7. リン VS ナギ
地下に降りると、そこには数十メートルはありそうな空間が広がっていた。
壁には焼け跡や擦り傷などがある為、この空間で魔術の訓練でもしているのだろうか。
「リンとか言ったっけ?
言っとくけどウチは手加減しないからね」
ナギは小さい身体を軽快に跳躍させ、ウォーミングアップしながら挑発する。
この子、自信に満ち溢れてる。
こういう対決には慣れているのかな・・・。
私は初めての対人戦。
でも・・・何だか負ける気はしない!
「私も・・・手は抜きません!」
凛は、覚悟を決め、覚醒の準備をする。
視線をぶつけ合う二人の間に入るように、ルカが今回のルールを説明し始める。
「当たり前だが致命傷の攻撃はダメだ。
あくまで模擬戦。
俺達は黒魔術の存在は知っているが見たことがない。
本物かどうかの確認は戦闘の中での魔術の真髄を見て判断する」
致命傷の攻撃はダメ・・・。
本当に私の力を見たいだけのように聞こえる。
変にこの人達を疑い過ぎだったかな。
凛はむしろ致命傷を避けた魔術を出せるかどうかが不安になり始める。
「では準備はいいか・・・・はじめ!!」
ルカの声がこの地下空間に響き、戦いの火蓋は切って落とされた。
先に動いたのはナギだ。
両手を腰のあたりに落とし、手の平は凛へと向ける。
するとそれぞれの手の平に炎の玉が浮かび、徐々に大きくなっていく。
「まずは様子見。 ガトリングフレイムッ!!」
ナギが両方の手の平を突き出すと、無数の炎弾がリンへ襲い掛かる。
「嬢ちゃん・・・どうする」
腕を組んで二人を見つめるダンがそう呟いた時、リンが覚醒のオーラに包まれる。
「闇に帰す深淵の口・ダークスワロー・・・!」
凛の目の前に漆黒の巨大な口が現れ、それは大きく口を拡げ、ナギの炎弾をすべて飲み込んでいく。
「おいおい、まじか嬢ちゃん・・・!
なんておぞましい見た目だ・・・!」
ダンは初めて見る凛の魔術に驚きを隠せないでいた。
「・・・・・・」
ルカは真剣な眼差しでじっと見つめる。
「チッ。これは効果なし・・・」
炎弾は意味がないと悟り、ナギは魔術を解除した。
そして漆黒の口はすべての炎弾を飲み干していく。
致命傷を避けるとなるとどれが最善の手なのか。
凛の頭の中の意識はそれで一杯だった。
それなら・・・。
「吐き出せ」
凛がそう言うと、漆黒の口は先ほど飲み込んだ炎弾をナギに向けて吐き出す。
「なっ・・・!! フロスト・ウォール!!」
ピキキキキッ!!!
地面から氷の壁が現れて、寸前でナギは返ってきた炎弾を相殺する。
「・・・舐めないで?ウチは使える魔術の属性は一つじゃないの!」
ナギは溶け落ちていく氷の壁の隙間から凛を見据え、焦りを隠すかのように強がった声を飛ばす。
しかし凛はそもそも普通の人間は一つの属性しか使えないかどうかを知らぬ為、キョトンとした表情を浮かべる。
ちっ。 あのリンって子何者・・・?
ウチが複数魔術を使っても全然動揺してないし・・・。
見たことない魔術ばかりでパターンも読めない。
本当に黒魔術の使い手・・・?
「顕現せし暗黒の質量・ダークマター・ハンド」
凛はお構いなしに暗闇の手を顕現させ、右手をナギへと伸ばす。
すると暗闇の手もナギへ向けて動き出し、その漆黒の手の平で身体を捕まえようとする。
「ちょっ・・・トウ・トルネード!」
迫りくる暗闇を回避するようにナギの足の下に小さな竜巻が起こり、吹き飛ぶかのようにナギは宙を舞う。
そしてまだ一歩もその場から動いていない凛を上から見据え、ナギは更に魔術を重ねて発動する。
「これはどう・・・ロックボム!!」
ナギは溶岩の塊を錬成し、空中で暗闇の手を回避しながら凛に向かって投げる。
塊は凛の目の前に転がり落ちた。
凛はその転がる溶岩の塊をただ届かなかった攻撃と見誤った判断をする。
それを見越したかのようにナギはニヤリと笑った。
「・・・・ぼんっ」
ナギがそう呟くと同時に溶岩の塊が発光し、轟音と共に爆散する。
ボオオオン!!!!
「なっ・・・!」
凛は即座に両腕を交差させて防御するが、完璧に防ぐことは敵わず、爆散した破片が凛の腕や足をかすめながら勢いよく通り過ぎていった。
不意を突かれた凛だったが、間一髪で破片の直撃だけは避けたようだ。
しかし、破片を掠めた手足からは微量の血が流れた。
「あらあら!こんなもんじゃないでしょ!」
ナギは余裕の表情で凛を煽る。
この人、対人戦に慣れてる・・・。
いまは兎に角、手数で牽制しないと!
凛は負傷の影響で、焦り始めた。
「・・・影に蠢く毒刃・シャドウ・スネーク!」
凛の影から蛇のような影が複数飛び出て、ナギに襲い掛かる。
「きもっ!そんなの切り刻んでやるわ!ウィンド・シックル!」
ナギは風の鎌を複数召喚させて影の蛇を切り刻む。
刻まれた蛇がボトボトと音を立てて地面に落ち、凛の影に還っていく。
凛の魔術に対して余裕で対応するナギの様子を見て、凛はいよいよ劣勢に立たされる。
この子・・・強い!
私より遥かに戦い慣れている。
このはずれ街の魔術師でもこんなにレベルが高いの?
致命傷を避ける攻撃に絞ると追い詰める事も難しい。
これは使いたくなかったけど・・・私も負けたくない!!
「さあ、もうお遊びは終わりよ!〈全属性のナギ〉の全力みせたげる!」
ナギはそう叫ぶと空中へ浮かびながら両手をパンッと乾いた音を立てて合わせ、術の発動にかかる。
同時に凛も祈りの体制になり、今までで一番の魔力を込めて唱える。
「・・・地獄の倒懸を渡せ・ダークネスメイデン!!!」
「魔術の力比べね!!上等!!
全ての属性を合わせ放――」
ナギの詠唱中、ナギの後ろに突如少女の形をした歪な拷問器具が現れ、ナギの身体を包み込もうとする。
ナギはその魔術の威圧感や殺気に鳥肌が立ち、顔が一瞬にして青ざめた。
やばい・・・息を吸うのも忘れてしまうくらい空気が重い・・・。
身体が・・・震える・・・殺気に包まれ全身を支配されてるような感覚。
「やばっ・・・死――」
「ディスアピアランス!!!」
ルカが突然そう言い放ち、凛とナギ、どちらの魔術も一瞬にして消失した。
一瞬、空間が静寂に包まれる。
「そこまでだ・・・二人とも熱くなり過ぎだ」
ルカはそう言うと、凛の方にコツコツと石の床を響かせて歩み寄る。
凛は地面に膝をつき、息を切らしていた。
ハァ・・・ハァ・・・
纏っていたオーラも消え失せ、覚醒も解除されてしまった。
凛は手足の怪我と最後の技で魔力を大量に消費したので、かなり体力を消耗していた。
やばい。 この人達が敵だとしたら捕まる。
抵抗する力が・・・残ってない・・・。
凛の目線の先のルカがこっちに歩いて近づいてくる。
凛の身体に冷や汗が流れた。
どうする、どうする。
さっきまでは次の一手が浮かんでたのに。
覚醒状態でないと頭も回らない・・・やばい・・・
「・・・最高だよー!!!!」
ルカはそう叫び、凛の手を強く握った。
「・・・・・・!!!」
凛は驚きで声が出ない。
ルカの目は敵意ではなく、尊敬の念のように感じられた。
「君は正真正銘黒魔術の使い手だ!!」
ルカは興奮気味に顔を凛に近づけてそう言った。
凛は顔を逸らしながら頬を赤らめて呟く。
「・・・近いです・・・」
元の世界では男友達もいなかった凛は男性に対しての耐性がない為、顔の温度が上昇する。
それを見たダンが興奮気味のルカを凛から引きはがす。
「おいルカ!!リンちゃんが困ってるだろ!」
「あーごめん!ついつい興奮しちゃって」
ルカは無邪気な笑顔でそう言った。
そこにナギがてくてくと俯きながら近づいてくる。
「リン・・・あんたの強さは本物ね。
ウチが本気で負けるかもって思ったのはあんたが初めて・・・。
でも今回はルカが水差したから決着はついてないからね!!」
顔をそっぽ向けているナギは、膝をついている凛に手を差し伸べる。
「あ・・・ありがとう」
凛はナギの手を取り、立ち上がる。
二人の仲良くなれそうな気配のするその雰囲気にルカは茶々を入れてくる。
「おいナギ!お前俺が止めなかったら致命傷どころじゃなかったぞ!!」
「うるさい!!ルカは黙ってて!」
その後、四人は平和な雰囲気で地下の闘技場から上に戻った。
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