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与えられた禁忌の魔術で復讐を ~凛として咲く仇花~  作者: 一ノ瀬 凪
第二章 邂逅するスノードロップ
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58. 大混戦


 凛は異端解放団が隠れている瓦礫から見て、少し左前あたりの神殿の影の下で黒い球体の中に閉じ込められている。

それは外から見たら物言わぬただの真っ黒な球体だ。

しかし中の凛からは外が見える為、凛は戦闘の様子をそこから遠目で眺めていた。

だが、レンが勇者の方に飛んで行った体術戦以降は神殿よりも少し先で戦闘は行われていたので、どの人影が誰なのかは全くわからなかった。

唯一最初に突っ込んできた瞬太郎の顔は目に映ったが、それも数秒程度だ。


 凛はフードの中の勇者達の顔をもっと見たかった。


 夜は次第に降りて来ており、視界は徐々に悪くなる。


―――


 氷山を監視する早苗の後ろから舞と瞬太郎が姿を現す。

舞は空中から早苗の近くへと降下していった。


「お待たせー!」

 

 そう言いながら降りてくる舞を早苗はにこやかな表情で迎え入れた。

その後すぐに瞬太郎が地面の波に乗って二人の元へ到着する。


「あれか・・・・・・ハッ」


 瞬太郎は二人に見向きもせずに呟き、氷山の中の黒い球体を不敵な笑みを浮かべながら見つめる。

ずっと気を失ってた割に挨拶もないその態度に対し、早苗は嫌悪を示した顔つきになった。


 舞は早苗の苛立ちを察して瞬太郎との間に入り、内容を話す。


「あの黒いのが敵が隠れている球体ね?

 それで瞬太郎にはあの氷山ごと地面へと沈めて欲しいの」


「あぁわかってる。 見とけ。

 ・・・崩土・サンドフロー!!!」

 

 瞬太郎は両手を地面につけ、咆哮するかのように詠唱する。


 ゴゴゴゴゴッ!!!


 広範囲の地面が砂へと変わり大きな渦を巻いた。

レンを閉じ込めた氷山はゆっくりとその砂の渦へと沈み始める。


 早苗と舞はその様子を瞬太郎の横で見つめる。

卓也は神殿を背後にして早苗達の逆側からその様子を見つめていた。



―――


 タッタッタッタッタ


 ルカは考えるより先に身体が動いていた。

このままでは憧れの存在が死んでしまう。

自分が行動すればレンは死なずに済む。

そう思い駆け出したルカのその行動はエゴ以外の何物でもなかった。


「ちょっ・・・!」


 ナギは飛び出したルカに気付き、止めようと瓦礫を乗り越える。


 ナギはレンを信用し切っていない。

つまりはレンが沈められる事よりも、異端解放団が姿を見られる方が良くないと考えていた。

今回ばかりはルカの行動に同意しかねる。

異端解放団の為にもルカを止めないといけない。

そう思い、ナギは足元に風を纏わせる。


 ルカは自分の魔術が届く範囲まで到達したと同時に息を大きく吸い込む。


「ディストピアランス!!!」


 ルカは氷山に向けて左手を思い切り伸ばしながらそう叫んだ。


 その声は氷山へと響き渡る。

詠唱と同時に氷山は粉々の塵となり、砂の渦は動きを止める。

レンを守る黒い球体は氷の牢獄から解放され、そのまま宙へと浮いた。

あの球体はルカの魔術の影響を受けないようだ。


―――


 早苗と瞬太郎は急に崩れた氷山を見て、頭で理解が追いついておらず固まった。

咄嗟の考えでいえば、お互い相手が何かを間違えたのではと疑っていた。

瞬太郎は早苗が氷山を解除したのかと思い、早苗は瞬太郎が氷山を破壊したのかと思っていた。

ただお互い共通で一つ分かるのは、またレンと戦う必要が出来てしまったという事だ。


 瞬太郎と早苗は生きる為に戦闘態勢を取る。


 その中で舞は、奥から微かに聞こえた詠唱に気付いていた。

卓也がいる位置よりも後ろ側から発動されたその魔術の影響で氷山が崩されたと推理し、それは卓也の背後に新たな敵が現れた事を意味した。

新たな敵を把握するのが優先と判断した舞は、早苗と瞬太郎をおいてすぐさま卓也の方へと飛び立つ。


―――


 ルカは詠唱し終えた直後、氷山の手前にいた勇者に気付かれた事を悟る。

もう戦闘は避けられないと覚悟し、伸ばした左手をそのまま勇者に向けようと動かす。

その勇者卓也はこちらへ振り返りながら身を倒し、低い姿勢で足元に炎を発火させて右手に炎の日本刀を顕現させていた。

その状態でルカを目掛けて一直線に距離を詰めながら炎の日本刀を構える。


 凄い速度で詰め寄る卓也に対し、ルカは左手の標準を合わせて魔術を詠唱した。


 「ディストピアランス!」


 卓也の握っていた炎の日本刀が消え去り、足元の発火も無くなった。


「ちっ!」


 卓也は空中でのコントロールを失い、さっきまでの惰性の勢いのまま飛び続ける。

卓也は地面すれすれを滑空する自分の身体の態勢を整えようと地面に手を伸ばすが、自分の動きが速すぎて腕が地面に弾かれ、身体は前方向へと回転しながら地面に身体を打つ。


キンッ


 転がる卓也の腰あたりから地面の石と金属が擦れる音がした。

卓也はその音でハッとする。


 前から転がってくる卓也に体術でカウンターを決めようと立つルカの後ろから、ナギが風の魔術でルカの真上へと飛び上がり、ルカに加勢する。


「ウチがやる!

 ウィンドウ・シック―― きゃぁあ!!」


 ナギは下を転がる卓也に魔術を放とうとした瞬間、突然の暴風に吹き飛ばされた。

不意打ちを喰らったナギは神殿の天井まで吹き飛ばされ、背中を強く打ち付けて下へと落下する。

 ルカは風がきた場所に一瞬目をやると、風の魔術を扱う勇者がこちらに飛んできているのが目に映った。


 まずいっ・・・!!


 ルカは飛んでくる舞を警戒し、態勢を崩している卓也を無視して一旦後ろに下がる判断をする。


「ソル!」


 高速移動の魔術でダン、サキ、ノアの居る所までルカは退いた。


 サキは上を見上げながらフラフラと動き、落下してくるナギを受け止める。


 ガッ!!


「師匠!!」


 サキは声を掛けるも、ナギは既に気を失っており、返事はなかった。


 ルカは顔を少しだけ後ろに向け、気を失ったナギを横目に見つめる。


 ナギが一撃で・・・。

 勇者の魔術は一撃で致命傷になるってことか・・・。

 最高戦力のナギがいない状態で俺達はどこまでやれる・・・?


 バコオオン!!!

 

 レンが居る方向から魔術の衝突音が聞こえてくる。

ルカが目線を神殿の奥へと戻すと、レンと勇者二人が戦闘している様子が遠目で見えた。


 二人の勇者はレンが相手してくれている。

俺達は目の前の二人を何とかできればいい・・・!!


―――


 舞は転がり倒れる卓也の元へと降り立つ。


「卓也、大丈夫・・・?」


 舞は膝をつく卓也の肩に手を乗せて小声で聞いた。


「あぁ、擦り傷がついたくらいだ。

 ・・・あの茶髪の男は俺が仕留める。

 あいつは魔術を消す魔術を使ってくる。

 あいつを仕留めない限り俺達は自由に魔術を使えない。

 俺があいつに一撃入れたら舞は後ろにいる奴らに攻撃を仕掛けろ」


 舞はそう指示を出す卓也が妙に気が立っているように感じた。


 卓也は完璧主義者だ。

戦闘において無様な姿を晒す自分を許せないと感じていた。

ましてや格下の相手の小細工に踊らされるなどあってはならないのだ。


 攻撃手段でもない魔術を消す魔術により、無様に転がった自分に対して卓也は腹立たしさを感じていた。


 卓也は鋭い目つきでルカを睨みつける。


 ・・・あの茶髪の魔術は厄介だが、一瞬だけ魔術が使えればそれで十分だ。

 勝負は一度きり。 一発で奴を仕留める。



 卓也がそう考えてる間、舞はなぜか震えながら腕を上げて指をさす。


「ねぇ・・・あれなに?」


 舞の怯えたような呟きを聞き、卓也は舞の指さす先を見る。

そこには奥にいる敵の右側に浮いているもう一つの黒い球体があった。


 ・・・・・・!!

まさか、あの中にも誰かがいるのか?

仮にそうだとして、

早苗と瞬太郎が戦っている奴と同じレベルだとしたら流石に対応できない・・・。

だが・・・何故でてこない。

・・・いや、でてこないのであればそれでいい。

考えても答えはでない、先にあいつらを片付けるまでだ。



「舞、一旦あれは無視しろ。

 今はとにかく目の前のあいつらを排除する。

 もしあの黒い球体が動き出したらその時に戦線を離脱すればいい」


 舞は頷き、フードの中から奥の集団を見据える。

卓也はさっきの転がりでフードは首の後ろに落ちていて、顔を晒していた。



 その時、黒い球体が少しだけ蜃気楼のように揺らめいた気がしたがしたが、誰も気づく者はいなかった。


 



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