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与えられた禁忌の魔術で復讐を ~凛として咲く仇花~  作者: 一ノ瀬 凪
第二章 邂逅するスノードロップ
40/67

40. 未熟で甘美な夜


シャーーーー

キュッ


「ふぅ」

 クライアは頭を拭きながらシャワー室から出る。

その鋼のような肉体には水滴が滴り、煌びやかに筋肉が光る。


さっとバスローブを身に纏い、氷の魔術で作られた冷蔵用の魔道具から水の入ったボトルを取り出す。

ボトルの蓋を開けて乾いた喉に冷えた水を流し込み、喉を唸らせる。


コンコンッ


クライアの部屋をノックする音が聞こえる。


「・・・どうぞ」

クライアは少し間を空けて返事をした。

それは扉の向こうにいる人間が誰なのかを察しているようだった。


キイィ


扉から現れたのは黒いキャミソールにホットパンツ姿の湊早苗だった。


「・・・また眠れないんですか?」

 クライアは水のボトルをテーブルに置きつつ、早苗に背中を向けながら言う。


「あの魔物に襲われて以降、あなたがいないと本当に眠れないの」

 早苗はいつの間にかクライアへの敬語はなくなり、親密な関係になっている。

鳥型の魔物との戦闘をしてからというもの、眠れないという決まり文句を言い草にクライアの部屋に入り浸っていたからだ。


 もうあの戦闘から一カ月は経過している。

クライアはいよいよこの毎夜の来訪に困り果てていた。


「そうはいっても、勇者様は一月後にはもう土塊の国へ向かう事になるんです。

 そろそろ克服しなければなりませんよ」


 相変わらず早苗の方へは目もくれず、まるで興味がないのを示しているかのようにクライアは話しをする。


「わかってるわ。

 でもこの国にいる内はお願いだからそばに居て欲しいの」


 クライアに好意を持ち始めた早苗は積極的だった。

あわよくば手を出してほしいと言わんばかりに日を重ねるごとに服装は薄くなり、今夜は胸の谷間が覗ける姿でクライアの部屋にきている。


「勇者様のご所望とあらば私も無下にはできませんが、

 毎回この調子では困ってしまいます」


 クライアはバスローブを脱ぎ捨てて、畳んである品のあるルームウェアを手に取る。


 早苗はクライアのその束の間の後ろ姿に目線が釘付けになる。

美しい逆三角形を描く屈強な背筋を焼き付けるように見つめた。

早苗は軽い興奮により目の縁をぽっと赤らめる。


 クライアはその早苗の目線を背中で軽く察してはいるものの、気にも留めずルームウェアに着替え終えた。


「では私はもう眠りにつきますので」

 クライアは豪華なキングサイズのベッドに移動し、ベッドの右端に静かに横たわる。


 早苗はクライアの寝ているベッドの右端と逆側から腰かけ、話しを切り出す。


「私は勇者だけど、その前に一人の女よ?

 毎夜部屋に来ている私に、少しくらい興味を示してもいいんじゃないかしら?」


 早苗は腰かけたベッドの上で、膝の上に置いた手をぎゅっと握り締めた。


「・・・・」

 クライアは無言のまま動かない。


「ねえ、何で何も言わないの?

 なにか言ってくれても――――


「私とて十七の男です。

 何も感じない訳がないじゃないですか」


「え?」

 早苗は意外な言葉が返ってきたことに驚き、思わず振り返る。


「でもいけない事なのです。

 私は王族の息子、王子です。

 そしてあなたは世界を救う勇者。

 勇者様に邪な気持ちで手を出した王子など、

 民がついてくるはずもありません。

 私は立場を考えて行動するように心掛けているだけです」


「・・・ふーん。ご立派なお考えね。

 なら一つ聞きたいのだけれど、

 その立場抜きで考えたらどうなるの?」

 

 早苗はクライアの本音を初めて聞き、自分に興味がない訳じゃないとわかり心の中で歓喜する。

調子に乗った早苗は、そのまま駆け引きを楽しむように、意地の悪い質問を投げかけた。


「・・・それはわかりませんが、

 あなたは十分に魅力的な女性です」


 その言葉を聞いた早苗は、ベッドに横たわり、クライアの背中へとすり寄っていく。


「・・・・!」

 クライアは一瞬ピクッと身体を動かす。

早苗がクライアの背中に触れたからだ。

指先で背中を上から下にゆっくりと摩るように触れていく。


クライアは今まで早苗から触れてこられた事は無かった為、油断していた。

そしてクライアとて思春期の男。

どうすればいいかわからず、早苗の成されるがままになる。


「・・・ハァ」

 早苗の甘美な吐息がクライアの首筋をくすぐる。

そして早苗の指先はクライアの前へと周り、ルームウェアのボタンに手がかかる。


スルッ スルッ


 器用な早苗の左手によって、ボタンは意図も簡単に外されていく。

クライアは恥じらいも慎みも忘れはじめ、それをただ固まって受け入れる。


バッ!


 全てのボタンを外され、クライアは左肩を引き倒されて天井を見上げさせられる。

裸の上半身が露わになった仰向けのクライアの上に、早苗の身体がゆっくりと跨っていく。

クライアは息を呑みながらそれを見つめ、本能的に期待の表情を浮かべてしまう。

窓から差し込む月明りが左側の肩紐がずれた早苗のキャミソール姿を照らした。

目に映る胸元まではだけた早苗の美しい艶肌にクライアは身体の奥が疼くのを感じる。


 そのクライアのうぶな反応を見た早苗は、嬉々とした表情でクライアの右手を掴む。

その右手をゆっくりと自分の胸元へと持っていき、柔らかな肌に触れさせる。


 クライアは恍惚とした目で、自身の右手のその先を見つめ、その柔らかな感触が何に触れているかをのぼせた頭で認識する。

触れているものが何なのかを認識すればするほど、右手に意識が集中していき、自制が効かなくなっていくのを感じた。

クライアの男としての本能が、その触れただけでわかる柔らかい肌が、どれほど柔らかいものなのかを確かめろと指示を出してくる。

心の中で理性が駄目だと繰り返すが無情にも身体は本能のままに動き、指が微かに握るように動いた。

クライアの五本の指が柔肌へと沈んでいき、脳内が赤子に戻りそうになる。


 早苗は目を瞑り、左胸に触れているクライアの手に意識を集中させていた。

その手がクライアの意志で動かされるのを今か今かと待ち侘びていたのだ。

そして遂にその手の指が動いた瞬間、今まで抑えてきた欲求の熱が噴火する火山のように込み上げ、思わずなまめかしい声を漏らす。


「んっ・・・」


 クライアの耳に響く早苗の艶声は、男の理性を崩壊させるのには十分な色気を含んでいた。

しかしそれは、王子として育ち、女性との経験が皆無だったクライアにとっては、未知の領域へ踏み込んだ恐怖を抱かせる声でもあった。

このまま先へと進んだ場合、どうなってしまうのか。

そういう恐怖が、クライアの欲望に支配されていた脳を一時的に冷静にさせる。


「いけません・・・!」


 クライアは顔を横に背けながら上半身を起こし、馬乗りだった早苗を優しく横へと降ろした。

早苗は眉をハの字ににして疑問を浮かべた表情を浮かべる。


「どうして?」

 早苗はここまできて止められないという気持ちで率直な疑問を問いかける。

早苗の経験上、この段階まできて次に進まないという事が今まであり得なかったからだ。


「・・・これ以上は、駄目です。

 早苗様のお気持ちに応えられないのは謝罪します。

 申し訳ございません」


 クライアは十代の純粋な好奇心と興奮を押し殺して、苦しそうにそう言った。


「私に恥をかかせるというの・・・?」


 早苗は自分に魅力が無かったのかと言わんばかりの悲しい表情を浮かべる。

クライアはその早苗の表情を見て、胸が軋むような痛みを覚えた。

この言葉はクライアの次の言葉の選択肢を困らせるのに十分な効力を発揮する。

クライアは早苗の気持ちを無下にはしたくなかった。

なぜなら


「・・・ではこうしましょう。

 勇者様が無事魔物を討伐し、早苗様が我が国にいらっしゃった時、

 その時には今夜の続きを・・・」


 クライアは頬を赤らめながら、横にずらしていた目線を早苗の瞳に合わせてそう言う。


「・・・!」

 早苗は感極まり、瞳を輝かせながらクライアの首へと腕を回す。


「約束よ」

 クライアの耳元で紅潮した顔の早苗はそう囁く。


「本来お伝えするべきでは無いのですが、

 大切なあなたへお伝えしたい事がございます」


 クライアは先ほどまでとは違う、憂いを帯びた表情でそう切り出す。

早苗はクライアの様子が変わったのを察して、クライアの肩の上に乗せていた顔をクライアの正面に戻して不安そうに問いかける。


「なに・・・?」

 

「四大国は友好関係のように見えるかも知れませんが、

 決してそんな事はありません・・・。

 今まで目に見える争いこそ無かったものの、

 裏側では覇権争いが行われていました。

 今は魔物という共通の危険因子が存在しているが故に、

 連合を組んでいるだけなのです。

 魔物討伐さえ済んでしまえば、

 それぞれの国は虎視眈々とこの世界の統一を目論みだすでしょう。

 勇者様が魔物を討伐した後に、四大国それぞれに配属される理由も

 一国に戦力が偏らないようにする為・・・。

 かくゆう私の母上、アンデル女王も・・・」


 クライアはそこまで言うと、悔しさに耐えるように唇を噛みしめる。

 早苗は話された内容以上にクライアの事が心配な様子で困惑の表情をしていた。


「・・・いえ、これはもしかしたら杞憂かも知れません。

 魔物討伐で団結した四大国が手を取り合う可能性もございます」


 クライアはまるで考えたくないかのように天井を見上げてそう言った後、早苗の方に顔を向き直す。


「ただ、次修行に向かわれる国、土塊の国には注意して下さい。

 四大国の中で一番治安が悪く、格差が大きい国です。

 気性の荒い連中が多いので、極力逆撫でない方が身の為です。

 一番関わらない方がいいのは

 富豪層がギャンブルとして楽しむ地下闘技場の関係者です。

 噂で聞いた程度ですが、殺人欲求のある魔術師が

 唯一合法的に人を殺していい場所になっているとか・・・」


「殺人が合法なの・・・?」

 早苗は元々の常識では考えられない話の内容に得心のいかないような顔をする。


「あくまで噂ですが、私は確信しています。

 なので・・・どうかお気を付けください」


 クライアは妄想に近い恐れを抱いており、憂慮に堪えない様子でそう言った。


「・・・話には驚いたけど、

 それ以上に今は心配してくれた事が何よりも嬉しいわ。

 でも私は勇者よ。 

 あなたに今夜の続きをお預けされたまま死ぬ訳にはいかないわ!」

 

 クライアへ抱く恋心が、早苗の生き抜く意志を強くさせた。

その強い意志が言葉尻の語気の強さに滲み出ている。


「フッ」

 その早苗を見て、クライアは思わず鼻で笑ってしまう。

クライアが想像していた以上に早苗は強い女だった。

その強さが垣間見えたその発言で、クライアは早苗の事をより知りたくなる。

性的な欲求から始まった早苗に対しての曖昧な恋しさが、早苗の性格に対しての純粋な興味も混ざり合い、その恋しさは恋心へと昇華し始めるのであった。


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※2023/6/19~ 上記曜日に変更してます。


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