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与えられた禁忌の魔術で復讐を ~凛として咲く仇花~  作者: 一ノ瀬 凪
第二章 邂逅するスノードロップ
52/67

52. 導かれた先で


 異端解放団は馬の魔物に先導される形で魔物領土の奥地へと進んでいく。

この行動が吉とでるか凶とでるか、それは誰にも分からなかった。

一体自分達はどこに連れていかれるのだろうか。

導かれた先には何が待っているのだろうか。

常識的に考えたら魔物の示す道に付いていくなど正気の沙汰ではない。

これはリーダーの直感を信じた行動。

全員はこの状況に少なからず不安を隠せない表情を浮かべていた。


 馬の足音だけが響く時間が続き、重い空気が流れ始める。


 既に元々目指していた山脈の隙間道からは大きく右に逸れている。

今見える景色から考えると、このまま魔物についていっても絶壁のような山の壁で行き止まりになるだろう。


「・・・・・」

 それを分かりながらも全員は無言で馬車を動かした。

魔物に導かれている今、いつ何が起きてもおかしくない為、神経を尖らせて周囲の警戒に集中しており、その先の事は起きてから考える姿勢になる。


 張り詰めた空気の中、遂に絶壁の山のふもとに辿り着く。

馬の魔物は速度を緩めていき、絶壁の前で完全に足を止めた。

それに合わせて異端解放団も馬車を止め、馬の魔物の様子を見守る。


 ヒヒーーン!!


 馬の魔物は前足を山側に向けて大きく上げる。

先ほどは気付かなかったが、その際に黒紫の光が一瞬白く発光した。

今から魔術が発動されるのを全員が察し、反射的に息が止まる。

次の瞬間、馬の魔物は前足を地面へと振り下ろした。


 ゴゴゴゴゴッ!!


 それと同時に目の前の絶壁の一部が地面へと沈み始める。

メンバーはその魔術が自分達へ向けたものでないと分かり、ほっと息をつく。


 沈んだ壁の先には何が現れるのかとダンは目を凝らしていると、土煙が晴れた先には洞窟のような通路が姿を現した。


「これは・・・・」

 目を見開いて驚きの表情のまま硬直したダンは漏れるように呟く。


「もしかして・・・隠し通路みたいな?」

 ナギはダンに問いかけたが、ダンは脳の処理が追いついていないのか、返事をせず固まっていた。

 

 馬の魔物は固まる異端解放団を待つことなく、洞窟の中へと足を進めていく。

それを見た遠征部隊の真ん中に位置するルカは身を乗り出して先頭に向けて声をあげる。


「その洞窟の中を進むぞ!」


 その声でハッとなり、ダンは馬車を再び進ませる。

ダンは深淵のような洞窟を見て、嫌な汗をかきながら中へと入っていく。


「・・・・・・暗いな」


 洞窟の中は明かりが灯されているはずもなく、暗闇だった。

唯一の光は先頭を進む魔物が纏う黒紫の光だ。

幸いその光によって先頭のダンとナギは進行方向が照らされ、進むのに支障はない。


「なんだかウチらがまるで魔物側の軍勢みたいね」


 ナギは客観的にみて、禍々しい光を頼りに暗闇の道を進む自分達はまるで魔物側の人間だなと思った。


「仮にこの姿を勇者と国の部隊に見られたら世界に指名手配されてしまうだろうな」


 ダンのその返答にナギはハッとした顔でダンの方へ顔を向ける。


「たしかに・・・!!

 よく考えたら相当やばいじゃん!」


「異端者の上に魔物と行動を共にしてるとなるとなぁ・・・。

 今となっては魔物以上に国の部隊の方を警戒した方がいいかも知れん」


 状況的にダンの懸念はごもっともだ。

他人から見れば魔物と手を組んでいる人間と思われて当然のこの状況。

本来であれば魔物を討伐しながら進み、勇者や国の部隊が到着する前に片が付いているという状況が理想だった。

しかし、今となっては魔物が何なのかに興味を惹かれ、魔物の討伐という目的が遠のいていく。

この遠征の果てに異端解放団は何を得られるのだろうか。


 洞窟に入ってから相当の時間が経過した。

太陽の位置が把握できない暗闇の為、今が何時なのかも検討がつかない。

そろそろ日光があるところに出たいと全員が思い始めた頃、進行方向に白い光が現れる。


「やっと出口!?」

 ナギは遂に外に出られる事に歓喜する。


 ずっと暗闇の中を進んでいたからか、白い光は見えるがその先の景色がどうなっているかが眩し過ぎて良く見えない。

ナギはただ白い光に突っ込んでいくような感覚で馬車を進め、目を細めて眩しさに耐える。

身体ごと光に包まれ、目の前が真っ白になった先で、徐々に目が光に慣れていく。


「なにここ・・・綺麗・・・」


 洞窟を抜けた先の予想外の景色にナギは目を奪われる。


 そこは巨大な西洋の庭園のような景色が広がっていた。

カラフルな花々が至る所に咲いていて、緑の草木に包まれたその空間は今まで通ってきた枯れ木の森とは真逆の空間だ。


 景色に見惚れた異端解放団は思わず馬車を停止させる。

それに合わせてか、先導していた馬の魔物も歩みを止めてこちらの様子を見守った。

メンバーはそれぞれ馬車から降り、歩きながら周りの景色を眺め始める。

特にサキはその光景に甚く感動したようで、連なって咲く花々の方へと笑顔で駆け出していく。


「この花達かわいいな~!」

 サキはしゃがみこみ、桃色の花に自分の顔を近づける。

そして顔を右に左に傾けながらまじまじと花を観察し始めた。


 それを見たダンはサキの方へと近づき、一声かける。


「サキ、警戒は緩めるなよ」


「わ、わかってるよダンさん!

 でも・・・ちょっと待って」


 サキはそう言いながら鮮やかな桃色の花を摘み、自分の髪へ簪のように挿し込んだ。

それをダンの方に振り返り、照れ臭そうに見せる。


「これ・・・似合うか・・・?」

サキの頬は摘んだ花のように桃色に染まっていた。


「うっ・・・あぁ、サキにはピンクの花が似合うな」


 ダンは不覚にも一瞬ドキッと心臓が跳ねたのを感じ、自分の心を叱りつける。


 馬鹿か俺は・・・。

警戒しろと言っている俺の方が気を緩めすぎだ。

・・・しかし、この空間は心地が良い。

空気も澄んで、敵意など微塵も感じない。

気を緩めたくもなるか・・・。


 サキは似合うと言われた事が嬉しかったのか、花を髪に挿したままスッと立ち上がりニコニコしていた。


 無言のノアもこの景色に心を動かされたのか、ゆっくりと顔を回しながら周囲を眺めていく。

すると、目の前で黒紫の蝶がヒラヒラと舞ったのに気づき、目をまん丸にさせた。

ノアは口を半開きにさせながらその華麗な動きを目で追いかける。


 凛はノアのその動きを見て思わず微笑んだ。

小さい子供が初めて蝶を見つけたかのようなその行動は母性をくすぐるものがある。

この蝶も黒紫色に微かに発光している事を考えると魔物なのだろうか。

だがあまりにも敵意なく舞う蝶を見て、凛も心を休める。


 ルカはここがどういう場所なのかを観察しながら考えていた。


 木々の葉の隙間から橙色の光芒が斜めに差し込み、紫や桃色に咲く花々と、小さな葉の一枚一枚の緑が幻想的に照らされている。

差す光芒が橙色な事を考えると、きっともう夕刻なのだろう。

地面も今までは乾いた土だったが、この空間では石造りの道と土の地面が入り交ざっていて、所々には地面から四角形の大きな石が様々な角度で飛びだしたりもしている。

ここにはかつて集落や祭場でもあったのだろうか。

そう思わせるような加工された造形の石が散見され、長い年月をかけて風化した跡地のように感じさせた。


 馬の魔物は、石の柱と柱を繋ぐように木々の葉やつるが重なり合って出来た緑のトンネルをゆっくりと進み始める。

それに気づいたメンバーはお互い目で合図し、馬の魔物に歩いて付いていくことにした。


 未知の領域に足を踏み入れた今、本来であれば警戒心を強めて緊張しているはずなのかもしれないが、この空間の影響からか、全員はとても落ち着いた面持ちでいた。


「静かだな・・・」

 ルカは独り言のように呟く。


 風も吹いておらず、木々の葉が擦れる音すらも聞こえない。

ただ足音だけが鳴り響き、なぜか懐かしさを感じさせるような緑の香りが鼻へと抜ける。


 サキはこの空間を気に入った様子で、目に焼き付けるようにキョロキョロと辺りを見回す。


「・・・ん? なあ! あれなんだ!」

 サキが何かに気付き、進む先に見える何かを指さした。


 サキの指の先には、緑の葉を背景に木々の根に巻きつかれた白い石造の大きな神殿の遺跡が夕刻の光に照らされていた。

白い何本もの柱が石の屋根を支えているが、一部は崩れ落ち、周りに生える木々に支えられているようにも見える。

光が差しやすいのか、それとも白い建物で光が反射しているからか、その遺跡近辺だけが光量が多く、より建造物を神秘的に演出させていた。


 凛はその遺跡に何となく既視感を覚える。


「・・・なんだろう。

 似たような建物を見た気がする・・・」


 凛はここに来るまでの間、何かが頭の中で引っ掛かり、考え事をしていた。

魔物に対しても何となく引っかかるものを感じていて、この遺跡にも既視感を覚え、胸の中でモヤモヤが広がっていく。


 魔物も、遺跡も、何となく知っているかのような・・・。


 ヒヒーン!


 馬の魔物は穏やかな鳴き声を上げ、その遺跡の方へと駆け出していった。

それを見送るルカは魔物が目指した場所はここだったことを感覚的に悟る。


「・・・きっとあの魔物が連れてきたかったのは、この遺跡だ」


 ルカがそう呟き終わる頃には馬の魔物は神殿の遺跡の影の中へと消えていった。

ナギは頭の後ろで手を組みながらルカを横目に口を開く。


「どうするの?」

 

「折角ここまで来たんだ。 勿論行くだろ?」

 ルカは普段通りの笑みを浮かべ、ナギや皆の顔を見渡す。

その中でも特にサキは緊張してる様子もなく、右手をグーにして空に掲げる。


「あそこに何があるのか楽しみだぜィ!」

 サキがそう叫んだと同時にダンは呆れた表情を浮かべた。


「サキ・・・一応警戒はするんだぞ」

 ダンはボソっとぼやくように呟く。


「あ、あったりめぇだ!!ダンさんはあたいのこと舐め過ぎだぞー!」

 サキは少し恥ずかしかったのか、顔をほんのり赤らめながらそっぽを向いた。


 ルカは笑みを浮かべたまま真剣な眼差しになる。


「きっとこの先に答えはある。

 気合い入れていくぞ!!」


 そのルカの掛け声とともに、全員は目の前の朽ちた神殿へと足を進める。

凛は、ルカの言う通り自分の胸の中の引っ掛かりがこの先で解消されるような、そんな気がした。



 異端解放団は、神殿の柱と柱の間をくぐるように遺跡へと侵入していく。

天井にも抜けているところがあるのか、中の長方形の空間にも所々に夕陽の光が差し込んでいた。

遺跡内部にも木の根やつるが張っていて、何十年何百年前にできた建物なのだろうと皆は思う。

 

 先頭をいくルカがその空間に踏み入れてすぐ、長方形の内部の奥に先ほど先導してくれていた馬の魔物の光が目に入った。


「あれは・・・ん?」

 馬の魔物を見つけた事を口にしようと思った矢先、その隣にいる人影にルカは気付く。


「・・・そこにいるあんた! 何者だ!」

 ルカは遠くに見える人影に向けて声を張り上げた。


 コツ・・・コツ・・・コツ・・・


 石の床を歩く音と共に、その人影はこちらへとゆっくり近付いてきた。

全員はいつ戦闘になってもいいように腰を落とし、腕を前に構える。


 漆黒のローブを深く被ったその人影は、異端解放団との間に差し込む光に徐々に照らされていき、遂にその姿を現し、語り出す。



「君たちを待っていた・・・。

 初めまして、僕の名は"レン"。

 四神教の教祖だった者であり、世界に追われた黒魔術の使い手だ」






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