10.ナギの過去 後編
「おい!嬢ちゃん、嬢ちゃん!起きろ!」
「・・・んー」
気付いたら朝だった。
昨日の出来事は夢だったんじゃないかと一瞬思う。
でも、路地裏で寝ていた事実やボロボロの自分を見て、嫌でもそれは現実だったと思い知らされた。
その瞬間、ウチはまた思いっきり泣き喚いた。
「すまん!すまん!
怖がらせるつもりはなかったんだ!
どうしてこんな所で寝てる?親はどうした?」
ダンは慌てふためいていたわ。
泣く子供にどう接していいか分からなかったんでしょうね。
でもどうすればいいかわからなかったのはウチも同じだった。
幼いウチは、頼るあてもなかったし、誰を信じるべきかどうかの判別もつかなかった。
だから起きて目の前にいたダンに、昨夜あった事を全て泣きながら話したの。
今思えば初めて会ったあんな大男を頼るのもどうかしてるよね。
「酷い目に遭ったんだな・・・。
わかった。俺が暫くの間は匿ってやる」
ダンは見ず知らずのウチを助けてくれた。
最初に見つけてくれたのがダンで本当に良かったと思う。
ダンは、自分の家でご飯も毎日準備してくれて、寝床も譲ってくれて、不安な気持ちは少しずつ紛れていった。
当然寂しいのは変わらず、毎日泣いていたけどね。
そして一週間ほど経ったある日、ウチとダンが外を歩いていた時。
「おい止まれ。後ろにいる娘の顔を確認させろ」
ウチとダンは唐突に衛兵に声を掛けられた。
「・・・・・・なぜだ」
ダンは警戒した様子で立ち止まったわ。
「一週間ほど前に、一般人が
お前の後ろにいる娘くらいの子に魔術で殺害される事件が起きた。
それで今検問を行っているのだ。
教会の司祭曰く、その娘は"異端者"でもあるとの事で
指名手配がでている危険人物だ」
「おいおい、年端もいかぬ女の子を指名手配するなんて事あるのか?
世の中物騒になったもんだな」
「そのくらい危険だという事だ。手配書も出ている。
"異端者"についてはまだ謎が深い。
危険な芽は早めに摘むにこしたことはないだろう。
こちらも忙しい。早くそのフードを取って見せろ」
「・・・・」
ダンは数秒黙り込み、沈黙の時間が流れた。
ウチは緊張で手が震えた。
ウチの事・・・みんなが探してる・・・嫌だ・・・怖い・・・。
その後、ダンは即座にウチを抱えて走り出したの。
「貴様・・・・!!!」
衛兵も勿論追ってきたわ。
ただダンはウチを抱えている分、追いつかれるのにそんなに時間はかからなかった。
「ハァ、ハァ、追い詰めたぞ・・・!」
「・・・追い詰められたのはどちらかな?」
「負け惜しみを・・・!容赦はせんぞ・・・!」
衛兵はダンを人影のない壁際まで追いつめていた。
刹那、持っている槍でダンを突き刺そうと勢いよく迫ってくる。
「うおおおお!!!」
雄たけびを上げて衛兵が槍を突き出す。
ダンは自分の右肩をすっと衛兵に向けた。
ガキンッ!!
「なにっ・・・!!」
ダンの肩が突如として硬い棘状に変化し、突き付けられた槍の刃の方が折れた。
「・・・これでもまだやるか?」
「くっ!!貴様も"異端者"か・・・!!
一旦引くが、この国に居られると思うな!!」
衛兵はそう言い残して去っていった。
「ふう・・・」
ダンは右肩の変形を解除し、ため息をついた。
「・・・おじさん凄い!!強いんだね!!」
ウチは自分を匿ってくれた人が衛兵を追い返す様を見て、見た目はおじさんのダンがヒーローのように見えた。
「隠していて悪かったな。実は俺も"異端者"だ。
あと俺は見た目は老けているがおじさんと呼ばれる年齢じゃない・・・。ダンでいいぞ」
「わかった!ダン!」
「この国は俺や嬢ちゃんにとっては生き辛くなってしまった。
嬢ちゃんには悪いが一緒に国を出る準備をしよう」
幼いウチでもダンが言っている意味が理解できた。
ウチはこの国の衛兵からも追われていて、もう居場所はない。
ダンはそんなウチに巻き込まれる形で追われる身になったのだと。
「・・・うん。謝らなくていいよ。でも・・・最後にママに会いたい」
ウチはあの日以降、自分の家が、ママがどうなったのかは知らない。
本当はもうこの世にママはいない可能性の方が高いのはわかってた。
でも・・・ウチの心はその現実を全力で否定していた。
「・・・そうだな。出る前に嬢ちゃんの家を寄ろうか」
そして国のお尋ね者になってしまったウチとダンはその日に急いで国を出る準備をし、夜明け前にウチの家に寄った。
「・・・ひぐっ・・・ひぐっ・・・」
ウチの家は焼け焦げた土地となっていた。
中途半端に焦げた木材が重なりあっていて、ママの遺体がどれなのか、そもそもあるのかすらわからなかった。
「・・・嬢ちゃん」
ダンは泣きじゃくるウチの頭を撫でてくれた
「・・・なんで・・・こうなっちゃったの・・・ひぐっ・・・」
「嬢ちゃんはなにも悪くねえ。この世の中が悪いんだ」
その時、なんでウチの家が襲われたのかを必死に考えたわ。
たまたま賊の夜襲にウチの家が標的になったの?
ウチが四属性だから四神教がウチを殺そうとしたの?
でも四属性それぞれは別に"異端"じゃない。全部扱えるのが問題なの?
なんで、どうして?ってね。
でも結局真相はわからなかった。
ウチは近くの野に咲く花を摘んで、お供えし、手を合わせた。
泣き止むまでしばらく手を合わせたままそこに居た。
その時に、ママがなぜ死ななければならなかったのか、それをいつか解き明かし、仇を取ると心に決めたの。
「・・・おじさん。ナギを強くなるように育てて」
「・・・ああ。嬢ちゃんは俺が育ててやる。
・・・・・あと、おじさんじゃなくて"ダン"だ」
「ダン・・・。嬢ちゃんじゃなくて"ナギ"だよ」
「・・・こりゃ一本取られたな」
ダンはウチの背中を優しく摩ってくれた。
それから国を抜け出して、いろいろな場所を転々として、この街に辿り着いた。
この街は元はよそ者の集まりだから、私達を"異端者"と知ってか知らずかはわからないけど受け入れてくれた。
そしてルカと出会って、リンとも出会えた。
ウチは今は充実してるわ。
〜〜〜〜〜
「・・・ひぐっ・・・ひぐっ・・・ナギちゃあああん!!!」
凛はナギを唐突に抱きしめた。
「・・・急になによ!!鼻水汚い!!離れて!!」
ナギは凛を剥がそうとする。
「・・・私より、全然ナギちゃんのが辛かった!!
私はずっと、他人を羨ましがって生きてきた!
自分が恥ずかしい・・・ひぐっ」
凛が泣く姿は悲しさと悔しさが入り混じって見えた。
「・・・そんなことないわ。
ウチはリンのようにずっといじめを続けられて
長い間辛い日々を歩んできた訳じゃないし。
ウチもママが亡くなってからはとても辛かったけれど
それ以前のママとの生活や、皆と過ごしてる日々は
とても充実していたわ。辛さの感じ方は人それぞれだと思うけど
ウチがリンの立場だったら強く生きれなかったかもしれないしね」
ナギは凛の頭を撫でながら慰めた。
「ナギちゃんは強いよ・・・私より断然強い・・・」
自分ばかり不幸だと思っていた。
でもそんなことない。
ナギちゃんも抱えていた悲しみがあった。
元居た世界ではありえないような悲しみを・・・。
「フフ・・・勿論、ウチは全属性のナギなんだから!
ウチのが強いに決まってるわ!
そんなに簡単に師匠を超えてもらっちゃ困るもの!」
ナギはそう言って、リンに全力の笑顔を見せてくれた。
「・・・うん・・・私もナギちゃんに追いつけるよう頑張る」
凛に向けられたナギの笑顔を見て、同い年なのになんて強いのだろうと凛はナギを心から尊敬した。
同時に身近に大きい悲しみを抱えている人がいた事実は凛の心を軽くしたのだった。
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