42. 深くなる亀裂
土塊の国に来てからの勇者達は修行の殆どが模擬戦となっていた。
もう教わるべき事は全て教わり、あとは実践あるのみという状況だからだ。
土塊の国は模擬戦をするには適した国だった。
土の魔術によって作られた様々なシチュエーションを想定した模擬戦用のフィールドが多数存在するからである。
本日は市街戦を想定して作られた大規模なフィールドによる模擬戦で、今までのように一対一の模擬戦ではなく四人全員参加の乱闘形式だ。
属性による有利不利なども考慮し、明らかに勝ち目がない場面では途中棄権も了承されている。
四人は四角いフィールドの四隅からスタートし、索敵から始めるという流れだ。
ピエーーーーー!!!
鷹の鳴き声のような音がフィールドに響き渡る。
この音が模擬戦スタートの合図だ。
今日こそ俺が全員を戦闘不能にしてやるぜ。
瞬太郎はそう意気込む。
模擬戦が増えてからどうしても勝ち負けに意識が向いてしまうのが瞬太郎だ。
負けず嫌いの瞬太郎が優勢で進む事はあまり多くない為、瞬太郎は今回で挽回したかった。
瞬太郎はスタートと同時に魔術を発動し、自分の足元の地表を押し上げて市街の屋根の上に乗った。
そのまま屋根の上を渡りながらフィールドの中央へと向けて駆け出していく。
勇者達はクライアとの修行で運動能力がかなり向上していた。
魔術を応用した移動手段も知ってはいたのだが、全員体幹が弱く、バランスが取れなかったり、身体にかかる負荷に耐えられなくて実践では使えなかった。
しかし、今はそんな事はない。
今までのようにただ魔術の力比べをするのではなく、戦闘中も素早く動いて相手を翻弄させる立ち回りを覚えたのだ。
そしてこの市街戦は遮蔽物もあるが故に、よりフィールドを生かした立ち回りが重要となる。
ボォォオオオオ!!
瞬太郎が向かっている方向から見て斜め左奥の離れた距離で炎が巻き起こるのが見えた。
「始まったか! 相手は誰だ?」
ピュゥゥウウウ!!
炎を相殺させるかのように風が舞い上がり、微かに突風の音が聞こえてくる。
「相手は舞か。 俺も参戦してやるぜ」
瞬太郎は方向転換し、戦闘中の卓也と舞の方へ向かう。
向かう途中、瞬太郎は二人に見つからないように一度屋根から地面へと降り立った。
建物の合間を縫ってしばらく道を進んでいくが、途中で違和感に気付く。
「魔術の音が鳴り止んだ?」
瞬太郎が向かい始めて少しの間は炎と風がぶつかり合う音が交互に聞こえていたが、途中からは聞こえなくなっていた。
どっちかがやられたのか?
それともどっちかが逃げた?
まぁどっちでもいいか。 近づけばわかる。
瞬太郎は最初に魔術がぶつかり合った場所近辺に到着し、五階建ての建物内に身を隠した。
階段を上がり、見渡しやすい最上階まで登る。
その最上階で窓枠から身を乗り出して大きい通りを目視で確認した。
もう移動しちまったか?
でも俺が無駄に動いても先に見つかっちまうしな。
先にこっちが見つけられれば不意打ちをかませるし、少し様子を見るか。
瞬太郎はそう思い、窓枠から乗り出していた身体を建物内へと引っ込めようとした時。
「インフィニティ・イグニッション」
五階から身を乗り出していた瞬太郎よりも更に上方向から卓也の声が聞こえた。
同時にパチパチと火花を散らすような音が耳に響く。
まずいと判断した瞬太郎はすぐに建物内へと転がり込もうとする。
バババババッ!!!
バコォォォオオオン!!!
屋上から地上へ向けて小さい爆発が無数に巻き起こりながら下へと落ちていく。
それはまるで巨大な線香花火のようだった。
しかし、線香花火のように儚く綺麗なものではなく大量の地雷が爆発しているかのような危険な花火だ。
それにより建物の窓際の壁が五階から一階まで破壊されていき、一瞬にして建物は半壊状態となった。
瞬太郎は間一髪でその爆発の直撃を避けたが、爆風で吹っ飛び建物の奥の壁に張り付いた。
壁に背中をぶつけた痛みで片目を塞ぎながらも半壊して外が丸見えになった方向に視線をやると、そこには屋上から頭を下に向けて落下してきたのであろう逆さまの卓也がこちらに手の平を向けていた。
その手の平には炎が顕現し始めており、追撃が行われようとしている。
「紅蓮の旋風・インシネレイション・フレイム」
卓也の魔術を防ぐ為に、瞬太郎も即座に防御の魔術を詠唱する。
「鉄壁の布陣・インプレグナブル!」
ほぼ同時に魔術は詠唱された。
ブォォオオオ
瞬太郎を目掛けて一直線に卓也の手の平から炎の渦が近づいてくる。
ドドドドドッ
同時に発動された土の魔術も瞬太郎を包み込むように土壁が形成されていく。
瞬太郎は息を呑みながら眼前に迫る炎を見つめ、防御が間に合うのを願う。
「あぶねえ・・・」
間一髪で瞬太郎の防御は間に合った。
瞬太郎を囲む土壁越しでも炎の熱が伝わってきて汗が流れる。
それは単なる汗なのか、それとも冷や汗なのかは瞬太郎自身もわからなかった。
五階はもう炎に包まれてしまったので、瞬太郎は足元の地面を魔術で破壊し、炎の被害のない四階へと降り立つ。
四階から半壊した方へ向かい、卓也が落下した方の地面を確認する。
するとそこには卓也がこちらを見上げて地上に突っ立っていた。
「やるな瞬太郎! よく防御が間に合ったな!」
卓也はこちらに聞こえるように声を張ってそう言った。
「舐めんなよ・・・」
瞬太郎はその卓也の言葉に見下された感覚を覚える。
まるで実力が上な人間が下の人間を褒めるかのようなその言い方。
いつまでも自分が上だと思ってんなよ・・・。
瞬太郎は卓也の方向に手を向けて構える。
「土槍・ガトリングスピア!!」
四階から土の槍が形成され、地上にいる卓也の方へ雨のように降り注ぐ。
卓也は足の裏に炎を発火させ、身体が少しだけ宙に浮く。
その足を華麗なダンスのように動かし、炎の火力を調整させながら推力でスイスイと移動し始めた。
降り注ぐ槍はその動きをする卓也を捉えられず、地面へと突き刺さっていく。
「ちっ」
瞬太郎は余裕で躱す卓也を見て苛立ちが募り、舌打ちをする。
その直後、瞬太郎から見て卓也の右横から氷の波が押し寄せてきた。
ピキキキキキ!!
凍てつく音と共に地面が勢いよく氷へと変わっていく。
卓也は足元の火力を上げて空へと浮かび上がり、それをも躱した。
瞬太郎はその氷の魔術を見てニヤリと笑った。
ヘッ!良いタイミングで早苗がきた!
氷属性の早苗からしたら相性の悪い炎属性の卓也は先に仕留めたいはず。
ここは暗黙の了解で卓也を二人でやる場面だ!
瞬太郎の視界に右から氷の上を滑り移動する早苗が映り込む。
早苗はまだ瞬太郎に気付いていないようで空中の卓也に目線を置きながら素早く移動していた。
卓也は空中に浮きながらその早苗に向けて手の平を向け始める。
早苗はそれよりも早く片手をだらんと下に降ろした後、思い切り上に手を振り上げた。
ゴゴゴゴゴゴッ!!
すると卓也の真下の地面からユニコーンの角のような氷山が勢いよく上へと立ち昇る。
それは宙に浮く卓也に向けて放たれた凶器の氷だ。
卓也は早苗に向けていた手を、真下に迫る氷山へと向き変えて炎の魔術を放った。
ボオオオオ!!!
プシュウウウウ!!!!
勢いよくぶつかり合った炎と氷山は相殺し合い、周りは一瞬にして水蒸気で一杯になった。
卓也と早苗の戦闘を四階の建物内から眺めていた瞬太郎は真っ白な大量の水蒸気によって視界を奪われた。
くっ!何も見えねぇ!
瞬太郎は腕を振り回して水蒸気を払おうとするが、まるで意味がない。
「結氷・フリーズプリズン」
突如、早苗のその詠唱が目の前から聞こえた。
ピキイイイン!!!
今回ばかりは瞬太郎の防御が間に合わず、足元から這ってきた氷が首下まで登り詰め、瞬太郎の身体は氷漬けにされて身動きが取れなくなった。
畜生、動けねぇ・・・!
てかなんでこいつは俺の位置を、しかも普通は卓也が優先だろうが!
目の前の真っ白な水蒸気に黒い影が映り、近づいてくる足音と共にどんどんと早苗の姿が露わになっていく。
「ふっ。 無様ね。 最初の脱落者はあんたよ」
早苗は瞬太郎にそう言った。
「てめぇは馬鹿か! 属性考えたらてめぇにとっても卓也が最優先だろうが!」
瞬太郎は早苗の立ち回りの意味がわからず怒声を上げる。
「はぁ? 最初から私の狙いはあんたよ?
私は弱い奴から倒していく主義なの。
そもそも私が相性の悪い卓也と真っ向勝負すると思うの?」
「てめぇ・・・!!
誰が弱い奴だと・・くそ女が・・・!
じゃあさっきの卓也との戦闘はなんだったんだよ!!」
「卓也の炎を利用して水蒸気の目くらましをする為よ?
あなたがそこに居るのはそもそも来る途中にわかっていた。
だから目くらましからの奇襲であんたを襲っただけ」
「なん・・・だと!?」
瞬太郎は早苗がそこまで見据えて自分を狙っていた事実を知り何も言えなくなった。
頭の中では悔しさと怒りが混ざり、口で発散しようにも何も言えない自分にすら苛立ち始める。
「じゃあね、最下位さん」
早苗はそう言い残し、再び水蒸気の中へと消えていった。
「クソがっ!!!」
瞬太郎は怒りで目を尖らせながら顔の表情筋を震わせる。
だがその怒りも虚しく、氷漬けのまま一人建物に取り残されたのであった。
なんであいつにあんな言われようしなきゃならねぇんだ!
今までも馬鹿にしてきた事はあったが、今日あいつは一線を越えやがった。
一番弱い奴だと? 舐めやがって・・!!
少しでも気になると思っていただけたら
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