間話 屋敷での一日
貴族の屋敷、うーん吐きそう。
しかもレリアの家ですらない、誰かの家。うーんさっさと出ていきたい。
「ここ、なに。勝手に使っていいの」
「ええ、ワタクシの協力者の家。つまり好きにしていい場所ですわ」
「それもどうかと思うけど、」
微妙に高いのかもよくわかんない、絵とか美品とかがひしめいて。うーんごちゃごちゃだ、とりあえず数揃えたって感じもする。
あ、これは贋作だな、目利きもしてたから何となくはわかる。
「まあいいわ、とりあえず、食事にしましょうか。そこで、あなた達の顔も紹介します」
「パス。貴族の食事とか絶対合わない」
「いやパスとかないわよ、」
ただでさえ嫌なのに、そこに何かいるんでしょ? いいよ、見たくない。
「まあまあ、ここは我がセシィの分まで食べ尽くしてくるから、それでいいじゃろ?」
「何をもってそれでいいと思ったのかしら? ……まあ、いいわ、」
「結局いいのかじゃ、」
「ええ、どうせなら、顔も知られてない方が、面白いかもしれないしね。ワタクシの方から、説明だけしときますわ」
「どうもじゃな!」
……あ、レコウと二人で行っちゃった。
自分でも、合理的でない無駄な感情を述べてただけなのに。それが本当に通っちゃうと、変な気分だな。
何だろう、落ち着かない、恥ずかしい、でも悪くない。
子供のわがままって、こんなものなのかなって、知れた気がするよ。
「よしセシィ! 厨房に行くのじゃ!」
「あれ、レコウ、食べてきたんじゃないの?」
ちょっと時間を空けて、レコウが帰ってきた。
僕は何もせず、ぼーっとしていた。
何もしないのは得意なものだ。慣れてるとは少し違うけど。
目立たず、反応されず、何もない時間。
それが僕にとって最もマシで、それを作るために普段は、思考を回し続けていたから。
でも、別に、好きなものではないな。
最近は、特に。今だって、あまりいい気分では無かったかも。
「僕はいいよ、お腹空いてない」
「むう。いやそれじゃあ、我のご飯を作ってくれじゃ!」
「……今、食べてきたんじゃ??」
「おう、食い尽くしてやったわ! 足りないと言って、もう材料から好きに食えという文言を引き出してやったのじゃ!!」
「どんだけ、食べる気なの???」
この子、普段は食べる量減らしてるのかな。
まあ確かにドラゴンだもんな、元のサイズから考えたら、全然食べてないか。
いつも、気を使わせちゃってるのかな。
「それに、高い材料使いたい放題じゃぞ。愛しのオスに、いくらでもご飯を作り置きできるぞ、」
さて、厨房はここだな、
あれ、レコウ? まだ部屋にいるの? 早く来なよ。
——わ、我の目でも追えんかった、じゃと?
もう、何ふざけてるの。
ふふ、それにしてもここは、アレンの物がいっぱい。これは全部血肉となる、つまり実質的アレンに囲まれてるって事!!
え、三食の分? ……いずれアレンの非常食になってもらうって事で、実質アレン? いやそれはそれでなんかやだ。
よーし、じゃあ作りまくるぞー!!
「ふう、やっと追いついたのじゃ」
「あなた、何やってるの? 今、なんか魔法使わなかった?」
あ、レコウと、なんか。
途中で合流したのかな、あとこれは魔法じゃなくて、アレンへの愛がなせる技術だ。
「ほー、相変わらずうまそう、そして作るの速いの」
「まあ、ご飯出すの遅いとイラつかせちゃうからね、早い安い上手い! を全力で実現させたよ。まあ、今回は安くはないけど」
正直、あんまり普段と変わんなかったな。
物はいいんだけど、安い物を仕立て上げる能力を鍛えすぎて。
「あらー、本当に美味しそうね。あなた、料理人としても、やっていけるんじゃないかしら」
「料理人どころか、多分あらゆる雑事を完璧にこなすのじゃ」
「私のメイドに欲しいわね〜」
アレンのため、世界最高峰の下僕を目指しました。まだまだ、道は半ばです。
……メイド服、アレンの前で、
いや、僕が着ても、ギャグにしかならないな。
「少し、味見してもいいかしらー」
「ダメ。……そっちの、あまったやつなら、レコウに聞いたらいいけど」
「ふーん。これは全部、一人のためってことね? もう、やいちゃうわ、」
「いやー、こっちを見てるとこ悪いんじゃけど、我の分ってわけでもないんじゃよなー」
しかし、いっぱい作ったから、その分あまり物も、いっぱいになってしまったな。
これなら、二人で食べようが問題ないかな?
「……むぐむぐ、しかし、いつもと変わらんの」
「ええ? あなた、いつもこれ食べてるの? いいわー、羨ましいわぁ」
「ほれ、セシィも味見してみろ」
「まくぐぅ! 急に入れないでよ」
というか、別に直接口に含まなくても、味くらい見れば、
おい、何だその目、料理人ならみんなやってるだろ!?
「この子、いつもこうなの?」
「いつも、こうなのじゃ、」
ちょ、おい、お前、レリア!
なに君までスプーン近づけてくるんだ、大人しく自分の分食べてろよ、あ、やめ、
「……なかなか、楽しいわね」
「そうじゃろそうじゃろ、我は、ほぼ毎日やっとるぞ」
「いいわねー」
まぐまぐまぐまぐ、国の中が空かないから反論もできない。
くそぅ、一度口に入った食べ物は、カケラに至るまで消化しないといけないんだ。
染みついた習性のせいで、まったく拒めない。ぐまぐまぐまぐま、
結局、お腹が膨れ上がるまで、詰め込まれました。
ポテ腹、イカ? 何の夢?
しかし詰め込まれた食事は意地でも消化する、僕の猟犬本能は凄いな。普通、こんな急に食べたら吐いちゃうよ。
……そういや、最近は食事量増えてたっけ。まったく、一度増やしちゃったら、元に戻すのは大変なんだぞ。もう、
「……んー、この体型、まさしく餓鬼。メスガキって言うと、ちょっと夢が喜ぶ」
「なに言っとるんじゃ?」
「ただの夢への現状説明。それよりレコウ、僕にイタズラするのに夢中で、全然食べてなかったんじゃ?」
「んー、そうそう、ちょっと楽しくての」
まったく、この子は。
もうあまりものは無いよ、材料はまだあるけど。
……なら、レコウのためだけに、なんか作るか?
それは……、まあ、材料も、あまってるしね。食材を無駄にしちゃ、いけないもんね。
「……まあ、確かにいくらかは捨てられるでしょうけど、元々この家の食材なのだけど」
「じゃあ、なおさら気分がいい」
「捻くれてるわねー、」
さてと、何を作るか。
ふむ、せっかくなら高い食材を使った、
あ、砂糖がある。アレンはあんまり甘いもの好きじゃ無いから、殆ど使ってなかったな。
後は、新鮮な材料でも使うか。
混ぜてグルグル状態を変化。
素早く掌握し、状態を編集。
熱を『放出』し雑味を『収納』し、『苦味を僅かに挿入、余熱を収納、形状を操作、光沢をいじって、栄養を管理して、ニオイを別から植え付ければ』。
「ほら簡単に、プリンができました」
「あなた、今えげつないことしなかったかしら?」
「おお! うまそうなのじゃ!!」
そうだろう、これが異世界の夢の力だ。
僕の力なんて、全く関係のない、誰かの知識の塊だ!
「うっ、これはー!!!!」
「え、なに、何で吹っ飛んだのですわ!?」
「うん。いい反応。これでこそ、きっと夢も喜んでるはず」
「いや、そんな冷静に……。うっ、これはですわー!!!」
呆れた様子で眺めていた彼女も、一口食べたら吹っ飛んだ!
……この人、結構ノリいいな。
「これ、量産はできるかしら、店を出しましょう。この国が取れるわ」
「いやガチの目をしないでくれる?」
せっかくなんでレシピを渡したら、物凄い怪訝な目で見られた。
なんだよ、自分の能力を使って時短くらい、料理人なら誰でもやってるだろ!?
「……いやー、満足したのー、」
「結局、あっちの方が、めちゃくちゃ騒いでたね」
「ま、それだけセシィが凄いってことじゃろ。我も鼻が高いのじゃー」
……まったく、そんなに褒めても、別の世界の遺物しか出てこないぞ。
「……あ、そうじゃ、我はそろそろ夕食を食べに行くのじゃ」
「うそー!?」
「ふふふ、何でもまた別の人が来るそうでな。セシィは部屋で休んどれ」
…………子供扱いだ。
別に、その程度、何も思わないのに。
恥ずかしくて、もどかしくて、でも悪くない。そんな感じ、
「じゃあ、デザートでも作って待ってるよ」
「……いや、流石に、もういいかの、」
あ、そうなんだ。てっきり、無限に行けるのかと、
「いけないこともないが、今は見た目相応じゃ。それじゃ、また夜にのー」
「うん」
「先に、ベットで待っておってもいいぞ」
「変な意味に聞こえる」
というか、屋敷なんだから部屋もいっぱいあるのに、わざわざ同じ部屋に戻ってくるなんて貧乏症だな、お互いに。
「……いってらー、」
「おう、」
…………。
…………ふぅ、また、何もない時間だ。
やっぱり、ちょっと苦手かもしれない、昔に戻ったみたいで、
…………あー、何か、作業でもしてるか。
金とか宝石とか余ってるし、加工でもしてみる? でも一から作るのって苦手なんだよな、何か参考にと。
……それでたまたま、ちょうどいいのがあったから、ってね。
また、吹っ飛んだら、面白いな。




