28話
「へー、そんなことがねえ。確かにそいつ、前々から気持ち悪いと思ってたのよ」
お昼、レリアにせっかくなんで元ワカメのことを教えてみた。
「そうねえ、何か使い道、あるかしら? まあいいわ、殺すより酷い目、有効活用してあげる」
「どうもね、僕じゃちょっと、これぐらいしか思いつかなくて、」
「人相変わってるわぁ。あ、そうだ、とりあえず昨日と同じに、」
「うん、それは、おいおいね、」
このまま固めて、不愉快な置き物にしといたろ。
「それで、勇者の正体の話ね」
「うん。秘密らしいけど、知ってた?」
「いえ、全然。実は私、予言とか嫌いで、ほとんど聞き流してたのよねぇ」
「えー……、」
こいつ、本当に聖女だったのか??
やっぱ、なるべくして追放されたんじゃ???
「もー、そんな目で見ないでよぅ。確かに聞き流してたけれど、重要なところは覚えているわ」
「でも、知らないって」
「ええ、だから、この国一番の聖女でさえ、本当に知らなかった情報なのよ」
……それを、発見できたからこそ、真の聖女ってことか。
確かに、凄い勇者に守られるお姫様は、聖女と呼んでも差し支えないのか?
それなら僕も、いや守られてはないのか、残念ながら。精神的には世界一すごい救われたけど。
ならやっぱり、あれを勇者と認めるわけにはいかないな。
「そんなもの、本当にどうして、」
「何者なのかしらね。周囲も認めてるってことは、少なくともワタクシより上には、事情を知ってる者もいるのでしょうけど」
「レリアより上ねえ、そんな人、」
……この国、王族、王子、欠席中、
「お見舞いって、行けると思う?」
「厳しいわね、直属の護衛や右腕ならともかく、」
「つまり、あいつらか」
うえー、面倒臭い。
別に行きたくも無いお見舞いに、別に行きたくも無い連中と、
しかたないかー? いや別に、明日は来るかもしれないし、無理に急ぐ必要もないのかー??
「いや、今夜、レコウがあの女となんか約束を取り付けたんだった。早くしないとか」
「あの子が? 意外ね」
「でしょー? 一緒に見にいこっか」
「むう、そこに妬いちゃうのに妬いちゃうけれど、そのお誘いは嬉しいわね。わかったわ」
何を言ってるんだろうね?
そんなレリアの口は、追加で作った病人食で黙らせて、じゃあまた後で、
「…………あ、そうだ、」
「もぐもぐ、嬉しい。泣いちゃいそう」
「レリア、あの上の結界の伝言、消しとけってさ」
「もぐす? ああ、忘れてたわ、」
「メガネ君からの伝言だよー、良かったね」
部屋を出る。僕は今のうちに、放課後の予定でも埋めちゃうかー。
はあ、めんどくさ。
「…………メガネ君って、誰かしら?」
ドアの向こうでなんか聞こえた、
ま、いっか。
「あー、あいつのお見舞い? どうだろうなあ?」
まだお昼、長いね、慣れないや。
僕はいつもの馬鹿たちに、いやメガネ君はいないな、三馬鹿に放課後つきあわせる約束中。
いや、三馬鹿というか、
「君はいいよ、そっちの二人に、」
「おいおい、そう言うなよ。オレだって、あの王子とは仲良くやらせてもらってるんだぜ?」
「でも別に、君一人だと状況変わんなそうだし」
こいつだけ、特に関係ない立場だからね。
「あー、でもよー、王子の奴。なんか忙しそうだったからなあ。どうだ、行けるのか?」
話を二人に振る。
まあ最悪ダメでも明日は普通に……、
そういや、担任の先生消えたけど、どうなってるんだろ。
というか、この後の授業、どうなんの?
あ、やっば、なにしてくれんねんあのワカメ、かっこ元。
「……そうですねえ。話くらいなら、できるかもしれません」
「ああ、私が聞いてみようか?」
「……というか君は、護衛として付いてなくていいの?」
は、つい余計なことを聞いてしまった。
何やかんやこいつらとも、慣れてきてしまったとでもいうのか。なんかショック。
「ああ、殿下もたまには一人の時間が必要だろう。それに、殿下はそんなに弱くない」
「そう、」
君たち基準で、
いやそれにしても、だからといって護衛しなくていい理由にはならないと思うけど。
「……それより、あー、明日のことなんだが」
「はい、通話、繋がりましたよ、」
……通話?
なにそれ、携帯電話なんてもの、この世界にはないはずだけど。
まあ、僕ならやれないことはないが、それよりこれは、
「つーわ? なにこれ?」
「ええ、王族専用の連絡用魔導具です、最近できたらしいですよ。ワタクシは、特別に持たせてもらってるんです」
「へー、」
そんなもん、結界とかに干渉しそうだけどな。
まあ、こいつらには、そもそも見えてもないものなのか。
……魔力の信号が出てる。電波っぽい。
僕なら何となくの方向はわかるが、流石に遠すぎて先まではわからないな。
そうだ、レリアならこの信号に干渉して場所とか探ったりできそうだけど、
残念ながら、彼女がいる寮の方向とは違うな。
ん、なに? 人がいない方に、?
……本当に携帯電話みたいだ、知識でしか知らないけど。
お、あっちもちょっと動いた?
動きながらでも使えるのか、本当に高性能だな、いったい誰が作ったんだか、
「……あー、殿下。少し話せますか? セレン様が、お声を聞きたいようです」
なんかそれ、僕が王子のこと思ってるみたいでやだな。
まあ、向こうは僕が男だと思ってるんだから、本当に他意はないんだろうけど。
「も、うん、ケイン君?」
凄いもしもしって言いたい、でもこんな魔導具に慣れてるなんて、怪しまれる可能性があるし。
……でも、これが魔導国製とかだった場合は、いや聞いたことないし、大丈夫なはず。
「……セレンか、何だ?」
「いや、ちょっと、心配でね」
主にいろんなことが。
というか良く考えたら、これ周り他の馬鹿に囲まれてるし、変なこと聞けないんじゃ、
うーん。
「今日は何で休みなの、」
「ちょっとな、その、病というか、」
「あー、昨日、大変だったからね」
まあ、上手いこと話題を繋いでくしかないか、
「昨日。そうだな、大変だった」
「いきなり魔物に、黒い影まで入ってきてね。後の方は味方、勇者だっていうらしいけど、なんなんだろうね」
勇者、かっこ偽。僕が認めることはないからな。
「あいつか、そうだな」
「……ん? ケイン君は正体、知ってるの?」
「……そう、まあ、だな、」
「……あっ、いやごめんね、秘密らしいね。僕、この国のそういうところ疎くてさ、誰が決めたの?」
……うわあ、自分でもどうかと思う演技だ。
その、なんだ、性別男でやってるから、ピンク女よりはマシってことで、
なおキツい? な、なら本当は女だから、一番キツイパターン?? やばい詰んでる。
「別に本来は、秘密って訳ではない」
「え?」
「ただ、馬鹿馬鹿しいと誰も信じていなかっただけだ」
「はあ、」
「すぐに俺が公にする。民たちに混乱を招かないためだ、お前も少し待っていてくれ」
「うん。もちろんだよ?」
ふむ?
なんだ、秘密なのではなくて、一時的に情報を止めていただけだったのか。
まあ確かに、いきなり真の聖女やら勇者やらが現れたら、勢力図もめちゃくちゃになるか。
それで本来、レリアももうちょっと味方がいたはずなんだけど、あの子わりと周り顧みずに進んでそうなところあるからな。
……なら、待つ?
どのくらい?
どうしようか、
……本当に、今の話は信じていいのか?
ピンク、メート、聖女は、自分以外は知っちゃいけない秘密だと言っていた。
平民限定、王族は除外? あり得る話だ、そもそも上の方は既に知っているはずだし。
……となると、今横で話を聞いているこいつらも、もしかして知っている可能性?
一番の脳筋は除く、他の二人は、知っていても確かにおかしくない。
それにそもそも、あの女の話を、どこまで信じていいものか……、
「……なあ、セレン」
「なに?」
「この国について、お前はどう思う」
「え??」
急に? 世間話にしては重くない?
王子ってそんなもんなんか? 面倒だな。
「えっとー、平和な国?」
昨日今日で、二回も襲撃あったけど。
「ああ、だが、表面上だ。この国は、既に崩壊してる」
……だって、
せやな。
「お前は、やはりわかってくれるか」
「え、うん。もちろんだよー?」
もちろん、適当に、
そうやっても、僕は、相手に最も耳障りのいい言動がとれるから。
でもこの癖、まるで僕が底辺であることを突きつけられてるようで、あんまり好きじゃないんだけどね。
「でもそれは、解決できる、」
「ああ、王の問題だ。なにも心配することはない」
「うん、応援してるよ」
はあ、中身がない。
僕は空っぽ、だから聞き上手。
とりあえず肯定しておけばいいなんて、なんか頭の悪い女子みたい。
……間違ってないか、まあたまには意味のあることも言うし、と反抗しておこう。
「ああ、きっと、お前にも気に入ってもらえる」
……ガチャ、
いや、そんな音してないけど、気持ち的に。実際ちょっと、それっぽい振動もした気がするな。
「お話、終わりましたか?」
「はい。ありがとうございます」
「いえ、約束通り、殿下の話を聞いてくれて、こちらこそ感謝します」
あー、そんなの、言ってたっけ。
僕、こいつらとの会話、ほとんど覚えようとしてないよ。
「……君の話も、聞こうか? なんか、悩んでるみたいだけど?」
おっと無意識。
こんな癖、嫌いなのにな。
「…………いえ、それはまた、別の機会に。もう、お暇も終わってしまいましたから」
そう、いつの間にかそんな時間か。
流石に、いくら長いといっても、お昼の時間は有限だからね。
さて、授業、わかめ消滅、どうなるか。
——邪魔じゃー‼︎
——今日もありがとうございます!!!
うーん風物詩、にしてたまるか、早くどうにかしないとかな……。




