54. レンの生き様
黒魔術として追放された話というタイトルは、全員を真剣に話を聞かせるには十分なビッグタイトルだった。
四神教のレンと禁忌の黒魔術師が同一人物という説だけでも、五、六時間は語り尽くせるような話題だ。
その物語と謎がいまから解き明かされるとなれば、世界の秘密をここにいるメンバーだけが知る事となる。
歴史の真実に触れられる上に自分達しか知り得ないというその感覚が、全員の心を惹きつけた。
「今から話す内容は信じ難いかもしれない。
でものっけから有り得ないと聞く耳を持たないのではなく、
一度僕が話す事を真実と仮定して素直に聞いてみて欲しい。
・・・この話は少し複雑になる。
丁寧に細かく説明した所でわからないと思うから
大枠から簡潔にわかりやすく話していくよ」
各々は頷き、真剣な表情でレンを見つめる。
「まず前提として知っておいて欲しいのは、
僕は何度もこの世界をやり直し生きているという事だ」
その言葉に全員は目を見開き、サキに関しては椅子から転げ落ちて「いてっ!」と叫ぶ。
レンはクスッと笑い、サキが椅子に座り直すのを待った後、ルカと目線を合わせる。
「つまり・・・ルカ。
君がどこまで僕の事を知っているかも理解している。
君がどういう性格なのか、どういう魔術を扱うのかもね」
「なっ・・・!」
ルカは衝撃で息が詰まった。
ルカは自分の名前を名乗っていなければ他のメンバーもこの男の前でルカと呼んでいなかった。
だが今レンは、間違いなくルカの方を見て、ルカと呼んだ。
その言葉だけでレンが何度も繰り返し生きている説明がついてしまう。
レンはルカの頭が整理されるのを少し待ち、話を続ける。
「最初に話したこの神殿から旅立ち、魔術を教えて世界を回るまでの流れは
繰り返し生きる上でも必ず行ってきた工程なんだ。
だから敢えてそこから話しをしたんだけれど、
それ以降の未来は幾度となく分岐し、悲惨な未来を見てきた」
レンは寂しそうな表情を浮かべた。
レンの言う悲惨な結末を頭の中で振り返っているのだろう。
「その悲惨な未来を回避するために、君たちをここに呼んだ。
つまり・・・君たちにこの話を伝える事が最善の未来に繋がる唯一の道なんだ」
ナギは驚きを隠せず呟く。
「え・・・嘘でしょ・・・」
ダンもこれについては話を遮り質問を投げかける。
「レン、あんたの実力なら俺達の協力なんて不要じゃないのか?
あんたがあのレンなのであれば、順当に世界を導けたはずだ。
それを俺達みたいな異端者に協力を仰ぐなんて・・・」
ダンの疑問にレンはきっぱりと断言する。
「僕では不可能だ。
その理由が・・・この忌々しい黒魔術。
そして僕は協力を仰いでいるという訳ではない。
・・・それはのちにわかる」
レンは目線を下に落とした。
含みのあるその言い方に全員は怪訝そうな顔をする。
「まず黒魔術について説明しよう。
これは僕の意図したタイミングではなく、いつも突然覚醒してこの力が手に入る。
しかも、覚醒した瞬間に周りにいる人間の生命力を強制的に吸収するという条件付きでね」
凛はそれを聞いて、自分の魔術〈輪廻掌握・ドレインライフ〉と同じ類かなと思った。
「何度世界をやり直しても、この黒魔術の覚醒のタイミングだけは
コントロールする事ができなかった。
そして運命かのように、全ての世界線で必ず人の命を吸い取り殺してしまう・・・」
凛はもし大切な人を巻き込んでしまったとしたら、その心の痛みは計り知れないだろうと思い、哀しそうな目でレンを見つめる。
ルカはレンの言いたい事を理解した。
だがレンを崇拝しているからこそ理解できない一つの疑問が浮かび、それを投げかける。
「人を毎回巻き込むせいで世界から疎まれ追い出されて
民衆を導く立場ではいられなくなるって話だと思うが、
四神教のレンならそれも弁解すればわかってもらえるんじゃないのか・・・?
レンがこの世界に残した功績の方が遥かに大きいはずだ。
それでも追い出されるって・・・普通に考えたらおかしいだろ!
それに、レンが黒魔術師になったなんて話は聞いたことがない!」
「そうだね、それは僕の見た目が変わらなければそうなのかも知れない。
だが・・・命を吸い取ると同時に僕は異常に身体が若返り、
誰もレンだと認識できないような見た目へと変化してしまう。
覚醒時の僕は紛れもない老人なんだが、まるで子供のような見た目にまで若返るんだ。
それにより、突如現れた黒魔術師と恐れられ、結局世界から追われる。
・・・何度も繰り返す内に僕は悟ったよ。
これは逃れられない決められた運命なんだと」
ルカは悔しいがその回答に納得し、年齢が若い理由にも合致がいった。
「だからその見た目なのか・・・」
レンはルカが話しを素直に受け止めてくれているのを嬉しく思ったからか、優しい表情で頷いた。
「そう。
僕は黒魔術で若さを保ちながら永遠に生き長らえる事ができる。
そして、コントロールはできないが、時間軸の移動をする事もできる。
それは皮肉にも、僕を不幸に陥れるこの黒魔術のおかげさ」
凛は同じ黒魔術師のレンが扱えるなら、自分も時間軸の移動ができるのだろうかと思った。
ただ全くその魔術のイメージが湧かず、レンから聞き出そうとする。
「時間軸の移動は具体的にはどうやって行うんでしょうか・・・。
そして移動先の時代も自由自在にコントロールが可能なんでしょうか?」
レンは凛の質問の意図を悟り、具体的に回答する。
「時間軸の移動は、重力の魔術の応用さ。
重力は時の流れに干渉できる唯一の力だ」
凛は重力の魔術は〈ゼロ・グラビティ〉という自分の身体を無重力にする魔術しか使用した事がない。
重力を発生させる魔術も確かにできそうだと思い、黒魔術に更なる可能性を感じた。
だがそれは、あくまで凛が再び黒魔術を扱えるようになればの話だが・・・。
「具体的なやり方としては、ダークマターで自分を球体状に包み込み、
その球体の中に重力を生み出し、自分の身の回りだけ時空を歪ませる。
それにより、自分だけが時間軸を移動することができるんだ。
だが、君の言うような自由自在なコントロールは敵わなかった。
いつも戻る場所はこの神殿で魔術混迷期の時代だ。
そして、時間軸の移動が終わると共に黒魔術の力は失われ、記憶は曖昧になる。
まるで、今までの世界線の記憶が夢だったかのように一瞬で忘却されるのさ・・・」
「そうなんですね・・・」
凛は黒魔術と記憶を失う事を考えると時間軸の移動を自分が使うのはやめようと思った。
ダンも段々とレンの事を理解し始め、孤独で壮絶な生き様に同情し始める。
そして夢のように忘れると言えど、かなり記憶を覚えている方だとダンは感じ、率直にそれを伝える。
「だが、話している分には記憶もかなり残っているように見える」
「今はそうだね。
さっき話した通り、時間軸の移動直後は一瞬で記憶が消えていくが、
人生をなぞる中で既視感を覚える場面に直面すると、局所的に記憶が蘇るんだ。
まるでパズルのピースが一つずつ埋められていくような感覚さ。
それの繰り返しで人生の後半は多くの記憶が補完され、今の僕のような状態になる」
「なるほど・・・」
ダンは腑に落ちた。
だからこそ序盤の人生のルートは固定されているのだろう。
凛はレンの記憶の話を聞き、もしかしてと思う事があり確かめようと問いかける。
「レンさんは、この神殿以前の事を覚えていないんですよね?」
「そうだね、僕が誰の子供なのか、幼少期はどこで過ごしたのか、
その全ての記憶がない。
もしかしたら本当に神の使いなのかも知れないとまで思っているよ」
レンはまるで神に問いかけるかのように上を見つめてそう言った。
「・・・日本って言葉に聞き覚え有りませんか?」
凛のその言葉でレンは目が見開き、動きが固まる。
「・・・日本。
・・・・・・うっ!」
レンは突然頭を手で押さえ、身体を丸めた。
ダンはレンのその様子を見てレンに声を掛ける。
「大丈夫か!?」
「・・・あ、あぁ・・・すまない・・・。
いま正に・・・記憶の一部が補完されたよ」
レンは片手で頭を押さえながら丸めた身体を起こした。
凛は自分の言葉で頭痛を引き起こさせてしまった事に対して申し訳なさそうな表情を浮かべる
「君のお陰で少しだけ思い出す事ができた。
そうだ・・・僕は日本で育ち、学生の時にここに飛んできたんだ。
記憶が戻るといつも思う。
なんで忘れていたんだろうってね。
まるで当たり前かのように記憶が補完されて、
驚くリアクションすらできないよ。
礼を言わせてもらう。 ありがとう」
「い、いえ・・・」
凛は同じ世界出身の人だったことを知り、衝撃が隠せない。
むしろなんでレンはこんなにも冷静なのかが不思議に感じられた。
だがこれにより、この神殿の遺跡がどういう場所だったのかを凛は理解できた。
これは凛達が召喚された太古の遺跡と同じ召喚の力を秘めた遺跡なんだと。
だからこの遺跡に何となく見覚えがあったのかと凛は妙に納得した。
「では話を続けさせてもらうよ。
今の僕は、今みたいな形で過去の世界線の記憶が補完され、ある程度の記憶を持っている。
だが今回の僕はそれだけじゃないんだ。
僕が、今僕たちが生きるこの世界線に移動してくる時、
今までになかった初めての現象が起きた。
それは、時間軸の移動時に、
今まで見た事のない未来までのシナリオが走馬灯のように見えて、
その走馬灯の記憶を保持したまま今回の人生はスタートしているという現象だ。
この神殿に戻ってきた時、今まで通り過去の世界線の記憶は失われていたから
その走馬灯のように見えた未来の記憶だけが残り、最初はその記憶の意味がわからなかった。
だがこの人生でも、過去の記憶が補完されていった時、
自分が何度も失敗を繰り返してきた事を思い出した時、
あの走馬灯はこの世界が平和になる為の最善のシナリオなんだと理解した」
全員はレンが話す情報量を脳で処理するのに精一杯になり、ただ無言で頭を使いながら話を聞く。
レンは話についてこれているかを全員の様子を見ながら確認し、急に先ほどよりも重く真剣な顔つきになった。
「断言する。
これは僕にとっても世界にとっても最期のチャンスだ。
僕は可能な限り最善のシナリオを辿るように生きてきた。
四大国を作り、属性ごとに魔術師を分けて生活させたのも、
予言書を作り、四大国と勇者の動きを誘導したのも、
ルカのお爺さんに会いに行き、自分の話をしたのも、
黒魔術師となり、世界に追われる存在になったのも、
魔物の軍勢を作り、国と敵対するように仕向けたのも、
君達をここへ誘い、いまこの真実を話しているのも、
全ては最善の未来を、世界の平和を迎える為だ」
レンの口から発せられたその一つ一つの行動は、紛れもなく時代を変えるような行動ばかりだった。
そしてレンのその言葉には、幾千もの時代を生きた人の重みや厚みがあり、異端解放団は気迫に圧倒される。
その中でサキが震えながら口を開いた。
「それを全て・・・あんたが仕組んだのか・・・」
「そう。 全ての行動には大きな意味がある。
だが、その行動により何が変化したかを話す時間はもう残されていない」
レンはそう言い、外の景色に目を向ける。
外はもう日が落ち、薄暗い景観となっていた。
「僕はこの世界線で綺麗にシナリオを描いた。
今この瞬間までのシナリオも、この後起こるシナリオの手筈もね。
だがもう、これから先のシナリオを描くのは君達だ。
僕はもう役目を終えた」
レンはもうやり切ったような言い方で唐突に話を打ち切り、立ち上がる。
それに気づいたルカはまだ話し足りないと思い、話を続けようと立ち上がる。
「レン!まだ話は終わってない!
まだ聞きたい事が腐るほどある!
俺達はどうすればいいんだ!
もっと導いてくれ!」
ルカはもう目の前の男があのレンだという事を確信していた。
会えるはずもないと思っていた憧れの存在が目の前にいて、話を聞かせてくれた。
だがまだ話したい事、聞きたい事が山ほどあり、この時間を終わらせたくなかった。
レンは食い下がるルカの方を見据え、哀しい表情で最後の言葉かのように話をしだす。
「僕から伝えられる最後の言葉だ。
どんなに辛く悲しい事が起きたとしても
決して諦めてはならない。
君達の世界を憂う気持ちが折れない限り
世界はいい方向へと向かうはずだ。
だから・・・最後まで向き合い続けてくれ」
レンはその言葉を苦しそうに口にした。
胸が締め付けられているかのような表情で、何が起こるかをわかっているかのように。
ルカは何故そんな表情をするのかが理解できなかった。
分からない事が多くなり過ぎて、兎に角レンを引き留めようとする。
「レン!なぜ話を終わらそうとするんだ!
一旦席に座ってくれよ!」
「・・・すまない。
本当は僕が君達にそんな言葉をかける資格もないんだ。
僕の事は恨んでくれていい。
全ては最善の未来の為。
・・・・・・もう時間だ」
そう言い終えた次の瞬間、神殿の入り口側から鳴き声と轟音が同時に鳴り響く。
ヒヒーーーン!!!
バゴォォォン!!!!!
レンは全てを分かっていたかのような落ち着きようで呟く。
「勇者が到着した」
今回の話を書いてて思ったんですが、
この作品を完結させたらスピンオフみたいなイメージで
レンが主人公の話も描いてみたいなと思いました!
リゼ○みたいな話になりそうですが(笑)




