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与えられた禁忌の魔術で復讐を ~凛として咲く仇花~  作者: 一ノ瀬 凪
第二章 邂逅するスノードロップ
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44. 欲と自制心


 飄々とした男に一階の窓口のような場所に案内され、瞬太郎は説明を受けていた。

ギャンブルのシステムはあまり興味がなく、瞬太郎は話半分で流していたが、大会参加方法については何度も質問を重ねていた。

 

「最後に、ここで君の情報を登録しておけばエントリーができる。

 意外と簡単だろ? 

 最短で七日後から参加が可能だが、その日のルールはパスアウトだ」


 ナードは説明を終え、瞬太郎の反応を伺う。


「パスアウトは殺し禁止のルールだったよな」


「そう。 もしやあんたはキリングが好みかい?」


「そっちの方が興味はあるな」


「・・・仮にキリングの参加を考えるならもっとよく考えた方がいい。

 たった一度の参加で命を失った者も多くいる。

 まずは毎週通ってどんなもんなのかを知るといいさ」


 飄々とした男は本心で心配しているようにそう言った。

きっとこの闘技場に初めてきた人間がその日のうちにキリングにエントリーする事などないからだろう。


「ならここへは今後どう来ればいいんだ?」

 

「しばらくは今日俺とあんたが出会った場所に来てくれ。

 本来ならここへの入場は金がいるが、俺と来れば顔パスできる。

 ・・・そういえばまだ名乗ってなかったな。

 俺の名はナード。 あんたは?」


「瞬太郎だ」


「へえ、珍しい名だな。

 これから宜しくな瞬太郎。

 あんた程この場所が似合う人間はいない気がするよ」


 ナードは瞬太郎へ握手を求める。

瞬太郎はこの場所が似合うという言葉に悪い気はしなく、握手を返した。


 実際瞬太郎もこんなにも自分の嗜好に合う場所はないと感じている。

血液嗜好症の瞬太郎にとって元居た世界は息苦しかった。

自分の欲望の解放はイコールで犯罪に直結してしまうからだ。

我慢を強いられる世界で、他人に相談もできず、ただ一人その欲望を抑え込む。

そんな苦しみから解放される一筋の希望が瞬太郎にとってはこの場所だったのだ。


 ナードの言葉やこの闘技場の存在は、今まで気味悪がられると思い話せなかった血液が好きという瞬太郎を承認するものだ。

瞬太郎は自分が配属される国がありのままの自分を受け入れる許容のある国だと感じ、未来が楽しみで仕方がなくなる。


 その日、瞬太郎は夜が更けるまで闘技場に居続け、人体から噴き出す血液をその目に焼き付けながら一人自分を慰めた。

訓練の事など頭からすっかり抜けてしまった瞬太郎は、興奮の余韻に浸りながら帰路につく。



 この国は最高だ。

俺の求めていたものがここにはある。

胸の中で抑えつけていたむずがゆかい欲望の痒みが消えていく。

ここなら全てを発散できる!

あの戦いを見るだけでもこれだけ満たされるのに、自分で手を下せたらどれだけ気持ち良いんだ・・・。


もう勇者としての活動なんてどうでもいい。

今となっちゃあいつら三人と一緒にいる意味なんて特にねぇ。

特に早苗、あいつに見下される日々なんてもうごめんだ。

とっとと魔物を討伐してこの国で欲望のままに生きる。


------------------------------------------------


 その日以降、瞬太郎は頭の中が闘技場の事で一杯になっていた。

訓練にも身が入らず、模擬戦中も戦いに集中ができない。

呆気なく敗退する事も増え、他の勇者からも変な目を向けられていた。


ある日の訓練終わり、自室への帰り道で舞が卓也と早苗に話を振る。


「なんかさ、瞬太郎全然やる気なくない?」


「あぁ、心ここにあらずだよな。

 先週に続いて今日の訓練後も一人でどこかへ行ったようだし、違和感はある」

 

 卓也も舞の言葉に同意する。


「あいつは元々そういう奴よ。

 むしろ今ままで真面目に取り組んでいた事の方が不思議」

 

 早苗は冷たくそう言い捨てたが、心当たりがある早苗はこの話題を早く終わらせたかった。

早苗の自分勝手な苛立ちで瞬太郎の自尊心を意図的に傷つけたのは早苗だ。

当の本人の瞬太郎は早苗のその行動によって闘技場を知るきっかけにはなったが、集中できない理由はまた別。

それを知らない早苗は変に瞬太郎を詮索されて原因が自分に向くのを避けたかった。


「魔物討伐も私達三人だけでも問題ないでしょ?」


「それはそうかも知れないな。

 もう知能の低い魔物なんかに負ける気はしない」


「あたしも最初は不安だったけど今は自信がある。

 絶対成功させよ」


 瞬太郎がいない中、三人は魔物討伐の意志を固める。

それからの訓練も同じような日々が流れ、いよいよ土塊の国での修行も残すところ二週間となった。


------------------------------------------------


「やあ瞬太郎、毎週かかさず勤勉だね」

 ナードはいつものように瞬太郎を笑顔で迎える。


「ナード、今日俺はプレイヤーとして参加するぞ」


 ナードはその瞬太郎の言葉に驚き、笑顔だった表情が凍り付く。

その凍り付いた表情のまま瞬太郎へと早歩きで近づき瞬太郎の肩を掴んだ。


「・・・正気か!?

 しかも今日はキリングの日だぞ。

 いきなりキリングで参加なんて、

 本当にわかっているのか?」

 

ナードが掴んだ瞬太郎の肩は、緊張からか、興奮からか、小刻みに震えていた。


「あぁ、もう見るだけで満足なんかできねぇ。

 どうしても自分の手でやりたくなっちまった」


 そう話す瞬太郎は半ニヤケの表情で、心配するナードの方など見てはいなかった。

ナードはその狂気じみた表情を見て、この震えが不安や緊張ではない事を悟る。


「はぁ、瞬太郎、あんたは怖いぐらいに本物だよ。

 ・・・あんたにはまだ死んでほしくない。

 必ず今日を生き残って、会場を沸かせてくれ。

 俺は普段あまり勝敗賭けはしないんだが、

 今回は相手が誰であろうがあんたに賭ける。

 ・・・そして生きて帰ってきたら一緒に美味い飯でも食いに行こう」


 ナードは瞬太郎の事を気に入っていた。

ナードがかけたその言葉は、より瞬太郎の承認欲求を満たす。

誰かにこんなにも期待される事が無かった瞬太郎にとって、その言葉は知らない感情を生んだ。


「ナード・・・。

 間違いなく俺が勝つ。

 大金を用意しとけよ」


 ナードの言葉で瞬太郎のボルテージは更に高まる。

いつも以上に軽い足取りで地下へと足を進める。


 バーの裏口を抜けて、下へ続く階段を降りていき、また蛮声が遠くから響いてくる。


 ワアアアア!!!


 瞬太郎はこの蛮声に安心感すら覚えていた。

この声が自分が承認される場所に着いた合図になり、高揚感が押し寄せてくる。


 ・・・気持ちが高まる。

俺は今日、あの舞台で命を懸ける。

だが負けた時のイメージは湧かねぇ。

相手をどういう風にバラバラにするかが楽しみで、

相手から噴き出る血しぶきを浴びるのが楽しみで、

勝った時に浴びせられる歓声がどれだけいい気分にさせてくれるかが楽しみで、

もう俺の中には楽しみな気持ちしかねぇ・・・!!


 瞬太郎は常時ニヤニヤしながらプレイヤー用の待機場所で自分の番を待つ。


 この大会は勝ち抜きやリーグ戦等ではない。

事前に登録された情報をもとにプレイヤー同士がランダムにマッチし、一戦終えたら負けた人間は死亡、勝った人間は退場が基本だ。

そのランダムマッチを何人ものプレイヤーによって何度も行われるという仕様で、同じ人間が連戦する事はまずない。

賭けるのを楽しむ観客達はその何度も行われる殺し合いで、白と黒に分けられたプレイヤーのどちらが勝つかを予想して賭けをする。

そしてナードは黒の瞬太郎に賭け、観客席からその時が来るのを待っていた。


「そろそろだな・・・」

 ナードが一人そう呟くと、西側から金網の六角柱に向けて歩き出す黒のローブを纏った瞬太郎が現れた。


「瞬太郎、俺はあんたを信じてる。

 相手はキリングで四連勝中の強敵だ。

 気を抜かないでくれ・・・」


 ナードが瞬太郎を心配そうに見守る中、東側からも白のローブを纏った対戦相手が歩いてきて、六角柱の中へ入場する為の階段をゆっくりと上がる。

それを眺める瞬太郎は我慢ならない表情を浮かべていた。


 さあ早くやらせてくれ・・・!

もうウズウズして堪らないんだ!


 瞬太郎は対戦前から興奮が収まらない。

初めて殺し合いを始める人間とは思えないその狂気の表情に、対戦相手も笑みを浮かべる。


「へぇ。 初出場とは思えない顔してやがるな。 お前」

 対戦相手は瞬太郎に向けて見下すような顔の角度でそう言う。


「あぁ!早く殺したくて堪らないからなぁ!」

 唾液を飲み込む動作すら忘れた瞬太郎は涎を垂らしながらそう吠える。


「上等だ。 楽しませてくれよ」

 

カァァン!!


試合開始のゴングが鳴り響く。

その音と同時に両者とも目を見開いて不気味な笑みを浮かべながら目の前の敵に向かって走り出した。

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※2023/6/19~ 上記曜日に変更してます。


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