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情報過多の荷物持ちさん、追放される  作者: エム・エタール⁂
聖女さん、追放される (神聖学園編)
16/124

14話


 真っ白な空間に潜って、彼女の背中。

 この紅の竜が、本気で飛んだらどれだけ速いのだろうか、

 もしかしたら、この空間が壊れるほどかも、なんて、それはありえないけど。


「魔王? じゃ?」

「そう、魔族の王。つまりは悪者、人間とってはね。アレンが倒せって、言われてた奴だったんだけど、」

「そいつがどうかしたのか?」

「どうにも、一人じゃなくて複数人いるみたい。六、七人? なんか曖昧だけど、この魔族はアホっぽいからしょうがないか」


 見た目も能力も、全くわからなかった。

 そこら辺の情報は厳しく統制されているのか、ただこれが無知なだけなのか。

 僕は人型の魔族の頭を弄くり回しながら答える。


 しかし、同じ魔法を使っているからか、言語もほとんど同じで吸い出しやすい。

 外見も多少のバリエーションはあれ、大した違いはないし、

 こいつは蝙蝠の羽生えてるから一発だけと、ちぎったらただ顔色の悪いのおっさんで通せるかも。


 そんな彼らを今なお弄んで、弾け飛ばせるよりマシか? いやその方がきっとまだ人道的なんだろうな。ドラゴン以下、当たり前か。


「そんなにいたかのー。それで、どうするんじゃ?」

「どうもしないよ、アレンの手柄だし。もちろん、いざ戦うことになったら陰ながらサポートするけど」

「陰ながらって、全部一人でいい気もするんじゃが」

「僕が倒したところで、何にもならないでしょ。みんなは、かっこいいアレンを求めているんだから」


 そして、勇者はみんなの人気者になって、それでおしまい。ハッピーエンド。

 それ以外なら、今度こそ、


「で、今はどこに向かってるんじゃ?」

「ん? うん。神聖国ってとこ。正式名称はなんて名前だったかな。あそこ、アレンのことを勇者だと認めてないとかで、協力してくれないから嫌いなんだよね」


 まあ、別に、まだマシだけど。


「でもだからこそ、アレンもあそこ近くは探索しないはず。道も逸れてるし」

「ふむ。でも勇者が出てくるほどの危機なんじゃろ? そんな好き嫌いをしてる余裕あるなんて」

「あるよ、人間だから。アレンも、嫌いっ言ってたしね」


 それに、魔族による襲撃も今まで殆ど無かったし。

 さきの襲撃がイレギュラーだったのだ。本当に、なんだって急に?


 人に似たこの生き物は、何も教えてくれない。知らされてない。マジで使えないなこの雑魚。


「……アレンが首都を出たから、やっぱ誰か情報流してる奴いる?」

「ふむ、そもそも首都に留まっていたのは何故じゃ?」

「能力上げるためと、伝承の秘宝を手に入れるため。結局、どっちも達成できてないけど」

「あー、なら、焦る気持ちもわからんでもないの」


 全くだ、アレンはいいとして、他の奴らは会った時からなんも変わってないし。

 今後も散発的に襲撃が起こるとしたら……、うう、やっぱり離れるべきじゃなかったか?


「とはいえ、戻ろうと思えばいつでも戻れるんじゃろ? ほれ、そろそろ着きそうか?」

「んーうん。やっぱ早いね。一応、ちょっと離れた所に降りておこうか」


 ぬぐぐ、僕が考えててもしょうがないか。今は気持ちを切り替えて、旅に専念しよう。

 目標は、そうだな、せっかくだしこの国にも、アレンのことを認めさせてやるか。




 聖神国、神に作られたとは眉唾だ。

 魔法がある世界で何をと思うが、少なくとも祈った程度で救ってくるれる存在はいないだろう。


 それとも、祈れば助けてくれるのは人間限定か? 夢も会ったことが無いみたいだし、やっぱり信用できないな。


「……目的のダンジョン。国の内部にあるね」

「お、早く行く行くのじゃ、我のお宝を探すのじゃ!」

「国に入るのは、あそこの城門を通る必要があるね」

「人が並んでおるのー、時間かかるかじゃ?」

「僕達、人権ないよね」

「いや急に言い方に悪意があるのじゃ……、って、まさか、」


 あれ、くぐれなく無い?


「……こっそり、中にワープするのはどうじゃ?」

「……うーん。あの国、透明な膜で覆われてるの見える? 見えないか、」

「酷いの、まあ見えんが」

「別にぶち抜くのもすり抜けるのも簡単だけど、多分入ったことはバレるね」


 にしても中々の結界だ、アレンの国には無かった。

 魔道具か、複数人でやっているのか、個人でもできなくは無いだろうけど。


「中までぎっしり掌握されてる。後出しであの空間内を奪うのは、僕でも苦労するかな」

「そ、そんなにヤバい奴があるのか、怖いのー!」


 ……魔物避けの効果に物理的防壁としての機能もあるが、そんなもん全部ぶち抜いて、ここら一帯更地にできそうなドラゴンがなんか言ってる。

 規模と精密性はすごいけど、所詮は物理な現象。秒も保たずに焼き尽くされるだろうね。


「いったい、なんでそんなものがじゃ」

「神聖国、それこそ神のみわざって奴なのかな。ムカつく」

「そうじゃの。どうする、諦めるかのじゃ?」

「いや、でも、僕はあの中に、唯一神アレンを広める必要がある」

「……それ、流石に中で言ったらマズいんじゃろうな」

「冗談だよ、アレンを神なんかにするわけないでしょ」


 ふむむ、あ、大きめの荷馬車がある。潜り込むか?


「というか、勇者って神に選ばれた者とかじゃ無いんか?」

「さあ、何か、あそこは建国話の始祖が神じゃないから。国名になってたはずだけど、あんな国、どうでもいいでしょ」

「……そうじゃの、」

「それよりレコウ、あそこ、誰にもバレずに高速で潜り込めそう?」


 聴いて観た感じ、それなりの広さの隙間があるし、二人くらいなら余裕で行ける。


「む、難しいこと言うのー」

「大丈夫、僕はレコウのその妙な精密性を信じてる」

「むむむ、そこまで言われたら、やるしか無いのー」

「ソニックブームは抑える、短距離の隙間を開けるから、あれを壊さなようにだけ注意して、」


 視界、確認、誰が何を見ているのか感じるのは得意分野。

 順番待ち、列、合流する前、速度を落とした、今!


「ピョーンなのじゃー‼︎」


 音を振り切って、外の誰にも見られずに辿り着く。


 確かにその荷車の中には、人が入るのに十分なスペースがあった。

 二人が入っても問題ないくらい、快適な空間が、密閉された荷物の中に、何故か、


 うん、目的通り、外の誰にも見つからない事には、成功した。

 した、けども……、




 目が、合った。


「「っ、」」

「のじゃーーっ!?」

「「黙って!!」」


 二本の腕が、竜の口を塞ぐ。

 右手と右手、そして僕は虫では無い。


 白めの、ほっそりとした手。

 僕の方が、白いし細いな、自慢にもならないけど、


 深い、金色の瞳、これは、人間の目。

 改めて、それと、目が会って、


「……お互い、騒ぎにはしたく無いよな?」

「……ええ、そうね、腹は立つけれど」

「のじゃ、のじゃ〜?」


 ……気づくべきだった、あんな不自然に隙間のあいた積荷。初めから、先客を乗せている前提だったか。

 それにしても、凄い潜伏技術だ、僕がほぼ直接確認して、気付けないほどとは。


 だが、考えてみればこれは好都合。

 つまり、僕が何かしなくても、この一行が僕らを隠してくれるということ、


「……でも、ただ乗りしようなんて、失礼なことは考えてないですわよね」

「そうかな? 口止め料としては、悪く無いと思うけど。僕には、最初から君が見えていたし」


 ブラフ、僕の演技は、国の重鎮にだって見破られたことはない。


「あらそう、『本当』かしら……、っ!」


 ……魔法、魔術師としての腕もいい、だけど不快だ、


「……今、覗こうとしたな、この僕を。やめておいた方がいい、止めなかったらきっと、酷いことになった」

「……そう見たいね。今の一瞬だけで、あなたの腹の黒さはよく見えたわ」


 この程度が黒い? 笑わせるな。

 お前が見たのは、ただの輪郭にすらなれやしない片鱗だ。


「でも、そうね、ちょうどいいかしら」


 目が、また合う。

 暗くて近くにある互いの顔すら見えないが、僕には整った顔の輪郭まで手に取るようにわかる。


「あなた、私の元に支える気はない? レディの部屋に侵入した対価として」

「……わからないな。何故、そんな話になる? それに、僕が誰かに従うことは未来永劫絶対にない」


 アレン以外。まあこいつに、そんなことを伝える必要はないけど。


「少しの間でいいの。ちょっと即席で、私の自由に動かせる人間が必要なのよ」

「残念ながら、そんな人間、はいない。というか、わざわざこんな不審者を、手元に置く気?」

「ええ、だってあなたは随分と濁った目をしているもの。彼女の好みじゃなさそうだわ」

「……褒め言葉として受け取っておいてやろう、」


 わかりきったことを言いやがって、とはいえ、これも本来なら、そう気づかれないようにしてたんだけど。

 しかしこいつは、ちゃんと説明する気があるのか?


「……面倒臭そう。やはり、お断りだよ」

「あらそう、残念ね。ならその場合、私は町の中に帰れた後で、あなたを通報しなくてはいけなくなるわ」

「そんなことをしたら、君の方が捕まるんじゃないか?」

「私はいいのよ、中にさえ入れれば、味方はいるから」


 ……入り口で見つかることだけがまずいと、指名手配でもされているのか?


「そんなこと言って、僕がここで騒ぎ出したらどうするんだ」

「そしたら、あなたも入れなくなるわよ?」

「それは残念だけど、別に僕はここに入れなくたって問題はないんんだ。元よりただの観光ついで。君と違って必死じゃない」

「あら、私だって、べつに別の日にしたって問題ないのよ?」

「ダウト、嘘だね、」


 事情はわからないが、この女はそれなりに焦っている。

 人間の心は知らなくても、呼吸、体温、視線、いくらでも推測はできる。


「せめて目的を話せ、いきなり従えと言う奴があるか。余裕の無さが見え透いている」

「……そうね。癪だけど、その通りかもしれないわ、」

「お、認めた、」

「ただし、聞いたからには、手伝ってもらうわよ」

「従えと言わなくなったのはいい判断だね。でも、それではいという奴がいるか」


 交渉は有利、これを手助けする気なんてさらさらないけど、このまま話を引き延ばして町まで入ってしまおうか。


「そうね、まずは、名乗りましょうか」


 ——息を呑む。


 空気の流れが変わった。


 ……嫌な、予感がする。

 前にもこんなことがあったような、とても僕にとって相性の悪いなにか、


 彼女が、口を開く。


「私の名前は、ハイリゲンシュタール・ファン・レイチス

「長い! 覚えらんない‼︎  三文字の愛称を言え!!」

「エエッ⁉︎」


 なんか、凄いショックを受けた様子だったけど、知るか、面倒臭い。

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