50. 順調すぎる旅
時を同じくして、異端解放団も魔物領土へと到達していた。
ウィズダムから北上している異端解放団は、土塊の国から北上した勇者達が進んできた道とは違う道を歩んでいる。
魔物領土は北側の領土を占めており、土塊の国は東側、ウィズダムは少し西側に位置する為、それぞれが北上した際の道が変わってくるのだ。
勇者達と何より違うのは、異端解放団は魔物に襲われる事が無いまま歩みを進められているという事である。
先頭を馬に乗りながら進むナギとダンはあまりに何も起きない為、魔物領土に足を踏み入れた時よりも警戒心が解けてきていた。
「やっぱり魔物に襲われそうにないわね」
ナギはダンを横目で見ながら話しかける。
「そうだな。調査で聞いた通りだ」
以前、ナギは風の魔術で飛行しながら魔物領土を何度か調査で訪れている。
その際も魔物に襲われる事はなく、まるで普通に生息している動物達を眺めているようだった。
「危険は少ないに越したことはない。
このまま順調に奥地まで辿り着ければいいんだがな」
「・・・暇ー。
この調子だとノアの魔術を見る機会ないかもじゃん」
ナギは退屈そうな表情で足をぶらぶらとさせる。
「お前なぁ・・・」
ダンは呆れた顔で目を細めた。
枯れ木の森を進む異端解放団は、結局一度も魔物に襲われる事はなく山脈に辿り着いた。
勇者達が進んだ山と山の隙間道とは違うが、似たような道を見つけていた異端解放団は、難なくその道を進んでいく。
山脈を抜けた先は山に囲まれた空間になっており、先ほどまでと同じような枯れ木の森が広がっていた。
森に入り、先を眺めがら歩いていると、ナギが突然声を上げる。
「ねぇ!あれ!魔物の群れじゃない?」
ナギは森の奥に微かに光りながら動く、黒紫の光の集まりを指さした。
「・・・あれか!」
ダンは目を凝らしながらナギが指さす方向の光を見つける。
「ちょっと飛んで様子を見てくる!」
ナギは言うよりも早く身体を動かし、馬を飛び降りて風の魔術で飛んで行った。
「おいナギ! 勝手に・・・!」
ダンは止めようとしたが、言いかけてる内に声の届かない距離までナギは離れていく。
ナギはあっという間に魔物に追いつき、上空から魔物の群れを目で捉える。
遠目でみた黒紫の光の正体は、狼の見た目をした魔物達の群れだった。
「・・・どこへ向かってるんだろう」
ナギは魔物を見つめながら呟く。
魔物達は異端解放団がいる方向とは真逆の方向へと走っている為、やはり異端解放団を襲うような動きでは無かった。
「このまま追い続けたらはぐれちゃう、戻ろっと」
ナギは群れを追うのを諦め、異端解放団の元へと戻っていく。
戻った際にダンに勝手に動くなとこっぴどく怒られたが、ナギは気にも留めていない様子でダンに魔物がどこに向かったのか疑問について投げかけた。
ダンはそれに対して色々な憶測の話を上げるが、結局答えはでないまま夜が更けるまで進み続ける事にした。
そして夜を迎え、枯れ木の森の中で全員は野営の準備をする。
勇者達のように本格的な野営地ではなく、焚火を中心として囲むように人数分のテントを設けた。
ダンは馬車に積まれた料理の具材や鍋などを取り出し、料理の準備を始める。
その間はサキが見張りを行い、他のメンバーはテント内に布団を敷いて身体を休めた。
「もう少しでできるぞ」
ダンがそう声を掛けると、全員がのそのそとテントから顔を出す。
ダンは焚火を使い、持ってきた食材でシチューのような料理を煮込んでいた。
銅色の鍋の中で野菜が豊富に入ったシチューがぐつぐつと音を立てて良い匂いを漂わせる。
メンバーはそれに誘われるように焚火の周りへと座り出した。
「なぁもう見張りしなくてもいいか!?
あたいも飯食いてー!」
見張りをしていたサキも匂いに誘われてちらちらと料理の方に目線を移動させる。
そんな空腹そうなサキを見て、凛は立ち上がる。
「サキちゃん、私はまだお腹減ってないから交代するよ」
凛は微笑みながら優しい声でそう言った。
「マジか凛!ありがとう!!」
サキはウキウキで焚火の方に向かい、地べたへと座り込む。
ルカは見張りに向かう凛の様子を目で追いながら凛の事を考えていた。
魔術を自由に発動できない今の凛は皆に気を遣っているんだろうな・・・。
凛は自分に負い目を感じやすい優しいやつだ。
この遠征はまだ何も起きていないが、いざという時に役に立てないと感じているだろう。
だから少しでも嫌な役を買って出ようとする・・・。
「凛、飯食い終わったら俺が見張りを交代する」
ルカは凛にそう声を掛けて、ダンが取り分けてくれたシチューの入った器を手に取る。
凛に、勇者達とは出会わないで欲しいと思ってしまう。
出会ったら何かが変わってしまうような、そんな気がしてならない。
凛は今、何を考えている?
長いこと一緒に居るのに、それすら知る事が叶わない。
あぁ駄目だ。
魔物の根源を潰しにいく旅をしているのに、気付いたら凛の事ばかり考えてしまう。
全員を率いるリーダーとして、ちゃんとするんだ俺。
「ねぇルカ。 ねえ。 ねえってば」
「ん!?」
ナギに何度も声を掛けられるものの、ルカは耳から入る情報に脳の処理が追いついておらず気付くのが遅れた。
「なにそんなにボーっとしてるの?」
ナギは怪しむ目線でルカの顔を覗き込んで聞く。
「わるい!シチューに夢中になってたわ!」
ルカは誤魔化すように半笑いでそう答えた。
「なにそれ。まあいいけど。
昔さ、ルカのお爺さんの喫茶店に四神教のレンが来たって話あったじゃん?」
ナギは怪しい態度のルカを気にしないようにして本題に入る。
「あ、あぁ」
「その時に聞いたこの世界の成り立ちに関係する話は
ノアにはもう話したの?」
ナギのその質問に、なんだそんな事かと思いながらルカは答える。
「そりゃあ勿論。
その話は異端解放団に入ってからすぐに伝えている。
魔術が現れてからこの世界がどう発展したかってな」
「なーんだ。 もう話してたのね。
ちょっとノアの反応見たかったなぁと思ってさ」
ナギは大人しいノアがその話を聞いた時どんな反応をするのか気になったみたいで、ノアの方を見ながらそう言った。
「・・・・・」
ノアは自分の話題にすら興味なさそうにシチューを食べ進める。
「間違いなくノアはナギが期待してるような反応はしてなかったぞ」
ルカはノアの反応を期待していたナギに冷たい言葉を浴びせた。
凛に初めてこの世界の成り立ちの話をした時は、そもそもこの世界の常識すら知らない状態だったので説明に時間がかかった事をルカは思い出す。
そういえば凛は元々この世界の人間じゃないんだもんな。
勇者も凛と同じ世界出身と言っていたし、他にもそういう人間はいるのだろうか。
ルカは考えている内にシチューを食べ終え、凛の元へと向かう。
「凛、交代だ。 飯食ってこいよ」
「あっルカさん、ありがとうございます」
凛が焚火の方に向かうのを見送り、ルカは見張りを開始する。
魔物領土にこれだけ踏み込んでも、なぜ俺達は襲われないんだろうか・・・。
現在全員が持っているその疑問に思考を巡らせながらルカは枯れ木の森を眺める。
だが見張りを初めて五分程度経過したところで、ルカは早速見張りに身が入らなくなる。
ここに来るまで一度も魔物から襲われいないからか、見張りは必要ないのではないかと思い始めたのだ。
これじゃあ俺も飯を優先したサキと大差ないな・・・。
ルカは心の中でそう呟き、決して楽をしたいからではないと自分に言い聞かせながら見張りをしなくてもいい方法を考える。
!!
何かを閃いたルカは皆の方へ振り返った。
「ナギ!」
「はひ!?」
急に大きい声で呼ばれたナギは変に裏返った声での返事となった。
「土の魔術でここを囲ってくれ!
その分、交代制の見張りをなくそう!」
ルカのその突然の提案にダンが待ったをかける。
「おいおい本当にそれで大丈夫か?」
「おう!きっと大丈夫だ!
見張り無しなら全員ぐっすり休めるし、
何か物音がしたら俺はすぐ目覚めるタイプだからな!」
ルカは無理くり自分の提案を通そうと声を大にする。
「お前・・・」
ルカがこうなったら何を言っても聞かないのをダンは理解している。
「ハア・・・わかったわかった。
把握してる限り魔物の生態系は動物と変わらん。
夜の間は魔物も大人しくしているだろう。
ただ朝は俺が早起きをして見張りをする。 それでいいか?」
ダンは呆れた表情で妥協した案を出す。
「ダン、なんて良い奴なんだ・・・」
ルカは手の平をおでこに当てながら天を仰ぐ。
それを見てナギや凛すらも呆れた表情を浮かべた。
こうして異端解放団はナギが作った土壁の囲いの中で眠りにつく事になった。
それぞれが自分のテントに入っていき、敷いてある布団の上で身体を横にする。
その中で凛は、明日以降勇者達と出会うかもしれないという考え事が頭の中でループしてしまい、中々眠りにつけずにいた。
魔物に襲われる事が無かった為、ここまで遠足のような気分でこれてしまったが、本来の凛の最終目標は目前と迫っている。
皆と話している時は心が緩み、その事がどうしても薄れてしまうが、テントの中で一人の空間となった今は復讐の方に頭が傾く。
もしいま早苗に会ったら、どんな感情になるんだろう。
私をいじめ続けた、あの四人組の中でも一番憎い女。
今思い出しても、憎いはずなのに・・・。
なのに・・・憎い気持ちが皆との思い出で上書きされて、掻き消されていく。
何気ない皆との日々が、私の心を満たす。
今日だってそう、魔物領土内にいるのにも関わらず、一緒に居れて楽しいっていう気持ちの方が勝ってるんだもん。
復讐を心に決めたあの日の感情が、今は懐かしく思えてしまう。
ただ私が子供だっただけなのかな・・・。
・・・皆と出会っていなかったら、私はどうなっていたのかな。
凛は考え事の最中、いつの間にかスヤスヤと心地よさそうな寝息を吐きながら眠りについていた。
「・・・起きねば」
翌朝、ダンは誰よりも早く目覚め、身体を起こす。
一人で馬車の方に歩いていき、物資から水の入った筒を取り出し蓋を開ける。
その水筒を持ちながら顔を上げて、水を勢いよく顔面に流しながら手で顔を擦る。
「フゥ・・・」
目元がスッキリとしたダンは、ナギが作った土壁の外側へ出るために馬車の積み荷の上に登り、土壁に手をかけ、よじ登るようにして土壁を越えた。
スタッ
壁の向こうに着地した先でダンの目の前に想像していなかった来訪者が目に入る。
「お・・・」
ヒヒーーーン!!
黒紫の光を帯びた一頭の馬の魔物が、ダンの目の前にいたのだ。
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