呼ばないか??
「奴隷の、人間の奴隷の中から、いずれ世界を滅ぼす真の大魔王が現れる。それを何とかできるのは真の勇者だけって話よ」
……奴隷の中から? ふむふむ、なるほどねえ?
「まあ、後半部分だけなら、ありふれた話なのだけど。ともかく、この奴隷。しかも調べたわ、元人間の奴隷集団、メートヒェン」
「あー、知っちゃったんだ」
「ワタクシの罪ね。ともかく、彼女が予言の魔王なのだとしたら。……それに仮にも勇者なんてものを従えて、本当に世界を滅ぼす気なのかもしれないわ」
「あー、メートちゃんが、どうだろうねー」
まあ、大丈夫でしょ。
あれはあくまで偽勇者、本物の勇者って呼ばれてる凄い人は、別にいる。
しかもイケメン、かっこいい、最高!!
「むーー。まあいいわ。それで、彼女なのだけど」
「うん? もっと惚気る??」
「本当にやめて。……目撃情報があったのよ。何でも、魔族の住む領域の方に、魔族の女が向かっていたと」
魔族の女って、アバウトな。
確かに、人間の国内から魔族領の方まで向かうってのは珍しいけど、だからといってそんなピンポイントに、
「しかも、巨乳の少女だったらしいわ」
「あ、うん、間違いないね!」
そんな人間が、何人もいてたまるか!!
「他にも、ギリギリまで人間のふりをしていたとか……。ともかく、一応、伝えておこうと思ってね」
「追えと?」
「むしろ行くなって、忠告したいわ〜」
あはは、確かに、一度君の忠告とは真逆をしたね。
おすなおすな? なんだろ、押せばいいのかなってね。夢のおかげで反骨精神がついたよ。
「魔族、魔王ねー。どうする、レコウー?」
「……お? あー、そうじゃのー、どうなってるか、きにはなるかのー」
「じゃ、行ってみよっか。確かに僕も、行ったことないから、行ってみる気にはなる」
よし、決まりーっと。
それに、いずれはアレンもたどり着く場所だからね、先に立地もろもろ調べとかないと。
どうだろ、ジメジメしてたりするのかな、虫とか多いかな、事前に対策グッズを用意するんだ。
「はあ、やっぱり言わないほうが良かったかしら」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。世界を滅ぼす魔王なんて、そんなの多分」
あくまで予言だしねー。
それに、もしかしてそれ、僕のことなんじゃないかなって。
ほら、世界を滅ぼすなんてのは大袈裟だけど、実際アレンに会ってなかったら、あの国くらいは消してたと思うし。
そう考えたら、つまりアレンは予言に記された真の真の勇者!!
かっーこい〜!! えへへ、もうすでに最悪のゴミクズを退治してたなんて、流石だよね〜。
それじゃ、そういうことにするためにも、魔族のところに行って今いる魔王とやらでも拝んできますかー。
いずれ、アレンの偉業になってもらう人たちの、ね。
白い空間、そして久しぶりの感触。
「やっぱ速いねー、」
「そうじゃろー、」
ドラゴンの上、あったかくて気持ちいい、居眠りしちゃいそう。
「流石にそれやったらマジで死ぬかも。なんか作業でもしてよっかな?」
「いや、それはそれでどうかと思うのじゃ」
「冗談だよ」
神聖国と魔族領はわりと近いし、すぐに着いちゃうからねー、
それに、作業もなんやかんや一段落ついたし。
「さて、そろそろだね」
「どうするのじゃー?」
「うーん。一回おりよっか」
さて、ここは座標的にもう魔族領。
さっき上から覗いた限りは、この辺は森の中。
適当に出ても、確率的に人がいない場所の可能性の方が高いはずだけど、
うーん、見つかった瞬間に即殺! サーチアンドデストロイ!! なんてことはないと思うけど、今までの常識が通じるかもわからないからな。
「そもそも、僕らって魔族からはどう見えてるんだろう。レコウは……、あの強い目力に魔力、最悪見つかっても魔族で通せそうだけど」
「えー、ショックじゃ」
「そうなの??」
しょうがないのー、って、
ズモモ??
あ、人間の姿なのに竜の翼が生えたままだ、そんなことできるんだね。
「流石に、コウモリの羽は嫌じゃからの」
「魔族みんながそれ生えてるわけじゃないでしょ」
むしろ、生えてるほうが希少なはずだ。
魔族はざっくり言えば人間以外の人型の敵。いろんな種類や種族をまとめて呼んでるところがあるから。
「中には多分、大して人間と変わらない奴もいるはず……、」
「……じゃあ、セシィはいけるかもの」
「えー?」
「その凄まじい目力に魔力。多分いけるはずなのじゃ、」
そんなことないのになー、
別に、言われても嬉しくないや、さっきはごめんね。
「おうじゃのー。それで、どうするんじゃ?」
「んー、とりあえず、また覗いてみて確認するしかないかな?」
空間から小さな穴を開けて、外を覗き込む。
この規模なら最悪すぐ閉じればいいし、
何かあっても、この空間内の僕に傷を負わせられはしないだろう。
それに、頼りになる友達もいることだし。
「『さて、』何が見えるかな、」
…………、
…………?
…………!
記念すべきか最初の魔界は、深く、吸い込まれるような紫だった。
一面の、何も見えない丸い深紫に、
僕が、ただ写っていた。
ゆらめく水面のような光と音と、固まった影。
何が起きたのか、理解はできたが納得はできなかった。
いや、そんな、これは、
目が、会った。
「『』、…………」
「あれ、閉めちゃったのか? 我も見たかったのに」
瞳の次は、肌色が見えた。
少し紫に近い桃色だったが、肌の色なんだから肌色だろう。
表情は、咄嗟の事できちんと観察する余裕はなかったが、僕と同じだったと思う。
すなわち呆然としていた、何が起こったのか、理解する暇もなかった。
……攻撃はしてこなかった、本当にたまたま、相手が見ていた方向に出てしまっただけなのだろうか。
それに、あれは、
そんな偶然、あるのか?
「なーなー、何が見えたんじゃー? 我にも教えてくれじゃー」
諦めて離れた位置に出るか? いや今ので完全に捕捉されていた場合、多少の距離では意味がないか。
今の一瞬でどれだけ僕の情報を理解された、外見は、能力は、消した方がいいのか?
仮にも魔族、人間の敵。
いや僕には、勇者の敵、でもだとした勝手に減らすわけにもいかない??
誰かに伝えられても問題は、いや万が一アレンの向かう方にまで、いやそもそも僕はもうアレンに会うことはないんだ、たとえ伝えられたところで、
「ありゃー、固まっちゃったのう。本当にいったい何が見えたんじゃ」
「…………っ、」
……何が見えたって、そりゃ、僕が世界で憎しみ続けている、でも求めてやまない、
「…………きっ、」
「お?」
紫、ピンク、そして緑。
一瞬で、僕の目に焼きついたのは、その魔力なんかよりも、
よほど荘厳な、二つの、
「き、巨乳の、裸の女がいた、」
「……ついにやってしまったの、セシィ」
……思い返せば、水の音がしていたな。
人がいない、見られない場所で水浴びでもしていたのか。
そんな自由に一人裸で気が緩んでいるところに、たまたまお邪魔してしまったと。
……いや、ほんと、申し訳ないことをしたとは思っています。
「……行こう、レコウ。これ以上僕たちが関わっても、彼女にとって良いことはないはずだ」
「いやいや、ダメじゃぞセシィ! これじゃそやつにとって、得体の知れない誰かに覗かれたというか事実が残るだけじゃぞ‼︎ せめて事情を説明しないと、」
「だって〜、僕あの二連式爆弾を見て正気でいられる気がしないよー、敵意の有無に関わらずもぎ取っちゃいそうだよー」
「もー、しょうがないのー。じゃあ先に我だけ行って説明してきてやるから、ほら開けるのじゃ!」
うぐぐ、ドラゴンに説教されてる、これじゃまるで僕が本当に覗き魔みたいじゃないか。
アレン限定なのに、いや、それも駄目だけど。
……はあ、そういえば、
巨乳の、変身魔法が使える敵を探してたんだっけ、そこまでの偶然は流石にないか。
でもあれは、ある意味で既に敵だな、うん。
「……ねえ、レコウ。今から、恐ろしいこと言うよ」
「な、なんじゃ? 急に改まって」
「あいつ、あのメートちゃんより、戦闘力が高かった」
ちゃんとは確認できてないけど、間違いない。
あれは、隠そうと思って隠せるものでもないから。
「っ、なんと、」
「しかも、あいつ、僕と目が合ったんだ。僕の目線の高さで開けた穴と、ちょうどピッタリ」
「まさか、最初から気づいてじゃ!」
そう、気づいてしまったか。
あいつ、あいつは、
「僕と、同じくらいの身長なのに、メートよりデカかったんだ。本物の、ロリ巨乳だ!」
恐ろしい、悍ましいよ!!
あんなもの、この世に存在しちゃいけないよ!!
ねっ、レコウ! 君なら、この気持ち、わかるでしょ!!!
「あーうん、そじゃのー」
いったい僕は、今まで一番の強敵に、どう立ち向かえばいいんだ…………、




