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与えられた禁忌の魔術で復讐を ~凛として咲く仇花~  作者: 一ノ瀬 凪
第一章 異世界で芽を出すクロユリ
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11. 玉風の国での出会い

- 玉風の国 -


 勇者達は炎威の国での修行を終え、玉風の国に到着していた。

その玉風の国の中で一番高くそびえたつ王族の宮殿の最上階で、瞬太郎は両手を広げて気持ちよさそうに風を浴びる。


「炎威の国は暑くて毎日汗ダラダラだったけど

 玉風の国は涼しくて快適だなー!」


 早苗は瞬太郎とは違い、ロングの黒髪が風で乱れ鬱陶しそうにしている。


「どこが? この国はこの国で髪が乱れるから嫌だわ」

 

瞬太郎の発言に早苗は冷たく返した。


 この地域は非常に風が強い為、国境は高い壁や自然の丘などを利用して囲まれており、なるべく街に風が吹かないようになっている。

 


「言ってくれれば俺の土の魔術で風除け作ってやるよ!」


 瞬太郎は炎威の国での修行の終わり際に覚醒し、遂に土の魔術を扱えるようになっていた。


「覚醒してからあんた良く喋るようになったわね。

 うるさいからもう少し黙っててくれない?」


 早苗は瞬太郎の高いテンションに苛立っている様子だ。


「・・・・」


 そんな中、まだ一人覚醒できていない舞は一人で縮こまって座っていた。

卓也は舞の肩を優しく叩き、励ます言葉をかけり。


「舞、そんなに落ち込むな。

 人にはペースってもんがあるからな。焦らずやっていこう」


「・・・うん・・・ありがと」


 舞は力のない声で返事をする。


「勇者様、お待たせいたしました。

 本日の訓練は終了になります。

 明日から二日間は休養となりますので、この機会にぜひ玉風の国をご観光ください。

 また、観光の際にお使いできる支援金をそれぞれお渡しします。

 あとこの国内で危険なエリアもございますので

 近づいてはいけない場所のご説明も併せてさせていただきます。

 それでは一度宮殿に戻りましょう」


 玉風の国の訓練官にそう説明され、四人は宮殿へと戻る。


 舞は観光用のお小遣いを受け取った後、部屋に戻る三人とは別にそのまま外を散歩する事にした。

街の煌びやかさ、先を行く三人を一瞬だけ忘れたい。

舞は人気が無く半月だけが道を照らす丘の道を行く。


「・・・・はあ」


 あたしが勇者でいる意味あるのかな。

覚醒できるかもわからないし、足引っ張ってばっかだし。

皆はどんどん強くなってるのにあたしだけ・・・。

流石に自己肯定感下がるよ。

生きてるのが本当にしんどい・・・。


 舞は夜道を一人うつむいて歩き、意気消沈していた。


 コツ・・・コツ・・・。

 人影のない通りにゆっくりと歩く自分の足音だけが響く。


舞は自分の動く足を眺めながら前も見ずに進み続けた。


「・・・あれ?ここどこ?」


 心ここにあらずだった舞がふと気づいた時には、全く見覚えのない荒廃した場所まで来ていた。

足の裏が少し痛い。

どれくらいの時間歩いていたんだろう・・・。


 周りを見渡すと、砂を被ったような黄ばんだ廃墟ばかりが広がっていた。

かすかに吹く風も埃っぽく、髪が汚れるのを気になり始まる。 

ふと目に付いた暗い廃墟の中を眺めると、暗闇から人の目が光っているように見えた。


 舞は嫌な寒気がし、引き返そうと身体を反転させる。

振り返った先には老婆が木の皿を両手に持ち、待機していた。


「オネエサン。 お金を恵んでください・・・」 


「ひえっ!!」


 舞は情けない声を上げた。

振り返りざまの光景が老婆だった為、驚きと同時に背筋が凍る。

お金を少し渡して早く帰ろうと思い、そそくさと腰の巾着からお金を取り出そうとした瞬間。


「ダメだっ!!!」


 何者かの声が聞こえたと同時に、今度は後ろから強引に腕を捕まれ、勢いよく走らされた。


「わあ!なに!!」

 舞は訳がわからず、走りながら自分の腕を引っ張る金髪ポニーテールの女の子に向けて叫んだ。


「テメエよそ者だろ・・・!

 あのババアは見た目こそただの老婆に見えるが追い剥ぎだ!

 金目の物を持ってるとわかれば身ぐるみ剥がされて全部持ってかれる所だったぞ!」


「はあ!?」

 

「とにかく話は後だ!追ってくるかもしれねえから身を隠す!」


 腕を引っ張る彼女はそう叫び、この荒廃した街の道なき道をぐんぐんと走り抜けていく。


 追い剥ぎってなに?

ていうか引っ張られてる腕痛いんだけど・・。


「ハア・・・ハア・・・。」

 舞は息が上がり、膝に手をついて汗を垂らした。


「ここまで来れば大丈夫そうだな。

 ・・・それよかお前どっから来たんだ?」


 謎の金髪の少女は物陰から周りの様子を見渡しながらそう言った。


「ハァ・・・あ、あたし?・・・街の宮殿の方」

 息切れしながら舞は答える。

よく見るとこの金髪の少女も、至る所に破れやほつれがある服装で、みすぼらしい恰好をしている。


「はあ?そんな場所からわざわざなんの用があってきたんだ?」


「用なんてない・・・。ただ迷っただけ」


「はっ。迷ってこの場所にくるなんてお前本物のよそ者だな。

 そもそもこの国の人間ですらねぇだろ」


「別に・・・何だっていいでしょ。

 助けてくれたのにはお礼を言うけど、あたしもう行くから」


 舞はこの少女の口の悪さが癇に障ってる様子で帰ろうとする。


「バカ!こんな遅い時間に一人でほっつき歩ってたら

 格好の餌食だぞ!・・・帰るにしても明日にしろ」


 金髪少女は舞を引き留め、帰ろうとする舞の腕を取る。


「じゃあどうすればいいの?」


 振り返った舞の顔は不機嫌そうに顔をしかめていた。


「今日はあたいの家に泊まってけ!

 まあ家と呼んでいいかわからないような所だけど」


 舞は渋々了承し、金髪少女に付いていくことにした。


 凄い汚い場所・・・。

潰れた家屋ばかりだし、あちこちにゴミが散らかってて最悪の居心地・・。


「・・ここは一体なんなの?」


 舞は人目のつきにくい通りを進む金髪少女についていきながら質問する。


「・・・ここは退廃地区だ。暗黒街だのスラム街だの

 好き勝手言われてるよ。 地名なんてない」


「・・・そうなんだ」


「あぁ。金のないホームレスや身寄りのない子供、

 迫害を受けてここに流れ着いた者。そういうまともに生活できないような奴らが

 集まってる場所だ。・・あたいからしたら生まれ育った故郷だけどな」


「え?あなた、こんな所で生まれたの?」


 温室育ちの舞には考えられないような事実だった。


 この汚い街で今まで過ごしてきたなんて信じられない・・・。


「こんな所で悪かったな!」


「・・・ごめん」


 流石に舞も気に障ることを口にしてしまったと思い、咄嗟に謝る。


「フン、別にいいさ。実際こんな所だからな。

 ほら、もうそろそろ着くぞ。」


 そう言われ、舞は金髪少女が指さす方に目線をやる。


「・・・これが・・・家?」


 そこには藁で包まれたただの地面があった。


「そうだ!秘密基地みたいでかっけーだろ!」


 金髪少女は元気にそう言い、藁をどけると、小さい鉄格子の入り口が現れた。

鉄格子をずらして降りた先は穴倉のようになっており、よくわからない骨董品やらが散らかっている。

一応汚いが布団のようなものもあり、本当にここで生活しているようだった。


「へー。中々個性的な家だね・・・」


 舞は当たり障りのないような本心のコメントをする。


「慣れれば結構居心地はいいぜ!」


 金髪少女はこの家を気に入っている様子だ。


 この子、あたしと同い年くらいよね・・?

年頃の女の子がこんな穴の中を家にして生活してるの?

異世界の格差社会怖すぎるんだけど・・。


「・・・ていうか、なんであたしを助けてくれたの?」


「なんでって・・・目の前で追い剥ぎに遭う女なんて見たかねーだろ普通!

 ここいらの連中はあのババアがやべえ奴だって事はみんな知ってるぜ」


「そう、ありがと」


 この子は意外と純粋な子なのかな。

口は悪いけどあんまり悪い子に見えないかも。


「まあとりあえずそこら辺に座れよ!腹減ったか?」


「・・・喉が渇いた。」


「おーけー!じゃあ水を用意してやる!」


 金髪少女はそう言うと、空のコップを持ってきてひび割れている丸テーブルの上に置いた。


「フロスト!」

 金髪少女がそう言うと、左の手の平から氷を出現させる。


 !!!

・・・この子、氷の魔術を扱えるの?


「フレイム!」

 更に右の手の平からはメラメラと炎を燃え上がらせた。


え!!待って!!

炎の魔術も扱うなんて・・


「こうやって氷を炎で溶かすと

 あたい特製の水の出来上がりだ!」


 金髪少女は手慣れた様子で氷から滴る水をコップに注ぎ入れてそう言った。


「・・・あなた・・・何者なの?」


 舞は炎威の国での基礎知識の勉強で学んだ事と目の前で起きている現実を頭の中で整理していた。


「ん?あたい?・・・ああ!まだ名乗ってなかったな!

 あたいは"サキ"って言うんだ!宜しくな!」


「そうじゃなくて!!

 二つの魔術を扱えるなんて聞いたことない!」


 確か、魔術の適正は一人に一属性しかあり得ないはず・・。


「知らねーよそんなもん。現にあたいは二つ使える。

 てめえが知らないだけで世の中にはそういう奴がいるんじゃねえの?」


 サキは少し飽きれた様子でそう言った。


「え・・・そうなのかな」


 あたしが勉強不足なだけ?

この世界の常識がどれなのかわからない・・。

でも言われてみれば二つ扱えるから変って訳じゃないか・・。

むしろ凄い?

黒魔術みたいなあからさまに異質な魔術でなければ異端者ではないのかな。


「それよか、あたいは名乗ったんだから名前くらい教えろよな!」

 サキは少し不機嫌気味に言う。


「ああごめん・・。あたしは"舞"」


「マイ!良い名前じゃねーか!宜しくな、マイ!」


「今日泊めてもらうだけの関係なのに

 宜しくっていうのもなんか変じゃない?」


 舞は距離感の近いサキにそう言った。


「そんなツレない事言うな~!

 あたいからしたらマイみたいな近い年齢の同性と話すなんて滅多にないんだ!

 ちょっと位は仲良くろよ!」


「ぷっ!ごめんごめん!宜しくね!サキ!」


 サキのノリの良い返しに思わず笑ってしまった。


 舞はサキの素直でアホそうな人柄を感じ、少しだけサキの事が気になり始めた。


「てかマイだいぶ高そうな服だよなそれ。

 もしかしてお前、貴族かなんかか?」


 勇者四人組はこの世界に迎えられてから属性のカラーに合わせた訓練用の衣装と、プライベート用の衣装を支給され、着回している。

舞の場合は風の属性の為、黄緑を基調とした衣装だ。

プライベート用の衣装はラフで動きやすい恰好ではあるが多少目立つ装飾が施されており、一般人とは明らかに違うのはわかる見た目だった。


 それに対してサキは、茶色く薄汚れた白一色の布切れを纏い、ボロボロのベルトを巻いて固定している服装だった。

全く洗ってない様子ではなかったので、魔術を駆使して手洗いくらいはしているのだろう。


「え!?

 ・・・・あ~バレちゃったか!

 そうそうあたしは貴族なんだ~!」


 舞は勇者というのは伏せた方がいいかと思い、咄嗟に嘘をつく。


 勇者ってことは多分言わない方がいいよね・・?

 そもそもサキに勇者って言っても伝わらなそうだし・・。


「えー!!すげーな!!

 あたいとは全然違う世界の人だ!

 ちょっと色々話を聞かせてくれー!」


 サキは目を輝かせてそう言った。


 舞はサキの真っ直ぐな瞳を見て、心を許し、サキと色々話をしてみようと思った。

そして舞もサキの事を知りたくなっていた。


 二人は結局、そのまま夜が更けるまで語り尽くした。


 舞が話すこの世界についての話を、サキは新鮮そうに聞いていた。

魔術を教えてくれる優秀な魔術師がついていること。

丘や壁を乗り越えてくる強い風が吹いて来ても風音気にせず眠れる建物で暮らしていること。

本をたくさん読める場所があること。


圧倒的に舞の方がこの世界で過ごしている時間は少ないが、

宮殿の中の暮らしでいえばサキにとっては知らない事だらけだった。


逆を返せば、サキはおよそ教育というものをまともに受けていないのが伺えた。


 舞はそんなサキに興味を持ち、サキのこれまでの人生についてを聞いた。


それは舞からしたら考えられないくらいに壮絶な人生だった。

サキは幼い頃早々に親に捨て去られた捨て子だったこと。

野晒しの寝床に吹きつける強風に次飛ばされるのは我が身と震えていたこと。

学んできたのは今日を食い繋ぐ為のゴミ漁りや盗みだったこと。


誰に教わる事もなく、幼少の頃からほぼ一人で生き抜いてきたのだ。


サキは明るく話していたが、舞は胸に穴が空いたような感覚になり呆然と話を聞いていた。



「かぁ!!

 気づいたら夜空が明るくなってきてねぇか!?

 そろそろ寝るか!」


「やば・・・!!

 あ、でも今日明日はあたしも休みだからまあいっか」


「まじか!なら起きたらどっか行くか!」


「え!?どっかって・・・どこ?」


「それは起きてから考えようぜ!」


「ふふ。わかった!」


 二人はお互いを背にして眠りにつく事となった。



 ・・・なるべく普通に接したけれど、サキは壮絶な生き方をしてきている。

聞いているだけで哀しくなるくらいに・・・。


それを当たり前のように話すサキを見て、あたしが可哀想に思っているような表情をしたら逆に良くないと思って、普通の表情を装った。


だって、自分が不幸な人間なのかどうかの尺度も持っていない子だったから・・。


でもきっと・・・無意識の中でサキも本当は寂しいんだと思う。

だから初めて会った同年代のあたしとも仲良くしたいんだ。


学校でクラスメイトと過ごしていたあたしとは生きてきた世界が違い過ぎる。


食べるものも困らずに裕福な生活を送ってきたあたしからすれば、そんなサキがとても気の毒に感じてしまう。


でもまともな生活を知らないサキからしたらこの生活も当たり前で、同年代のあたしと居るこの時間を楽しいと思ってくれている。

それはサキの様子を見れば良くわかる。

まるで尻尾を振る犬みたいにわかりやすくて純粋な子なんだ・・・。


舞はサキのこれまでの生きざまを聞き、もし自分がサキの立場だったらを想像し、とても悲しい気持ちになった。


物心ついた頃には親に捨てられ、貧民街で生きてきたサキ。

ゴミを漁り、食いつなぎ、生活用品を拾い、家に持ち帰り、時には周りのごろつきの真似をして盗みをしたこともあると言っていた。

兎に角、明日を生きることに必死で生活してきたのがサキだ。


あたしの悩みなんてたかが知れてる・・・。

サキの話を聞いていたらあたしの悩みなんて

とてもじゃないけど相談できないよ。


でも、サキと一緒に話してると自分が悩んでるのがバカらしくなってくる。

日本では考えられないような生活を送ってきたサキと今まで何の危機感もなく過ごしていたあたし。


サキはあたしよりも遥かに辛い人生なのにこんなにも明るく強く生きている。


親が誰なのかもわからず、こんなに薄汚れた街でたった一人で生きてきて。

あたしがサキの立場だったら・・・。


「あたしもサキみたいに強くなりたいな・・・」


 舞は布団が意味をなさないくらいの地面の固さを身体で感じ、今まで寝てきたフカフカのベッドの寝心地がいかに幸せかを痛感させられる。

その薄汚れたぺらぺらの布団を、静かに伝う涙で濡らしながら舞は眠りについた。

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※2023/6/19~ 上記曜日に変更してます。


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