23話
「それで、これからどうするの」
「そうねえ。どうしましょうか」
僕達は、焼き尽くした館から出て来た。
中身だけ、取り敢えず外装は残して時間稼ぎ。
正直、そんなこと考えるなら放置でいいのではって思ったけど、悪用されるといけないからだって。
絶対、私怨入ってたな。
まあ、僕もちょっと、悪くなかったけど。
「家、どうするの。君の家に戻る?」
「ワタクシの実家。実はあんまり太く無いのよね、位はあったんだけど。それに、あそこもグルらしいわよー。通りで婚約破棄スムーズにいったわけだわ」
ふーん、実家に裏切られるね。
気持ちはわからないな、僕にとっては最初から、
まあ、いなかったし、別に。
「……じゃあ、屋無し生活? コツ教えようか? まあ僕もそんなにしたことないけど、」
今までの時間ほぼ、管理されてたしね。
むしろ、屋根ない方が開放的でいいまであるか。
まあ、冒険者時代は、少しでもアレンのために色々工夫してたから、教えられることはあるよ。
「そうねえ。それも確かに楽しそうだけど、誰かに見られたら面倒かしら」
「一応、お尋ね者だっけ」
「そこまではいってないわよ。でも、それくらい酷いわ。何せ、誰が敵で誰が味方のフリした敵かわからないもの」
「ま、よくあることだよ」
世界の人間全員敵! それくらい、
まあ、でも、それでも、僕の場合はアレン、信じられる人は居たけども、
……人、は、それだけ。それ以外は、まあ、ね。
「まあ、でも私には、絶対に味方になってくれる人がいてくれたらしいですからね。気は楽よ」
「おや、そんな人が、」
「……拗ねるわよ?」
……ま、否定するほどではないか、肯定もしないけど。
「はーあ。あなたが本当に、男の子だったら良かったのに。……やっぱ、めくってみていいかしら?」
「何を!? 今ズボンだけど!? 同姓でもセクハラは成立するんだぞ!?!?」
「……そうだったわね」
二回目だぞ、何で前より目がマジなんだよ。
「……そう言うってことは、ちょっとは可能性、あるのかしら……、」
……聞こえちゃうんだけど、口に出すなよ。もう。
「派手にやってやったものね、上にもとっくに捕捉されてるでしょう。これからは、この国が相手と言っていいわ」
「でも、別にもうここなんて、どうでもいいんでしょ?」
「ええ。ですけど、ワタクシの利はまだ残っていますので。精々、弱みでも見つけて牛耳ってやりましょうか」
「それは怖い、楽しそう」
そしたら、僕らみたいのなくなるのかな。
……む、そうなると、奇しくも元婚約者の王子と同じ目的地になるのか?
それは……、あ、そうだ。
「そういやさ、メート、ピンクちゃん。王子とは婚約してないって言ってたけど」
「まあ、でしょうね。あの馬鹿殿下的には、その場でやるつもりだったでしょうけど。ワタクシの立場からも、その場で散々こき下ろしてやりましたし」
「ピンクの方も、求めてるそぶりは見せなかったけど」
「どこの世界に王族に自らアタックする平民がいるのよ。本性を隠してるだけだわ」
「ふーん、そんなもんか?」
確かに、カマトトぶってた所は間違いと思うけど……。どうだろ、
「ムーー! ですわ、」
「え、なに?」
「やっぱり、胸がでかい方がいいんですかそうですか。あなたまで、あの女に!!」
「いや、むしろ、君が胸デカかったら助けてなかったかもよ」
「……あなた、そっちが趣味?」
「おいこら」
それだと、僕のフェチがナルシシズムになっちゃうだろ。誰が世界一の貧乳だ!?
そもそも、僕は別に好きな、敬愛する、めっちゃ女としてもだいしゅきな人が、
「……それって聖女、国一番の大聖女より、凄い人かしら」
「勝手に大までつけるなよ追放中。もっともーっと凄い人だよ」
「うぅ。やめてーっ、聞きたくないわー!」
はは、そういえば、僕この国にアレンの素晴らしさを布教しにも来たんだっけ。
三日三晩語ってあげようか? 君なら不足はないよ、国一番の聖女様、
「はあ、話を変えるわ。それで、学園、勇者の方は、何かわかったのかしら」
「変わってないが?」
「え?」
「ああいや。偽勇者の話ね」
そうだそうだ、元々、そのことが聞きたくてここまで来たんだった。
……そう考えると、僕が今日のに間に合ったのって、あのピンクのおかげもあるんじゃ……、
まあ、別に言わんでもいいか。ただ、休日にちょっと、知り合い? に、会いに来ただけだし。
「……偽勇者、なんて、誰も見たことがないって。あのピンクちゃん以外」
「あら、そうなの?」
そうだ。レリアは、何を知って、
「でも、私、見たことあるわよ」
「……え、」
「全身黒尽くめの鎧姿で、顔も隠していたけれど、多分背丈的に学生……。って、確かあなたにも言ったわよね?」
「……鎧姿とは、聞いてない」
「あら?」
……まあ、きちんと、情報は聞いておくべきだったな。うん。
「それで、どこで見たの」
「あれは、そうね。あの女が、中庭の階段の上から、別の女に突き落とされた時。そこを颯爽と受け止めたの」
「ふーん? あのピンクなら、一人で何とかできそうだけど」
「そうね。その後はすぐに去っていったから、確かにほとんどの人は見てないだろうけど……。少なくともその女どもは見てるはずだわ」
うーん、どうだろうね。
わざわざ、突き落とした相手をそのまま眺めているなんて、なかなかに性格悪いと思うけど。
「……思い返してみれば、それもワタクシのせいにされたんですよね。はー、ムカつきますわー。あの女も、その時目が合ったんですから、私が犯人じゃないとわかっているでしょうに」
「……え、眺めてたの」
「いえ、たまたま。近くを通っただけだけど。聖女だから、周囲で喧騒があると聞こえてしまうのよ」
うわぁ、想像したらめちゃくちゃ怪しい。
これ、実行犯じゃないとしても、真犯人だと思うだろ。
「……そもそも、聖女ならその程度の悪意、簡単に看破できますわ。落ちたのだって、自分から抵抗しなかったとしか、」
「……あー、そういえば。あの子、自分が聖女だって自覚がなかったような。ただ、予言の勇者を見つけたから、聖女だって呼ばれてるだけだって」
「…………あら?」
……おっとー?
これは、いや、流石にね、
「……でも、ワタクシの聖女の勘は、あの女が敵だって」
「まあ、僕の心も、あの女は敵だって言ってるけど」
心の、臓の、装甲板が。誰が板だ。
「これは……、私も、一度あそこに戻った方がいいかしら」
「できるの?」
「普通はダメ。でも、どうせこの国の中ならどこも同じだわ。それならいっそ、馬鹿殿下とかもいるあそこの方が、大々的に探されづらくて隠れやすい」
ふむ、逆転の発想だ。
「なるほど、確かに」
「それじゃあ、あなたの部屋に、匿ってくださいね♪」
……何か、嬉しそうだな。
別に、レコウの部屋もあるだろ。一応、男女別ってことで、贅沢に二部屋ももらってるんだぞ。
「そうと決まったら、早く行きましょ〜」
「……まあ、いいけどさ」
最近は、ご飯が山盛り過ぎて片付けるのにも苦労してたしね。
精々、僕の分までお腹いっぱい食べると良いよ。
誰にもバレずに、人間一人を潜入させる。
普通なら、大変な作業だけど、
「へえ、空間魔法? 別次元空間? 初めて見たわ、凄いわね、」
「そう? まあ、好きに寛いでなよ」
僕には、これがある。
どうせ、もう使ったことはバレちゃってるんだ、あんまり気にしなくていい。
多少使用時に阻害もされるが、大して問題にならない程度だし。
「凄い貴重品ねえ、あの館にあったのがカスに見えるわ」
「実際、全部カスにしたしね」
「あ、これ、なか空洞だわ。収納スペースね、何が入ってるのかしら〜」
「……ほんとに好きにしてるね」
いや、まあ、傷とか一切つかないし、別にレコウもいいだろうけど。
というか隠し空間を見つけるの早くない? それも聖女の能力なの? むしろ盗賊とかの技では?
「これ、手帳?」
「ああ、そこに入れてたんだっけ」
別にこの空間に入るのなんて、限られた存在だけだけど。
一応、気持ち的に隠しておいたんだよね。
でもまあ、もちろん、もうあんな事故で読まれないように対策はしてるけど。
「あら、鍵もないのに開かないわね」
ふふん、保存の中でも、ガチガチに固定の設定にしておけばこれくらい、
「それなら、本来の使い方とは違うけど……『聖読』! 昔の掠れた文字を解読する聖女の魔法なら、閉じた本くらい、」
「…………は?」
「えっと? 勇者、僕、ラブラブ? あ、これあなたの日記?」
「ちょ、おま、おい、やめ、ヤメロー!?」
うそぉ!? 何それ!! 絶対聖女関係ない魔術の技だ!? っ、やめ、ひ、あっ、何すんじゃコラー!?!?
「おりゃあーー!?」
「あら、まだ全然読めてないのに」
「いや、どんだけ面の皮厚いんだ!?!?」
「今ちょっと、体調悪くて化粧厚めにしてますので、」
うぐぐ、それ言われるとあんまり強く出られないだろ!
「……それにしても、あなたの想い人って、勇者、だったのね」
「……一方的に慕ってるだけだよ」
「はーあーですわーー。それなら、ただの大聖女じゃ、振られてもしょうがないですかわー?」
……勝手に大って付けるなよ、何か僕がふったことになってるし。
いや、まあ、そうかもしれないけど、
「なるほど、それでねぇ。納得がいっちゃったわぁ。……その勇者さんって、そんなにカッコイイの」
「そりゃ、もちろん。……って、見たんじゃないの?」
「まあ、文字だけじゃピンと来ないわよ。それにまだ、殆ど読めてなかったし」
「挿絵——。いや、なら、良いんだ、何でもないよ、うん」
あっぶなー!? セーーフ!?!?
ギリ、致命傷ですんだよ、僕にとっては実質無傷だね!?!?!?
「うう、女子としては聞いてみたいのに、女としてはやっぱり聞きたくないわー!」
「奇遇だね、僕も女としては語りたいのに、女子としては死ぬほど無かったことにしてしまいたいよ!?」
やっぱり僕たちは同じだね。
ハハハ、
……それにしても、何か忘れてるような……。
ま、聖女様も無事ドラゴンの財宝眺めて寛いでるし、いっか。ん?




