12話
「わははー! ゴーゴーじゃー!」
「揺れる。空間の外だし、落ちたら死ぬかも。くっつけとこうかな」
風を切って、ってほど気持ち良くはないけど、悪くない。
誰かに見られても、怪しまれずに微笑ましい光景ってことで流される、ほど遅くもないけれど。
「むー、匂いはするが、」
「いない。いくら裏稼業の人間でも、いや裏稼業だからこそさっさと逃げたか」
どちらにしろ好都合、なら最短距離で行ける。
「あ、そこ真っ直ぐ」
「壁じゃが!?」
「うん、薄い。多分もともと目眩しだ、ぶち抜け」
「えーいままよじゃ!」
あ、ほんとになんの抵抗もなくいけた。
流石ドラゴンだ、
ドラゴンで僕の、。ふふ、
「そろそろ町の外に出るぞ! あの壁はどうするじゃ!!」
「跳び越えて! なるべく低く!!」
「お、よっしゃーじゃー!」
相変わらず、力加減が上手い。
これで、誰にも見られず一番最初に魔物の元まで辿り着ける。
司令塔は、まだ見つからない。
「どうする!? 真っ直ぐ行くか!!」
「……敵、位置、見渡せる、後ろ?」
どこだ、心は予想できないが、行動は予測できる。
「上、戦闘中に乱入できる。——真上だっ、」
「お、あの魔物どもの上、」
「違うっ、ここ!!」
バリッ!!
音がしたとしたらそんな感じの、光、
空気が裂けて、ギザギザに、誘導されて。
ああ、僕の方が背負われてる分高いから、直撃するな、この距離ならたいして関係ないけど。
電流、落雷、イカズチ、
空気に彫られた溝にそって、降り注いでくるそれは、僕の慣れ親しんだ音速より、はるかに、
「『収納(遅い)』。——僕に当てたいのなら、せめて光速はもってこ
「ぎゃー!? 凄い音するのじゃー!?」
「……おそーい!!」
ゴロゴロー、それはもう済んだ空気の音だってのに。
にしても、手段は大したことないが、魔力は本物だ。
この上に、奴らが、
「……一人か?」
「おー、見えるぞセシィ! コウモリみたいな羽で情けなく飛んでおるわ」
「え、うん。……自虐?」
コウモリ(哺乳類)の羽と、爬虫類の羽は違うということか? ……いや、そもそも爬虫類に羽なんて生えてないか。
「虫から進化したという説も、」
「ん、なんで我の方を見るんじゃ?」
「……レコウって、腕は何本?」
「二本じゃ?! じゃからセシィを背負ったままでは上手く戦えんぞ!?」
「あー、うん、降りるか」
このまま乗った状態で飛んでもらっても良いけど、今の体だと百パーセント魔法由来になるだろうし、簡単に落とされそうだ。
なんならこの子、元の姿でも落ちたことあるし、
「まあいいや。『整理』、縦長バージョン」
「お、出たな必殺の!?」
この距離だと、全方位に使うと余計な負担がかかるな。魔術は疲れるんだ、そうほいほい使うわけにも、
「あ、弾かれた」
「な、嘘じゃろ!?」
「うん。あ、今のは肯定じゃなくて嘆息のレコウ『収納(上来てる)』」
「にょわー!? またゴロゴロするのじゃーー!? 我のおへそは飾りで本物じゃないのじゃー!?」
その迷信、ドラゴンにもあるんだ、……?
「ま、まずいぞセシィ!? それが効かないってことは」
「え、うん。なかなかの魔術師だね」
とはいえ、この攻撃を見れば相手の実力なんて推して知れる。
最低限の魔術の腕はあるようだけど、結局は魔力による魔法のゴリ押し、
それすら演技ならば驚くが、どちらにしろ悠長にし過ぎだよ。
「『——でも、空間魔法使いに勝てるほどの魔術師じゃない』」
「のじゃ??」
「『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『ほら、』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』」
よし、『収納』っと。
多少は耐えたみたいだけど、あれは本人の腕前ってよりは、魔力で自動発動する防壁かな?
自分でやったにしては雷と質が違う、誰かにかけてもらったのか。
それとも、魔族特有の生まれながらの種族特徴ってやつだろうか、前に見た子は持ってなかったのだけど。
「……おー、よく分からないけど、やっぱりセシィは無敵ってことじゃな」
「だからそんなことないって。今回は殆ど棒立ちで受けてくれたから楽だったけど、普通こうはいかない」
「棒立ちって、飛びまわってたがの」
「その程度、棒立ちも同然ってことだよ。あれが、あの雷魔法と同じくらい早かったらあれだけど、」
「ははは、そんな生物、我い——」
あ、フラグ、
来てる、速い、さっきの雷よりも、
相手を収納、同じ防壁があるか、弾かれたら死ぬ。収納空間に潜るか、いやあの速度だ、もうこの町周辺に出られなくなる、アレンを助けられない。
前面に壁、速いのは移動だけか、反応も早いと死ぬ。周囲の空間ごと固めて、掌握しきれてない、間に合わない、死ぬ。
僕の状態を固定、怪我はしないけど、脳まで止めたら反応できなくなるから、次に動いた時に死ぬ。脳を止めなかったら、そこだけ衝撃を受けて、ドロドロになって死ぬ。
収納空間の入り口を置いて削り取る、回り込まれたら死ぬ。合わせて動かして当てる、反応速度で負けてたら死ぬ。手に持って振り回す、死ぬ。自分の全身に重ねる、相手が見えなくなる、隙間を開ける、そこが見つかったら死ぬ。
それでもこれが最良か? いやその場合はレコウも囲わなければ、その時間はあるか?
レコウが相手に突っ込む、死ぬ。
レコウが雷よりも早い相手に接近して、殴り飛ばす、死ぬ。
レコウがドヤ顔でこっちを見てくる、死んだ、
……相手が。
は?
「どうじゃセシィ! 今回は、我が倒す方が早かったの!!」
返り血で、いつもよりさらに紅に染まったレコウが話しかけてくる。
そうか、獲物の血で紅く色づいていたのか、なんて、
「……そうだね、両方が速かったせいで弾け飛んだね、ミンチよりひでーね」
「ふっふっふー、やはり人間の体は小回りが効いて良いの〜。まあ、それ以外は本来の我の姿の方がもっと速いがの、」
「……情報、」
「…………あっ、」
返り血を『収納』して、綺麗になった彼女を見る。
いま急に殴りかかられたら、多分抵抗できずに死ぬな。
「……あー、そのー、じゃ」
いや、レコウのことは咄嗟に守れるよう、掌握したままだっけ。
何が守れるようにだ、これじゃあ僕が卑怯者になってしまうじゃないか。
「っ、でも、洗脳とかされたら、穴の空いたコイン一つでかかりそうだし、うん」
「……えっと、余計なことしてしまったかの? 怒ってるのじゃ?」
「……いや、別に、です」
そして、そんな事を考えてるせいで、素直にレコウを褒めてあげることができなかった。
感謝一つ、伝えることができなかった。
話の流れで、言う必要がなかったから、
違う。
僕は本当に最低だ。
記憶を読む。
「雷速兄弟、か。本当に雷速だったのは兄の方だけだけど」
捉えた弟らしい魔族は、あの魔法通りに単調なのか、簡単に知りたいことが浮かび上がる。
「少なくとも、この人の記憶では、襲撃に来ていた魔族は二人だけみたい。まあ、あんまり当てにならない気もするけど」
一応、自分でも周辺を『整理』しながら確認中。
広範囲に広げると高速で接近してくる敵に対応しずらいが、まあ光速でもない限り、彼女がなんとかしてくれるだろう。
「全力で潜伏されてたら見えないな。とりあえず周辺一帯の空気を固めて囲っておこう」
流石に疲れるが、まあ魔物達もまとめて捕まえられるし。
ああ、でも、これはアレンが倒す魔物だから全部殺しちゃダメか。程よく抜いて解放しよう。
まだ、アレンは街の中か、斥候の魔物はともかく、本体は誰にも見られてないな、よし。
「『収納』っと、あとは一応魔族と余計な魔物か」
足がつくから売り辛いな、それにアレンが倒す魔物と同じ種類だから、数が増えて価値が下がっちゃ駄目だ。
なら、素材を残さないよう徹底的に、ついでにもしかしたら隠れてるかもしれない魔族も、
「……ねえ、レコウ」
「なんじゃ?」
「レコウが全力で、いや、ちょっと疲れるぐらいで魔法を使ったら、どうなるの」
別に、これはちょっとした好奇心だ、他の意図なんてない。
「お、なんじゃ! セシィも明けの明恒と言われた我のブレスを見てみたいのか!!」
「何それ?」
「しょうがないの〜。まあ我も、最近全力で放ててなくて、溜まっとったしのー」
「うん、中の物は保護してあるから、思いっきりいっていいよ」
前に見た時は、確かこけおどしの為の炎を、出してもらった時だっけ。あの時は、全然普通の炎魔法だっが、
「あ、元の姿に戻った方がいいかの?」
「まあ、ここは見られてないだろうし、いいよ」
「んー、でもあっちの方が大っきいのは出せるんじゃが、喉が痛くなるからのー。このままでいいか」
「喉? ドラゴンってそう言うものなの?」
まあいいや、囲った中とレコウの手元の空間を繋げて構えさせる。
流石に自分の方に炎が返ってくることなんてないと思うが。……喉、痛くなるのか。
撃ったらすぐに閉じよう。
「じゃあいくぞー、『火龍の獄炎』、ちょっと本気バージョン、なのじゃー!!」
……迂闊だった。
中途半端な空気の壁じゃなくて、きちんと空間を断絶して覆うべきだった。
しょうがないだろ、僕は真っ黒が嫌いだから、わざわざ収納空間内もレイアウトを変えて真っ白にしてるんだぞ、
ああ。
目が、焼ける、
「っ、なっ、地面から熱が逃げてる——。空間がズレた? いや星が動いた!?」
ズレたのはほんの僅かだったが、それでも直ぐに止めなければ、あたり一帯焼き尽くされていた。
幸いにも、周囲も既に整理してあったから、なんとかなったが、
「ふぅ、いい一息だったのじゃ。まあちょっと、手を抜き過ぎた気もするがの」
……それにしても目が痛い。
僕が元々目が良かったら、失明していたかもしれないぞ。
「…………レコウ。それ、この星で使うの禁止ね」
「星で!?」
全くこの子は、
それと同じやつ、僕と初めて会った時にも使おうとしてただろ、近くの国まで消し飛んでくれるところだったぞ。
まあ、でも、なんやかんや本当に撃たれていたとしても、案外死にすらしなかったのかな。
だってこの僕の友達は、やたらと力加減が上手だから。




