33. トランプとカレンの過去
『カレン。東のアジトはもぬけの殻だった。
薬の開発装置も存在しない。他のアジトはどうだ』
「二人とも西と北にそれぞれ向かって!
二つのアジトでそれぞれ交戦中!!
おそらくボスは北のアジトよ!」
『了解した!』
ブツッ
トランプからの通信を終え、カレンは一息つく。
その姿を後ろから眺めるキースは先ほどまでの会話で疑問に思った事がどうしても気になり、つい言葉に出してしまう。
「カレンさん・・・。
差し支えなければなんですが
トランザさんとどういう関係だったのか
・・教えていただけないですか?」
カレンは大きくため息をつく。
ああやってしまった。
絶対話したくない内容の反応だ・・。
僕はなんてデリカシーの無い人間なんだ・・。
「トランザの事を話してもらう側だし、
私も話さないとフェアじゃないわよね」
カレンは諦めたかのようにそう言う。
「トランザは・・・・私とトランプの息子よ・・」
キースは驚きと同時に何て事を聞いてしまったのだろうと自分の発言に後悔する。
最低だ・・。僕は最低で最悪な事を話させてしまった。
それでいて僕にはどんなフォローをかけるべきかの引き出しも持ち合わせていない・・。
目線を伏せて小刻みにあたふたしているキースを見て、カレンもまた申し訳ないという感情に見舞われる。
「なんて事のない話だと思って聞き流してくれていいわ。
私も話すだけで少し楽になるかもしれない」
カレンはそう言って、語り出す。
私はね、生まれは土塊の国出身だった。
だけど、あなた位の年齢の頃に、父親の意向で国を出る事になったの。
理由は確か、国内の法が気に入らないとか、治安が悪いから私が心配とか言ってたかな。
確かに幼い私でもわかる位には荒れていた気がするわ。
それで私達が目指したのがウィズダムだった。
当時のウィズダムはまだ今ほどは街っぽくなくて少し不格好な集落だったけれど、人は暖かくて賑やかだったわ。
そこで私達を案内してくれたのがまだ少年のトランプだった。
トランプは不器用ながらも私達親子の生活をサポートしてくれたの。
一週間おきくらいには顔を出してくれて、何か困ったことがないか聞いてくれたわ。
今だから言えるけど、その時からもうお互い意識していたと思う。
ある日を境に、私もトランプの仕事を手伝うようになった。
ウィズダムに訪れる人達のサポートを彼と一緒に行ったわ。
そこからはとんとん拍子で私達の関係は進んでいった。
そして私が十八歳の頃、トランザを妊娠したの。
私とトランプはとても喜んだわ。
でも・・その時の私達にはその子を育てる事に対しての責任の考え方が甘かった。
けれどその時は幸せの絶頂だったから、根拠もなく何とかなると思っていたの。
トランザが生まれてからは私は子育てに重きを置いたわ。
その分、トランプには仕事に集中してもらう形で生活していた。
ただ、当時のウィズダムは急速に発展をしていたからトランプの仕事はかなり忙しくなっていて、トランザと遊んだり、関わったりする時間は中々作れない期間が続いた。
きっとトランザは寂しかったと思う。
それからウィズダムが今くらいの規模を成して程なくした頃、トランプの両親、アトラスさんとペトラさんが亡くなったの。
トランプの両親はウィズダムの治安を支えていた要だった。
二人の死は私達だけでなく、ウィズダムにとっても痛手だった。
それ以降は息子であるトランプの仕事は当然増えていったわ。
・・・でも彼は人付き合いに関しては不器用で、ウィズダム内の経済を回すのは重荷だった。
それで私は彼を助ける為に仕事に復帰して、いまでいう仕事紹介所を立ち上げる事になったわ。
そして人付き合いの苦手なトランプは異端の力による抑圧で治安維持活動を始めた。
でも、私が仕事に回ったとしても大きくなったウィズダムを二人で回すのは本当に多忙を極めた。
それに伴ってトランザとの時間はより無くなっていったの。
そしていつの日からかトランザはトランプの治安維持活動の真似事で、ウィズダム内の不良達と喧嘩しては怪我をする毎日を繰り返すようになった。
トランザはきっと私達の輪に入りたかったんだと思う。
私は心配で「辞めて」と伝えたけれど、親父みたいにウィズダムを良くする為だって。
聞き入れてはくれなかった。
トランプにも相談したんだけど、彼は彼で息子が自分みたいになりたいって言ってることに対して鼻を高くするだけで、止めようとはしなかった。
まぁ彼がそもそもコミュニケーションが苦手なのを知ってるから別に期待はしてなかったんだけどね。
それからも一人の時間がほとんどだったトランザはいつの間にか独自に異端能力を扱えるようになっていて、その能力は父親のトランプと同じ能力、雷の魔術だった。
トランプは自分の息子が同じ能力に目覚めた事に嬉しそうにしていたけれど、私は異端者となった息子が心配で複雑な気持ちだった。
だから私は、その魔術を絶対に人に見せてはならないと念を押して伝えたわ。
でもある日、トランザはついに不良に向けて魔術を使ってしまったの。
そしてその一件以来、トランザに対する周りの目線は一気に冷たくなった。
気を病んだトランザは引きこもりになり、なぜ街の為に活動していた自分がこんな扱いを受けなければならないのかと、不満を漏らしながら悩みに悩んでいた。
そこからは部屋でひたすら書物を読み漁り、ノートに何かを書いて過ごしていた時期が続いた。
私もノートの内容を覗き見たけど、異端者がなぜ忌み嫌われるのか、その歴史を辿り、自分の異端の魔術を研究しているようだったわ。
私達はそんな状態のトランザにすら中々時間を割く事ができなかった。
トランプは家にすら帰らず、私は深夜に帰宅する日々で会話なんてほとんどせずに、食べるものを用意してあげるだけ。
そしてある日の深夜、トランザが部屋にいなくなっていた。
戻ってくると信じたかったけれど、次の日もその次の日もトランザが家に戻ってくることはなかった。
私は心配して紹介所の情報網で情報を集めることにした。
それから数日が経過し、集めた断片的な情報から推測するに、トランプと同じ活動を本格的に一人で行っているようだった。
ウィズダムの治安をおびやかす犯罪者を裏側で懲らしめる。
そういう日々を、たった一人でね・・。
そんな危険な活動をしている息子を止めたかった。
そしてある日、私はトランザがいる場所を突き止めたわ。
「危ないことはもう辞めて家に戻りなさい!」
私はそう訴えかけた。
でも欲しい回答は帰ってこなかった。
「もう子供じゃない。俺は一人でやるべき事をやる」
その言葉だけ残してトランザは去っていった。
なぜそういう考えに至ったのかは私達にはわからなかった。
でも一つ理解できたのは、トランザの事を私達は理解してあげれなかったという事だけ。
それ以降も私達はトランザを探したけれど、見つけるのは敵わなかった。
ただ、ウィズダムの犯罪者を取り締まってる人がいるという情報はちょくちょく流れてきていたから、それを聞く度に生きているとわかり安堵したわ。
けれど、七年前からその噂すら耳に届かなくなった。
「七年前・・!!」
キースは自分がトランザに救われた時期が七年前なのに気づき、カレンの話がそのまま自分の話に繋がるのに気づいた・・。
「私は親として全然息子と向き合えなかった事を後悔してるの。
もっと多くの時間を使ってあげれれば良かったって。
きっと私達の事を恨んでるはずよ・・・」
カレンはそう言い、暗い表情で下を向く。
キースはその姿を見て、この場面での話の引き出しが自分の中に生まれるのに気づく。
「・・・でも・・・トランザさんは最期に・・
両親に感謝くらい伝えたかったって
そう言っていたので、親の愛情は伝わっていたと思います」
キースは優しい声で、トランザの最期の言葉を伝えた。
それを聞いたカレンの脳内に、幼い息子との日々が蘇る。
「・・・うっ・・うっ・・・ううう」
カレンはトランザの最期の言葉で救われたかのように長年蓄積させていた涙をとめどなく流し、咽び泣いた。
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