63. 悲しみを誤魔化すのではなく、悲しみと向き合う強さを
ルカが目覚めたのは吉報だったが、ルカと長い時を過ごしたダンが死んだ事を目覚めたばかりのルカに伝えるのは酷な事だった。
ルカの一人にして欲しいという言葉を皮切りに、メンバーはそれぞれ部屋に塞ぎ込む。
ただ現実を受け止める為に、どうしようもない悲しみを少しでも消化する為に、これは必要な時間だった。
再び前を向く為に、心の中のダンに生きて欲しかったという願望を押し殺し、死んでしまった現実を受け入れようと試行錯誤を繰り返す。
その繰り返しに伴い、全員の心と精神は擦り減る一方だった。
だがこれは乗り越えねばならない、向き合わなければならない現実なのだ。
ルカはベッドで寝転がり、片方しかない腕で目元を隠しながらすすり泣く。
「ズズッ・・・・・・ズズッ・・・・・・くそっ・・・!」
ナギは椅子の上に膝を折り畳むように丸めて座り、泣き過ぎて枯れた声で嗚咽を漏らす。
「う゛っ・・・う゛っ・・・あ゛ぁああぁ」
サキは肘と膝を床につき、崩れ落ちた姿勢で涙と鼻水を垂らしながら爪が食い込む程に拳を強く握る。
「う゛ぅぅ・・・畜生・・・畜生・・・!!」
ノアは床に座り込み、ただ茫然と一点を見つめて魂が抜けたかのような表情で俯く。
「・・・・・・・・」
キースは研究室の椅子の背もたれに寄りかかりながら天井を見つめ、眼鏡の内側から涙を頬に伝わせる。
「・・・・・ハァ」
悲しみに暮れる異端解放団は、まともに会話が出来るようになるまでに一カ月という時間を要した。
会話ができるようになってからも、お互いダンの話題を出すのを控えているような空気で、なんてことない話題が中心だった。
ダンの話題を出してしまうとお互い悲しさで涙が溢れるのを理解していたからだ。
話す側は想いの丈をぶちまけて楽になるかもしれないが、あまりにも重い悲しみは聞く側の生きる気力を削いでしまう。
悲しみを分かち合うのは、聞く側に分かち合える心の余裕がなければ出来ない。
メンバーは互いにそれを分かっており、ぶちまけたい気持ちを我慢してダンの話題を避けていた。
その空気の中でルカは、どうしてもダンに関する事で提案したい事があった。
リーダーとしてそれは必ずやるべき事だとルカは感じており、ダンの話題を上げる。
「皆聞いてくれ。
俺は・・・この屋敷の庭にダンの墓を作りたい・・・。
その墓でダンへの想いをありったけ伝えて・・・・・前を向こう」
ルカのその提案に全員は当然了承し、すぐに取り掛かる事となった。
避けていたダンとの思い出話も、ダンの墓作りをしながらだとどうしてもしたくなる。
泣かないように意識しながら、抱える悲しみをなるべく外に出さないように、メンバーはお互いの思い出話を語っていく。
そして遂に出来上がった墓の前で、全員は手を合わせてダンの冥福を祈る。
それぞれダンへの想いを心の中で語り、ダンに心配をかけないように前を向くと決める。
――
ダンはルカにとって大きな支えだった。
ルカの無茶を常に現実的に動かしてくれる頼もしい存在であり、チームのバランスを取ってくれる居なくてはならない存在だった。
ダン・・・ダンに救ってもらった俺の命。
必ず俺達の大義に捧げる事を誓う・・・。
天国で待っててくれ。
良い土産話を・・・必ず持っていく。
――
ダンはナギにとって命の恩人だった。
赤の他人の幼いナギを生涯をかけて育てあげ、世話を焼いてくれる家族そのものだった。
あの時、見ず知らずのウチを助けてくれてありがとう。
ウチは素直じゃないから、今までちゃんと伝えてなくてごめん・・・。
親を失ったウチにとって、ダンは心の支えで、第二の家族だったよ。
どうか・・・どうか安らかに・・・ゆっくり休んでね。
――
ダンはサキにとって特別な存在だった。
親を知らないサキに父親のイメージを沸かせてくれた存在で、サキが初めて好意をもった異性だった。
まだダンさんがこの世にいない事が信じられないよ・・・。
あたいはダンさんに、父親ってのをイメージした。
でも、他の皆も家族を感じさせてくれるくらい暖かいのは一緒だったから、ずっと分からない感情があった。
・・・でも、今なら分かる気がする。
あたいは・・・ダンさんが好き。
男の人とちゃんと接した事がないあたいだから、もしかしたら説得力ないと思うかも知れないけれど、でも、ダンさんと一緒に居る時だけ感じられたあの胸の高鳴りは、きっとそうなんだと思うんだ。
こんなことになるなら、ちゃんとこの気持ちを直接伝えたかった。
・・・本当は今も・・・胸が張り裂けそうなくらい辛いよ。
でも、あたいは知ってる・・・。
いつまでもめそめそしてたら天国からでも心配してしまうのがダンさんだって。
・・・だから・・・ダンさんの最期のあの言葉を胸に刻んで・・・強く生きるから・・・!
――
手を合わせるメンバーの中で、ナギは涙を堪えようと必死に顔に力を入れていた。
しかし、我慢が限界を迎えて全身が震え出し、溢れるように涙と声を漏らす。
「うぅ・・・うわぁぁあん!!!」
ナギのその叫びにつられ、サキも堪えていた涙が急激に溢れ出す。
「師匠ぉぉ・・・ずるいよぉ・・・あたいもまた・・・あ゛あ゛ぁぁあ゛!!!」
皆は、明日以降は目的の為にまた行動する事をダンに誓い、今日までは涙を流してもいい日とした。
―――――
涙を晴らした日以降、皆は行方不明の凛がどこにいる可能性があるのかを考えていた。
異端解放団のメンバーは、レンの黒の球体の中に凛が閉じ込められて以降の出来事を目で見ていない。
その為、各国が勇者の遠征結果を報道した情報を頼りに考えていくしかない状況だ。
全世界に報道された内容はこうだった。
―――
〈 遠征結果は・・・死傷者ゼロで勇者の大勝利! 〉
今回魔物の根絶を目的に旅に出た勇者様御一行。
その魔物領土の奥地には一人の黒魔術師が存在した。
その黒魔術師の影響で生まれたのが魔物で、全ての元凶は黒魔術だった。
かつて国を脅かしていた存在が、人の住まぬ土地で魔物を発生させていたのだ。
しかし、この脅威を勇者様の圧倒的な力によって見事討伐し、根源たる脅威は既に消え失せた。
もう世界は、魔物に怯える必要などないのである。
しかし同時に、裏で糸を引く人間が見られたと報告がされた。
それは異端能力を扱う複数の魔術師の影があったという事だ。
その為、今後四大国は異端能力をより一層厳重に取り締まる所存でいる。
見た目が割れている人物は指名手配をし、近日中に掲示板に貼り紙を掲載する。
心当たりのある人物は名乗りでよ。
―――
この内容を見る限り、恐らくレンのみを討伐したと感じられる報道だった。
ルカは初めてこの報道を聞いた時、既に満身創痍な心に大きな痛みが加わった。
短い対話による関わりとはいえ、憧れの人物が殺されたという事実は心を軋ませるには十分だったのだ。
だが、あのレンが本当に勇者に殺されたのかという疑問も同時に抱えた。
それこそ圧倒的な力を振るっていたのは勇者ではなくレンの方だ。
事実と異なる報道をしている可能性もルカは捨てきれない。
しかし、結局そこを考えても何も進展がないことを悟り、今に至る。
兎にも角にも報道の内容を考えると、きっと凛は勇者の前で自身の姿を晒すことなく、どこかで生きているのではないかという仮説が立つ。
勿論、それぞれの脳内でもしかしたら凛も死んでしまったのでは・・・という考えも過った。
しかし皆は当然それを口にしない。
凛まで死んでしまったなど、誰がなんと言おうと認めたくなかったからだ。
だが、凛が今どこにいるかは検討もつかず、当てもなかった。
それでいて勇者に顔を見られたルカ、ナギ、サキ、ノアは、これから指名手配される可能性が高く、その影響で今後の行動が大きく制限されるのが何よりも痛手だった。
現時点で出せる結論としては、凛がいつかフラッとアジトに帰ってくるという淡い期待を信じ、世界にこのアジトの存在をバレないように存続させる事と、自分達の活動は影で行い、世界に自分達の存在を晒さずに異端者に貢献できる何かを探す事とした。
―――
だが、それから何年もの月日が経過し、異端解放団は結局凛の消息を掴めないまま垂れ流すように日々を過ごす事となる。
ここまで本作品をお読み下さっている読者様へ。
一ノ瀬 凪 です。
物語は一区切りつき、次話以降は第三章に突入します。
話は一変し、怒涛の展開を迎える予定ですので
引き続きお楽しみいただけると幸いです。
ただ私都合で大変申し訳ないのですが、
お仕事の影響で執筆にあてる時間が以前よりも
少なくなってしまう見込みです。
楽しみにしてくださってる読者様には
大変恐縮なのですが、更新頻度は週1~2話が限度になるかと思われます。
可能な限り多くの話を更新していく所存ですが、
もしかしたら更新できない週も出てくるかもしれません。
ご理解の程宜しくお願い致します。
勿論、完結までは必ず書き切りますし、
完結までを皆さんにお読みになっていただける事が
私にとっての幸せですので、ぜひ気長に見守っていただけると幸いです。
また、現在読んでいただいている方、ブックマーク、評価、感想を下さった方、
非常に励みになっております!本当に心から感謝です!ありがとうございます!




