39. 相談はディナーと共に
凛はナギに告げられた時間の十分前に中央広場に到着していた。
ここに初めて訪れた時からもうそろそろ一年が経つんだ。
あの時は見知らぬ場所のここに一人で来て、あの掲示板の前に立ったっけ。
最初に目指したのが紹介所で良かったなぁ。
あの時ダンさんに出会わなかったらどうなっていたんだろう。
元の世界とは何もかもが違うこの景色が新鮮に感じていたのが懐かしい。
そしてこの世界に放り出され孤独だった時の気持ちももう懐かしく思える。
ルカさんに全部話して気持ちが晴れた今は、また違った角度で頭が整理できそう。
昨日はなんだかんだ話せて良かったのかも知れない。
「お待たせ!」
ぼーっと景色を眺めていた凛にナギは駆け寄り、声を掛けた。
「ナギちゃんお疲れ様! 今日はどこに行くの?」
凛はナギを労い、首を傾げながら今日の予定を聞く。
「美味しそうなご飯屋さんを最近見つけちゃってさ!
凛と行こうと思って!」
「えー!やったー!
今日お昼食べてなかったからお腹ペコペコ!」
お腹を摩りながらそう言った凛は、ナギの案内についていく。
ナギちゃんとこうして出掛けるのはいつ振りだろう。
前はずっと修行に付き合って貰ってたから一緒の時間が一番多かったけれど、今は住んでるところが同じとはいえ出掛けたりはしていなかったなぁ。
一緒に住んでからは本当に家族同然みたいな感覚もあって、なんだか不思議な気分。
「着いたわ!」
ナギのその声でお店の入り口に目を移す。
率直な感想で言うと凄い入りにくいタイプの入り口だった。
秘密基地の入り口かのような地下へと続く階段が見える。
その先は薄暗く、地下の先がどうなってるかが伺えない。
看板も申し訳なさそうなくらい主張が弱いので、ナギちゃんはこの店を良く見つけたなと思う。
「いくよ凛!」
固まっていた私にナギは入りにくさなど微塵も感じていないような様子で私の腕を取る。
私は引っ張られるがままに地下へと降りていく。
降りた先には木製の扉が半開きになっており、店の内観が少し覗くことができた。
想像よりもずっと内観は上品そうなお店で、ほんのりとスパイスの香りが鼻をくすぐる。
「いらっしゃいませ」
落ち着いた声の店員に案内されて二人は半個室のような席につき、ナギはメニューを手に取りながら話し出す。
「ここはね、パールっていう料理が有名なんだってさ。
ちょっと前にカレンさんにお勧めされたから一度来てみたかったの」
凛はパールという聞き馴染みのない料理名にどんな料理なんだろうと頭を働かす。
さっき香ったスパイスの匂いからするとインド系の料理が頭に浮かぶ。
二人はそのパールなるものを注文し、暫く他愛もない話をあれやこれやと駄弁った。
程なくしてパールが運ばれてきて、凛は瞬時に察した。
あ・・・やっぱりそうだ・・・。
運ばれてきたのは元の世界でいうカレーだった。
元の世界ではライスやナンがセットで出てきたが、この世界ではこんがり焼かれた鶏肉が一緒にでてきて、これはこれでアリだなと凛は思う。
「わぁー!!すごい美味しそう!
ボリュームもあって良いわね!!」
ナギは初めて見るカレー、この世界でいうパールに目を輝かせている。
二人はスプーンを手に取り、カレーの中に沈めて一口目を口へと運ぶ。
「美味しい!ちょっとピリっとした辛さが癖になりそうね!」
ナギはパールを気に入った様子だった。
凛は元の世界で食べ馴染みのある味に別の意味で感動していた。
久々にカレーなんて食べた・・・。
すごい懐かしい味に感じるなぁ。
「この料理さ、元の世界でもカレーっていう名前であったんだ。
何か凄い懐かしい気持ちになっちゃった。 このお店に来れて良かった」
「そうだったんだ!!
凛の元の世界って本当に料理の種類多いわね」
二人はパール味わいながらレビューを言い交えていき、会話が一旦落ち着いた頃にナギが本題を切り出す。
「今日凛を誘おうと思ったのはね、
このお店に一緒に来たかったっていうのもあるんだけど、
最近凛が元気なさそうに見えたからさ、
ウチで良ければ力になれないかなって思ったの」
ナギは珍しくちょっと緊張した様子でそう言った。
凛は、ナギが対人関係における人の本音に踏み込んだ話を引き出すのが苦手なのを知っていた。
幼い頃から年上で男性のダンについてきたナギは、同い年との距離感や、同性との距離感にも躊躇が無かった。
良くも悪くもオープンだったナギだからこそ、聞かれなくない事がある人の気持ちの理解度が低かったのだ。
昔にそれをダンに怒られた経緯があり、ナギは苦手意識がつき、人に踏み込んだ話を聞いてもいいかは今も躊躇していた。
だからこそ、きっと今回も勇気をもって誘ってくれたのが伝わってくる。
凛にとってはそれが何よりも嬉しかった。
「心配かけちゃってごめんね。
悩んでるのは本当で、今が私の今後の分岐点な気がしてて・・・。
一から話すとね、―――
凛は勇気を出して歩み寄ってくれたナギに応えたいと思い、凛もまた、勇気を出して話し始めた。
―――っていう所でぐるぐるループしちゃってさ・・・」
あらかた話し終えて、凛はナギの反応を伺う。
「・・・きっと凛にとってはどっちも大切なんでしょ?
ウチらと居る事も、復讐をする事も」
「・・・うん。
元々は私の生きている意味なんて復讐の為でしかなかったから、
それを捨ててしまうと過去の自分を否定してしまうというか、
今まで堪えてきたいじめの全てを
自分が損した状態で受け入れる事になるというか。
それはそれで許せないって思っちゃうんだよね。
でも勿論、みんなと居る事が何よりも幸せだし、満たされてるって思う。
だからどちらかを取らないといけないのが凄くストレスで・・・」
「じゃあさ、どっちも取っちゃおうよ」
「え!?」
ナギの突飛な提案に凛は思わず聞き返す。
だがナギは至って真剣な表情だった。
「どっちも取れる方法を一緒に探すの。
ウチが凛の頭の中を一回整理してあげるから良く聞きなさい!」
「あ、うん・・・」
「まず、ウチらと一緒に居ると能力が使えないんでしょ?
これは問題にならないわ!
大体最強のウチがいる限り、凛が能力使えなくたって構わないもん!」
「なっ・・・」
凛はナギのその発言に複雑な気持ちになる。
凛に足手まといの感覚を与えない為の気遣いの言葉というのは分かる。
だがまるで今までも役に立ってないよと捉えられてもおかしくない言葉の棘を感じ、凛は少し傷ついた。
「そして復讐の件だけど、ウチらと一緒に居たとしてもさ、
復讐したい相手を目の前にしたら覚醒できるんじゃないかな?」
ナギのその発言で、凛はどっちも取れる方法が腑に落ちた。
ナギちゃんの言う通りだ・・・。
言われてみればそうだよ。 なんで思いつかなかったんだろう。
私が勝手に皆を守れるように今も覚醒できるようにしておきたいとか、
皆の足を引っ張りたくないとか、色んな所に考えが派生し過ぎてた。
そのせいで自分に酔って極端な二択で考えてしまっていただけだ。
「確かにそう・・!」
凛は雲から顔をだす太陽のようにみるみる明るい表情となり、そう言った。
「脳みそスッキリした?」
ナギはニヤついた表情で自慢げにそう言いながら首を傾げる。
凛はそのちょっと生意気な表情も子供みたいで可愛いと思った。
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その日の夜、凛は意を決してルカの部屋の前に立っていた。
コンコンッ
「はいよー!」
ノックした扉の向こうからルカの声が聞こえてくる。
ガチャッ
「・・・凛っ!」
ルカは想像していなかった来訪者に驚きの表情を浮かべる。
「ルカさん、ちょっとお話いいですか・・・?」
もじもじした凛の上目遣いにルカは一瞬心を奪われる。
「おっけい!ちょっと待ってな!」
ルカはそう言うと扉を一度閉じ、顔をパンっと叩き、緩みそうになった表情を引き締め直して再び扉を開ける。
「どうぞ!」
ルカがそう言い、凛は話し始める。
「すぐ終わる話なんですけど・・・
この間ルカさんに相談した件なんですが、
今日ナギちゃんにもお話しして、自分の中で方向が定まりました」
「そうか。 どうするんだ?」
ルカは返ってくる返答が復讐だった場合どうするかを思考する。
「・・・どっちも叶えるつもりでいこうと思います!
きっと力はまともに使えない日々が続くと思うんですが、
それでも私はここに居たいです。
それで復讐についても、私の生きる一つの目的として追い続けます。
勇者達と対面したら、きっと復讐の気持ちも膨れ上がるって
ナギちゃんに言われて、確かにそうかもって思いました。
もし覚醒できなくても、それはそれで復讐の気持ちがなくなるくらいに
私は幸せになれているっていう証拠にもなりますし!
ただ・・・異端解放団の活動に力になれない事が
多くなってしまうと思うので、それは先に伝えておこうと思って」
そう言う凛の表情は、以前よりも明るい表情に感じられた。
そんな凛に、ルカは明るく返す。
「強欲だな! だがいいと思う!
俺達は凛の黒魔術があって欲しいと思ってるんじゃない。
ただ凛という一人の人間に居て欲しいだけだ。
だから気に病まず、ずっと異端解放団に居てくれ!」
ルカはニカッと綺麗な歯を見せて笑った。
「はいっ!」
凛も同じ様に笑い、全ての心の曇りが晴れたような表情を浮かべた。
ルカは心の中でとても安心した。
覚醒出来ない場合は凛が幸せな証拠。
その言葉にルカも納得がいき、ルカが凛に今後どうしてあげればいいかの道を示す言葉だった。
ある意味凛だけは、異端の力を捨てて普通の少女として生きる選択ができる子だ。
ルカは異端者の生き辛さを知っているからこそ、凛は普通の少女として生きて欲しいと思った。
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