3話
次の町は、海には近くないようだ。
僕らは、アレンに見つからないように、歩いて向かうことにした。
「むう、意外と普通の移動方法じゃの。その空間魔法とやらで、もっとひとっ飛びってできないのか?」
「うん、事前に僕の掌握した別次元、収納の入り口を設置しておかないと、自由に動けるのは整理した空間内だけなんだよね」
「それは出口なのでは? しかしまあそうか、セシィも万能というわけではないのじゃな」
「そうだよ、整理だって、少し魔術が得意な人なら簡単に弾かれるし、」
そう言えばこの高位の竜、一切抵抗できてなかったな。
「それより、レコウこそドラゴンになったらひとっ飛びじゃないの?」
「む、まあ、そうなのじゃが、それをやってしまうと目立つしのー。一応我、家出中だし……。それにまあ、やっぱり旅行というのは自分の足で歩いてこそではないか!」
「うん、まあ、それで良いならいいけどさ、」
しかし、隣町まではまあまあ遠い。
いつも通り途中で野宿でもするか、いや、野営の道具は全部渡してきたんだった。
……そういえば、野営の準備はいつも僕一人で全部行ってたけど、大丈夫かな。大丈夫じゃないだろうな。
「む、何を書いておるのじゃ?」
「キャンプ用品とかの取扱説明書。他はどうなってもいいけど、アレンだけは快適に過ごしてもらわないといけないから」
「うわー、相変わらず。しかし絵うまいのー、こんなに細かく書く必要あるのか?」
「うん、じゃないと多分できないし。それに僕が書いたのだってバレたら捨てられるから、なるべく正規品っぽくしないと」
「いや、正規品にはこんな丁寧についてないと思うがの。しかし本当に上手い、これが空間魔法使いの特権ってやつか?」
「というより、最低限これくらいできないと、危なっかしくて使えないからね」
後はこれを近くに、いや貼り付けとくか。
うーん、それでも心配だ、やっぱ今からでも自動で展開される魔道具だったってことに。あ、でもそれしたら、僕の使い込み扱いになるか? 僕の使い込みなんて、それっぽい鞄を買ったぐらいしかしてないのに。
というか、むしろこっそり大量にお金貢いでたけど、全く気づかなかったな。金銭管理をしてたのも僕だからしょうがないけど。
というかアレンは金遣いが荒いから、正直普通に街にいるだけで、収入より支出の方が多かった。収入を収納で何とかしてた、何て、
いや、まあ、結構蓄えは多く残してきたから、しばらくは大丈夫だと思うけど。でもほとんど宝石の形だっけ、売買の交渉をしてたのも僕だったから、うむむ。
「おーい、止まってしまったの。ふむ……。そういえば、確かに例の手帳に書かれていた挿絵も、妙に精巧だった」
「……本当にそのことを話すのはやめてください」
「しかし、悪そうな顔してたの、例のオス。セシィの腕なら、もっとカッコ良くも描けたのでは」
「え、世界一かっこいいじゃん」
「あ、そうなるのか。これは盲目じゃの、」
「それに僕、写すのは得意だけど作るのは苦手なんだよね。過去や未来を予測して描いたりはできるんだけど」
「天は二物を与えずか、意外な弱点じゃ」
だって夢や希望なんて、描けるモノじゃなかったから。
街道沿いを少し外れて歩く。
二人だからか、いつもよりも早いペースだ。
「……ふー、そろそろ、疲れてきたかな」
「お、なんじゃなんじゃ、もう限界か? やはり人間は貧弱じゃの!」
「……まあ、そりゃね。一応、これでも元のパーティの中では一番体力はあったんだけど」
常に一番重い荷物を持ち歩いてたし。
「……それは、色々と大丈夫なのか?」
「うん。こっそり魔法でズルもしてたから、完全に重さがないとバレちゃうけど」
「いや、そこじゃなくてじゃな、」
「……んー、まあ、雑用も全部やってたし、夜の見張も基本僕の仕事だったからね」
「そいつら、今夜死ぬんじゃないか? 勇者のオス以外」
多分大丈夫、なにかあっても鞄から干渉できるし、最悪一人二人三人死んでも、大丈夫の範疇だし。
「のわりには、ほっそいのー。ほれ、肋骨浮いてるではないか」
「まあ食事は一番少なかったからね。それでも昔よりずっと多かったし、美味しかったけど」
「ふむ、もったいないの。あ、そうだ、確か肉があったじゃろ。肉食え肉、すぐに筋肉つくぞ、」
「うん、でも、体力はあってもいいけど。ほら、万が一もしかしたらでも奉仕仕事をする時に必要だし。でも筋力はね、だってアレンよりついちゃったら、押し倒されないじゃん。押さえ込まれて、一切の抵抗ができない……、。うん、いいっ、」
「あー、うん、まあ、セシィがいいならそれで、うん。でもやっぱり栄養はちゃんと取らなくちゃいけないぞ?」
う、栄養か、アレンのとる食事は栄養バランスを完璧にするために、いつも計算をしていたな。
本当はアレン好みの濃くて脂っこい食事を、毎日食べさせてあげたいのに、いろんな酒場で食べてくるから僕の料理は薄味になりがちで、
でも物足りなそうなことはあってもまずいって言われたことはないから、これも誰かの夢が男の趣向だったおかげ、ありがとう。
あ、でも、今日のアレンの夕飯はどうするんだろう。
あのダンジョンは頑張れば日帰りで帰れないこともないけど、今日は色々あったから一泊ルートだし、あの三色はどうせ料理できないし、一切したことないから知らないけど、しょうがない。
「お、早速料理を、って、なんで包装してるんじゃ?」
「え、規制品に見せないと食べてくれないだろうし、」
「うわー、おかんじゃのー。お、一つだけ明らかに大きいが、何やかんや四つつくるんじゃの?」
「これはアレンの夕食夜食明日の朝食、そしておやつ。では、流石にないけど。まあ、別にその他が餓死してもいいけど、そいつらがアレンに文句でも言ったらムカつくし」
「難儀じゃのー」
むぅ、しかし、そのための材料をアレンの荷物から取ってたら本末転倒だ。
早く送るためと食材を調達しなければ。
「よしっ、やっぱり今すぐ町に向かおう!」
「え、それはできないんじゃなかったのか?」
「うん、僕一人ではね。レコウの背中に乗せて貰えば、すぐに移動できる」
「……いや、それだと我が目立ってしまうから、」
「だから、圧縮されてない次元のズレた収納空間に移動した後、座標を合わせて移動すれば」
次元をずらしたところで、結局歩いて直接移動しなくちゃならないから今で使ってこなかったけど、これは便利だ。
前に空間を圧縮して移動した後で、元に戻せばワープできるんじゃないかって考えたけど、それやったら体が弾け飛びかけたからね、危ない危ない。
「……ま、よくわらんが、やっぱりセシィは何でもありだということじゃの」
呆れた目を向けられた、僕にできることなんて大したことないのに、まいっか。
「おー! 久しぶりにこんなに自由に飛んだは、気持ちいいの!」
竜の背中に乗って空を飛ぶ、
僕は今、確かに誰かの夢になれていた、
「はっやいなー」
「ふふふ、大丈夫かのセシィ? 振り落とされたら痛いじゃすまんぞ!」
「大丈夫だよー、この空間内で基本的に物質は損傷を負わないし、自由にものをくっつけられるから落ちることもないよー」
「おお、じゃあもっとスピードを出しても良さそうじゃの」
「あっ、それはちょっと、うーん」
「ふっふっふっ、怖気ついたか? やはり人間は軟弱じゃのー」
「いや、もうとっくに目的地過ぎてるんだよね」
「あぇーーー?」
あ、落ちた。
怪我はしないからいいけど、流石にちょっと怖い、あーーーー……。
「流石に、障害物のない直線距離で、ドラゴンが飛翔すると速いね」
「……何で言ってくれなかったんじゃ?」
「だって、気持ちよさそうにしてたし?」
「うぐぅ、また戻るのか、しかも微妙な距離じゃ」
「そうだね、もうお店も閉まっちゃう時間になりそうだし、そもそも町に入れないかも。まあ、こっそり入ってもいいけど」
「……一応肉もあることだし、食材探しは明日でいいのではないか?」
「あれはアレンは食べられないかな」
まあお金もないし、流石に換金して用意して、間に合わない可能性の方が高いか。
「お、じゃああれは我が食べても」
「でもアレンのお金にはなるけど」
「う、何の迷いもなく全額貢ぐ前提なのじゃ。我に金を払えと、」
「まあいいよ、背中に乗せてもらったお駄賃ってことで、どうせ大した値段で売れないし」
「お、そうか。儲かったのじゃ」
さてと、そうと決まったら今日はもうこの中で寝てしまおうか。
この中なら、誰かに襲われる危険はないし、夜中に飛び起きてしまっても誤魔化せるし。
「あ、そうじゃ、折角なら、セシィに料理してもらうのじゃ。さっきの料理はうまそうだったしの」
「料理って、流石に狼をそのまま調理したことはないんだけど。丸呑みじゃダメなの、ちょうど今は元の姿だし」
「えー、まあ、我は最悪それでもいいが。セシィはどうするんじゃ? まさか空間魔法を使えばそんなことまで出来ちゃうのか!?」
「ん。まあ、座標を合わせて栄養素だけ抜き出せば多分……。って違くて、別にいいよ僕は、今日の朝も食べたし」
今日の朝はかびてないパンだったな。とっても素敵だった。
「朝って、いま夜なのじゃが」
「……知らないの? 人間は一日二食しか食べないんだよ?」
「じゃあもう一食あるじゃろ」
「知らないの? 一日二食なのは人間の話なんだよ?」
アレンの元では僕も人間扱いだった。
まあアレンには、一日六食ぐらい作ってた気がするけど、いや僕の三倍とか六倍程度じゃ全然足りないな。もっと毎食バイキングにするとか、いっそ僕が0食になれば実質無限倍に、
「ーーっ、もう、いい加減にするのじゃ!」
「え、なに、急に。どうしたの?」
「どうしたもこうしたも、いいからさっさとなんか食えー!!」
何をそんなに怒ってるんだろう。
まあいいか、どうせあの獣はレコウにあげた物だし、言われた通りにするか。
それに、魔物を調理する方法を覚えておけば、万が一の時にアレン、
いや、万が一でもアレンにそんなことは、じゃあ代わりに僕が食べてその肉を……。
もっとダメか、こんなどんな血が流れてるかもわからない、汚い体を食べさせるわけには。何か方法は、
三色に黙って食わせてその肉を、お、ありだな。それだ。特に緑は無駄な脂肪分が、
「……はっ、気づいたら魔物料理ができてしまった」
「うむ、流れるように可食部位を取り分けていく様は、まさに圧巻だったのじゃ。思わず我も人間の姿になってしまったぞ」
「うん、この溜まった魔力を分ければ、普通の肉だね。これならアレンに食べてもらっても大丈夫、かな? まだ非常食が朝昼晩の分はあるからやらないけど」
一人二つ付いてるからおやつにも……。
いや、ついてない奴もいたな。
……この話はやめよう、不毛だ。
「うま、うまー、なんじゃー!」
「……落ち着く。いやでも負けてる。でもこのくらいならちゃんと食べれば、多分何とか……。……いただきます」
調味料すらろくにない焼いただけのお肉が、何だかとっても美味しかった。
ボクガ作った料理なんががアレンからもらった食事よりも美味しいわけないノニーー
「くっふっふっ、しかし流石の焼き加減、さすがは我の業火なのじゃ!」
……そうだった。
竜の炎で焼いた料理なんて、誰かの夢。
ならとっても、素敵なこと。
「……うん。流石だね」
「…………え、こわ」
今日は何だか、夢の中みたいだ。