3. 加害者は勇者として
凛は死地から生還した反動からか、高揚した状態でひとしきり復讐の妄想をした後冷静になり、覚醒も解けていた。
「どうしよう・・・」
まずは、自分の安全を確保しなきゃいけない。
でも今は崖の下の森の中だし、地理も不明な上に生きていると知られれば追われる可能性もある。
凛は今置かれている状況を整理し、絶望的状況は変わっていない事を認識する。
どうすればいいかの手が浮かばない。
さっきまでは覚醒した力で何でも出来る気がしたのに・・・。
・・・あれ、でもどうやって力を発動するんだろう。
凛はしばらく先程までの出来事を頭の中で振り返る。
落下した時に考えていた死に抗う気持ちか、それとも四人に復讐するという決意なのか、あるいは両方か。
振り返る中で凛は覚醒している時に心の中を満たしていたのは何なのかを思い出す。
・・・・復讐の気持ちがトリガーかも!!
「なら・・・!!」
凛は憎い気持ちを思い出すのを試みる。
早苗、卓也、舞、瞬太郎・・・・・。
凛は今まで四人に受けてきたいじめのワンシーンワンシーンを脳内で再生していき、気持ちを高ぶらせる。
数々のいじめを受けてきた凛からすれば憎い気持ちを高ぶらせる事など容易いことだった。
ブワッ!!
そして凛の身体は再び覚醒状態に入り、緑と黒のオーラを身体に纏う。
「凄い・・・なにをすべきかがわかる、最善の手が頭に浮かぶ」
凛はオーラに包まれた自分の身体を見つめながら驚愕する。
「よし・・・」
凛は頭の中で浮かんだイメージに従い、衛兵の死体の前まで進んで両手で印を結ぶ。
「返り咲く仇花・ストレンジ・アンデッド」
凛がそう唱えると衛兵の死体はピクリと動き、糸で引っ張られた操り人形のように立ち上がった。
この能力は屍の使役、死体をゾンビのように蘇らせて操る能力である。
「衛兵さん、あなたは今から私の奴隷ね?」
凛がそう言うと、屍はぎこちなく口を開く。
「・・・・承知いたしました」
操られた衛兵は生前の声色とは全く違う淡々とした声で答えた。
凛はまず地理を把握したいと考え、衛兵に指示を出す。
「私の質問にすべて答えてね。
まず今いる場所の説明と、最短で行ける町を教えて」
凛の命令に従い、衛兵は機械のように話し始めて所持していた地図も見せてくれた。
どうやら蘇らせた死体の生前の記憶や能力は引き継がれるようだ。
衛兵の話によると、現在は、四大国のおよそ中央にあたる太古の遺跡がある地点で召喚が行われたみたいだ。
凛はその遺跡の付近の崖から落とされた事になる。
さっきまでの話だと四大国にはあいつら四人組が
どこかしらの国に配置されるみたいだから
今は四大国には変に入国しない方が良さそう・・・。
関門もあるだろうし、身分を偽装できないと危険すぎる。
となると・・・外れにある街の方が都合がいい。
「地図上にあるこの小規模の国は安全なの?」
凛は、地図上の黄色く塗られた囲いを指さして衛兵に問う。
「それはまだ国ではない未承認国家です」
「・・・というと?」
「四属性に基づいた四大国以外は基本的に正式な国として認められておらず、
様々な理由で国を離れた人々の集落となっております。
領土の狭さや人口の少なさ、統制が取り切れていない等が
特徴の中規模の街になります」
凛はあまり良く理解ができず、怪訝そうに顔をしかめる。
・・・よくわからないけど、
そういう街であれば比較的身を潜めやすそう。
「現在地から近い方に案内して」
「承知いたしました。
では北の方角に位置するウィズダムにご案内致します」
凛はウィズダムという名前だけ覚え、とりあえずゾンビの衛兵についていくことにした。
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一方その頃、太古の遺跡では側近の男に適正調査の案内をされていた。
「では、勇者様の能力の適正に合わせ、どの国に所属するかを決めていきましょう」
「どうすれば能力がわかるの?」
早苗は腕を組みながら聞く。
「こちらに潜在能力がわかる水晶がございますので、
それをしばらくの間、触れてみてください」
側近にそう案内され、四人は順番に真っ白な水晶を触れることにする。
卓也が最初に歩いていき、興味深く水晶を眺めながら恐る恐る手を置いた。
「・・・これでいいのか?」
卓也は少し不安になりながらそう呟く。
すると水晶は球体の中で勢いよく渦を巻き始め、やがて燃えるような赤に変色していく。
「卓也様は炎の適正ですな」
側近のその言葉を聞き、卓也は水晶の中の炎の渦を瞳に反射させながら呟く。
「俺は炎か。悪くないな」
続いて早苗も水晶へと近づいていく。
「次は私ね」
早苗は卓也を見て勝手がわかった後だからか、特に恐れる事もなく軽々しく水晶へと触れる。
球体の中は徐々に凍てつくような動きを見せ、青白く変色した。
聞くまでもなく氷の適正というのがわかる。
「・・・なんか微妙ね」
早苗はそう吐き捨て後ろへ下がる。
次は瞬太郎の番だ。
「俺は色んな適正があって虹色になったりしてな!」
瞬太郎はそんな冗談を言いながらウキウキした様子で水晶に触れた。
球体の中は砂嵐のように吹き荒れ、段々と濁りながら茶色と黄土色を混ぜたような色に変化する。
それを見た早苗は堪え切れなかったかのようにクスっと笑い出す。
「フフッ! 瞬太郎にお似合いな汚い色になってるじゃん!」
瞬太郎は早苗のその言葉に眉間をピクっとさせ、怒号を上げる。
「・・・黙れっ!」
機嫌を悪くしながら去った瞬太郎の適正は土の魔術となった。
最後は舞の番だが変色する水晶に不気味さを感じているのか、嫌そうな顔で近づいていく。
「皆よく怖がりもせずに触れるね・・・。
私は触れるのすらちょっと抵抗あるんだけど・・・」
舞は顔を逸らしながら水晶に手を伸ばし、ゆっくりと触れていく。
すると球体の中は草原のような鮮やかな緑が映り、そよ風が吹かれたかのように揺らめいていた。
思った以上に美しく変化する水晶の中を見て、逸らしていた顔は徐々に水晶へと傾いていく。
「・・・・綺麗」
舞は思わずポツリと呟く。
球体の景色に目を奪われている舞は、風の魔術の適正となった。
「では最終的な各国への配属はこれで決まりですな」
側近がそう言うと、舞がすかさず発言をする。
「あたし達はこの後すぐバラバラに配属されるんですか?」
その声は震えており、不安な様子が伺えた。
「いえいえ、最終的にはですので、
少なくとも数年間は一緒に行動することになると思いますよ」
舞はほっと胸をなでおろした。
その質問のついでかのように卓也は口を開く。
「ちなみに魔術はどんな種類があるんでしょうか」
卓也は魔術というものに興味津々の様子だ。
「基本はその四属性のみになります。一部例外はございますが・・・」
側近はバツの悪そうな顔で少し言い淀む。
「例外とはなんですか?」
卓也はすかさず追及した。
「・・伝えておきますと、近年四属性に該当しない
謎の魔術の事件が各地で起き、被害が出ておりまして
それがそもそも魔術なのかどうかも不明でございますし
四属性以外の魔術は我々の信仰する神の力ではございません。
民から不安の声も上がっていた為、
その者達を"異端者"と総称し、国外追放にしております。
それによって現在はそのような事件も減りましたが
勇者様もそのような"異端者"に出会いましたらご注意ください」
早苗は魔物以外にも危険があるという事を知り、少し驚いたような顔をして独り言のように呟く。
「そういう物騒な事件もあるのね」
「また、余談ですが"黒魔術"というものも存在していたそうです。
ただ現状使える人物も確認されておりませんし、
どうすれば扱えるのかも解明されておりません。
その魔術は "禁忌の魔術"とされてまして、
大変危険な魔術だったと聞きます。
当時、その危険な力は民を恐怖に陥れ、
闇の力などと呼称され、国としては危険人物として処分命令を下したほどです。
しかし、あまりの強さで殺すまでは至れず、消息不明という結末でした。
とはいえ、その後は黒魔術がこの世に現れる事はなく今に至るので問題はないかと」
黒魔術というワードが瞬太郎の興味を惹いたようで、瞬太郎は笑みを浮かべながら相槌を入れる。
「へー! 何か強そうでいいな」
瞬太郎が能天気な様子でそう言うと、側近は少し苦い表情を浮かべる。
「瞬太郎様ご冗談を・・・」
側近は瞬太郎の発言に少し嫌悪感を感じた様子だ。
「瞬太郎、冗談はよせ。それで俺たちはこれからどうすればいいんです?」
卓也は空気を察し、話を逸らすために話題を切り替え、質問する。
「卓也様は話が早くて助かりますな~、
皆さんにはそれぞれ魔族や魔獣を討伐する為の力をつけていただく必要があります。
その為、それぞれの国を100日毎に巡回し、修行をしていただきます」
瞬太郎はまた水を差すように会話に入り込んでくる。
「合宿みたいでいいじゃんかよ!」
卓也は気にしないでくれと言わんばかりに側近に目で合図し、話を続けさせた。
「・・・勇者様は潜在能力が大変お高いので、
それだけ修行をつければ相当な実力を身につけれるはずです。
修行を終えたのちは、各国の魔術師軍を率いていただき、
魔獣の討伐に向かっていただく所存でございます。
まずは炎威の国からですので、本日は四大国連盟は解散し、
炎威軍引率の元、炎威の国へお向かい下さい」
舞は自分が戦うイメージが付かな過ぎて震えていた。
そして恐る恐る手を上げて質問をする。
「・・・ちなみに魔獣の討伐は行かなきゃダメなんですか?」
舞の不安を感じ取り、側近は舞の方へを身体を向けて回答する。
「ふむ。ご安心ください。覚醒を体感いただければ
ご自身の実力が理解できるかと思いますので、
その判断はそれからでも遅くはないかと。
また、過去予言書が外れたことはございませんので
あなた方の力で平和になることは我々が保証しましょう」
「・・わかりました」
舞は納得がいっていなさそうな声で返事をした。
話の区切りがついた所で、黒羽凛の処分に向かった衛兵の一人が駆け戻った。
「ハア、ハア、報告します!奴隷の処分の際に奴隷が暴れだし、私と同行した者が
道連れとなり、崖に落下してしまいました・・・」
「なんと・・・奴隷めにしてやられたか。
処分は無事完了したのか?」
「あの崖の高さなので、まず生きてはいないかと」
「ふむ。なら問題はないか。
殉職した衛兵に敬意を示そう。下がってよい。」
「ハッ!」
「勇者の皆様、お騒がせしました。それでは炎威の国へ
ご案内いたしますので、こちらへどうぞ」
綺麗な白い髭を生やし、装飾された橙色のローブを纏った男は勇者一同を馬車まで先導してくれた。
その移動中、舞は小声で卓也に問いかける。
「卓也・・・凛死んじゃったけど流石にやばくない?」
その質問に対して瞬太郎と早苗も反応し、卓也に目を向ける
「その方がリスクが減る。もしあいつも予言通りに覚醒できた場合、
力は俺たち相当になる可能性もあるし、恨みで殺しに来るかもしれない」
卓也は自分達の身の安全の為に凛を陥れた。
「さすが、卓也の言う通りね。
でもまあ覚醒した四人でいじめるのもアリだったわ」
早苗は不敵な笑みを浮かべてそう吐き捨てる。
瞬太郎はそのやり取りに関係なく、ただこの状況を楽しんでるように声を出す。
「これから結構面白くなりそうだな~!」
だが一人だけ舞は不安そうな表情を浮かべていた。
「こんな状況で良くそんなに冷静でいられたねー・・・。
あたしはまだ全然頭が状況についていけてないよお」
舞はまだこの異世界と今の状況にパニックな様子だった。
むしろそれは当然の感覚で他三人が異常なのかもしれない。
かくしてこのいじめ加害者四人組も、正義の勇者として壮大な魔獣退治の旅を始める事となる。
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