5. ウィズダムでの呼び出し
会いたかったよー!黒羽凛ー。
昨日休んでたからもう来なくなっちゃうかと思ったわ。
今日はこの汚い爪を剥がしてあげるねー。
アハハハハハハッ!!!!
べりっ。
いやああああああああああああ!!!
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「ぁぁあああっ!!!」
勢いよく起き上がった凛は、大量の汗を流しながら目覚めた。
「ハア・・・ハア・・・・」
あいつらに傷つけられた腕や足の傷跡を思わず搔きむしる。
「・・・最悪の夢」
朝方、日が差し始めていた。
周りを見渡すとアンデッドの衛兵が倒れているのが目につく。
外傷はなく、誰かに倒された様子ではなかった。
魔術が解除された?
私が眠りについたから?
それとも、悪夢のせいで私自身が動揺していたから・・・?
理由はわからないが、一旦川の水で顔を洗い一呼吸を置く。
「返り咲く仇花・ストレンジ・アンデッド」
衛兵は再び立ち上がり、案内に動き出した。
死体さえあれば何度でもこの技は使えそう。
とりあえず街まで早く向かおう。
しばらく歩いた昼頃、森を抜けた先、地平線上にウィズダムの街が見えてきた。
凛は想像より小綺麗な外観だなと感じていた。
アラビアの国を彷彿させるような外観で、統治されていないからか、街の周りに特に衛兵などが存在する訳ではないようだ。
「さすがに衛兵がいない街でこいつを連れまわすのはまずいかな」
凛は衛兵の使役を解除し、魔術で穴を掘り、埋葬した。
昨夜の食事の際に、衛兵に街に着いた後の生活はどのようにすれば良いかは聞いておいた。
どんなに小さな街でも経済は回っているようで、民間が経営している仕事の紹介所から依頼を受託・達成すれば報酬でお金が手に入り、宿や飲食店も存在するとの事だったので仕事さえこなせれば生活はできる。
まずは紹介所で仕事を受託したいが、その為に身分を証明できるブレスレットを発行する必要がある。
この街の中でしか意味をなさない身分証らしいが当分はそれで十分だと凛は思った。
凛はウィズダムの大きな門をくぐり、街に入る。
中心部までは一本の石の敷き詰められた道があり、両脇には商人が露店を開いていた。
「思っていたよりは賑やか・・・。
でもやっぱりそんなに人は多くない・・・かな」
凛は歩きながら横目で露店の様子を眺め、そう呟いた。
三十分ほど歩いたところで、中心部の広場が見えてくる。
街の中心付近は想像以上に整備されていて、地面は基本的に石が敷き詰められており、大きい石造りの建物も何個か目についた。
「中はちょっと辺鄙な中世の街並みみたい」
程なくして円状に広がる大きめな広場に到着し、凛は周りを見渡す。
円の周りには宿屋や食材屋、飲み屋など主要のお店が並んでいる。
掲示板のようなものが目に留まり、凛は近づいていく。
色々なチラシのようなものが貼られているみたいだ。
簡易的な地図も載っている。
「紹介所はこっちかな」
凛は地図を頼りに、仕事紹介所へと足を進めた。
「ここだ・・・」
凛は紹介所前に到着し、少々緊張していた。
ちゃんと話せるだろうか・・・。
いや、生きていく為にはこの程度頑張らないと!
カランカランッ
意を決して入口のドアのベルを鳴らし、紹介所に入る。
周りを見渡すと、中には破れた服を着た人や武装している人、ローブを纏った人や綺麗な私服を着てる人等、十五名前後の人がおり、ガヤガヤと会話をしていた。
少し中をうろつき、受付らしき窓口を見つけたので声をかける。
「すみません。初めてなんですけど・・・」
受付の人間がガタイのいい男だったので凛は緊張し、少し声が震える。
「初めての方? 了解! じゃあまずブレスレットの発行からだ!」
元気よく話す受付の大男が記入用紙を取り出す。
その手の平はあまりにも大きく、A4用紙のはずなのにティッシュを一枚持っているように感じさせた。
「この紙に基本情報の記入をしていくので、お嬢ちゃんに何点か質問するよ」
受付の声が大き過ぎて、思わず眉間にしわを寄せてしまう。
「まずお名前は?」
「あ、えーーリンです」
咄嗟に本名を言ってしまった。
偽装しようと思ってたのに・・・。
「リンさんね。
じゃあ、得意な依頼内容は?」
「魔術を使ってできる依頼なら・・・」
「嬢ちゃんは魔術師か!? その若さで凄いな!
魔術は何が使えるんだ?」
「えーと、宙を浮いたり、死体を使役したり・・・」
どういえば良いかわからずありのままを話したが、話していく最中、受付の男の表情がみるみると固まっていく。
「・・・・ハハハハッ!!! 冗談が過ぎるぜお嬢ちゃん!」
大男は急に大笑いし、凛の肩を叩いた。
「・・・・」
凛はこの後どう発言すればいいかわからず、固まってしまう。
「ハハハ・・・・あー、もしかして本当?」
大男は私に顔を覗かせ問う。
凛はただ黙り込む。
「・・・お嬢ちゃん。今の話は周りには他言不要だ。
絶対に他の人間には話しちゃいけねえ。
言ってる意味がわからないだろうが、今日の二十時にこの場所にこい」
大男はさっきまでの大きい声とは打って変わってドスの効いた低い囁き声でそう言うと、場所の記してあるメモをそっと凛に渡してきた。
「そこで説明しよう。一旦ブレスレットの発行はお預けだ」
凛は無言で小さく頷き、気まずそうにその場を後にした。
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