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情報過多の荷物持ちさん、追放される  作者: エム・エタール⁂
荷物持ちさん、追放される(プロローグ)
11/124

10話


「…………ピッ!」


 気づけば、人間のベットの中にいた。


「お、やっと再起動したか。やっぱ叩いて直すのはダメじゃのー」

「…………ぴ?」


 隣には人外がくっついている、熱い、体温高いな。


「ぴー……、ぴぴぴぴ?」


 あー……、ここどこ?


「おう、ここは宿屋じゃ。せっかくの機会じゃしの。……それに咄嗟に、旅人じゃって言ってしまったし」

「……ぴーぴぴぴ。……お金は、どうしたの?」

「何かちっちゃい石ころあげたら行けたのじゃ!」


 石ころって、別に何かわかってるだろうに。

 前に取った宝石、レコウにも渡してたっけ?


「ぴぴぷぅ、まあいいや。ここ、一人部屋?」

「そうじゃの、ここしか空いてなかったんじゃ」

「そう、ならこっちの床、使わせてもらうね」


 ベットから抜け出す、と言うかいい加減に暑い、汗かきそう。


「ちよっ、流石にそれは酷くないかのー」

「何が? ああ、こっちの隅の方がいい?」

「もうっ、良いから帰ってくるのじゃー!」

「えー。ここはレコウの部屋でしょ? それに僕、ベットだと落ち着かないんだよね。アレンと一緒にいた時も……、」


 ……ん、アレン、宿屋。

 レコウが一人で宿屋を探せるわけがない、他の部屋は埋まっている、この建物の地形、

 つまり、


「……隣の部屋、か、」

「は! 気づいてしまったのじゃ!?」


 この壁一つ向こうに、アレンがいる。

 というか寝息聞こえてくるな、落ち着く。

 まあ、ここ意外と壁厚いし、僕の声は聞こえてないな、危ない危ない。


「まあ、大きな声出さなきゃ大丈夫かな、」

「おっ、あれ?! ……意外と冷静じゃな。てっきり、愛しの勇者と同じ屋根の下にいるーって、またフリーズするものかと」

「ええ? いや、さっきは確かに久しぶりの生アレンだったし、色々初めてのこと言われたから興奮しちゃったけど。これくらいはね」

「ほー、まあ、ならいいのじゃが」


 いくら何でもそんな一々発狂してたら、アレンの荷物持ちもできないのに。

 僕のことを、そんな日に三回も四回も発狂する、変なモノだと思ってたのか。


 ……夜の時のは、まとめて一回扱いでいいよね?


「そもそも、前までは同じ屋根の下どころか、同じ部屋で泊まってたし」

「はえー! そうだったのか!?」

「うん、男女で分かれて、基本アレンは一人部屋だから」

「ふむふむ……。なんかおかしくないかの?」

「え、何が?」


 三色の部屋と一人と一つの部屋だ。

 あ、まあ確かに、あの三色ども部屋がないからって、四人部屋使ってたこともあったな。アレンのお金を無駄遣いしやがって、

 今は三人部屋があったからいいが、性懲りも無く無駄遣いしてたら、消し飛ばしてやったのに。


 あ、でも効率的に四人部屋の場合、アレンが一緒に? うん、やっぱりコロそう。


「あー、おーい、なのじゃ。……ふむ。あ、じゃあもしかして、そのオスと同衾したこととかあるのかじゃ」

「えー、あるわけ無いだろ。僕は基本床を使わせてもらえたし」

「……なあ、やっぱりそやつ、」

「えへへ〜、アレンはねー、見苦しいって横になって寝ること許してくれるしー、視界に入るなって予備のシーツを投げ付けてくれたこともあるんだよ〜」

「……いや、おお。うん。やっぱどうかと思うのじゃ」


 僕なんていないモノとして扱えばいいのに、わざわざあんなに気にしてくれて。

 生き物みたいに扱ってくれて、本当に嬉しかった。


「ま、そもそも、アレンの寝息を感じるのに夢中になってたから、寝てる暇なんてなかったんだけどねー」

「……それで日中は雑用全般やってたんじゃろ、よく倒れなかったのー」

「まあ、アレンを感じるのに使ってたのは右脳だし、仕事するに使ってたのは左脳だったからね」

「…………おう、そう。——って、危ない! 諦めるところだったのじゃ! 我だけはおかしいって言ってあげなければいけないのに!!」


 ……?

 いや、まあ、確かに、片脳だけでアレンを感じようとするなんて、失礼だけど、

 だって、万が一にでも、完全に寝たせいで、僕じゃ無いものを見せてしまったら、


「まあ、それでも、一日の四分の一ぐらいあれば、何とかなる」

「おー、まあそれぐらいあれば。でも我なら、一年の四分の一ぐらいは眠れるぞ?」

「……冬眠?」


 ここの自転は夢の何時間だったか、まあ基準も違うのに意味はないが。

 ともかく割合比で八分の一ずつ、それだけあれば常に活動できる。


「あ、でも、我といる時のセシィは、普通に寝とったな。やっぱ、今の方がいいのでは……、」

「……普通に、寝てた? そうだっけ? ……まあ、収納空間の中なら、警戒するものもないしね」


 でも、アレンの身の回りことは、常に警戒してるけど。

 この分は、別に切り離してあるから問題ない。


「じゃあ、僕は普通に寝るから」

「おい、ちょっと、待てじゃ。壁に耳を付けながら寝るのは、どんな生物でも普通じゃないのじゃ」

「知らないの? ものはこうやって壁に立てかけておくと、空間を広く使えるだよ?」

「知らんわ! どうせどこに居ても変わらず聞こえるんじゃろ! 良いから大人しくこっちにくるのじゃ!!」


 ベットの中に引きずり込まれてしまう、あーれ〜。

 本当は、アレン以外に力ずくなんてされたくないけど、乱暴じゃないから許してやろう。


「……ちょっと、わざわざ抱きつかなくても、もう逃げないって」

「……ん、おっ。そうじゃそうじゃ、信用できないから、このまま我のクマちゃんにしてやるのじゃ」

「暑い〜、僕は黄金じゃないよ〜」

「じゃから溶ける心配もないの〜」

「いや、あの、黄金が解ける心配をするレベルだと、本当に溶け死ぬんだけど」

「ぎゅーじゃ、」

「ぎゃー、きぶつそんがいざいだ〜」


 全く、僕が金なんかになるはずないのに。

 もうしょうがないから、大人しく雄弁じゃなくなってやろ。




 悲鳴、怒号、全てどこか暑い。

 痛みも、苦しみも、悲しみも、暑さも、全部全部、あっつ、感じてる暇なんてない。


 私は過去も未来もない均一な熱の中で、夢を、あっつ、見たかあっつかったのかもしれない。

 これは現実ではナッツい、ここは私の暑、ちょっとまって、世界でない、私はわたっつくなんか熱いじゃない。

 一瞬の思いをはせる常夏の海に消えて、二度と日の元に帰ってこなくなりたかった。紫外線のもとから消えてしまいたかって。


 でも、そんな余裕もなつい、暑い熱いから、ちょ、ほんとに、死ぬ、死んじゃう、きせき、終わる、終わっちゃう、あっーー!?




「うぐっ!? …………はぁ、はぁ、はぁ、寝汗すご」


 生まれて初めてだ、こんなに寝起きに余裕がないのは。

 いや、もう、本当に死ぬかと思った。


「んっ、と、僕が小柄で助かった。このまま締め殺されるところだった」


 今だけはこの貧相な体に感謝しよう。

 体に熱源二つぶら下げてたら、本格的に心臓がボイルされてたかも。


「……あーっ。次からは何か、対策しとかないとな。流石にこれ何度もやられたら、死ぬ前にミイラになる」


 ただでさえ常にちょっとミイラっぽいっていうのに。

 せっかく最近、無理に少しは改善されて来たのに、自分でまた干し直してどうするつもりだ。即身仏してしまうぞ。


「……はぁ、とりあえず、せめて抱きつかれないためには……」


 腕は前についている、僕が無理やり抜け出したから、空っぽな空間に投げ出して隙だらけだ、


「ふふふ、背中がガラ空き。これで勝てる」


 何で自分からまた熱源に近づいてるんだろって、ちょっと頭が回ってない。状態、水分不足? 何これ?


「じゃ。おやすみー」


 頭が回ってないってことは、睡眠が足りてないってことだろう。

 今度は僕が代わりに、蒸し殺してやる。


「覚悟しろー……、」


 オマエハイマ、ナニヲアッツ、ナンデソンナアッツ? セメテフトントレヨ。




「……ん? あれ、セシィ?」

「ぎゅぴー」

「背中? 何で? うおっ、茹で上がっとる!?」


 何か、体がグルグルする。

 頭はとっても良い気持ちなのに、あれ、揺れてる、地震かな?


「おー。あー。アレンー。まだ寝てるなー、ご飯作らないとー」

「うおー! すまんセシィ、人間がここまで熱に弱いとはー!?」


 うぐー、なんか言ってる。

 別に、気にしなくても良いのに、

 僕がただ、あったかい場所で眠るのに慣れてないだけだから。


「というか、ぐっすり眠るのが初めてだー。人間って、どうやって寝ながら体温調節してるんだろー?」


 ちょっと僕、代謝いってるからねー、


「我は変温動物だから知らんのじゃ!? 水、水はどこなのじゃー!?」

「みずー、みずー、この下かー?」

「ちょっ、ベットの下に水源なんてないのじゃ!?」

「うん、ちょっとしけってる。ごくごく、」

「な、またセシィがぶっ壊れたのじゃ!? ばっちいから止めるのじゃー!?」


 うぐぅ、少しでも生き残るために、地面の湿気を啜るなんて、普通なのに。——というか、またって何だ、今回は違うだろ、

 まあ、でも、今はもっと効率的な手段があるから、やる必要ないけど。


「『収納(湿気を集めて)』、『放出(飲み水に)』」

「おお! その手があったか!」

「あ、ミスってミイラにしちゃったらごめんね」

「ちょーい!?」


 ……ふぅ、いくら脱水症状が出てるとはいえ、そんなミスはしないけど。

 この程度、むしろ調子がいいくらいだったのに、無駄に肉がついたせいかな?


 というか、この湿気って、よくよく考えなくても全部僕の汗だよね。

 いや、まあ別に、直接下のをいくのに比べたら、何の感慨もわかないけど。


「……レコウ? 何でそんなに離れてるの?」

「ええ、我には魔法使うとき離れろって言ったのに……、」

「本当に離れたことはないでしょ、もう」


 全く、失礼しちゃうな。

 君にだけは、僕の力を隠したことはないっていうのに。


 信用させたことは何度もあったけど、信用してもらいたいのは初めてなんだぞ。

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