43. 流れる血と違える道
模擬戦のフィールドで一人脱落し、氷漬けのまま放置された瞬太郎は模擬戦のサポートを担当している魔術師によって救出され、フィールド外の休憩用の部屋に案内されていた。
「では模擬戦が終わるまでこちらでお休みください」
サポートの魔術師にそう言われたものの、瞬太郎は収まらない怒りのせいでゆっくり部屋で過ごして等いられなかった。
「どけっ」
瞬太郎はサポートの魔術師を押し退け、案内された部屋にも入らずにどこかへと歩き出す。
「あっ・・・」
案内した魔術師も唖然とした表情を浮かべるが、あまりにも機嫌が悪い勇者様を見て何も言う事ができなかった。
くそっ。
何もかもくそだ。
何も面白くねぇ。
瞬太郎は迷路のような土塊の国を適当に足を進めていく。
怒りで周辺の景色など全く気にせず、どこを目指す訳でもなく進み続ける。
そこそこの時間歩いた所で、道端にゴミ等が散乱した汚いエリアに瞬太郎は辿り着いていた。
人はそれなりに行き交っているし、薄汚れた見た目だが店もある。
しかし人の活気はまるでなく、全員が荒んだ目をしているように見えた。
瞬太郎はそれでもお構いなしで落ちているゴミを蹴り飛ばしながら進んでいく。
ガンッ
瞬太郎は前から歩いてきた誰かと肩をぶつけた。
「おいお前」
通りすがった男が瞬太郎の肩に手を置き、瞬太郎を振り返らそうとする。
「あ゛?」
瞬太郎は血走った目で眉間に皺を寄せながら振り返る。
振り返らせて喧嘩を売ろうとしていた男は瞬太郎の表情を見て戦慄し、顔を引き攣らせる。
「いや・・・人違いだ・・・すまない」
男は目を伏せてそう言い、何もなかったかのようにどこかへ消えていった。
「ちっ。 雑魚が」
瞬太郎はそう吐き捨て、再び歩き出そうとした時。
「なぁあんた」
先ほどの一部始終を見ていたであろう何者かが瞬太郎に声を掛ける。
「なんだ・・・!!」
二度も別の人間に声を掛けられ瞬太郎は苛立ちを見せる。
「いい表情だね、苛立ってるあんたに
もってこいのストレス発散の場があるんだが興味ない?」
その男は飄々とした様子で瞬太郎に臆することなくそう聞く。
「失せろ。 興味ねぇ」
瞬太郎は男を睨みつけ、足を進めようとする。
「なんでもありの殺し合い、見てみたくない?」
「・・・なんだと?」
瞬太郎はその言葉に足を止め、その男へと顔を向ける。
飄々とした男はにっこりと笑っているが、その表情は何を考えているのかが読めなかった。
「付いてきなよ」
男はそう言い、瞬太郎に背を向けて細い道の陰へと消えていく。
「・・・」
瞬太郎は何も言わずにその男の後に続いた。
何の店かもわからない店と店の間にあるその細い道の先には、下へと降りる階段があった。
飄々とした男と瞬太郎は無言のままその階段を下りていく。
降りた先には看板と扉があり、〈 BAR くぐり 〉と書いてある。
・・・バー?
瞬太郎はなぜバーなのかと一瞬疑問に思ったが、特に気にせず扉をくぐり進む。
カランカランという音と共に入った店内は思ったよりも静かで、血の気に溢れたごろつきが六人ほど酒を嗜んでいる。
そのごろつき達は瞬太郎が視界に入った途端、瞬太郎の事を睨みつけてきた。
飄々とした男はそんな事を気にせずにオーナーらしき人間に一声かける。
「扉、借りるよ?」
飄々とした男のその言葉にオーナーはグラスを拭きながらただ無言で頷く。
周りのごろつきもその言葉を聞いた途端、睨みつけていた目線が卑しい目線に変わり、笑いながら瞬太郎を品定めするように見てきた。
飄々とした男は店内を一直線に横切り、瞬太郎もその後に続く。
店内を通り抜ける際も周りの目線は瞬太郎を舐めるように見てきていた。
飄々とした男はその視線に慣れているかのように気にしていなかった。
店の奥の裏口の前まできて、男は何やら特殊な手口でその扉を開ける。
瞬太郎からは背中で隠れ、何をして開けたのかは見えなかった。
開いた扉の先は洞窟のように暗く、更に下へと続く階段が現れた。
一定の間隔でランプが設置されていて階段を照らしてはいるが、絶妙な暗さの不気味さは拭えていない。
その階段に足を伸ばした所で瞬太郎は口を開く。
「どこまで連れていく気だ?」
「まぁ焦らないでよ。 あと少しだから」
飄々とした男はそれだけ言い、階段を下りていく。
暫く階段を下りた先で、何やら大勢の蛮声が微かに聞こえてくる。
降りれば降りるほどその蛮声は大きくなっていき、階段の先が急に明るくなっているのが見えた。
ワァァアアアア!!!!
歓声とも言い難い汚い声の集合体が瞬太郎の耳を刺激する。
なんだ・・・ここは?
階段をくだった先にはドーム状の空間が広がっていた。
中心には金網で囲まれた六角柱型のフィールドがあり、それを囲むように観客席が一階と二階に分かれている。
飄々とした男と瞬太郎が階段をおりた先は二階の観客席に繋がる道だった。
「ここは地下闘技場。
血気盛んな魔術師同士が命を懸けて戦う闘技場だよ。
魔術師達は戦いの欲求を満たす為に、
周りを囲む観客達は誰が生き残るかを賭けてギャンブルを楽しむ為に」
「想像以上にでかいな・・・」
瞬太郎はその会場を唖然と見渡す。
「今降りてきたバーの裏口以外にも色々な箇所から
この闘技場への道は繋がっているんだけど、
そう簡単には見つけられないようになっている。
ここを知る人間はある程度限られているんだ」
「・・・ここは本当に人を殺しても犯罪じゃないのか?」
瞬太郎は元居た世界の常識が抜けきれない。
殺人が本当に許されているのかどうかが気になった。
飄々とした男は瞬太郎のその問いに丁寧に応じる。
「ルールによっては合法なんだ。
この闘技場はルール別に大会が行われていて、
殺し禁止で相手を戦闘不能にしたら終了のルール、〈パスアウト〉と
殺すまで終わらない何でもありのルール、〈キリング〉という二つのルールがある。
毎週一度行われてるこの大会は、
週によってルールが変わるんだが、今日はキリングの日だ」
飄々とした男は瞬太郎に説明をしながら、見て見ろという目配せをしてきた。
瞬太郎はその目配せに従い、二階から中心にある金網の六角柱を遠目に眺める。
そこには瞬太郎にとって衝撃の光景が映った。
一人は立ったまま片手を上げて雄たけびを上げているが、一人は血まみれで倒れている。
よく見ると右腕がフィールドの端に転がり、血まみれの身体は右腕が無い状態で倒れていた。
それを見た瞬太郎は突如として目を輝かせ、顔が火照り始める。
「ハァ、ハァ」
瞬太郎は呼吸を荒げながらその飛び散った血液を舐めるように見回す。
瞬太郎は家族も含めて誰にも話していなかったが、ヘマトフィリアという一種の精神病を患っていた。
別名は血液嗜好症。
通常の人は血液に不安や嫌悪感を抱くが、この精神病を患っている人は血液を見ると性的興奮を感じる。
元居た世界では生の鮮血を見る機会など早々ないが、瞬太郎は凛に拳で暴力を振るった際についた血で自身を慰めていた事すらあった。
当然、早苗や卓也、舞に見つからないようにだ。
その瞬太郎は今、遠目でみる血液に異常に強く興奮していた。
飄々とした男はその瞬太郎を横目で眺め、フッと笑い、瞬太郎に尋ねる。
「どうだい? この場所は気に入ったかい?」
「あ、あぁ。 すげぇよ」
瞬太郎は問いかけにより興奮から我に帰り、動揺しつつも返事をした。
「ハッ!あんたほど前のめりな人間も珍しいよ。
こちらとしても案内した甲斐があったってもんだ。
見るだけでも十分楽しめるが、一応この大会の参加方法も案内してあげようか?」
「・・・・・・頼む」
瞬太郎は一瞬迷った様子を見せたが、結局案内を頼んだ。
その返事を聞いた飄々とした男はまたフッと笑みを浮かべ、手招きをして歩き出す。
瞬太郎はフィールドに四散している血液にちらちらと視線をやりながらも、はぐれないように男に付いていった。
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