36. それぞれの思う事
ナギが北のアジトに到着した頃には、ルカは健やかに眠り、凛はその近くでルカを優しく見守っていた。
そしてその奥にはトランプが俯きながら落ち込んだ様子で座り込んでいるのが見える。
「凛!ルカ!!」
ナギは二人の方に駆け寄り、怪我がないかを確認する。
ルカは凛の膝をまくらにして心地よさそうに寝ており、とりあえずは大丈夫そうと判断する。
凛は外傷はないものの、相当疲弊している様子で今にも意識が飛びそうな表情をしていた。
「・・頑張ったんだね」
そんな凛をナギは優しく抱きしめ、凛はそのまま流れるように眠りについてしまった。
ナギは眠る凛とルカを眺め、今回の戦いについての事を考える。
・・・正直仲間の誰かが死ぬ可能性なんて頭の片隅にも置いていなかった。
だがナギは疲れ果てている二人を見て、その可能性もあったんだなと実感する。
その実感と共に、恐ろしさと安堵の両方の気持ちがグラデーションのように込み上がった。
「・・本当に生きてて良かった」
ナギはそう呟き、トランプの方に視線を向ける。
「はぁ・・」
トランプは溜息をしながら自身の頭を抱えていた。
ナギはこの場所で何があったのかが気になり、トランプの方へ歩み寄る。
「一体・・・なにがあったの?」
ナギは気まずそうにトランプに声を掛けた。
「・・・すまん。
今は一人にさせてくれないか。
何があったのかはまた話す」
トランプは力のない声でそう言い、顔も上げようとしない。
「・・・うん」
ナギは精神的に衰弱しているトランプを見て、それ以外の言葉が思いつかなかった。
ナギは振り返り、ルカと凛の方へと戻る。
とりあえず二人をアジトまで連れて帰らなきゃ。
ナギは風の魔術を用いて二人の身体をブワッと優しく浮かせ、外へと向かう。
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トランザ・・・すまない。
ナギが二人を連れて行った後、トランプは人形となった息子を一人眺める。
トランザの顔に手を伸ばし、瞼をそっと撫でるように触れて目を閉ざさせる。
そのまま頬に手の平を当て、涙でぼやけた視界でトランザを見つめる。
手の平から伝わるトランザの顔の温度は恐ろしく冷たく、嫌でも生きていない事を思い知らされる。
今まで・・こんな風に触れてやる事もできずにすまなかった。
街を守れても、息子一人守れない親じゃあ駄目だよな・・・。
トランプはトランザの背中に繋がる管を外していく。
全ての管を外し終えたトランプは、管の元を辿って椅子の後ろへと回り込み、奥へと進んだ。
「これか」
管を辿った先で、例の薬の開発装置が姿を現した。
今はもう稼働はしていない様子だが、完成された大量の薬が付近に陳列されている。
辿ってきた管は大きな水槽のような所に繋がれており、水槽の中身は大量の薬の液体が溜まっている。
トランザの背中に繋がれていた管はこの装置で作られた薬の一部をトランザに流し込む事によって、トランザを死んでもなお雷の流れる身体にしていたのだろう。
トランプは装置に向けて腕を伸ばし唱える。
「デトロイト・ライトニング」
雷鳴が轟き、装置は呆気なく破壊された。
至る所から火花が散り始め、黒煙が上がるのをトランプは眺める。
ただその行為によってトランプの鬱憤が晴れる事はなかった。
トランプはその後、通信機でカレンに装置を破壊した事のみを報告し、トランザの事は伏せて通信を終えた。
それはカレンにどう伝えれば良いかがわからないトランプなりの配慮だった。
身体を改造され、今まで人形として利用されていた事を伝えるのはあまりにも酷すぎる。
とはいえトランザと再会させないのは違うという気持ちが強かったトランプは、トランザを抱えて哀しい足取りで自分の本拠地へと向かうことにした。
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ナギに助けられたダンとサキは、ナギが戦闘を終えたのを確認したのち、西のアジトを後にしていた。
二人は負傷している上にサキは魔力も底を尽きかけていた為、アジトに戻る道中だ。
ダンは負傷したサキを背負い、まだ眠りについている薄明に照らされたウィズダムの道を歩く。
「腹はまだ痛むか?」
ダンはジェイドに蹴られた腹部を心配し、サキに声をかける。
「痛みはもう慣れてきたから平気だ。
それよりダンさんこそ、切り傷が・・・」
ダンの全身には風の魔術によってできた切り傷が無数にできていた。
傷口こそ浅いものの見た目的にはかなり痛々しく、サキは心配になる。
なによりもこの傷が自分を庇って出来た傷なのだから尚更だ。
「ああこれか。
元々俺は傷跡が多いから少し増えても変わらん。
それにこの程度の傷なら数日経てば元に戻るさ」
「・・・さっきは庇ってくれてありがと」
「あぁ、友達に再会するまで怪我させるわけにはいかんからな」
サキは申し訳ないという気持ちと心が暖かくなる気持ちが混ぜ合わさり、反射的にダンの大きい背中に顔をうずめる。
父親がいる感覚ってのは・・・こんな感じなんかな。
なんでも甘えさせてくれそうなでっけぇ背中が心地いい。
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ハウンドドッグとの戦いはリーダーこそ取り逃したものの、アジトは全て潰し、薬の開発装置も無事破壊する事が出来た。
これは後から知った話だが、世界で異端能力の暴発事件が多発していた原因の一つはこの薬だった。
流通した薬が一般の魔術師の手に渡り、それを使った魔術師が異端能力を暴発させていたのだ。
異端者が軽蔑され、迫害されるようになった一因を作ったハウンドドッグは間違いなく異端解放団の目的と相反する組織だった。
既に世界に流通してしまった薬がどれほど残っているかはわからないが、根本の装置がなくなった今、時間の経過と共に異端騒ぎは落ち着きを見せるだろう。
この功績が世界の歴史として刻まれる事はないのかも知れない。
だが確かに、影ながら世界を良い方向へと導く一端を担ったのは異端解放団である。
そしてウィズダムを導いてきたトランプとカレンも間違いなく貢献者だ。
だが二人にとっては、知りたくもなかった悲しい事実を知るきっかけとなった戦いとなり、トランザの弔い合戦となった。
キースからトランザの最期を聞いた二人は、喚くように泣き続けた。
翌日、目を腫れさせて疲れ果てている二人の様子を見て、仕事をできる状態ではないと判断した異端解放団は代わりに二人の仕事を行った。
今まで忙しない時間を過ごしてきたトランプとカレンにとってはいつ振りかわからない休息の時間となった。
二人はその時間を、トランザを土葬し、墓を立て、弔う時間とした。
「ウィズダムを守る事を言い訳に、息子と向き合わなかった。
時間を作らなかった。 そんな俺にすら感謝の言葉を伝えようとした息子を誇りに思う」
「私の方が一緒に居た時間は多かったけれど、でも結局父親のあなたに憧れてたんじゃない?
私こそ、あの子の事を理解してあげられなかったと後悔していたわ。
だからこそ、キース君から聞いた話で私も救われた・・・」
「それは俺もそうだ。
彼の話を聞けて良かった。
異端解放団へも感謝しなければな」
「そうね」
二人はトランザの墓の前で手を合わせながらそう言う。
「だが、まだ一つやらなければならん事がある」
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現代で禁忌の黒魔術を扱う少女か~気になり過ぎちゃうなぁ~。
あの力を見せられた僕はもう彼女の虜になってしまったよ!
黒魔術の研究ができれば、僕はまた新たな境地に行き着ける!
だがしかし、あの凶悪で強力な魔術に対抗できると思う程、僕は自惚れてはいない。
確実にあのサンプルを手にする方法はやっぱりこれしかないかな~。
まあハウンドドッグでやりたい事はあらかた終えたし、
一旦この時代とおさらばしてもいっか!
黒魔術を扱う少女、凛。
次君と出会えるのを心から楽しみにしているよ。
少しでも気になると思っていただけたら
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