2話
「……つまり、貴様は別にそのパーティのことを嫌っているのではないのだな」
「え、いや、まあ、うーん」
ダンジョンの中でトカゲに愚痴る。
非生産的な気もするけど、中々悪くない。
「あれ? 勇者とやらのことは好きなのだろ? なら、……あ、いや、そうか。他の人間は全員メスだったか、なら確かにライバルというわけだな」
「ライバルっていうか、僕なんかがアレンに選ばれるなんて思ってないし、思っちゃいけないし、そもそも別にアレンが何人女を囲っても別にいいんだけど」
「だけど? しかし重症じゃな」
「でもあの女どもは単純にアレンに釣り合ってない‼︎ 馬鹿、低俗、雑魚!!」
あー、思い返してもムカつく。どさくさに紛れてこっそりやれば、いや今からでも新しい魔道具の事故ってことで何人か、
「ちょ、おい、落ち着くのじゃ!?」
「え、なに? 流石に遠くの空間から事故に見せかけて抉り取るのは、僕もちょっと集中する必要があるんだけど」
「目が、目がマジじゃ。ちょ、流石にいきなり目の前で仲間がそんなことになったら、アレンとやらも困るじゃろ!?」
「……うー、うっ、うー、、、。うぅ、だよねぇ?」
「ふ、ふー、セーフじゃ。感謝するんじゃぞ、人間共よ」
まあ、本気でやったことはないけど。考えたことは何度もある、というかむしろ常に考えてるから実質一回だけかも。
「しかし、そんなに酷いのか? 仮にも勇者のパーティなのでは?」
「うーん、どいつもこいつも家柄で選んだような奴ばっかだったからね。魔力があっても性格が終わってたり、才能があっても思想が終わってたり、やる気があっても実力が終わってたり。……そもそもアレンが実はそんなに強くなかったり」
「……え、いいのか、それで?」
「うん。弱いのにいつも自信満々で。こっそり僕がアシストしてるのにも気づかず、全部一人でやったと心から信じて、どんな危険な場所にも突っ込んで行くのがすっごく可愛くて。特に強いモンスターを倒した後に、わざわざこっちの反応を確認しよう振り返ってくるそのどや顔がさ、キャー」
永久保存しなきゃ、でも誰かに見せたくは無いから、僕の脳内に収納しなきゃ、
「お、おう。もう何でもありなんじゃな。我もう何か、そいつのことが可哀想になってきた気がするわ」
「は? 殺すよ??」
「どこが地雷なんじゃ、やっぱり一番可哀想なのは我じゃ〜……」
もう、アレンは何不自由なく、一緒あのままで幸せになってもらわなくちゃいけないのに。
「……貴様は母親か? 過干渉はそいつの成長を妨げる、真にそいつのためにはならんぞ」
「う、ぐぅー。あ、お腹が痛い、気持ちいい、まだちょっと感触が残ってる、そうだ収納空間の中ならこれを永遠にできるんだ」
「おい、」
「…………まだ僕子供だからわかんないもん」
「我だって子供じゃ。だが貴様の何倍もの年を生きている。そんな我が断言してやろう、それは愛ではなく執着じゃ」
「……執着だって愛だもん。家出中のくせに」
「そっちこそ、パーティ出中、いやパーティ追い出され中のくせにじゃな」
ぐー、別に僕はドMだけど誰でもいいってわけじゃないのに、鋭いブロウを撃ちやがって。
「……やっぱり、僕はパーティにいない方がいいのかな?」
「ふむ、元々はどうするつもりだったんじゃ?」
「えっと、別次元の収納空間は自由に繋げられるから、こっそり鞄の中から今まで通りに支援とか?」
「うわストーカーだ。うむ、それは、やめておいたほうがいいじゃろうな。そやつらの成長にもならんし、何より貴様の闇がもっと深くなりそうだ」
「そっかー、そうかなー?」
とっくに底についたつもりだけど。
「まあとは言え、そいつら弱いんじゃろ? 確かに目を離すのは不安かもしれんが……」
「あ、それは大丈夫だよ。アレンの脳には僕の収納空間をあらかじめ設置しといてあるから、絶対に死ぬことはないし、何かあった時もすぐにわかるから。もちろん、僕なんかがアレンのプライバシーを侵害していいわけないから、緊急時限定だけどね」
「…………別に、そやつに同情なんてしとらんぞ、ほんとじゃ」
んー、とりあえず現状脳波に異常なし。むしろ、機嫌がいいぐらいかな。
僕を追い出したおかげで、そうなったなら良かった良かった、しゅん。
……え、まあ、このくらいはプライバシーの侵害じゃないよね、顔見ればわかることだし。
「まあ、ともかく、これで貴様は大手を振って自由な時間ができたというわけじゃな。どれ、何かやりたいことでもないのか?」
「えー、考えたこともなかったなー。……んー、アレンの功績を予め讃えて、各地に銅像を建てるとか?」
「うわぁ、。……いや、まあ、目的はともかく、各地を巡るというのはいいのではないか? 貴様はどうにも視野が狭すぎる、広い世界を見れば、少しはその過激思想も改善されるじゃろう。ま、引き篭もっていた我が言えたことではないかもしれんがな」
「うん。それに各地を先に巡っておけば、アレンの助けになるかもしれないし」
「まあ、もう酸素を吸うなとは言わんから、せめて色んな食事をしろとしか言えんな」
各地を巡る。旅、旅か。
確かに、不満なんてないけど、アレンと一緒に行った世界は狭いな。
「ひと時の旅、知らない世界、誰かの夢」
「……ん?」
「それはとっても素敵なこと。——うん、いいな」
「おお」
「旅行、してみたいかも」
「おお!」
不思議な感覚だ、アレンのこと以外なのにこんなに心が弾むなんて。
初めてだ、なのになんか、懐かしい?
「……ありがとう、床屋の穴さん。とっても気が楽になった。あ、でも、このこと誰かに話したら、本当にただの穴にしちゃうからね」
「床屋の穴て、結局意味はわからんかったが。というか貴様、我の名前知っとるじゃろ!?」
「え、ああ、何だっけ。ごめん、さっき見た時は君にまだ興味がなくて。いや、アレン以外はみんなそうなんだけど、あの女どももずっと色でしか覚えてないし」
「うおっ、名前も言いたくないほどなのかと思っておったが、もっと酷かったの。しかし、なら好都合じゃ。折角なら、覗き見されるより自分で名乗りたいものじゃしな」
「うん、聞かせて、君の名前は?」
初めてかもしれない、アレン以外の人のことを覚えようと思ったのは。かも、なのは、人と数えていいかわからないからだけど、
でも何だかとっても楽しみ——、
「我の名は! ドラギエール・ラグバ・ショーラ・アズィーム・ウル・インフィジャール・ラ・レコウロスじゃ!!」
「ん、ごめん、覚えられない!」
何で最初に見た時、興味を持たなかったんだろ。
多分名前だって気づかなかったし、薄々勘付いてたとしても、思い出せる自信がなかったんだろうな。
彼女の愛称は、厳格な審議の末にレコウちゃんに決まりました。ぱちぱち。
「それで、貴様の名は?」
「え、僕も言わないといけないの?」
「当たり前じゃろ、なんで我だけ名乗らんといかんのじゃ」
「いや、まあ、そうだけど……、。」
名前、僕に名前なんてあるんだろうか。
いや、とっても大事な名前があるけども。
「セルースって、アレンには呼ばれてる」
「貴様、それは……」
「あはは、笑っちゃうでしょ。アレンったら、僕の首輪に彫られてた文字を、名前と勘違いしちゃったみたいで。でも、これはアレンが僕につけてくれた、とっても大切な名前なんだ。笑ったらコロ」
「じゃあ、セシィじゃな!」
「——え?」
「愛称じゃよ、我にだけつけといて、貴様。いやセシィだけ拒否するつもりか?」
セシィ何て、可愛らしい名前、僕には勿体無い。
それに、奴隷(servus)のどこをとってもそんな風には読めないのに。
「……セシィにはならないと思うけど」
「何じゃ、可愛いじゃろ? それに我の名前の大半を飛ばしおって、そんな奴が文句を言うんじゃない!」
「え、いや、でも……、」
「それよりき、セシィ。またなんか怖いこと言いかけてなかったか?」
「……」
まあ。でも、別にいっかなって、
「何も言ってないよ、レコウ」
夢の中で別人になるくらい、誰だって、少しは……、ね。
「さてと、名残惜しいけど、こんな感覚初めてだ。僕もそろそろ行かなくちゃ。最低限、次にアレンがたどり着く町ぐらいは、先に見ておかないと」
「お、どこじゃどこじゃ? 海が近い町の時は教えてくれよ、金は錆びないが装飾が錆びてしまうかもしれんからな」
「え、うん。……何で?」
「……何がじゃ?」
海に行くと錆びる……、あ、もしかして、何か餞別に財宝でもくれるのだろうか。
何ていい子なんだろう。
「特にこの金のクマさん像は一番のお気に入りじゃからな、なるべく外に出したくなってしまう」
「そんな、一番のお気に入りを僕なんかにくれるなんて、そんなの、」
「は? やるわけないじゃろ!? どんだけ欲張りさんなんじゃ、まったく、」
「……えーー」
何だよ、というか金のクマさん像って何だよ、可愛いかよ。
「そういえば、僕は元々ここに金目のものを求めてやってきた気がする。そうだった、竜の尻尾以外にも何か金目のものを、」
「ちょ、目がマジなのじゃ。なんじゃなんじゃ、いいじゃないかちょっとくらい、別にこれくらい出し入れするのは苦じゃないんじゃろ!?」
「……何で出し入れするの必要があるの?」
「そりゃ、だって、我はこの像がないと眠れんから……、。って、さっき見たじゃろ!? これも興味ないから忘れた言うんか!?!?」
「いや、えっと、それ以前に……」
何か話が合わない。そういう時はきっと、全部僕のせいなんだろうって思ってる。
だから、また、変なことを言ってしまうんじゃないかって、いつも怖い、
だけど、どうせ、ここで別れる人になら、何を言ったって、傷つけられることはないかなって、
「もしかして、付いて、来る気なの?」
「え、まさか置いてく気じゃったのか!? こんだけ我を旅行気分にさせといて!?」
ああ、だって、そんなのわかるわけないじゃないか。僕なんかに、そんな、そんな……。
というか、本当に一切そんな話してなかったし。
「……旅に行くなら、その後ろの財宝どうするの?」
「のじゃ? そりゃもちろん、全部持っていくに決まってるじゃろ?」
「僕が、ね、」
「……ま、まあ、適材適所、そうなるじゃろうな」
……アレン以外の顔を、こんなにちゃんと見たのは久しぶりな気がする。
顔色はずっと伺っていたけど、あれらは顔じゃなかったし。
「もしかして、前々からずっと外に出たいと思ってたけど、荷物が増えすぎたせいで出るに出られなくなったんじゃ」
「んぐ、」
「それで、そんなところにちょうどいい僕が来たから、これ幸いと旅行気分にさせたんじゃ。ただ乗りするため」
「んぐぐ、」
「そして僕の了承を得る前に、勢いに任せて強引に収納させて、事後承諾を得るつもりだっだんじゃ」
「んぐぐぐぐ、。いや、違うぞ、旅行を提案したのは純粋にセフィのことを心配してじゃな」
「それ以外は?」
「……いや、まーあ、確かにここら辺は大して獲物の種類も少ないし、いい加減飽きたのはそうじゃがな? あと、まあ、押したらいけるなとも、別に、思ってないのじゃが?」
全くこの子は、いやこのドラゴンは?
僕の何倍も生きてるくせに、僕よりよっぽど嘘が下手くそだ。
「はあ、まあ、いいよ。『収納』」
「おお、我の財宝が一瞬で消えたぞ。どこに行ったんだ?」
「どこか、なんていうか、ここに、見えないけど次元のズレた空間が重なってるイメージかな」
「ほー、何だかこうもあっさり消えてしまうと、少し不安になるの。我の財宝ちゃん達は大丈夫じゃろうか」
「……不安なら見てみる? 普通生物は入った時に止まる設定にしてるけど、個別で変更できるし」
「おお、気になるな、ぜひなのじゃ」
「じゃあ『収納』」
誰かを別次元の収納空間に、動いたまま入れるなんて初めてだ。
前までは、パーティの荷物がたくさん入っていたから、動くものを入れたらグチャグチャになってしまうし。
今はもう空っぽだ、入っているものなんて今入れた財宝と、その前に入れた狼一頭と、その前に入れた、
その前に、入れた、……。
「おー! 広いのじゃ! なんか白くて変な感じなのじゃ!!」
確か、あれだけは万が一にもアレンに見つからないように、僕に一番近い収納空間に入れておいた、
「うわ、お肉が浮いてる、。……ん、これは、」
「ちょ、レコウ、待って、あんまり動き回ったら危ないから、」
「手帳、なのじゃ? ふむ、中身は、」
「あ、ま、『やめ、とま
「アレンと僕のラブラブ日記? あ、挿絵付き、」
「やめろ、ヤメローー!?』」
生まれて初めて、死にたい以上に死にたいって思いました、まる。