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情報過多の荷物持ちさん、追放される  作者: エム・エタール⁂
聖女さん、追放される (神聖学園編)
37/124

34話


 つえパーンチ、つえチョーップ、つえキーック、だめだ、当たる気がしない。


「『それは、つえ関係ないんじゃないのー?』」

「『何言ってるの、手に意識を集中させて意識外から蹴る、立派なつえ術だよ』」


 機会があればつえビームも、ってこれは普通だな。


「『じゃあ今度はわたしからー、もこもこ!』」

「『え、なにそれ!? この状態で使えるの!?』」


 彼女の腰あたりにあったもふもふでふわふわな飾りが広がって、意志を持って殴りかかってくる!?


「『うそー!? 受け流し!! うわバチって痛った?! 静電気??』」

「『いったーい、ぐるぐる、』」


 何で君まで体勢崩してんの?

 いや、違う、これ、繋がってるんだ。

 それどころか、これは、


「『あ、いい位置に頭』」

「『お、とりゃー!』」


 彼女の頭に手を添えて、首を振って抵抗?

 ん、何だこれ、でっかい髪飾りの奥に固い物?

 いや、鋭い、痛い、


「「『『わー、ささったー!?』』」」


 何これ、角?!

 メートちゃんは、地面に刺さってるし、なんだこれ!?


「『うぐぐ、バレてしまったのです。実はメートは、羊の妖精なのです』」

「『あ、これ、羊の角か、』」


 僕が気づかないなんて、どれだけ自然に行動に溶け込んで。

 ……なるほど、これはつまり、僕のからと同じ、彼女にとって最もふかい、


「『それ、羽、生えてんの?』」

「『そう、羊毛の! もこもこなのです!!』」

「『いや羊は羽生えてないと思うけど、』」

「『妖精だからいいのです!』」


 妖精、なんてものじゃない。

 羊、それも部分的だ。

 これは、間違いなく、


「『……それ、わざわざ縫い付けてあるの?』」

「『もう、妖精の秘密だよ。いっちゃだーめ、てーい!!』」

「『鞭、あえて受ける!!』」


「「『『いったーい!!??』』」」


 やっぱそうだ、これ、尻尾だ!?

 悪魔、いやサキュバスの尾!!


 何でそんなものが生えて、いやなんでそれで叩いてくるの?!?!


「『……何でそれで戦おうと思ったの??』」

「『……痛く、ないのです?』」

「『いやそっちこそ、』」

「『メートは我慢できるのです。でも他の人は、きっと痛いと思ったんだけどなー』」


 いやいや、その程度で。


 メートちゃん、いいこと教えてあげる。


 鞭はね、先端が細い方が痛いんだよ?


「『力学的にね、そっちの方が速度が出るんだ。それに力が分散しないから、より奥まで抉れる』」

「『ほえー、メートは、そんなこと学ばなかったのです』」

「『僕は体で学んだよ。慣れてくると、何だかおかしくなってきてね』」


 頭が、なんて。

 いやいや、この子にだけは、こんな話をしてちゃいけないな。


「『というかメート? それ、色々見せてくれて嬉しいけど、全部むしろ自分の方が不利になってるんじゃ……、』」

「『……め〜♪』」

「『えぇ、』」

「『だって、あなたには、わたしのことをもっと知ってもらいたかったからね』」


 そう、それは光栄、なのかな?


「『めぇめぇ、この国には、人間の奴隷はいちゃダメなんだ』」

「『うん、聞いた』」

「『そして頭の悪い人は考えました、じゃあ人間じゃなくしちゃえばいいんじゃないかって』」

「『まあ人間は、扱いづらいもんね』」

「『なのでとりあえず、魔物の血肉を入れてみたら、こうなりました! めぇめぇ、』」


 ほーん、いや、ただ適当に打ち込んだだけじゃ、普通に死ぬと思うけど。

 対処療法というよりは、多分元からそこらへんの需要があって、その技術を応用したのかな?


 ま、頭の良い悪い人の考えることは、よくわかんないねー。


「『それでねー。メートヒェン等は、聖女が結界を改良した時にみんな見つかって、回収されたんだ〜、』」

「『なるほどねー、』」

「『それでね、みんなみんな処刑されちゃった! この国が作ったのに、勝手だねー』」

「『うん。勝手だよ。とりあえずその勝手な一人は持ってるけど、後で蹴る??』」

「『えへへ、いちおーメートのみかた〜。でも楽しそー!』」


 どこを、って言ったら、この子もドン引きするのかな。

 いや、嬉々としてやるかも。

 どうだろうね、レリア。


 もう少しだけ世界が優しかったら、君たちも一緒に、

 いや玉二つあるからって二人で蹴るのは何も優しくないわ。


「『でもね、わたしだけは、メートだけは、ゆーしゃ様が助けてくれたの』」

「『よく気持ちがわかりそうだ』」

「『わたしだけ、ずるよね、でもそんなゆーしゃ様が大好き。たすけてーって、いつも答えてくれる』」

「『うらやましく、は、ないよ別に、』」


 …………、

 あ、レコウー! そいつ針飛ばしてくるよー、気をつけてー!!


「『結局あれ、彼? は何?』」

「『んー、予言の勇者様? わたしも、メートも、よくわかんない。でも間違いなく、勇者だよ』」

「『いや、それ僕は認めるわけにはいかないけどね』」

「『えー?』」

「『うん、』」


 さてと、羽を広げて、結構自由に動かせるんだな、

 あれ、殴られても大して痛くなさそうだけど、捕まったら流石にまずいか。


 鞭は、むしろ向こうのほうがダメージ大きいんじゃ、

 いや、さすがに、もう受けたくはないけど。


「『メェー! じゃあ、ちょっと、ずるいことします!』」

「『なに? おっと、羽の後ろから大量に針撃たせようとしてるね、絶対君の方が痛いよ?』」

「『いけーゆーしゃ様!!』」


 針が貫通、しない!?

 うわ、羽から無数の針が生えて、アイアンメイデンみたい。痛そう。


 そしてさらに、鞭を手放して、


「『とー! ゆーしゃ様そーどー!』」

「『うわ、ほんとにずるいね!?』」


 それ、何本も増やせるのかよ。

 じゃあ、剣奪われてた王子はなんなんだ、


 というか、流石に、これは杖で捌くの厳しいかも。


「『くそ、じゃあ僕もずるい手しちゃうぞ!』」

「『どうぞどうぞ〜』」


 くらえ、じゃあ、


 『放/出』⁉︎


「『むー? そんなのじゃましちゃ、


 ポンッ!!


「『ピッ!?』」

「『おっと、運が悪かった、いやよかったのかな?』」


 空間魔法の暴走爆弾だ、


 僕にももう制御できてないぞ!?


「『空間の狭間が開いて、ワンチャン全てが吹っ飛びます』」

「『えーーー!?』」

「『ま、流石に、僕の魔力じゃ、そこまでは大丈夫な……はず、』」


 多分、おそらく、きっと、うん。


「『はっはっはー! 怖いだろー! 怖かったら大人しく降参するんだなー!!』」

「『むー、いいもん、わたしはこの国が壊れたって!!』」

「『なら僕は宇宙が壊れてもまわないよ、ほらほら〜、』」


 一番大事なものは、別で守ってるしね。


 しかし、本当にこれでこの国が崩壊したら、僕なんのために戦ってるんだろう。


「『……わかった、ゆーしゃ様そーどはやめるから、それはやめて? そうなったら、ゆーしゃ様も死んじゃう』」

「『だよね、僕は今、核抑止力というものを実感しているよ』」


 そりゃなくならないわな、武力。


「『じゃあ、しょうがないから、殴り合いに、』」

「『と見せかけててーい!』」

「『うわっ、本当にずるいね!?」』


 そりゃなくならないわな、戦争。


「『もー、いいの? やっちゃうよ!?』」

「『ふふふ。あなたには、わたしの一番ずるいの、見せてあげる』」

「『今の以上が!? もう君が怖いよメート』」

「『えへへ、いっくよーー、』」





       『虚構』





 警戒していたはずだった、みすみす魔術の行使を通すはずがないと。

 でも違う、これは、魔術ですらない、ただのシンプルで簡単な魔法。


 効果は、無い。




「っ、空間内の魔力が、全て消えたのか!?」


 何も、ない、無だ。


 魔法も、魔術も、全てが消えた。


 体の内側から出そうとしても、外に出る前に消えてしまう。


「……なのに、何で君の勇者は、消えてないのかな?」

「言ったでしょ、ずるいって、」


 剣が迫る、


「じゃあ、さよなら、」


 これは反らせる、

 そして羽に包み込まれる。


「もういいよ、おやすみ」


 ああ、確かに、こんなものに包まれて死ねるのなら、幸福、


 …………、


 な、わけあるか、


 いや棘だらけで痛い!!


「っ、が!」

「もう、暴れると痛いよ?」

「君もね!? はね、ズタボロじゃん」


 くそ、いっそこれが本当にただの優しい羊毛なら、諦めて負けを認めてたかもな。


 でもこんな、ふざけたもので、死んでたまるか!!


 この世界で死ぬなら、せめて、


「レコウ!! まとめていって!!」

「ん、本当に、死んじゃうよ??」


 竜の手で、なんて、


 わかってないな、あの子めちゃくちゃ力加減うまいんだぞ。


「よっしゃーなのじゃー!!」

「っ、ゆうしゃ様! とめて!!」


 鎧と竜が、もつれあって向かってくる。

 このままだと、本当に二人まとめてイクかもね、


「もー、むー、てーい!」

「頭突き!? 刺さるか!!」


 的確に自分の身体的特徴使ってくるな、


 でも無駄だよ、いま僕の脳は魔術にリソース使ってないから、その程度首の動きだけで、


「うぐぅ、あたまぐらぐらするぅ?」

「はははー、頭蓋骨についた角なんて、やっぱり弱点にしかならないよ!!」


 逆に側面からぶつけて捻ってやる。

 あっ、でも、流石に僕も痛い、額切れた、ここ無駄に出血多いんだよね、


「おっと、解放された。まったく、ハリネズミの気分だよ? いや逆か?」

「うわっ、大丈夫かの、セシィ!!」

「うん、平常運転。それに、あっちも大概酷いはずだよ」


 ギリギリで離れて、その間を竜と鎧が通過する。

 流石にもうこれで羽は使えないだろう。


「それにほら、こんなに武器が手に入った。メートも、愛しの勇者様の一部で死ねるなら本望でしょう」

「もー、ゆーしゃさまー、」

「あ、消えちゃった。出血増えるな」


 そんなことまでできるのか。


 しかし君の羊毛も、真っ赤に染まって、いやちょうどよくピンク色だな。

 なんと、そこまで計算してたのか!!


「ゆーしゃ様!」

「おっと、そろそろまずいの。我も、魔法が使えたらいいのじゃが、」

「うーん、どっちにしろ? というかレコウ、変身魔法は大丈夫なの?」

「何がじゃ?」


 ふむ、前からかかっていた魔法は消えないのか?


 とはいえ、僕に使えるものはないけど。




「めー。痛そう。まだ動けるの?」

「まあ、大したことないよ、取り立てて騒ぐほどじゃない」

「……そっか〜」


 君も、その程度の痛みは慣れっこか。


「ねえ、あなたの名前って、セシィ?」

「あ、聞いてたの?」

「うん、可愛い名前! 自分でつけたの?」

「いや、レコウが付けてくれた愛称だよ。本来のはセルース、」

「えー、ひどくなーい??」

「あはは、殺すよ?」


 いいよ、君だけは許してあげる、

 でも次はない。


「ねえ、セシィ。わたしは、メートは、全部を見せたつもりだよ」

「そんな仮面被っといて?」

「もう、違うよ! これは仮面じゃなくて、本当のわたし。何もなく、平和に暮らしてたはずだったわたし、中身を見せてるだけ」


 ああ、なるほど、やっぱり彼女は僕と同じで真逆なんだな。


 あれは、あの気持ち悪くて美しいのは、グヂャグヂャにされた中身を、綺麗に貼り直したもの。


 仮面なんてなくて、内臓を直接見せびらかしてる。どちらにしろグロテスクで可愛くて整ってる。


「……本来の君なら、その先読み能力は無理では、」

「えへへ、これは癖だし。それに、わかんないよー♪ わたしたちの未来は、いくらでもあったはずなんだ。セシィも、絵本の中に旅行したりしないの?」

「未来か。僕にはわからなかったよ。でも旅行ならしたな、奇跡的な出会いだった」


 彼女にとっての絵本が、僕にとっての夢だったんだね。

 僕だけは、君だけは、お互いに理解しあえたのかな。


「だから、わたしにも、本当のセシィを見せてくれない?」

「えー、どうしよっかなー……、いいの?」

「うん。おねがーい、」


 あはは、他ならぬ、君の頼みならしょうがないね。


 レコウにも見せたことがない、特別だよ。


 それじゃあ、


 ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
















 ……………………。


 ……そっか、そうなっちゃうんだ。


 失敗したな。


 わたしは、剣を振るう。


 もう、彼女は、こっちを見ることすらなかった。


 なにも、わからない、

 なにも、感じない。


 完全な、無。


 わたしの魔法なんかより、よっぽど虚構で、虚無で、なんにもない、


 彼女の動きがわからない、


 剣をすり抜けて、そのまま押し倒される、


 こきっ? あれ、て。動かせないや。


 のしかかられて、羽も動かせない。


 あー、ゆび、ほそいなー、


 ぎゅっと締め付けるんじゃなくて、摘むように、


 今までで一番軽くて小さな手なのに、一番苦しい、


 すごいね。どうやって知ったんだろう。


 あ、壊されてる、効率的に、


 わたしのこと、人としてすら見てないや、


 あーあ、やだ、


 やだやだやだ!!




「——っ、は、なし、て、」


 わたしの抵抗なんて意味はない。


 わたしの思考なんて考慮しない。


 わたしの意思なんて存在しない。


 ああ。これが、あなたの見ていた世界なんだ、


「———ぉ、は。なじ、シ、ぇ」


 やだよ、はなして、はなして、このまま終わりなんてやだ、


 まって、まだ、あとちょっとだけ、


 お願い、わたし、は、あなたと、


 ————ォ、ぁ、ぁ、ぃ、、






 お話。したいのに。











「……セシィ?」


 ……………………。


「なに?」


 ……………………。


「いつまで、そうやっとるんじゃ、」


 ……………………。


「そうだね、もういいかな。」


 ……………………。


「いや、手を離すのもそうじゃが、それ以上に、」


 ……………………。


「ん、ああ、」


 ……………………、






 ふう、楽だったんだけど。












挿絵(By みてみん)

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