20話
学園、授業、いや今日のは授業だろうか、
校外学習? いや校内だけど、
職業体験? いや貴族が将来、こんなのやるわけないけど、
校舎を出て、冒険者の真似事。
まあ、別にいいか。
僕らにとっては、待ちに待った、
「財宝じゃー!!」
「おー、」
ダンジョン探索。
今日は一日、お宝探しだ。
「さて、僕とレコウ、だけだと楽なんだけど」
「だめ、らしいのー、」
班は原則、四から六人だとか。
六、……なんか嫌な予感がしたけど、
うん、ピンクがいるから、多分こっちには来ないだろ、多分。
「あと二人、どうするのじゃ」
「うーん。あ、でも、一人はあてがあるよ」
そう、いっつも二人組を作る時に、最後まであぶれてるそこの君!
いい加減、ほっといたら夢に出てきそうだから、誘ってやろう。
「……え、ボク、ですか? 何で、」
「君が、気になったから、」
それに、彼は物凄く地味だから、目立たずこっそり財宝を持ち帰りたい僕らとしては、ちょうどいい人選だ。
「君じゃなきゃ、駄目なんだ」
「え、あ、はい? それなら、どうも?」
よし確保!
まあ、彼はこう見えて、意外と体幹整ってるし、足を引っ張ることはないだろう。
さて問題は、あともう一人。
なるべく目立たない、地味な子。
どこかにいないかなー、
あ、レコウ、女子の方は誰かいい人いた?
「えっとー、のじゃー……」
「えへへ、わたしも、みんなと仲良くしたいなーって。入れてくれる〜?」
……うん、ピンクちゃん?
何で君、こっち来てんの??
「……あー、メートちゃん、だっけ」
「そう! 今日はよろしくねー」
……結局、押し切られてしまった。
これ以上騒がしくしたら目立ってしまうし、あの五人組にでも見つかったら最悪だ、
全員まとめて一つの班で行こうとか、言い出しかねない。
王族だから否定もされないだろうし、はぁ、
「何で、僕達の班に?」
「だって、みんなとは仲良くなってるのに、わたしとはぜんぜん、話してくれないんだもん」
「まあ、うん、性別が違うし? そんなものでは?」
僕が、苦手意識を持って避けてたからだけど。
「そんなことないよー。だって性別が違くたって、みんなお友達になれたもん!」
「う、うん。そうだね?」
……グギギギギ、
いやまあ、考えようによっては、調査対象が自ら近寄ってきてくれて、好機だとも言えるんだけど。
ウグギギギ、
やっぱ、何で僕がそんなことしなくちゃって気持ちが、
いや偽勇者、こいつが原因、それの排除はアレンのため。
なら、別に何をすることになっても僕は、
——キィキィッ!
「きゃっ! なにー?」
「んー、コウモリじゃの、」
「危険性はないねだから離れてくれル?」
胸を押し付けてくるなーーーーッ!?
くそ、これみよがしに、やっぱりこいつは敵だ!! 後ろ暗い部分見つけたら即それ抉ってやる、
「(……どうするのじゃー、)」
「(うーん。流石に、大々的な採掘は、ちょっと厳しいかな? ごめんね、)」
「(いや、我は別にいいのじゃが)」
ひそひそと、僕ら互いに、殆ど声に出さなくてもいいから楽だ、
……そういえば、レコウと話してる時はあんまりピンク女、寄ってこないな。
前に吹っ飛ばされてたし、苦手意識でもあるのか?
しかし、結果的に名もしらない彼を、巻き込んでしまうことになった。
今も、ピンクの相手を一人でさせてしまっているし……、
ふむ? 会話していないな。
やはりあの女、人を選んでるのか?
でも、別に地味な彼の方は悪感情を持っていないようだし、男女の距離感としてはむしろ普通なのか?
それともやはり巨乳だからか? くそう、
「…………、あー、みんな、疲れてないかな、このまま進んでも大丈夫そうかい?」
やだなー話しかけるの、でもそういうわけにもいかないもんなー、
最低限、偽勇者の話は聞き出さないと。
「我は問題ないのじゃー、貴様らはどうじゃー?」
レコウ、話を繋いでくれて助かる。
でもやっぱ、二人称貴様はどうかと思うよ、
「メートはー、問題ないよー」
「……あ、大丈夫、です」
……いや心配になるんだが。
でもまあ、本当に元気そうだな。
この中で、一番体力がないのはあの女だけど、余計な荷物ぶら下げてるし、
ならばダンジョンを使って、話を聞く前に多少体力を使わせた方がいいか。
「じゃあ進もうか。……レコウ、この角の先の角、落とし穴」
「了解! 進むのじゃー!!」
これは、下の階まで落ちるな。
この辺は王族も来てるだけあって、先に精査され尽くしてるだろうから、危険性はないだろうけど。
想定外の事態は、疲れさせるのにもってこいだ。
「あ、宝箱。行ってみようか、」
「おお! 早く来ないと、我が独り占めしちゃぞー!!」
さてピンクちゃん、どうするかな?
巧妙に隠れた落とし穴、魔術の気配もする、普通の女の子には気づけないけど、
「わーい、やったねー!」
お、釣れた。
こっち来たな、少なくともこのまま引っかかる気か、本当に気づいてないのか。
……もう一人の彼は、少し距離がある。
ちょうどいい、彼には悪いが、一人で戻ってもらおう。
ここら辺はまだモンスターも出なくて危険性も低いし、これ以上巻き込むのも可哀想だし、
まあ、その結果また一人あぶれさせるのも、すまないとは思うけど。
「よし、じゃあ、」
「行くのじゃー!」
「お〜!」
「……っ、あ、待って!」
ん、なに? まさか君、気づいたのか?
本当、見かけによらず意外と優秀だな、だけどもう遅い。
このまま、三人で落ちさせてもらうよ、君は先生に報告でもして来てくれたまえ。
大丈夫、ダンジョンになんて慣れてなさそうな子供三人、落ちたところで向こうも良くあることだ。
君に大事にはならないはずだよ。
「……くっ、」
って、あ、なに、君。
何でこっちまで来てんの? 一緒に飛び込む気なの?
いや、やめときなよ。無理に自分まで巻き込まれず、報告しに行くのが正しい合理的な選択だよ。
どっちにしても、今から来ても間に合わ、いや速いな。
僕達より先に落ちていくじゃん、え、うっそ、下で全員受け止める気?
君、そんなに男気溢れる人だったのか……、いや、無謀だと思うけど。
しょうがない、彼の漢に免じよう。
女三人、大人しく受け止められて、花を持たせてやるか。
……いや、やっぱアレン以外に触られるの嫌だな、そもそも今の僕は男だし、僕だけは普通に着地しよ、
「おっとー、危ないのじゃー、!」
あ、レコウ、普通に壁を掴んで止まった。
「きゃー! 『ふわふわ』!」
え、ピンクちゃん? 何その魔法、毛玉、羊毛!?
というかいつもヒロインムーブしてるくせに、こういう時だけ一人で何とかできちゃうの??
「…………、」
えっとー、あ、彼と目が合った。
……うーん、あー、う〜ん。
すまん、少年、
「ふう、五点着地、」
む、ちょっと服破けた。
うん、流石に、合理的じゃなかったかな?
いやでも、彼が無事に受け止められるかは不明だし、僕一人なら確実に無傷で行けたから、やっぱりこれが合理的か。
「おー、大丈夫かの、せー、キサマー!」
「くふっ、大丈夫だよ、このくらい。慣れてる」
「いや、凄まじい速度で服を縫い合わせたの。針も無しにどうやってるのじゃ?」
だって縫い糸増やしたら、アレンに服直したことバレちゃうじゃん。
この程度、必須技能だよ。
「きゅー。……わたしたち、落ちちゃったのかな?」
「……あ、そう、みたいだね」
……めっちゃ少年こっち見てくる。
いやー、ほんと、申し訳ないことをした。
だって今の彼、ただなんか一人で自ら真っ先に、見えてる落とし穴に飛び込んだ人だもん。
「……あー、危険を知らせてくれたよね? ありがとう、君が教えてくれたおかげで、助かったよ?」
すまん、これが今の僕にできる、精一杯のフォローだ。
「……あー、まあ、助かったのじゃ?」
「えっとー、うん。たすかったよー?」
ほ、ほら、レコウまで、何も言わずとも自ずと空気を読んでるよ。
そしてピンク? 君はもっと、普段から男を振り回してるんじゃないの? こういう時こそもっと、もてはやせよ。
あー、僕は男だから大して効果もないし、言いたくもないし、うぐーん!
「……はは。うん、みんな無事で、良かったよ」
遠い目をしてるー! しょうねーん!!
「……じゃあ、どうしようか」
……穴から落ちて、ようやく少しは落ち着いた。
はぁ、僕はわかって落ちたはずなのに、夢がなんかトラウマでも刺激されたのか、やけに感情的になって疲れてしまった。
「上は、いつの間にか塞がってるね、」
「どーしよう?」
ダンジョンの下に落ちた、マップもない、まあまあ焦るべき状況。
まあ僕は、上を通った時点で下の地形も把握してるし、それとなく正解の道を通ればいいだけなんだけど。
最悪、レコウなら壁壊しても、キャラ付けで何とかなりそうだし。
「……えっと、こういう場合は、無理に慌てて出口を探すより、その場で待機していた方が」
「まあ、貴様が上にいるなら、それでも良かったがの、」
ちょ、レコウ!?
ナチュラル鬼畜ドラゴンちゃん!?!?
しーっ、思ってても言っちゃ駄目だよ?!
「……あ、はい。すいませんでした」
「い、いやー! そんなことないよ、カッコよかったよ!? ね、メートちゃん!?」
「え、う、うん。ゆーしゃ様みたいだったよー!」
ほ、本当にごめんね!?
勇者みたいに、ん、あ?
「ゆーしゃ、みたい? 勇者って、勇者はもっとカッコいい人でしょ」
「えー?! だ、だめだよー!? 思ってもいまそれいったらー!!」
「は、しまった、条件反射で!!」
べ、別に、僕はアレンに勇者なんて求めてないのに! 偽勇者のせいで、カリカリしてたからって言い訳させて!!
……あ、それでー、少年は。
ほっ、思ったよりショック受けてない。
良かった、セーフ、
「……あ、じゃ、じゃあ。ボクらで出口を探して、進みますか?」
「う、うん、そうしようか。レコウ?」
「お、おう、ついやっちまったのじゃ。進むのじゃー!」
「お、おーだよー!?」
……よし。
なんかものすごい疲れたが、それはみんなも同じはず。
謀らずとも、当初の目的を達成できたし、いい話題の流れもできた。
「……レコウ、そっち頼んだよ。僕は彼女から勇者の情報を聞き出す」
「……あー、うん。そうじゃの、」
どうしたんだろ、さっきの畜生人外ムーブは流石に反省してるのか?
まあ、レコウを信じて、僕は目的を果たそう。
「……そういえば、メートちゃん」
「ん、なーに?」
「勇者みたいって言ってたけど、君は勇者を見たことあるの?」
それどころか、話によると、この女がどこからともかく見つけて来たらしいけど。
「そうだよー! 勇者様はー、全身真っ黒でカッコいいんだよー!」
「そ、そう、」
趣味が合わなそう。
「そう! メートのー、絵本から飛び出してくれてねー!」
「はあ、」
「ふふ、冗談だよー。でもねー、本当にそっくりだったんだ」
アググ、不思議ちゃんめ。
話しづらい、これ全部計算尽くか? だとしたら僕と同じくらい、外面がぐちゃぐちゃで整ってグロテスクだな。
「わたしが、困ってる時に、いつも助けてくれる勇者様。みんなに教えて、仲良くしたいのに、いつもすぐにいなくなっちゃう」
「……でも、みんな勇者のことは知ってるんじゃないの?」
「うん。だってそんなの、ずるいから。わたしだけが、いいなんて。だからみんなに、言っちゃった」
……つまり、偽勇者っていうのはこの女の目撃証言だけで、実物は誰も見ていないのか?
それだけで聖女扱いで、真の聖女だったレリアは追放された? いやこれは、婚約破棄だかの所為なのか?
「……そういえば、クラスの噂で聞いたんだけど。メートが聖女なのって、本当なの?」
「え、うーん。ほんとー、かなぁ?」
「……僕は、魔導国は、あんまり聖女について詳しく知らないんだけど。聖女って、何をしたらなれるの?」
「んー、なんかねー。勇者様のことをみんなに言ったら、神の予言と一致してるって、みんな褒めてくれたんだー。わたしは、そんなことより、勇者様を知ってほしかっただけなのに」
……予言、知らない単語だ、情報が足りない。
何だ、何か、話がおかしい? これは僕のせいではない。
偽勇者、メート、聖女、追放、原因、婚約破棄。
そうだ、もっと重要なことがあった、聞かなくては、
「……そういえば、君って。この国の王子と婚約してるだっけ? という事は、将来は聖女で、お姫様なの?」
「え、えー!? わ、わたしがケインくんと結婚なんて、そんなのしてないよー!!」
「……そう、なんだ、」
……そうだ、聞かなくては。
レリア、一度君と、話をしなおした方が良さそうだ。




