17話
学園、授業、色々ある。
そして次は、魔法の授業、それも実戦。
魔導国の出身と名乗ってしまっからには、ここで失敗するわけにはいけないのだが。
「……レコウ、わかってるよね。僕達は、ここで大々的な魔法は使えない」
「そうじゃの、セシィのは、ちと凄すぎるからの」
「いや僕はむしろまともだろ。後、それ、他の人がいる前では呼ばないでよ」
「わかっておる。人前でセシィを呼ぶ時は、ちゃんと二人称で呼ぶのじゃ」
「レコウの二人称って」
キサマー?
「普通に、セレンって呼べば良いんじゃん」
「んー、まあ、それでもいいのじゃがの。でもセシィ。こっちの方が、良いのじゃ、」
「……そう、」
……まあどうせ、レコウは面白キャラが定着しつつあるし、別にいっか。
役割分担、僕はこのまま件の中心に飛び入って、レコウには外側から調べてもらうことにした。
彼女の面白尊大言動も、小さくて可愛い外見と合わされば、たちまち一般クラスメイトの人気者だ。
「だからまあ、多少レコウが魔法あれでも、何とかっ、」
「むー、まあ、元の魔法が禁止されてるんじゃ、仕方ないかのー」
魔法の授業では、少なくとも次の授業では、簡単な攻撃魔法で競う。
炎、電気、氷、爆破、手段は何でも良いが、威力やら射程やら精密性やらを測って、鍛えるらしい。
ちなみに僕は、空間魔法に脳を全振りしたから、その手の初級魔法すら使えない、
「わざわざ、それだけの為に、奪ってくる気にもならなかったしね」
「なら、どうするのじゃ?」
……よくぞ聞いてくれました?
「ふっ、ふっ、ふ〜。てってれー、万象の杖〜〜」
取り出しましたは杖型の魔道具。
小さめな指揮棒タイプ。
仰々しい名前が付いているが、ようは魔力と魔術の腕さえあれば、誰でも色んな種類の初級魔術を作れる優れもの。
イメージとしては、クッキーの型抜き?
ラズベリーパイ? 何それお菓子??
「おお! なんじゃその語りは!」
「夢では何故かこうしてたんだよ。はい、レコウにはこれ。事象の杖ね」
こっちは、魔力を流せば衝撃を持った光球が出る杖。多様性がない代わりに効率がいい、レコウでも扱えるシンプルバージョン。
「おお! なんかポコポコだせるぞ。ビームも撃てるのじゃ‼︎」
「出すのが早すぎて、繋がって見えてるだけだね。壊さないでよ?」
壁に向かってペチペチと、
見た目は派手だが、傷一つ付いてない。
まあ、この子は、心配しなくても大丈夫か。
「しかし、よくこんな凄いものがあったのじゃの」
「そうだね、こんな凄いのよく作れた」
「ふむふむ作った、綺麗じゃの、新品か? こんなものを作れるなんて、人間も中々やるのー」
「うん。僕も、初めて見た」
構造、把握、複製、しようと思えばできる。一から作れと言われたら不可能だけど。
凄い技術、こんなの、ダンジョンの奥にあったっておかしくない。
レリア、これ、僕達用に即席で作ったって言ってたっけ。疲れた様子すらなかったな。
……まあ、ありがたく使わせてもらおう。
授業。
複数の人間が、合同で学びを受ける。
正直、どの程度の力を見せればいいか、わからない。
僕の魔術の腕なんて、きちんと学習を受けた人間から見れば、大したものでもないはずだが。
それでも、この高性能な魔道具もあることだし、あまり本気になりすぎても、
まあ、空気を読むのは得意だ。
別に、想像はできなくても、推測していけば自ずと、
「はい。では、せっかくですから。留学生の二人から、魔法を見せてはもらえないでしょうか。あの魔導国から、それもとてもいい成績を収めているとか」
……おいこらわかめ。
お前、魔術の先生もしてるのかよ、まあ確かにそれっぽい見た目だか。
というか、何だその設定。どっから生えた、
「ふん、あの女がいなくなって、張り合いがなくなっていたところだ。魔導国の力、さっそくお見せいただくとしよう」
おうメガネ。
あの女ってのは、この杖の制作者か?
一緒になって追い出したって言ってたけど、随分と他人事だな、てかそんな自信満々なら先にやってくんない?
そのちょうど同じくらいで、調節してやるから、
「あの的に当てればいいのじゃな、それいくのじゃー!!」
あー、レーザー。
これ魔法一発じゃないとダメなんじゃないかな、あれ一発にも見えるけどめちゃくちゃ連射してるし。
しかも一発目で的ぶち抜いて、その後で周りも消し飛ばしたし。あーほらメガネ君もわ呆れてものも言えなくなってるよ。
レコウもメガネかけてるんだから、ちょっとは知的に、まあ可愛いからいいか。
「『炎弾』、っと」
というわけで、あのドラゴンがめちゃくちゃやらかしてくれたので、残る僕は気楽なもの。
シンプルな炎の弾で、的の中心だけをくり抜き消し飛ばす。
レコウみたいに無駄に奥の壁まで傷つけず、的を越えた時点でしっかり消火。
うん、地味だ、これなら授業の範疇で、何も問題ないはず。
「……な、今の、偶然か⁉︎」
どうしたメガネ君、君の番だぞ。
確かにインパクトでは、レーザードラゴンには勝てないかもしれないが、人間が人外に競うもんじゃないからしょうがないさ。
「くっ、『水の刃よ、あの的を穿て!』」
おお、水だ、水流のナイフだ。
わざわざ構えてまでそれって、効率悪くない? まあ人体への殺傷力は高そうだけど、的の方に懐かしさを感じてしまうな。
一発命中、中心に、まあ数ミリズレてるけど。
的に刺さって、しかし地味だな、僕以上では? まあ向き不向きの問題か。
……外野が騒がしい、レコウの周りに人が集まって、あの子、満更でもない表情だな。まったく。
僕の方には誰も、メガネとか、王子とか、先生とか、敵とかの視線は感じるけど、
「……っ、何故誰も気づかない。あの光も確かに強力だが、こちらの方がよほど精密に練られた……、」
……ありゃ、メガネ君。
自分の方を誰も褒めてくれないから拗ねてるのか、
主席だって話だったし、今までちやほやされてきたのかな、うん。
一応、フォローしておいてあげるか、うちの子がやりすぎちゃったせいだし。
「……あー、落ち込むな、メガネ君」
「メガネ君!? わたしには、エインファール——
「あうん、エインね」
危ない、また長々とやらせてたまるか。
「それでエイン君。あの子、レコウはちょっと、その、特殊だから。あんまり意識しても……ね、」
「……別に、あの程度。ただの力押しだ、意識などしていない」
負け惜しみだ、まあ触れないでおいてやろう。
「わたしが興味を示しているのは、むしろ……、」
「……むしろ?」
「……いや、いい。それより聞かせろ。貴殿から観て、わたしの魔術はどうだった」
どうって、正直な感想言っていいのか?
命もかかってないのに、人の頭の中ズケズケと測定するのもあれだしな……、
「痛そう、」
「……は?」
「表面は鋭く整っていたけど、内部の水が乱雑に動いていた。神経を掻き回されるのは、なかなか慣れない」
「……乱雑。そう、か」
ありゃ、駄目か?
うぐぐ、面倒臭い、こんな男、別にどうでもいいのに、
「だけど、真っ直ぐだった。真っ直ぐ、的に向かってた」
ちょっとズレてたけどな、とは言わないでおいてやろう。
というか、いい加減他に褒めるとこないんだけど、
「……それは、いいことか?」
「え、そりゃ、曲がってるよりは?」
何だ? あれか、レコウは的全部消し飛ばしたから、それに比べてこっちの方がまさってるかってことか。
うんまあ、あれはちょっとズルだしね。
「…………ふむ。貴重な意見。感謝する」
「えっと、恐縮です?」
……よくわからないけど、元気になったならよしっ、
これで、レコウに変な矛先が行くことはないでしょう。
まあ、実際飛ばしても、かすり傷すらつかないだろうけど。
「…………、」
視線。さて、他の人の魔法は、
……え、何でみんなあんな長々と詠唱してるの? 弾遅いし威力低くない? 中心ズレまくってるし、当たってない人もいるんだけど?
……あーそっか、測定するならゆっくりやった方が良いか。
それにあの的、壊すようじゃなくて当てるようだったんだ、失敗した。
命中精度は、まあ、流石に僕に勝てるのもそういないだろうし、うん。
王子と、宰相と、そこら辺の魔法はまだマシだった。
後は……、まあ、そのくらい。
多分、授業って、そんな全力でやるものじゃないしね。
お昼だ。
昼食のために、時間をとって休む。
うーん、慣れそうにない文化だ。
「がっくえん、おっひる〜、たっべほーだ〜い、なのじゃー♪」
「いや、お金はかかってるはずだけど。まあ、レリアのですらない貴族の金だから、別に良いか」
……流石に、主に貴族が通っている学園なだけあって、一番安いメニューでさえ豪華。
パンすら、口に合わなそう。
「レコウ、後これ全部食べて良いよ」
「……水しか取ってないのじゃが」
水すら綺麗、何で贅沢!
でもまあ、レコウは自分の分あるし、いらないか。じゃあこれどうしよう。
栄養バランスはちょっと偏ってるけど、材料はいいし……、
そうだ。ちょっと手を加えて、アレンに食べてもらおうかな。
「…………おい、あれが、」
「…………ああ、あそこなんかから来た
」
じゃあこれは、部屋に運んで、
おっと、足を引っ掛けるところだった、危ないな、
よっ、とっ、ちょっとここらへんの人、足ぐせ悪くない? もう、アレンのご飯を落としたらどうしてくれるんだ、
「……邪魔じゃ、」
バキッっと、良い音。レコウ?
ああもう、何やってるんだあの子は、こんな程度に引っかかって。
……そんな事より、早くこれをアレンに届けなきゃ、美味しく食べてくれるかな〜♪
「あっ、おお、あの人達って!」
「きゃ〜、殿下だわー! いつもながらかっこいー」
……食堂がざわつく、主に姦しくなる。
何だきゃーって、そんな事、本当に言う奴がいるのか、アレンに対して以外。
男、五人、決まったメンツ?
そしてその中心には、もう一人、女、
……あー、僕、いずれあの中に近づかなきゃいけないのか?
まあ、今日はいいや。アレンより優先することなんて、この世にないからね。キャー、
「……一人か? どこに行くんだ?」
……と、何だ?
メガネ……、じゃなくてえっとー、えー、んー、いー、そうエイン君。
「うん。部屋に戻って、食べるかなって」
アレンが。だから何か、そんな疲れた顔してないで、さっさといつものメンバーみたいなところに、戻ってくれないかな。
「そうか。折角なら、ここで一緒に食べて行ってはどうだ?」
「えっとー。まあ、それもいいけど、一人でいる時間も悪くない、からね」
「……模範生として、それはどうだ」
「いやそんなものになれとは、誰にも言われてないけど。僕は僕だ、好きにさせてくれ」
「…………、」
だからほんと、いつまで話すつもりなんだ。
アレンのご飯が、冷めちゃうだろうが、まあ、どうせ手を加えるからいいけど。
「あ、そうだ、これあげる」
「……デザート? 何故だ?」
「疲れた時には、甘いものがいいからね、」
「いや、わたしは、」
「それに、こういう作られた甘いもの、苦手だし、」
アレン。そいういところも、カッコいいよねー。
後、栄養的に観てもこれは余計だ。
完成されてるから弄りずらいし、あげてしまった方が、手っ取り早いだろう。
「じゃあ、またね、」
「あ、おい、」
聞こえません。
これ以上ここにいてたまるか、僕は部屋に帰らせてもらうぞ。
耳を塞いでダッシュだ!
「……興味深い、。いや変な、奴だな」




