32. 人の痛み
ズシャアァ!!
凛の目の前に血しぶきが舞い上がる。
だがそれは、死を感じた凛の血しぶきではなかった。
凛は何が起きたかわからず、呆然とした表情のまま身体が何かの圧力によって倒されていく。
ドサァァ・・・
凛の身体が地面へと倒れる。
地面へと倒れた時に初めて気づいた。
自分の身体に覆いかぶさる何かの重さに。
凛は視線を自分の身体へと向け、やっと脳の処理が追いつく。
あ・・・あぁ・・・。
凛の身体の上には、背中から血を流し倒れるルカがいた。
「・・・リン」
凛に覆い被さるルカは、虚ろな目で凛を見つめながらか細い声でそう言った。
ルカは凛が切られる瞬間、ソルの魔術で瞬時に凛を庇ったのだ。
やべぇ、まずった。
背中が・・・・・熱い。
・・・意識が・・・遠のく・・・。
「ルカさん・・・!!ルカさんっ!!!」
凛はルカの身体を揺さぶり、無我夢中で必死に声をかける。
お願い。
死なないで・・・!!
お願い・・・!!!
しかし、ルカはそれ以上なにも言う事はなかった。
嫌・・・嫌・・・・
「嫌ああぁぁああぁぁああああ!!!!!」
私のせいだ。
私が力を覚醒できなかったから。
こんな事って・・・。
「フンッ、餓鬼が夢見て無謀な理想を掲げるからそうなる。
あっけなく無様な最期だったな」
ロイドは戦斧に付着したルカの血を眺めながらつまらなそうな顔でそう吐き捨てた。
凛はその言葉にピクリと反応する。
凛の頭の中でルカと初めて出会った日にこの世界の事を教えてくれて、自分の夢を語る時に熱くなっていたルカが、脳裏にフラッシュバックした。
―――――――――――――――――――――――
俺は"異端者"の受け皿となる何かを造りたい・・・!
"異端者"でも普通の幸せを傍受できる世界を造りたいんだ!
かつての四神教教祖のように!それが俺の夢だ!!
―――――――――――――――――――――――
こいつ・・・許さない・・・
絶対に・・・絶対に殺すッ!!!
ブワッッ!!!!
凛は突如覚醒し、身体に大量のオーラが舞い上がる。
その異変に気付いたロイドは視線を凛に移し、固まった表情でそれを見つめた。
なんだこいつ・・・急に殺気が・・・。
空気が・・・震えている。
ロイドは凛のオーラに危険を感じ、一旦距離を置く為に後ろへと下がった。
凛の怒りで震える背中の上で緑と黒のオーラは、徐々に大きな骸骨の頭の形へと顕現していく。
何だ、あれは・・・。
シャァアアアア!!!!!!
ロイドの脳内に骸骨の威嚇するかのような叫び声が流れた。
一瞬で全身に鳥肌がそびえ立ち、冷や汗が流れる。
何だ今の声は・・・物理的な声ではない。
あの凄まじい殺気による幻聴?
遊んでいる場合ではない・・・本気で臨まねば。
ロイドの視線を釘付けにしている凛は、ルカをそっと地面に寝かせ、俯きながらゆっくりと屍のように立ち上がる。
「殺す・・・殺す・・・殺す・・・」
凛はブツブツと呟きながら顔を上げ、ロイドを視界に捉える。
ロイドはその瞳を見ただけで身体が震えた。
こちらを見ているようでどこを見ているかわからないような漆黒の瞳。
瞳孔が開いているなどという生易しい表現では表せない程にその瞳は闇を抱えていた。
明らかに異質だ。
これではまるで、『黒魔術師』ではないか・・・!
・・・だが、あの小僧がくたばったおかげで私も魔術を発動できる。
そして、薬のストックも・・・!!
「燃え上がる怨念・ダークネス・ゴースト」
凛の背中に浮かび上がっていたオーラで形成された骸骨が宙へと伸び、段々と巨大な上半身を形成していく。
凛はオーラの中心でただ立ち尽くしているが、骸骨は凛をあばら骨で守るように形成される。
骸骨は復讐の念で燃え上がるようにメラメラとどす黒い緑色に発光しており、それはまるで怨念のように感じられた。
そしてその骸骨のオーラから透ける形で、凛はロイドをただ真っ直ぐと見つめる。
「ぐっ・・・ガトリングスピアー!!!」
ロイドは狼狽えた様子を見せたが、直後に土の魔術を発動する。
足元の地面から大きな土の槍が次々と形成されていき、凛に向かって勢いよく飛んでいく。
ブウン ブウン ブウン ブウン ブウン
何本も放たれた土の槍は骸骨に当たる寸前、突如として顕現する深淵のような暗黒の円環に吸い込まれ、暗黒の円環と共に消えていく。
こいつ・・・魔術がまるで効かない。
くっ・・・・・使いたくなかったが。
「・・・仕方ない」
ロイドは諦めがついたかのように、薬を懐から取り出し、躊躇せずに打ち込んだ。
「ぐっ・・・うぅ・・・
うおおおおおおおおおお!!!!!」
ロイドは唸り声を轟かせて上着を破り捨てる。
全身の血管が赤く発光しており、筋肉も増加しているように見えた。
「これを打ち込むと・・・冷静さに欠けてしまうから
使いたくなかったが・・・仕方ねえよなああああ!!!!」
ロイドがそう叫んだ直後、ロイドの身体のパーツがそれぞれ膨れ上がる。
そして右腕からはみるみると様々な種類の肌色の剣が湧き出てくる。
それはまるでダンの異端能力と酷似していた。
右腕だけ圧倒的な凶器と化したロイドは涎を垂らしながら凛を睨みつける。
凛はそのロイドの様子に全く動じず、冷酷で漆黒な瞳でただひたすら見つめ続ける。
「フンッ!!」
ロイドは片足で地面を踏みつける。
すると地面が絨毯のように隆起しロイドを乗せた。
ズズズズッ
地面から伸び続ける蛇の舌のような地表は、ロイドを乗せて凛の周りを飛び回るようにするすると素早く動く。
魔術が吸い込まれるならあの骸骨のオーラの中に突っ込み、本体のあの女を直接叩く・・!!
ロイドは飛び回りながら隙を伺う。
凛は飛び回るロイドにもはや見向きもしていなかった。
ロイドはそれを確認し、凛の背後の死角に回り込んだ瞬間凛の方へと飛び降りる。
死ね・・・!!!
ガッ!!
飛び降りたロイドは大きな骸骨の手に呆気なく握られた。
なっ!!・・・速いっ!!
しかも完全に死角から飛び降りたはずなのに・・・!
この骸骨自体に意識でもあるのか!?
いやそもそもこのオーラで出来た骸骨の身体に実体があるのがおかしい・・・!
どす黒い緑のオーラで出来た骸骨は、凛の魔術のダークマターハンドで補強されており、骸骨の手だけは暗黒物質で実体化されていた。
こんなのもはや魔術じゃねえ・・・バケモンだ・・・。
ぐぐぐぐぐっ
骸骨の手は膨張した鋼のようなロイドの筋肉を容赦なく握り締めていく。
くっ・・・苦しい・・・・。
この俺の強化された身体なのに、
このバケモンの握力に・・・勝て・・・ない・・・!
骸骨の手はロイドを握り締めながら
主である凛の目の前にロイドを持ってくる。
「ヒッ・・・」
ロイドは漆黒の瞳の凛と目が合った。
その凛の表情は目は笑っていないのに口元は恐ろしいくらいに口角が上がっており、人が苦しむのを心底楽しむ悪魔の表情をしていた。
その顔を見た瞬間、ロイドは自身でも驚くくらいに情けない声を上げ、完全に戦意を喪失する。
「や・・・やめてくれ・・・」
ロイドは脊髄反射で懇願した。
しかし凛は笑顔のまま、ただ苦しむロイドを見つめる。
「嫌だ・・・やめろ・・・見るな・・・」
ロイドは握られている痛みや苦しみ以上に、凛のあの笑顔に見つめられ続けるのが恐怖で仕方がなかった。
ロイドの目からは涙が零れ、鼻からも水が垂れ、瞳はぐるぐると泳ぐが、凛の目線に引き寄せられるように釘付けになってしまう。
「やだぁァァああぁぁあああーー!!!!」
遂にロイドは正気を保てなくなり、子供のように泣き喚き始めた。
凛はそれを狂気的な笑顔で楽しむように眺めていた。
ダダダダッズサァ
凛とルカが歩いてきた道のりからトランプが姿を現す。
「なんだ・・・あれは・・・!」
トランプは状況が掴めず、ただ禍々しい骸骨を見上げて茫然と立ち尽くす。
「・・・どれが・・・敵だ・・・」
少しでも気になると思っていただけたら
ブックマークと評価をお願いします!
それが作者にとっては大変励みになります!
お手数でなければ感想やレビューもいただけると非常に嬉しいです!
投稿頻度を週四回で行っています!
投稿する曜日〈 月、火、水、木 〉
※2023/6/19~ 上記曜日に変更してます。




