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与えられた禁忌の魔術で復讐を ~凛として咲く仇花~  作者: 一ノ瀬 凪
第二章 邂逅するスノードロップ
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41. カースト上位

~ 土塊の国 ~


 勇者四人は氷壁の国から土塊の国へと渡り、二週間が経過していた。

 土塊の国は特殊な地形をしていて勇者達はよく迷子になっている。

外側から国を眺めると、山を半分削り取ったかのような断崖絶壁に入り組んだ階段が巡らされていて、至る所に穴がある造形をしており、その穴の先は住居であったり、更に奥の空洞に続く道でもあった。

つまり、どの穴がどこに続いているかを把握していないとすぐに迷子になるのだ。

また厄介な事に、この断崖絶壁に沿った形で地底五十メートルはありそうな奈落の穴が下へと続いている。

まるで地平線を中心として上にも下にも五十メートル伸びる山の断面図を見ているかのような造りだ。

当然下に伸びる大きな穴にも階段や橋が巡らされており、多くの穴が空いている。


 人々がどこに住み、どこで商いをしているかと言うと、多くの人間はその絶壁に空いた穴の奥で生活をしている。

外見のみでは穴の中の様子はわからないが、中はかなりの広さの空洞になっており、まるで地下帝国のようだった。

しかし、最初に入る穴を間違えると道が繋がっておらず辿り着けない場所があったりもするので、住み始めの勇者達からすると中々不便である。

一応その穴を囲むような形で地平線上にも通常の建物として作られた宿屋や住居も存在はしているが、その敷地面積はさほど広くない為、殆どの施設や住居は穴の中がメインとなる。


 土の魔術は建造物を制作する分野に適した魔術なので、この国の設計は土塊の国ならではだ。


 王宮も例に漏れず穴の中に造られており、メインとなる大空洞エリアの奥に王宮はそびえ立っていた。

四大国の中でいえば外からの襲撃に対して一番守りが強固な国が土塊の国である。


 そして早苗は事前にクライアから土塊の国についての忠告を受けていたので、極力一人では出歩かない事と、変に国内を探索しない事を徹底していた。

だが早苗はその忠告と、四大国が覇権争いをする可能性がある事を勇者達に共有していなかった。

クライアから秘密にしておくよう言われていたのもあるが、その情報源がクライアで、何故その情報を早苗だけが聞けたのかを掘り下げられたくないという気持ちも強かったからだ。

クライアとの関係性を問われるのは避けたい。


 早苗は常に周りから見た自身の理想像を崩さない事を最優先させている。

その理想が崩れる可能性があるのであれば、早苗は共有しない事を選ぶ人間だった。

覚醒の力があるから万が一でも勇者が死ぬ事はないだろうと高を括っている節もあったが、懸念している点があって言えないという気持ちもある。

むしろその懸念を思い付いてから早苗は言わない事を決定づけた。

それは四大国が不仲で覇権争いが起きる可能性を伝える事によって、四人が国に配属された後の未来に不安を抱いてしまう事だ。

ここまで一緒に旅をしてきた四人が国の意向によって争い合う仲になる可能性がある。

その事実は他の勇者にどのようなインパクトを与えるのか、それを早苗は予想し切れなかった。


 だから早苗は他の勇者の心配をして言わないを選んだ、という訳ではない。

早苗は根本的に人のことを心の底からは信用していない。

それは共に長い時間を過ごしてきた勇者達だとしてもそうだ。

早苗が本当に懸念していた点は勇者達にその情報を伝えた時に、不安に駆られた三人の誰かが自分の国が有利に運ぶように先手を打ってくる可能性を考えたからだ。

 早苗の中で舞はその可能性は低いと考えていたが、卓也に対してはその可能性を捨てきれないと考えていた。

瞬太郎に関しては大いにあり得るとまで思っており、それは瞬太郎の性格と今までの関係性によって導き出された結論だ。


 瞬太郎は常に目立ちたがる。

誰よりも強くありたいという願望が強く、誰かに指示される事や、誰かの下でいる事を嫌う。

瞬太郎がこのグループに混ざったのは、全校生徒二百名前後の学校内でこのグループが一番目立つ集団だったからだ。

だがこの世界に召喚され、四人のみとなった勇者としての中でみれば、一番頭が悪くて能力が低いのが瞬太郎である。

唯一秀でているのはイカれた思想とイカれた度胸くらいのもので、その二つは頭が悪いからこそ得る事ができた要素でもある。

早苗はその瞬太郎のイカれた行動や人のいじめ方が気に入っており、グループに混ぜていた。

早苗は自分でいじめるのも好きだが、誰かにいじめられている人の姿を眺めるのも好きだった。

その点でいえば、早苗がいじめというイベントをより楽しむ為に瞬太郎は必要な要素だったのだ。


 だが早苗にとっての瞬太郎はそれだけの男である。

いじめというイベントが無ければ瞬太郎はただの馬鹿でイカれた奴だ。

早苗はそんな瞬太郎をことあるごとに見下し、馬鹿にしてきた。

それはこの世界にきてからもそうだ。

同じ勇者という対等の立場だったとしても、あくまでも早苗が上、瞬太郎は下という関係性は早苗にとっても大切だった。

『こんな馬鹿と一緒にされて堪るか』内心はそう思っているのだ。


 その態度を今ままで露骨に示してきた。

瞬太郎と話が合う訳がないと分かり切っているし、そもそもまともな会話ができる相手だと思っていない。

早苗の中ではストレスを吐き出す一つの手段として瞬太郎をコケにするくらいでしか瞬太郎の活かし方を見出せていないのだ。


 それに対して瞬太郎が憤りを感じているのも劣等感を抱いているのも早苗は知っている。

それでいいと思っていたし、早苗はそう思わせたかった。

元居た世界でスクールカースト上位だったこのグループは、今は異世界に放り出された勇者四人組。

この四人の中でも早苗はカースト上位で居続ける事を潜在的に意識している。


 一国に属した勇者がどれほどの権力があるのかは分からない。

だが権力があるとするならば間違いなく戦争の火種になるのは土塊の国に配属される瞬太郎の可能性が高い。

劣等感を感じていた瞬太郎が、自分が遂に一番になれる機会が訪れたと国盗り合戦を引き起こす可能性。

早苗はそれを感じていた。

だからこそこの情報は早苗の胸の中に締まっていたのだ。


 当然クライアの言っていた通り杞憂に終わる可能性もある。

むしろ勇者という要素がなければ杞憂に終わったのかもしれない。

だが早苗や瞬太郎という劇薬が放り込まれる事により、それは杞憂ではなくなる。

早苗は自分の事もわかっているからこそそう思っていた。

仮に瞬太郎に喧嘩を売られたならば、早苗は間違いなく完膚なきまでに叩きのめすつもりでその喧嘩を買う。


 早苗は頭の中でそこまで考えて、起きてもいない未来の瞬太郎に対して苛立ちが沸き上がってきた。


「むかつく。 絶対に先手は打たせない」

 早苗は昼か夜かもわからない大空洞の宮殿の自室で、拳を握りながら一人呟いた。





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