21話
学園。授業。今日は。無い。
学生は数日に一度、休むのだ。
自由な休息、僕には何をすればいいか見当もつかない。
強迫観念、理解してなお、不安になる。
だけど、普通の学生は町に繰り出したりするらしい。
なら僕も、それに倣った、
ことにしよう。偽装にもってこいだ。
「……なるほどの、それでレリアに、」
「時間はあったんだ、もっと詳しく聞いておけば良かった」
人目を避けながら、大きな屋敷へ向かう、
行き交う人の視線、興味の対象、予測、掌握、見られていてなお、記憶に留まりやしない、
「…………いや、」
「どうしたのじゃ、」
「うん、行こう。その方が、手っ取り早い」
人を見る、空を見る。
僕の場合は感じると言った方がいいのかな、まあいいさ。
「着いたよ、中に入れるかな」
少し前にいたのに、懐かしさを感じない、
尊大で、嫌いな、貴族の屋敷だ。
そこにレリアはいる。
話を、しよう。
「な、何故じゃ! 何故入れないのじゃ、人間め!!」
あーあ、門前払いされちゃった。
この門番、前から居たっけ、仕事が雑だな。
大男、レコウが殴れば一発で死ぬか。
「まあまあ、落ち着いて。よく考えなよ、ここで騒ぎになったらまずいでしょ?」
「……む、セシィ?」
「まず中に入れてもらおうか。その方が、どうせ手っ取り早いでしょ」
……何か、怒鳴ってるな?
ああ、うるさい、嫌いなんだよ、やめろ。
「入れろって、言ってるだろ? 君はそんなことも考えられないのか? まあ、いいや、君としてもそっちの方が後々問題ないかもね。教育ってことにしておいてあげるよ」
「……あの、セシィ? 我にも説明を」
「レコウ、やって、」
「え、マジでじゃ?! いいのかのー」
鳩尾、一発。
内臓は全部残ってるな、防具の上から一撃。相変わらず、惚れ惚れするような力加減だ。
もうちょっと、失敗してくれても良かったのに、
「行こう、レコウ」
「おー、えー、本当によかったのかのー?」
さてね、
もったく、もう、レリア。
僕ちょっと、怒ってるのかも。
そんなのあるわけないのにね、
「玄関だ、蹴破ろう、」
「あー、ほーいじゃ」
「レコウ、もっと全力でいいんだよ?」
「あ、開いたのじゃから、いいじゃろ!?」
むう、綺麗に鍵だけ壊れてる。
貴族の屋敷の玄関が、吹っ飛んでったら面白いのに。
「さーてレリアー? 話せそう?」
「……まじで話してくれないかもじゃの」
どうだろうね、
多分レコウが暴れてくれたし、大丈夫だと思うけど。
「……誰も出てこんのー、」
「……うん。まあ、貴族には色々準備があるんでしょ。ほら、お化粧とか、」
「うーん、我にはわからん文化じゃのー」
僕もわからないよ、知ってるだけで。
それより、まだかかりそうか?
面倒臭くなってきたな、もう無理に待ってやらなくてもいいか、せっかくだしね。
「じゃあ暇つぶし。はーいレコウ、パース」
「え、なに、壺じゃ?!」
「よ、あ、おもっ、」
「せめて投げ渡すのじゃ!?」
おっと失敗、ついそのままそこに落としちゃった。
まあもう僕アレンのため以外、箸より重いもの持たされたく無いからね。
箸、実際に持ったことはないけど、
「まあでも、この杖よりは軽いのかな?」
「……どうしちゃったのじゃ、今日のセシィは、」
……うざいかな、なら結構。
効率的だ、こんな仮面被るのは初めてだな。
「というわけで『水球』」
「うお、絵に!?」
「……あー、そういえば。レコウってこういうお宝は興味ないの? だとしたら、壊して悪いことしちゃったけど」
「いや、まあ、我は知らん人間の描いた絵を、わざわざ財宝にしようとは思わんが……、」
奇遇だね、僕も。
残念ながら、今まで生きてきて、そんな余裕なかったよ。
まあ別に、全く同じもの作ろうと思えば作れるし、気にしなくていいよね。
内容忘れちゃったけど。
「まーだっかなー。流石に、火はまずいと思うんだけど、」
「……セシィ。……うん」
「電気……、いやこれも出火の可能性、」
「おーじゃー! もう我も我慢の限界じゃー!! これ以上待たせたら、我も火ー吹いちゃうぞー!!!」
「レコウ……。人間は、口から火を吹けないんだよ?」
「あれえ? 違ったかのー?」
いや、合ってるよ。
人間が口から吐くのは、もっと悍ましい何かだ、
そろそろ、あっちも準備が終わったみたいだな。
……残念、もっと早く終わると思ったんだけど、
「……何を、してらっしゃるのですか」
レリアだ、やっと出て来れたか。
ゆったりした服着てるな、中は、うん。
さて、なんて言うのかなっと、
「……あー、レリアよー? ……レリア?」
「あはは、つい手が滑ってね、」
「あええっ、じゃ」
「許して、くれるかな?」
別に、どっちでもいいけど。
この程度、僕何人分だ、興味ない。
「……普通の神経をしているなら、許さないんじゃないでしょうか」
「ふふふ、だよね、良かった」
「……何故、こんなことを?」
「んー、なんでだろ。多分、君が僕のことを褒めちゃったから?」
全く、なんのためにこんな外見をしていると思っているんだ。
別に、しようとしたわけじゃなくて、元々これなのを利用してるだけだけど。
しかし、最初から僕らが、普通の子供二人だったら良かったのにね、
いや、それじゃあ効率的じゃないか、合理的も求めると、本当に面倒臭い。
「……ふざけていますね、」
「うん。そう、君もね、」
「……やっぱり。帰って、くれませんか?」
「どうしよっかな」
はあ、茶番だ。
聞いてると、どういう気分なんだろう。
もう少し、付き合ってあげても良かったんだけどね。
残念、僕は既に演技しかしてないんだ、これ以上重ねたらおかしくなっちゃうよ。とっくにか、アハ。
はあ、アレン、僕はあそこにしか、
「……状況が変わりました、」
「おや、」
「最初から、素性も知れないあなた達に頼むのが間違っていました」
「まあ、」
「報酬の話も、無かったことにしてください。その代わり、学費は既に払ってあるので。学園に戻って、自分の目的を早く果たしてください」
「それは残念、」
……そう、そういう流れにするんだ。
僕たちの流れは、とっくに決まってるっていうのに。
「これ以上ここに居座るなら。ワタクシ達にも考えがあります、」
「レリアにも?」
「……人を呼びます。この国から、犯罪者を捕まえるため」
「……それは、嫌?」
「呼ばせないでください。ワタクシにも、この国にも、面倒なので」
「そっか、」
まあ、そんな大事にしたら、僕の目的も果たし辛くなっちゃうもんね。
しょうがない、嫌だけど、一度引くか、
「じゃあね、また会うかな」
「いえ、もう会わなくていいです。ワタクシ達はもう、互いに必要ありません」
「そう、どうだろうね」
「早く、出て行け、」
「うん。僕も、そのつもりだったよ」
まったく。本当に、どうしてこんなことになったんだか。
こんな予定じゃ、無かったんだけどな、
でもまあ、もう決めちゃったものは、しょうがないもんね。
「さよなら。その君とは、もう会わなくて済むようにするよ」
さて、行こうか、レコウ。
「……レリア、元気なかったのー」
「そうだね、それに下手くそだった。こういうの、得意じゃなかったのかよ」
「どうするのじゃ?」
「そうだね。言われた通り、なるべく早く終わらせたいね」
「行くか?」
「いや、来てるよ」
もう、遅いな。
もう少し早くしてくれたら、さっさと終わったかも知れないものを。
僕は、こういうのは苦手なんだ、考えさせないでよ。
「さて。……あ、」
「お? ……いや、この匂いは、」
……やば、めんどくさ、なんで君たちいるのさ、
「ふむ。あいつら、いつもセシィと一緒におる、」
「別にいつも一緒にはいないよ!? あー、くそ、なんでこんな時に……、」
「……はあ、しょうがないのお。セシィ、ここは我に任せて先に行けじゃ、」
「……敵の足止めどころか、仮にも味方寄りの足止めでそれ使うかー、」
ならそちらは任せて、僕もお客さんを片さないとね。
——おーい、そこの獣臭い男どもーじゃ、
それじゃあ、早く元の流れに戻ろうか。
「さて、君たち。せっかくだ、測ってみよう。僕の学園の成果を」
杖を構える、レリアの。
これで十分だな、皮肉じゃなくて、合理的な思考だ。
流石に、いちいち本気でやってたら、疲れちゃうしね。
そっちは、後に取っておこうか。
……っ、
声が聞こえる、うるさい。
人間が出す音の震え、どうせアレンの以外、記号にしか認識できない。
「さて、『水刃』。火は、大事になるかも知れないからね」
うん。あんまり痛そうじゃない。
丁寧に作りすぎたな、一度で終わってしまった。まあいい、どうせ聞くこともないし、
まだ、教材はいる。
「おっとナイフ、なんか懐かしいな。投げてはこないけど、」
軽く杖でいなして、そのまま転ばせて、
駄目だよ、そんな地面に向かって頭を振ったら、僕がちょっと力を添えただけで折れちゃうよ。
まあ今は、テスト中だからきちんとやるけど、
「おっと、今度は君たちも魔法? 町中で魔法なんて使ったら、聖女に怒られちゃうんじゃないのかい?」
さて、じゃあ次は、こんなのはどうだろう。
「『反論』。おお、逆位相の魔法をぶつけることで綺麗に消す。できるもんだね、授業の成果だ」
なんて、流石に無理やりすぎるか。
しかし、本当にこの杖は便利だな。
簡単な魔術でなんでも使えるから、相手に合わせた全く同じ魔法も逆の魔法も使える。
これで消すの理論は知っていたけど、あまりにも非効率的で無駄に難易度が高いから、やったことなかったんだよね。
そもそも普段の僕は空間魔法しか使えないし、空間魔法があればもっと簡単に消せるし。うん、本当に無駄な技術だ。
「あれ、もう最後? なら君は……、。あ、そうだ、『ふわふわ』、」
これ、ものすごい謎の魔法。
意味がわからなすぎて、逆にやってみたくなっちゃった。
似てるけど、全然違うのしか出せないな。
ふわふわに包まれて、うん、そのまま息を止めるといい。
幸せな最後だろ? どうだろ、わかんないや、
「さてとレコウ? まだあいつらいるのか……。しょうがない、先に行こう」
全く、本当に面倒臭い。
思わず空を感じる。
相変わらず、見事な結界だ。
『来るな』、だって。
わざわざ、僕にぐらいしか読まれないところに書くなら、
『助けて』って、最初から書けばいいのに。




