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与えられた禁忌の魔術で復讐を ~凛として咲く仇花~  作者: 一ノ瀬 凪
第二章 邂逅するスノードロップ
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62. 帰還


 外から鳥の鳴き声が微かに聞こえる。

寝室のカーテンの隙間から朝日が差し込み、まだ夢の中のカレンの顔を照らす。


「うっ・・・・・もう朝・・・」


 カレンは差し込む日差しの眩しさで目が覚めた。

寝ぼけたまま上半身を起こし、ぼーっと頭が冴えるのを待つ。


「・・・もう五分だけ」


 自分に言い聞かせるようにカレンは呟き、再びベッドに倒れて布団を抱き締めながら目を瞑る。


 ヒヒーン!


 馬の鳴き声が外から聞こえる。

こんな朝からどこの誰が馬を走らせてるの・・・!

カレンは頭の中でそう文句を言いながら目をぎゅっと瞑る。

五分だけ追加で眠るという工程はカレンの中ではとても大切な事であり、至高の時間である。


 ドンドンドンッ!


 それを邪魔するかのように今度は扉を叩く音が聞こえた。

カレンはそれがどこの扉を叩く音なのかをまだ頭の中で処理できない。


・・・ドンドンドンッ!


 再び扉を叩く音が鳴る。

流石に変だと頭の中で理解が至り、その数秒後にその音が自分の家の扉を叩く音だと理解する。


「・・・もう誰!?」


 カレンは布団をバッと投げ飛ばし、ベッドから降りる。

そのままドタドタと足音を立てながら階段を降り、入り口へと不機嫌な表情をしながら歩いていく。


 バンッ


 勢いよく木製の扉を開け、カレンはその先の人物を凝視する。


「あ・・・あなたは確か・・・」


 目の前には疲れ果てた顔で汚れた格好をしたノアと、遠征用でトランプ夫妻が用意した異端解放団の馬車があった。

ノアはカレンを上目に力なく呟く。


「みんなを・・・」


 ノアはそれだけ言い残し、バタっと入り口前で倒れ込んだ。


「・・・・・・!!!」


 カレンは何が何だか理解できないまま大慌てでノアを抱え上げる。

呼吸を確認し、疲れて寝てしまったのだとわかり、ひとまず安心して自宅に運び入れた。


 そして馬車の中身を確かめに急いで外に出て、積み荷を覆う布を捲り上げると、そこには左腕が無くなったルカと意識のないナギとサキの姿が目に映った。


「そ・・・そんな・・・」


 カレンは唖然として一瞬どうすればいいか分からなくなった。


――――――――――――


 一方、勇者一行は魔物領土から一番近い土塊の国へと帰還した。

まるでパレードのように迎えられ、国民から紙吹雪を浴びながら勇者一行は王宮へと向かう。

王宮では国王が王座の前に立ち、そこまでの道筋を作るようにお偉方が両脇に綺麗な距離感で立っていた。

勇者達はその光景に圧巻されながらも国王の元へと歩みより、(ひざまづ)く。


 国王は一呼吸置き、一人一人の名前が読み上げられ、国王からの栄誉あるお言葉と贈物を順番に受け取っていく。

勇者達は学生時代の卒業証書の授与式を思い出しながらそれに対応した。


 帰還した初日の格式張ったイベントはそれで終了し、勇者達は身体が回復するまで休暇の期間を貰った。

その期間中、勇者は別々の部屋で療養し、一度も話す事なくあっという間に三日が過ぎる。


 そして帰還して四日目、魔物討伐成功の祝杯パーティーが開催されて、勇者と国のお偉い方はお酒の席を共にした。

だがこのパーティーも遠征出発前のパーティーと同様、勇者達は気を遣うばかりで楽しめるような会にはならなかった。


 それから勇者達は土塊の国を出て、氷壁の国、玉風の国、炎威の国の順で巡回した。

それぞれの国で同じように国王から贈物を受け取り、同じようにパーティーに参加する。

全ての国を巡回し終える頃には一カ月の時が経過していた。


 そして遂に勇者達は配属先の国にバラバラになる瞬間が訪れる。


 先に話し出したのは早苗だった。


「・・・なんだか寂しいものね」

 どこまで本心かわからないような感情の乗せ方で早苗は寂しいという言葉を口にした。

舞はそれに同意するように言葉を返す。


「うん・・・そうだね」

 舞は魔物討伐から既に一カ月が経過したが、卓也との気まずさは解消されていない。

それがあってからか、多くを口にしようとはしなかった。


 それを理解しているはずの卓也が続く。


「今後は四大国会議が定期的に行われ、

 俺達勇者は護衛としてそれに同席する事になる。

 その時に世間話でもしよう」


 卓也のその言葉にはもう感情が入っていない。

あくまで体裁として空気を読んだだけの発言のように舞は聞こえた。


 この世界に召喚された当初の卓也はそんな事は無かったと、舞は思い返して悲しくなる。


 皆をまとめるリーダーとして、発言にも感情が込もっていた。

だが今の卓也の発言は、舞の耳にはとても冷たく聞こえた。


 いや、もしかしたら最初から体裁だったのかも知れない。

ただ上手に感情を乗せて発言していただけで、ずっとゲームのようにあたし達をコントロールしていたのかも知れない。

舞はそう思い直す。


 だとしたら今は、感情を乗せるのも難しい程に卓也の心が荒んでしまったのかもと舞は感じた。


 そしてそれは自分のせいだと、舞は自責の念に駆られて胸が苛まれる。


 このお通夜のような空気を壊すように、空気を読めない瞬太郎が口を開く。


「なんだお前ら・・・しけた面しやがって。

 俺は土塊の国での生活が楽しみで仕方がないけどな。

 英雄として迎えられるからには好き放題豪遊してやるぜ」


 瞬太郎のその発言で勇者達はほんの少しだけ笑みが零れ、空気が和んだ。

それは決して瞬太郎の意図したものではなかったが、考えるのが馬鹿らしくなるような気持ちにさせてくれた。


「じゃあそろそろ行くか・・・またいつか」

 

 卓也がそう切り出し、片方の手を上げてその場を離れていく。

それに続くように舞も早苗も瞬太郎も次々に別れを言う。


「またね」 「元気にね」 「あばよ」


 四人はそれぞれ背中を向けて歩き出す。

一国に力が偏る事を避ける為にバラバラの国に配属された四人は、今後は戦いではなく、内政や外交に巻き込まれるだろう。

共通の敵である魔物がいなくなった今、災害級の強さを持つ勇者達はある種核兵器のように扱われる。

丁重なもてなしとは裏腹に国からそう見られている事を自覚する者、自覚していない者で今後の立場は大きく変わるだろう。

生涯を終えるまでそれが続く事を考えれば、勇者達の今後の人生は幸福とは言えないのかも知れない。


――――――――――――


 その頃、異端解放団はカレンとトランプにより異端解放団のアジトとなる屋敷へと運ばれて、治療を受けていた。

軽傷だったナギとサキはすぐに意識を取り戻したが、左腕を失ったルカだけは治療を終えても尚、まだ目を覚まさないでいた。


 ナギは一人、ベッドに横たわるルカの横で椅子に座り、涙の伝った跡が残る顔でルカを見つめる。



 ・・・・ルカ。

ルカまでいなくなったら、ウチはどうすればいいの・・・。

これ以上生きていける自信・・・ないよ・・・。

お願い・・・目を覚まして・・・。



 すると、想いが通じたかのようにルカの顔が僅かにピクリと動いた気がした。 


「ルカ・・・!」


 ナギのその呼びかけに呼応するようにルカは僅かに目を開く。

そして、天井に向いていたその視線はナギの方へとずらされていき、二人は目が合った。


「ルカぁ・・・・・!」


 ナギはルカに(すが)りつくように目を潤わせながら顔がクシャっとなる。


「・・・ナギ・・・・」 


 ルカは少し枯れ気味な声で最低限の口の動きでそう言った。

まだ整理のつかないルカの頭の中で、意識を失う前の最後の記憶がフラッシュバックする。


 俺は・・・腕を斬られて、その後・・・ダンの背中が・・・。


「・・・ダンはどこにいる?」


 ルカはダンが重傷なんじゃないか心配になり、ナギに問いかけた。

だがナギは黙り込んで俯いてしまう。


「・・・・・ナギ?」


「・・・ルカ、ごめん。

 ウチがすぐに気絶しちゃったから・・・こんな事に・・・」


 ルカはナギのその話し方で嫌な可能性が頭に浮かんでくる。

 

 まさかダンが・・・いや、あいつはそんな簡単に――


「ダンは・・・殺された」


 ナギから告げられたその衝撃の事実がルカの脳内でループ再生される。

あまりにも受け入れがたい事実に脳が理解を拒絶している。

目を見開き、半分硬直した顔でルカは更に質問を重ねる。


「・・・・他の皆は?」


 ダンの死を受け入れていないままルカは全員の安否を確認しようとした。


「・・・凛の行方が・・・わからない。

 けど、それ以外の皆は全員無事」


 ルカは片方しかない腕で頭を抑え、頭痛に耐える。

寝起きで聞く情報にしてはあまりにも負荷がかかりすぎる内容だった。

まともに思考できる訳がないとルカは感じ、考えるのを放棄する。


「ナギ・・・すまん・・・・一人にさせて欲しい」


 ルカは力なくそう言い、ナギも心配そうな目をしていたが、大人しく部屋を出ていった。


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