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与えられた禁忌の魔術で復讐を ~凛として咲く仇花~  作者: 一ノ瀬 凪
第一章 異世界で芽を出すクロユリ
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9. ナギの過去 前編


「それではこちらが今回の報酬でございます」


「ありがとうございます!」


 紹介所の受付から報酬を受け取り、今日の仕事は終了だ。


 凛は紹介所を出て、露店街へ向かう。

並んでいるお店を眺めながら今日はなにを食べようかと考えながら歩く。


 この街、ウィズダムにきてから三か月は経過しようとしていた。

この世界での生活は決して楽ではなく、身分を偽り、能力を隠し、依頼をこなし、お金を稼ぎ、生活費に充てる。

空いた時間はアジトで情報交換や魔術の修行がメインで、毎日本当にくたびれる日々を過ごしていた。


 しかし、元居た世界での生活と比較すると、いじめも無ければ仲間もいる今は精神的にはとても健やかに生きられていると思えた。


「へいらっしゃい!そこのお嬢さん!

 鶏肉のバター焼きはいかがかな!今ならサービスで安くしとくよ!」


 凛は露店のおじさんに元気よく声を掛けられる。


「えー、じゃあ二つお願いします!」


 一つはナギちゃんの分にして一緒に食べよう。

ここ最近はずっと修行に付き合ってもらってるからちゃんとお礼しないと。


 凛は今日受け取った報酬からお金を支払い、ぺこりと頭を下げてアジトへと向かう。


 ファサッ


 凛は入り口を隠している大きな布をめくりアジトに入る。

ナギは既にアジトに居て、床に広げられている薄手の布の上で寝っ転がりながら本を読んでいた。


「あ、ナギちゃんもう来てたんだ!今日は早いね!」


 ナギは凛に気付くとすっと起き上がり、読んでいた本を勢いよく閉じた。


「今日は仕事してないの!さあ!今日も早速訓練するわよ!」


 やる気に満ち溢れたナギを見て、凛は手をぶんぶん振りながら落ち着かせようとする。


「待って待って!さっき露店で鶏肉のバター焼き

 買ってきたから一緒に食べてからにしよう!」


 凛は右手に持っていた袋を見せつけると、ナギは目を輝かせて袋の中身に釘付けになる。


「わー!まずは腹ごしらえって事ね!」

 

 喜んでくれたみたいで良かった・・・!


 凛は袋から鶏肉のバター焼きを取り出しナギに手渡す。


「「いただきまーす!」」


 二人は合掌し、少し早めの夕食にありつく。


「うま~!」

 ナギは美味しそうに鶏肉を頬張っている。


「美味しいねっ」

 凛もそれに同調し、ナギとの出会いをふと振り返る。


 ナギちゃんは最初こそ嫌悪感のある態度で接してきていたけれど、今はとても親身に接してくれているし、随分と打ち解けたなぁ。


 今ならわかる。

ナギちゃんは身内のメンバーを守る為に人一倍警戒心が強かっただけなんだと。

裏を返せば一緒にいる私達への愛情も人一倍強い優しい子。


 あの時、警戒心が強かったのは私も同じだったし、お互い第一印象とは全然違う二人になっていると思う。




「凛が元居た世界でもこういう美味しい料理はあったの?」


「私がいた世界ではもっと多くの種類の料理があったよ、

 お魚を生で食べたりもしてたしね!」


「えぇ・・・。ちょっとウチには無理かも」

 ナギは日本の食文化に引いていた。


「私がまだ小さい頃、お母さんが生のお魚が好きで

 よく買ってきてくれたから好きだったんだよね」


「へー、いいママじゃん。」


「小さい頃はね・・・。

 私がいじめられるようになってからは

 お母さんは良くない宗教にのめりこんじゃって、

 そこからはもうお母さんともあまり関わりたくなくなっちゃたかな・・・。」


 凛は、母親が宗教によって狂ったように変わってしまったのを思い出し、胸がざわついた。

それもこれも根本を辿れば早苗達のせい・・・。

この街の居心地の良さで薄めてはならない。

この復讐心は・・・。


 凛は眉間にしわを寄せ、手に力が入り、持っていたゴミ袋にも強くしわが寄った。


「そうなんだ、ちょっとウチと似てるかも」


 ナギのその呟きに、凛はピクリと反応する。


「え?」


 凛はナギの幼少期やなぜこの"異端者"グループに辿り着いたかを知らなかった。

デリケートな話かと思い、凛はまだそこまで踏み込めなかったからだ。

しかし今、ナギからナギの過去の片鱗が垣間見えた。


「ナギちゃんが嫌でなければ・・・ナギちゃんの事もっと知りたいな」

 凛はナギの過去に一歩踏み込んだ。


「んー。実はウチのママもね、この前ルカが話していた"四神教"に入信してたの。

 ウチが物心ついた時には親はママだけで、一人でウチを育ててくれた。

 ママにとっては四神教が心の支えになってたのかも知れないし

 よくわからないけど、お金も相当つぎ込んでたと思う。活動にも積極的で

 当時私が住んでいた玉風の国の四神教教会の幹部にまでなれそうだった」


 ナギはつらつらと昔話を始める。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ナギ、あなたが立派に育つ為に、私は教会での地位を伸ばし、

 もっと裕福な生活ができるように頑張るわね」


「うん!頑張ってねママ!」


「ナギ、今月は教会に多くのお金を入れたから

 ご飯の量が少し減っちゃうけれど、もうしばらくの我慢だからね」


「うん。我慢するね!」


「ナギ、あなたもいつか四神教に入るの。

 だから今の内からこの本を読んで学びなさい」


「うん。頑張って読むね」


 ウチはママに教会だけでなくナギの事ももっと見てほしいと思って四神教の本を読んで必死に学んだ。

それでママが喜んでくれると思ったの。

そして本に書かれている簡易魔術も練習し、微力ながらも魔術も扱えるようになった。


「どう!! ママ!」


「ナギ。あなたは四人の神全員から愛された天才よ・・・!」


 ウチは本に記載ある全属性の魔術を覚え、扱うことができた。

 ママはウチの事を思いっきり抱きしめてくれた。

 頑張った甲斐があったと思った。

 ママはその翌日、教会にそのことを報告しに急いで出てった。


「司祭様!私の娘は神童です!四属性の魔術を全て扱える子なのです!」


「・・・ほう。それはまだ誰にも話しておらぬか?」


「司祭様に真っ先に報告するために馳せ参じましたので、まだ誰にも!」


「その子の事は今は明るみにすべきでない。まだ誰にも話すでないぞ」



 ウチの家はその日の夜、賊に襲撃を受けた。



 ドンドンドン!


「開けろっ!!」



「ナギ!逃げてっ!!早く!!」


「ママ・・・やだ・・・!」


「早くしなさいっ!!!!!」


 幼いウチには襲われた理由がわからなかった。

ママはウチを庇い、賊の足止めをしてくれて裏口から逃がしてくれた。


 なんで・・・?なんでこんな目に遭わなきゃいけないの!

 嫌嫌嫌嫌嫌!!


 ウチは振り返らずに泣きながら必死に走ったわ。


「うわあぁぁぁああんん!!!」


 そして暫く走った先、河川敷の橋の下で身体を丸めて身を潜めた。


 一人ぼっちは嫌だ・・・。 

 ママ・・・迎えに来て・・・。

 早く生きてウチのところに来てよぉ。


「ひぐっ・・・ひぐっ・・・」


 涙が止まらない・・・この後どうすればいいかもわかんない。

 ママが来なかったらなんにもできないよ・・・。


 ウチはそこでママが来るのを期待して待った。

今思えば希望的観測だし、現実だと思いたくなかっただけ。


 でも・・・迎えにきたのはママではなく追手だった。


「ははっ。 見つけたぞガキ、手間取らせやがって」


 ウチは追手の男に軽々と持ち上げられ、捕まえられた。


「いやあああ!!!」


ボッ。


「なっ、熱っ!あ・・・あ・・・うわあああ!!!」


 持ち上げられた状態で身体を暴れさせていた時、ウチの両手から咄嗟に炎の魔術がでた。


 その炎で相手の服に火が付き、追手は慌てて私を放した。

炎に包まれながら追手はもがいていたけど、そのまま燃え焦げたわ。


 生きるのに必死だったウチは罪悪感も感じる間もなくそこから走って逃げ出した。


ハアッ・・・ハアッ・・・ハアッ・・・


 命からがら逃げ延びた私は、ゴミが積まれた路地裏で一夜を過ごした。


「うわああん!!」


 静かな真夜中にウチの情けない泣き声だけが響いていた。

 

 もう嫌・・・こんな悪夢早く覚めて・・・。

 ママ・・・ママぁ・・・。


 泣き疲れたウチはいつの間にか眠りに落ちていた。


 そして翌日の朝、ウチは・・・ダンに出会った。



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投稿頻度を週四回で行っています!

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※2023/6/19~ 上記曜日に変更してます。


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