37. 生き方の方向性
「入るぞー」
ギィ
ルカは木製の扉を開け、至る所に散らばる本の山を避けながら部屋の中へと進む。
目線を床から前へと向き直し、真剣な表情をしながら虫眼鏡を覗くキースに声を掛ける。
「キース、研究の方はどうだ?」
「あぁ!ルカさん!いらしてたんですね!!
急に声かけられたらビックリしちゃうじゃないですか!」
キースは肩がビクリと上がり、震えた声でそう言った。
「お前なぁ、俺は入るぞーって声かけてからきたぞ・・・」
研究に夢中になりすぎるキースにルカは呆れた表情を浮かべる。
「で?どうなんよ」
「えーっと薬の方は分析にもう少し時間がかかりそうですが、
大枠の仕組みはわかりまして、ちょっと簡単に説明しますね」
「おお!聞かせてくれ」
「この薬は人体の魔力経路を強制的に活性化させる薬でした。
魔術を扱えない人でも魔力経路は存在するので、
そこが刺激されて魔力が増幅し、一時的に魔術が使用可能になるようです。
ただ、通常の血液循環などに使われているリソースが魔力経路に割かれるので
使用後は極度の貧血状態に陥り、立ち眩みや息切れなどが起きるようです。
連続で長時間使用したら命にも危険が及びますね・・・。
逆に魔術が扱える人体の場合は元々魔力量が多い為、
増幅と同時に濃縮という作用が働くみたいです。
それにより魔術の形態に変化が起きて、異端能力に繋がるみたいですね。
ただやはり異端能力自体には謎が深いのでまだまだ研究が必要です」
「ちゃんと成果でてるねー、良い感じ良い感じ!
引き続き頼むぜ!」
ルカはキースの肩をぽんぽんと叩きながらそう言った。
「他の皆さんはどうですか?」
キースは研究室に一人籠りっきりで他のメンバーと関わる事が一番少ないので、ルカからの話で活動の進捗を把握している。
「他のメンバーも大体順調かな。
まずは――――
サキから言うと、属性の理解度が高いナギに修行をつけてもらってるんだが、彼女はセンスが良いな。
魔術云々以上に戦闘のセンスが良くて、勘が鋭い。
あのナギを相手にあそこまで戦闘を続けられるのは中々の逸材だ。
魔術の方も炎と氷、それぞれの属性で扱える魔術もだいぶ増えたし、今は複合させた異端魔術の修行中って感じだな。
ダンは魔獣遠征用の装備の調達を仕事に復帰したカレンさんと一緒に進行してもらってて、まだ調達には日数が必要みたいだけど、二カ月もあれば完了するとか言ってたかな。
ほんで新たなメンバーの勧誘活動は一人ヒットして、その子は今度また紹介するわ!」
「わかりました!
ちなみに・・・凛さんはどうですか・・?」
キースは心配した様子でルカに聞く。
「凛は、まだちょっとスランプが続いているな・・・」
ルカは目線を下に落とし、沈んだ声でそう呟いた。
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「はぁ。やっぱり弱くなってる・・・」
凛はロイドとの戦いが始まった時に覚醒が出来なかったのを悔やんでいた。
自分のせいでルカを危険に晒してしまったからこそ、最近はずっと訓練に励んでいたのだが、覚醒はできても以前より力は弱くなっており、沈んだ表情の日々が続いている。
ルカさんが傷つけられた時はあんなにも力を発揮できたのに・・・。
ただ凛は、何故力が弱くなっているかの理由に薄々気付いていた。
しかし、それを受け入れた場合にどうすればいいかがわからないからこそ、悩んでいたのだ。
きっと、私の中の優先順位が変わったからだ・・・。
凛は自分の心情の変化に気付いていた。
元々は勇者達に復讐する事を第一優先で生きていたが、異端解放団のメンバーと過ごす内に、仲間とずっと一緒に居たい気持ち、仲間を守りたい気持ち、今ままで存在しなかった感情が凛の中に生まれている事に。
そしてこの仲間に対する気持ちが大きくなればなるほど、憎しみの気持ち、復讐の気持ちが薄れている事に。
それは凛にとって決してマイナスな事では無く、プラスの要素でもあった。
暖かい仲間を持つこと、異端解放団というグループに所属していること、その居心地の良さは、空っぽだった凛の心の隙間を綺麗に埋めてくれた。
だが、この満たされた心に伴って着実に黒魔術の力は弱くなっていた。
決して憎しみの気持ちが無くなった訳ではなく、復讐する決意が揺らいだ訳でもない。
ただ憎しみに満ちた黒一色だった感情のパレッドに、様々な色の絵具が垂らされ、混ざり合っただけなのだ。
凛は、力を取り戻す為に必要な事を頭の中では理解していた。
それは、仲間から離れ、孤独になる事。
復讐に自ら囚われにいき、再び感情のパレッドを黒一色に染め上げる事だ。
しかし、凛はその決断をしたくなかった。
初めて心の底から分かり合えた仲間から離れたくなかった。
だがそれは今後、自分が戦力じゃ無くなる事を意味した。
凛は戦力じゃ無くなったとしても、皆が受け入れてくれるのはわかっている。
だが、今までの人生で誰にも必要とされなかった凛が、初めて必要とされるきっかけになったのは間違いなく禁忌の力のおかげだ。
アジト潰しの作戦で、頼りにしてもらえたのが嬉しかった。
異端解放団というパズルのピースとして、自分の存在価値を大きく感じれた。
でも、戦力じゃ無くなる事によって自分が小さいピースになるのも辛い。
凛はずっとこの思考のループに囚われ、悩み苦しんでいた。
「凛、いま大丈夫か?」
思考の海に沈んでいた凛に突如声が聞こえ、凛はバッと振り返る。
「あっ、ルカさん・・・」
「なんだか悩んでるみたいだから、話くらい聞かせてもらえないかなって」
ルカは凛の事を誰よりも心配していた。
ここ最近の凛の表情を見る度に心臓が締め付けられ、ルカもまた苦しかった。
だがあの日以降、凛とどう接すればいいのかがわからなくなり足踏みしていたのだ。
そのルカにとって、この一声は意を決した一言だった。
「心配かけてごめんなさい」
凛はこの悩みを話してしまおうか迷った。
話すとなれば目的としていた復讐の全貌も話すことになり、それに対し嫌悪感を抱かれないだろうかという不安もあったからだ。
まだ皆に勇者を殺すつもりでいる事までは話していない。
復讐の道に進む自分の人生を想像し、変に悲しい気持ちが湧いてくる。
その湧き上がる悲しみと同時に、誰かに聞いて欲しくてたまらない気持ちが喉元の声帯をくすぐる。
凛にとってこの悩みを一人で抱えるのは重荷過ぎた。
「実は―――
考えより先に口が動いた。 もう止められない。
凛は吐き出すように先ほどまで考えていた全てを話し始める。
その話は、頭で整理されていないのがわかるほどに順序がぐちゃぐちゃだった。
とても感情的で、思いついた言葉が脳というフィルターを介さずにそのまま口に出ているような曝け出た言葉だ。
途中、凛の瞳から涙が溢れる。 凛はそれでも構うことなく話を続ける。
その瞳はルカを捉える事もなく、何の景色も捉えていないように見えた。
ルカはそれを悲愴な面持ちになりながら黙って見守った。
―――うぅ・・うっ・・」
全てを吐き出した凛は自分でも何故泣いているのかを理解していないまま涙を流し続ける。
ギュッ!
「・・・!!」
ルカはそんな凛を見て、我慢ならずに凛を強く抱き締めた。
凛は目を見開き、心の動揺と同時に鼓動が一瞬跳ね上がる。
「大丈夫だ・・・何も心配いらない。
凛がどうなろうとも俺達は凛の味方だ。
力が使えなくなってもいい。
それでも復讐したければ俺が代わりにやってやる」
ルカは悲しげに当惑しきった顔をしながらも、凛の心を救う為に一心不乱で言葉を並べる。
凛はその言葉で、涙がとめどなく溢れ出す。
「うっ・・うわあああぁぁああん」
ルカの胸あたりの服を両手で強く握り、おでこをルカの胸につけながら凛は喚き泣いた。
「一人で抱え込まなくていい。 何でも話して欲しい。
気を遣わないでいいし、ありのままで居て欲しい。
全てを受け入れる許容を俺達は持ち合わせてるから。
俺達はそういう異端グループだろ?」
ルカは凛の頭を優しく撫でながら、優しい声でそう言った。
そのまま時間はゆっくりと流れる。
凛の泣き声が少し遠くに聞こえた。
凛の力の源は復讐心・・・。 とても哀しい力だ。
その力が完全に無くなる時が凛の新たな人生の始まりになる。
だが本当は復讐なんてさせたくない。 その先はきっと何もない虚無だ。
復讐を忘れさせるくらいに俺達が凛を幸せにするのが本当の最善の選択・・・。
今のままでいい。 今の時間が長く続けばいい。 誰も死なせない。
少しでも気になると思っていただけたら
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