59. 悲しむ間もなく
早苗と瞬太郎は冷や汗をかきながら黒い球体を見つめる。
フォオン
黒い球体の膜が消え、再び黒紫のオーラを纏ったレンが姿を現した。
その姿を見て瞬太郎は身体が震える。
この震えは恐怖からなのか、それとも武者震いなのかはわからなかったが、その震えを打ち消す為に瞬太郎は身体に思い切り力を入れて声を張り上げる。
「大地の反逆・ギガントマッドォオ!!」
出し惜しみはしないと言わんばかりに瞬太郎は全力の魔術を発動した。
それにより、先ほど大きな砂の渦を描いた地面から巨大な土の拳が勢いよくレンへと飛び出す。
それと同時にレンはふわりと上昇しながら魔術を唱える。
「ダークマター・レッグ」
宙を浮くレンの下に一瞬にして大きな黒い円状の渦が浮かびあがり、巨大な拳を踏み潰すかのようにその渦から漆黒の巨大な足が勢いよく飛び出てきた。
バコオォォオン!!!!
凄まじい音と共に土の拳は破壊されて砂塵となる。
「くそがっ・・・!」
瞬太郎は顔をしかめながら呟いた。
―――
ルカは勇者との戦闘をどう組み立てるかを悩んだ。
ディストピアランスは手を掲げた方向の全ての魔術を消失させてしまう。
都合よく敵の魔術だけを消せる訳ではない為、魔術の撃ち合いを行った場合はお互い真っ向勝負でぶつけ合うか、お互いの魔術が消失して意味をなさない戦いとなるかのどちらかだ。
ルカは手詰まりを感じていた。
・・・俺はいいが・・・他のメンバーは近距離での戦いはリスクだ。
他のメンバーが勇者と接近戦で戦闘した時にさっきみたいな炎の武器を瞬時に出されたら、俺の消失の魔術でのフォローが間に合わない可能性がある。
むしろ遠距離攻撃で牽制した方がまだリスクはないが、魔術のレベルで言えば勇者の方が上手だ。
それも結局ジリ貧になる。
くそっ・・・!
俺が飛び出したせいで皆を危険に晒してしまった。
俺は・・・俺は一体どうすればいい・・・!!
ルカが考えを巡らしている内に動き出したのは卓也だった。
ルカの魔術を警戒してか、魔術を使わずにこちらに向かって走ってくる。
それを見てダンが叫ぶ。
「来るぞ!!」
ダンの声で全員は気を引き締めて構えるが、どう動けばいいかはわからず不安の表情を浮かべていた。
ルカはその責任を感じ、指示を出す。
「俺が時間を稼ぐ・・・お前らは・・・逃げろ」
ルカはそう言い、突っ込んでくる勇者へと向けて一人で走り出す。
「なっ・・・!」
ダンは無謀な行動に出るルカを追いかける形で駆け出す。
サキとノアはそれを不安そうな目でただ見送ることしかできなかった。
ルカは左手を卓也へ向けたまま走り、いつでも消失の魔術を発動できるようにする。
俺は・・・やれるだけの事をやる・・・!!
―――
卓也は一人で駆け出してきたルカを見てニヤリと笑う。
「俺の勝ちだ」
卓也は足元で炎の魔術を一瞬爆発させ、同時に炎の日本刀を召喚させる。
その一瞬の爆発により、吹っ飛びようにルカとの距離を詰め、炎の日本刀を下に構える。
「ディスト―
詠唱を始めるルカの伸ばす左手に卓也の炎に包まれた刀が振り上げられる。
ダンは後ろから気が気じゃない気持ちでそれを見る事しかできない。
―ピア―
卓也は既に勝利を確信したような笑みを浮かべていた。
刀は腕までもう少しという所まで迫っていく。
―ランス!!」
卓也が握る炎の刀は瞬時に消失し、ダンは間に合ったと思った。
だが、間に合ったはずなのに卓也の刹那の表情は不敵な笑みを浮かべたままで、ダンは一瞬で鳥肌が立つ。
ズシャア!!!
ダンは目の前で起きた惨劇を現実と認める事ができなかった。
ルカの左腕は上へと回転しながら宙を舞い、膝をつくルカの左半身から血が一気に噴き出す。
卓也はその時、道化師の如く狂気的な笑みを浮かべていた。
ダンはその信じがたい光景を受け入れられないまま、感情を剥き出しに叫ぶ。
「ルカァァアアアア!!!」
その光景を見たサキも困惑した顔のまま反射的に前へと走り出る。
舞もまた、卓也のその一撃を機に後方から風の魔術で飛び立ち、動き始めた。
ルカの腕を切断した卓也の振り上げられた両手には、短剣が握られていた。
それは野営地で兵士から受け取った金属製の短剣だった。
その短剣を持ちながら炎の魔術で刀のようにコーティングをし、短剣の存在をカモフラージュしていたのだ。
ボトッ ドサッ
宙を舞っていた左腕が卓也の後ろに落ちる音がして、目の前のルカもうつ伏せでこちらに向けて倒れ込んだ。
卓也は再び短剣に炎を纏わせ、既に意識を失ったルカにトドメを刺そうと炎の剣を振り下ろす。
ガキィン!!
ダンはそこに割って入り、硬質化した両腕で卓也の炎の短剣を受け止めた。
「ぐゥ・・・!!
サキ! ルカをぉ!!!」
ダンは炎の熱さに顔を歪めながら後方のサキに向かって叫ぶ。
上空を飛びながら卓也とダンを追い越そうとしていた舞は、そのダンの叫びに思わず反応する。
えっ・・・サキ・・・?
サキはダンに言われなくとも既に氷の魔術で滑りながら移動を始めていた。
そして迅速にルカを回収し、斬られた左腕の切り口を氷漬けにしながら後方へと戻っていく。
舞は上空から金髪のポニーテールを揺らして氷の上を滑る人物を見て、自分の知っているサキだと確信した。
噓・・・。
サキ・・・なんでこんなところに・・・。
どうして・・・どうすれば・・・。
舞は上空で滞空しながらフードを更に深く被り直し、攻撃を仕掛ける気力を失い頭を抱える。
サキは後方に待機していたノアの元に辿り着き、ルカを床へと横たわらせる。
「ノアの魔術でルカさんを何とかできないか・・・。
あたいには傷口を一時的に氷漬けにする事くらいしかできない。
これも傷口の熱でどんどん溶けちゃう・・・」
サキはこの状況にパニックになり、涙を流しながらノアに嘆願する。
「・・・氷・・・解除して」
ノアは何かができるような雰囲気でそう言った。
サキはノアを信じ、黙って氷の魔術を解除する。
プシュッ
氷が無くなり一瞬腕から鮮血が垂れ流されたが、すぐさまノアの人形の生成魔術の応用で傷は塞がれる。
傷口に合わせて本物の人肌のような何かがルカの腕の出血を止めたのだ。
「腕は戻らないけど・・・これで血は完全に止まる」
ノアのその言葉にサキは安堵し、すぐさま振り返ってダンの元を見つめる。
ダンはまだ卓也の炎に耐えながら足止めしてくれている。
「ノア、師匠とルカさんを連れて逃げて・・・!
あたいはダンさんを・・・!!」
サキはノアにそう言い残し、ダンの元へと駆ける。
ノアはサキの頼みに頷き、目を瞑りながら両手を動かし始めた。
すると小さい豚のような人形が形成され、徐々に命が吹き込まれるかのように動き出す。
ノアはその豚の背中にナギを乗せ、ノア自身はルカを背負った。
そして円卓会議をしていた方へと駆け出し、戦線を離脱する。
卓也はダンの人体硬質化の魔術を見て一つの推測が生まれていた。
「お前らさては・・・異端者だな?」
卓也は炎の剣でダンの腕を炙りながら質問する。
「・・・だったらどうした」
ダンは苦悶の表情をしながらも、ルカが斬られた事による怒りも相まって強気な言葉を返す。
「フン。 四属性に該当しないはずれ者の危険因子共が・・・」
卓也はルカの腕を作戦通りに切り落とせた時点で脳に快楽物質が溢れ、気分が高揚していた。
瞬太郎のような血を見る事によって等ではなく、自分の思い通りに策が成功したことに対し快感を感じたのだ。
通常のゲームでは味わえない一回きりの命を賭けた戦闘の駆け引き。
その駆け引きを制した感覚が、卓也の気持ちを最高潮にさせた。
卓也は両手で握っていた短剣を左手のみに持ち替え、右手をダンのがら空きの腹へと向ける。
燃え尽きろ。
卓也の右手に炎が顕現していく。
ダンはそれよりも早く、卓也の右手に向けて左膝から硬質化させた棘を素早く突出させた。
ザシュッ!!
「ぐあぁァあ!!」
卓也の右手にダンの棘が貫通し、卓也は痛みで悶える。
卓也は思わず剣を握っていた左手を後ろへと引き、身体も離れようとするが右手が棘に刺さり離れない。
「くそ異端者がァァア!!!」
卓也は怒りを顕わにし、刺さった右手から炎を噴火させる。
ボオォォオオオ!!!
ダンの身体を焼き尽くす勢いで右手から炎が放たれ続ける。
「ぐぅ・・・ぅおおおおお!!!」
ダンは全身の硬質化で炎に耐えながら卓也の右腕だけでも持っていこうと棘を複数出そうとする。
本来全身の硬質化にリソースを割いた場合、その状態で棘を出すのは体内を流れる魔力経路に大きな負担がかかる。
負担がかかると全身に激痛が走り、痛みに耐え兼ねて魔術を反射的に解除してしまうのが普通だ。
これは通常の魔術師が魔術を連発した場合も同様である。
だがダンは、決死の思いで今この瞬間に全力を注いだ。
ダンの左の太ももや、左腹部から続々と棘が突出していく。
ザシュッ!! ザシュザシュッ!!
「うあぁぁあああっ!!!」
卓也の右手のみならず、右腕全体に棘が刺さり始める。
ダンは身体を赤く燃やしながらニヤリと笑う。
「我慢比べといこうぜ・・・」
ダンのその言葉に卓也は激高する。
「いい加減・・・くたばれぇぇええ!!!」
ブオォォオオオ!!!
計算高い卓也もダンに煽られ、遂に余力など考えなくなる。
火力は更に上がり、卓也もこの瞬間に魔力をつぎ込んで抗おうとした。
ダンはいよいよ硬質化では防ぎきれない熱さにより、徐々に身を焦がしていく。
身体の一部一部が黒く焦げ始め、皮膚が痛々しくめくれていく。
ピキキキキキ
「ダンさん!!!」
そこに氷の上を滑りながらサキが駆け付けようとする。
そのサキの瞳には目一杯の涙が浮かび、涙の粒が後ろへと零れ落ちていた。
卓也はダン越しに近づいてくるサキを見て、舞は何してるんだと言わんばかりに上空に滞空する舞へと顔を向けて睨みつける。
舞は卓也の獣のような殺気を放つ視線に焚きつけられ、遂に動き出す。
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