18話
学園。それは主に貴族が通って、将来への所作を、学ぶところ。
らしいが、だとしたら、
「何で剣の授業、なんてのあるの?」
「ぶんぶんなのじゃー、」
しかもレコウがいる、男女共同。
流石に打ち合いは男女別らしいけど、このドラゴンに殴られる子がいるのか。
くわらば。くわばらだっけ? かわいそうに。
「おいおい、そんな貧弱そうな体で、大丈夫なのか? 大人しく、見学してた方が良かったんじゃねえの」
と、一応剣を持って参加している僕に、話しかけてくるガタイのいい男。
……口が悪いな、次期剣聖、いやただの剣士君と呼んであげよう。
「大丈夫だよ剣士君。これでも、体力には自信がある」
なお、筋力。
今は練習用の木剣だから良いけど、鉄の剣なら自由には振り回せない。
体重が軽すぎて、体の方が吹き飛んじゃうし。
「剣士君だ? オレの事はシュヴって呼びやがれ」
「はいはい、」
いつものーっ、て、短いな。
わかってるじゃないか、それくらいなら、覚えてー、
んー、まあー、学園にいる時くらいは?
「じゃあシュヴ君」
「おう、」
「じゃあ僕は、あっちで打ち合いしてくるから」
あっちの、どっか適当な方に。
ちょうどそこにほら、誰とも組めずにいる、何か地味な感じな男もいるし。
……なんだろうこの気持ち、夢の何かが彼を誘えと訴えてくるんだ。
うーんまあ、以外と体幹も悪くないし、ほっとてもいいけど、
「おい待てよ。本当に普通に参加する気か?」
「え、うん。授業だし」
「ちっ、しょうがねえな。オレが組んでやるから、さっさとかかってきな」
「えー?」
「ほら、早く構えろ」
何だこいつ?
何がしたい、弱いものいじめ? そんなに剣で目立ちたいの? もう、別にどうでもいいけど。
「ああ、何ならお得意の魔法を使ったっていいぜ。大々的な攻撃魔法は禁止されてるが、補助的なやつなら問題ねえから」
「必要ないよ、」
杖持ってきてないから、普通の魔法使えないし、
というか、流石にあの杖でも、身体強化とか設計外だ。
それに、元が低すぎて、使っても余計なダメージ受けるだけだし。
「でも言っておく、僕は殴られるのは嫌いだ」
アレンを除く、
それ以外のためなんて、もう嫌だ。
「あー、手加減してほしいってか?」
「大嫌いだ、好きに打ってくるといい」
「はあ? いや、わかんねー奴だなー。ほら、お望み通りだぞっと、」
大きな腕で、剣を振る。
振り下ろし、身長差の関係で、自然とそうなる。
重力を乗せた、力強く、最も速い一撃、
なのに、それは、風切り音すら聞こえない。
「遅い。もっとちゃんとやっていいよ」
「…………はぁ!?」
少し体をずらしただけで、簡単に真横を通過する。
明らかに、手を抜いた動きだろう。
まあ、僕の外見からしたら、舐めて掛かるのも当然だけど。
「ちっ、なら、これならどうだ⁉︎」
横薙ぎ、なのにさっきより速い。
「うん、体幹がブレてる、僕とは打ち合いずらいかな」
でも微妙、僕の身長が低いせいで、振りが甘い。上体を逸らすだけで空を切る。
頭とかいい位置なのにね、まあそれこそ、首振っただけで避けれちゃうか、
それにまだ、適当にやってるみたいだし。
「……本気で、やっていいんだな」
「え、うん」
マジで当たりそうになったら、全力で逃げるし。
授業でそんな、命懸けでやるわけもないしね。
「オラっ!」
「……と、」
さっきより速い袈裟斬り、でもそんな地面に向かって振ったら、ちょっと僕が剣を添えただけで折れちゃうよ?
……今は授業中だし、受け流すだけにしとこ、
「……っ、おお‼︎」
「うーん、怒鳴られるのも嫌いなんだけど。ああそこ、地面へこんでるよ、」
「おっ?!」
あらら、せっかく剣で指して教えてあげたのに、転んじゃったよ。
…………ちょっと、性格悪いか?
だって、本当に、上から大きな声をかけられるのは、怖いんだもん。
「っ、……はは、マジかよ」
「……あー、ごめんね。大丈夫?」
「ああ、問題ない。それと、怒鳴って悪かったな」
転んだままの姿勢なのに、笑顔を向けてくる。
コイツ、僕と同じタイプの性癖か!?
剣を丁寧に置いて起き上がってくるが、手を差し出したりはしない、
僕の筋力だとまとめて転ぶだけだし、アレン以外の男に触られるの嫌だし。
「それより、まだ時間あるよな。もっとオレと、」
……ん、誰か来る。
「まだ時間あるよな、ではないだろ!」
「あ? ……何だよ、ラインか。何のようだ?」
ライン? ああ、あの護衛君か。
「何のようだ、でもない! お前が来ないせいで、私が組む相手がいなくなってしまっただろ!」
「ああ? 王子の奴でも誘えばいいじゃねえか」
「貴様が! 先に相手をしろと言うから!! 今日も待ってやったんだろうが!?」
「あー、そうだったっけか? めんどくせーなー」
いやほんとに面倒臭い。
もう僕見学でいいから、そこ二人でやってろよ。
「それに。私が殿下と剣を交わせられる訳がないだろ。お前も、軽々しく殿下のことを呼ぶな」
「はいはいっと。——あっ、そうだ。せっかくなら、お前もコイツとやってみろよ」
「は? 私が?」
は? 僕が? こいつと? 何で面倒臭い。
「本気で言ってるのか?」
「ああ、お前こそ、見てなかったのか? すげえぞ、コイツ」
「……からかってるわけじゃ、なさそうだな」
視線が向いた、逃げられそうにないな。
はあ、まあ、しょうがないか、
「えっと、どうも、ライン君?」
ならせめて、先に名前を呼んで名乗りをキャンセルしておくか。
「……ああ、まあいい。それより、本当に打ち込んでいいのか?」
「ぶたれるのは超嫌いだけど、」
「おいシュヴ、こんなことを言っているぞ」
「あー、いーんだよ。どうせお前も、一発も当てらんねーから」
怪訝な目をして、こっちを見つめる。
外見で相手に舐められるのは、隙をつけて合理的だと思ってたけど、
こうもいちいち引っ掛かられると、効率的ではないかも。
「では、行くぞ?」
「うん。本気でいいよ?
「はあ、文句は言うなよ。——はッ‼︎」
ふむ、事前に面倒な行程はさんだおかげで、最初からそれなりの速度。
実直、シンプルで万能、でも軽いな。
それに、動きが直線的すぎて、受け流す必要すらない。
「っ、なるほどっ、」
「……ねえ、本気でやっていいんだよ」
「これでも、本気のつもりなんだが‼︎」
ダウト、嘘だ、なんて、
「魔法。補助系なら問題ないんでしょ、使わないの?」
「ッ、……何故私が、魔法を使うと思った?」
「え、だって、」
弱すぎるし、とは、言わないでおこう。
少なくとも、黄色よりは、いやあれより酷いかも。
「癖がね。元々、身体強化に中距離の魔法も前提の動きでしょ?」
多分、合理的には。
これで感情的に違いますって言われたら、恥ずかしいな。
「それにしては、前の魔法の授業でもパッとしてなかったけど……。あ、もしかして、あんまり本気だして目立ちたくないの?」
まあ、気持ちはわかる。
僕も、アレンも命もかかってないのに、全然本気でやる気になんて、ならないし。
「……私は、殿下の剣だ」
「え、うん」
……あ、なるほど、護衛だから、目立っちゃダメと。
確かにそれは合理的だし、それに、
「敬愛する人より、凄くなるわけにはいかない、ね、」
「……わかるか? いや、お前も、」
どこか、遠い目をしている。
何見てんだ、あ、人が飛んでる。
え、あれ、レコウ? 何してんの??
いや怪我はさせないように、してるだろうけど、たぶんおそらくきっと。
というか、ふっ飛んでったのピンクちゃんじゃなかった? ほら、王子も駆け寄ってるし、うわー。
何か、遠いものを、アレンを見ていたい。
見えるかな、いや僕ならきっと、見えるさ。
「そうか、お前も。同じというわけか」
「…………うん、」
見える、見えるぞーー!!
……ふう、満足した。
って、あれ?
もう、剣はやんないの?
「いや、『我が身を超えよ』。もう少し、付き合ってもらおうか」
「おいおい後から来て、お前ばっかりずりーぞ」
「貴様がやれと言ったんだろ? 責任持って、私に譲れ、」
「ああ? むしろちょっとでも貸してやったオレサマに感謝しろよな!!」
あー、もう、うるさい。二人でやれよ。
というか、オレサマって、何様のつもりだよもう。
「二人まとめて、まあ、問題ないか」
「「言ったな!?」」
ははは、事故に見せかけてお互いの剣ぶつけたろ、
まあ、そのくらい、学生のお遊びで許してくれるだろ。
…………んで、今日のお昼。
「おいおい、それっぽっちしか食わねえ気か? だからそんなにほせーんだよ、肉食えほら肉」
「おい、貴様と違って脳まで単調な筋肉じゃなく、細部まで繊細だからこそ彼は強いのだろう。バランスだ、これも食べろ」
何こいつら、何で自分で頼んだもん押し付けてこようとするの、普通そんな人いないだろ。
肉、野菜、パン、肉、野菜、パン、肉、野菜、パン、水、
ちょ、そんなに乗せんな。アレンもそんなに食べきれないから、
「ふむ、今日は一人ではないのだな。そうだ、作られた物は嫌いと言っていたが、ならこれはどうだ」
果物!?
おいメガネ! お前もか!! どっから現れた!?
あ、これはアレンも食べれるし、ありがたく頂戴しまーすって、
ちょっと、持ち帰らせてよ、席に付かせないで、
「あん? 何だよ、てめーもか?」
「なるほど、果物、確かに悪くない」
「ふん、当たり前だ。わたしが選んだのだから、」
いや、あの、ほんと、別に僕は水だけで、
全然聞いてないな、こいつら。
何で僕を囲むんだよ、というか護衛君、君は王子のそば離れちゃダメだろ。
ほら、あっちも見てるし、……というかピンク!? すっごい凝視してくんな! 何だこれ?
「いや、ほんと、僕はその、」
背の高い男三人に囲まれる、怖い!
あーん、助けてレコウー!!
——てめえ、この前はよくも、
——邪魔じゃーー!
——ぐわぁー!!
ボキッと、いい音。
……うん、まあ、悪意がないなら、いっか。




