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与えられた禁忌の魔術で復讐を ~凛として咲く仇花~  作者: 一ノ瀬 凪
第一章 異世界で芽を出すクロユリ
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1. 運命の異世界召喚

 元の世界は地獄だった。

 この世界に来れて良かったと心底思う。

 生きている意味を、意義を実感できた。


 当時の私には多くの知らない感情があった。

 この世界に来てモノクロだった私に色がついた。

 その色を知らないままだったら、どんな選択をしていたんだろう。


 多くのかけがえのないものを得た。

 同時に背負う重さに押し潰されそうになった。

 周りに甘え過ぎた自分は、自分勝手な自分に気付くことさえ出来なかった。


 覚悟が甘かった。

 得たものを失うという事がどういう事なのかを知らなかった。

 いつそうなってもおかしくないとわかってたはずなのに。


 再び世界がモノクロになった。

 過去の自分を拾い上げた時、私は極端な色に染まった。

 感情に対しての許容も耐性も無い自分はただの未熟者だった


 自分を呪った。

 周りが見えていなかった、見ていなかった。

 結局はエゴでしかなく、すべて自分の為だった。


 冷静になれた。

 世界を俯瞰して見る事ができた。

 自分がどうなるべきか、どうあるべきかを理解した。


 ------------------------------------------------------


 ひぐらしの鳴き声が聞こえる片田舎の夕刻。

山と木に囲まれたこの公立高校の校舎を夕日の光が照らす。

その校舎の閉め切られた一室で、黒羽 凛(くろはりん)はまた叫んでいた。


「やめて・・・ああぁぁあああああ!!!」


ジュウゥゥ・・・


 黒羽凛の肌をヘアアイロンが焼く音が生々しく頭に響く。

二の腕の肌は赤黒く焦げ、凛は痛みで悶絶した。


「ハハハハッ!!良い声ね~、次はどこを焼こうかなー」


 笑いながら凛の身体を玩具のように扱ういじめの主犯格。湊 早苗(みなとさなえ)

モデルのような身長の早苗は黒く長い髪を後ろになびかせながら、凛をいつも見下した目で見る。


「ねえ、卓也もこれやりなよー?」


「いや、俺はいまゲームで忙しい」


 椅子に前後逆の姿勢で座っているのは押火卓也(おしびたくや)

目に少しかかる前髪から瞳を覗かせてスマホゲームに夢中になっている

凛がなにをされようがまるで興味なしの無関心な男。 

暇があればいつもゲームをやっている。

整った顔つきとスラっとした細身の高身長だからか、一部の女子からは人気を得ている。


「じゃあ次は縄跳び使って鞭打ちでもしよっか!」


 早苗は凛の目を煽るように見ながらそう言う。

 凛は顔を上げ、見下す早苗へとキッとした目つきで睨み返した。


「なにその目」


 ガッ


 早苗は凛の首元まで伸びるボブの黒髪を引っ張り上げ、凛の耳元に顔を近づけ囁く。


「あんたはあんたの母親みたく、

 神様に祈って助けを求めるべきなんじゃないの?

 オカルト集団にお金を払って破産してる母親をちゃんと見習わないとー。

 ああでも、神様もあなたがいい声で鳴くのを楽しみにしてるかもしれないわ?」


 凛の母親は凛が毎日傷だらけで帰宅する影響で精神を病み、変な宗教に救いを求めてしまった。

その宗教団体に多額のお金を渡し続け、家庭は金銭的にも精神的にも崩壊。

その状況に耐えられず、父親は半年前に自殺した。


 それもこれも全部こいつらのせい・・・。


 凛は自分の唇を歯で噛みしめながら憎しみを募らせる。


「生意気な顔ね。 舞、そっちから縄跳び取ってきて」


「はいよー」


 気だるそうにアクセサリーだらけのスマホをいじりながらロッカーに向かう彼女は 彼方 舞(かなたまい)

肩まで伸びる髪は明るいオレンジに染めており、前髪は眉毛が丸見えになるくらいに短い。

服装やアクセサリーはカラフルな派手色を中心に身につけており今時の若い子という風貌だ。

 舞はいつも早苗の指示を受けると凛へのいじめに躊躇なく加担する。


「瞬太郎の縄跳び借りてもいい?」

 

 舞は机の上に座る男に向けてそう聞いた。


「おう! あとそれ俺にもやらせてくれ!」


 にやにやしながらハイテンションで舞に答えるこの男は陣地 瞬太郎(じんちしゅんたろう)

いつも異常者のようにずっと笑っており、目つきが鋭い獣のような男だ。 

ツーブロックのツンツン頭で左耳には無数のピアスが装飾されている。

凛が早苗にいじめられてる姿をいつも楽しそうに眺め、積極的に凛への暴行も行う。


 凛はこの四人組に暇があればいじめを受け、身体は火傷や切り傷で限界を迎えていた。

何度も死のうと思ったが、結局死ねない黒羽凛。


 凛は悔しさと怒りと痛みが混ざった苦悶の表情で呟く。


「いつか・・・必ず・・・」


 刹那、教室の床に魔法陣のような光が浮かび上がり、あっという間に周辺は眩い光に包まれる。


「なに!?」


「うっ」


「きゃあああ!」


「なんだあ!」


 驚く四人の声が凛の耳に流れ込んでくる。


 俯いていた凛は魔法陣の怪しげな光を直視し、反射的に目を瞑る。

その光は瞼の裏でもわかるほどに強くなり、それに伴い意識が剝がされるかのようにその場の五人は気を失った。


 ------------------------------------------------------


「うっ・・・」


 凛が目を薄く開けると照り返す太陽の眩しさを感じ、再びぎゅっと目を瞑る。

それと同時にざわざわざわと誰かの話し声が凛の耳をくすぐった。


 ・・・誰かいる? 先生達?


「成功だ・・・!!」


「・・しかし何故五人なんだ?」


「四人でも五人でもいいだろう」


「いや良くない。国同士のパワーバランスに支障がでかねない」


 凛はその訳の分からない会話を脳内で整理できぬまま目を開き、周りを見渡す。


「・・・・・・!」


 凛の近くには同じく目覚めたてのいじめ加害者四人組がきょとんとした表情で座り込み、それを囲むように見たことのないローブを着た大勢の大人達が物珍しいような目で凛達を眺めていた。


 この何がどうなっているのかわからない状況に凛は息を呑み、せめてここはどこなのかを探ろうと景色を見渡す。


 ・・・景色もおかしい。

ここ・・・絶対に日本じゃない。


 直感的にそう感じれるほどの景色がそこには広がっていた。

そもそも学校の教室に居たはずなのにも関わらず、ここは木々に囲まれた古代の遺跡のような場所だった。

苔の生えた石の柱が凛達を囲むように建てられており、足元も不規則に並べられた石床で出来ている。

これは夢じゃないのかと疑い始めた頃、取り囲む大人の一人が声を轟かす。



「静粛に!!」


 その一声と共に、群衆の円の中から一際立派な服装をした王冠を被った四人の男女が近くに現れた。

きっと偉い人なのであろうというのは、その見た目だけで感じられる。


「混乱しているだろうから端的に話を伝える」


 四人の中で赤い派手な服を着た男がそう言うと、側近のような年配の男が現れ、説明を始めた。



 説明された内容はこうだ。


 ここはいわゆる異世界。

 元居た私たちの世界とはまた別の世界であること。


 そしてこの世界は魔術の力を中心に発展しているということ。


 そして現在、この世界は四大国である

 炎威(えんい)の国、氷壁(ひょうへき)の国、土塊(どかい)の国、玉風(たまかぜ)の国で連合を組み

 北の大地に潜む魔物の軍勢に戦争を仕掛ける段階にあること。


 先ほどの王冠を被った四人の男女がいわゆる国王、女王みたいだ。



 そして・・・



「予言書によれば、この世界に平和をもたらす勇者の召喚は

 四大国が団結することにより、太古の遺跡にてその召喚が成し得られる。

 召喚されし者達はこの世界に適応した時、能力が覚醒し、世界の力となる。

 勇者達に各国を巡らせ、修行をつけることで魔物を打ち滅ぼす力が得れるであろう。

 平和が訪れし時、各国で一名ずつ勇者として迎えるべし。と記載があります」


 事務的に読み上げた側近の男が言い終えると、各国の王達は頭を傾げる。


「ふむ」


「やはり、おかしいですわね」


「記載の限り、召喚される人数が四名かと思っていたが、いやはやどのようにすべきか」


「予言書にない状況ですから、ここは一名を省くしか」


「省くというのは追放するという事ですか?」


 どうやら勇者召喚は四人だと考えていたようで、一名多く召喚された事に対して、王達は対処の仕方を迷っている様子だった。



 呆然と口を開けていた五人の中で、早苗が状況を察して声を上げる。


「あなた達の話はわかったわ!

 一名多く召喚されてしまったのは、こいつよ!」


 早苗は凛を指差してそう言い放った。


「えっ?いや私は・・・」


 凛がそう言い淀んでいる間に間髪入れず瞬太郎も追い打ちをかける。


「王の皆様! 早苗の言う通りで、俺らの中でこいつは

 いわゆる奴隷みたいなもので、前の世界で悪さしていたこいつに

 懲罰を与えていたんですよ!なのでこいつは危険の為、追放すべきです!」



 ・・・何を言い出してるの?

おかしいおかしい・・・! 

私が何をしたっていうの!!


「なっ、そうでしたか」


「道理で人数が合わなかった訳ですな」


「それなら話は早いですわね。

 衛兵、勇者に紛れて召喚されたこやつを摘まみだしなさい」


「ハッ!」


 武装した衛兵が凛の方へと駆け寄っていく。


「や、やめ・・・」


 声を出したいが、凛は身体が衰弱しており声がうまく出てくれない。


「よく見ると、確かに拷問を受けた跡が多くありますな」


 側近がいじめによって出来た凛の傷跡を見てそう言った。

それを聞いた瞬太郎はここぞとばかりに補足する。


「酷い悪さを働いてた奴なので」


 瞬太郎は凛を嘲笑するかのような顔で後押しし、側近も納得したような顔をした。




 ダメだ。

このまま行く当てのないこの世界で放り出されれば生きていけない!

どうにかしないと・・・!


―――


 卓也は連れ去られる凛に見向きもせずこの世界に感動していた。


「ゲームの世界みたいだ・・・凄いな」


 卓也は腕を広げて全身で異世界を感じる。

綺麗な青空、そよ風に揺られる木々、心地の良い鳥のさえずり。

目を瞑り深呼吸をし、冷静になる卓也。


 逆に舞は動揺を隠せず、おどおどした様子で卓也に声を掛ける。


「え、ちょっと流石に怖くない?

 でも取り合えず歓迎されてるみたいで良かったけどさ~」


 舞は動揺しているものの、とりあえず襲われる心配がないという安全が確保された事に安堵している様子だ。


―――


 衰弱して無力な凛は二人の衛兵に肩を担がれる。


 やめて・・・! 嫌だ・・・!!


 凛は心の中で何度もそう叫び、身体をばたつかせる。

すると卓也は凛へと振り向き、唐突に口を開いて王達に問いかける。 


「・・・覚醒したら超能力みたいなのが使えるんですよね?」

 

 炎威の国の国王は卓也に目線を移し、その問いに答える。


「予言書によると、そういう事になりますな」 


 卓也はその言葉を聞いて、王達に提案を投げかけた。


「あいつは勇者じゃなく罪を犯した奴隷ですが、

 召喚の影響で変に能力が覚醒してしまうやも知れません。

 危険な存在になる前に今の内に殺しておくべきかと」


 凛はその卓也の発言が耳に入り、瞳孔の開いた目で卓也を見つめる。


 今まで無関心だったくせに・・・本気で言ってるの・・・!?



 周りの側近たちも予言書通りに事が進む事を絶対としているかのように、卓也の発言にスムーズに同意し始める。


「なるほど・・・それは一理あるやもしれませんな。

 予言書通りに事が進められないのは世界の平和に支障をきたすやもしれぬ・・・」


「世界の平和とこの者一人の命を天秤にかけるのであれば答えは明白です」


「勇者様の進言ですし、仰る懸念はいかにもです。

 予言書通りに修正する為に、念には念をで殺すべきかと」


 側近たちの意見を聞いた王は決断し、衛兵に指示を出す。


「よし、衛兵。近くの崖からそやつを落としにいけ」


「ハッ!」


 二名の衛兵が王に敬礼して凛の左右に分かれ、それぞれが片腕を乱暴に掴む。

凛は握られた痛みで一瞬顔をしかめ、そのまま腕を強引に引っ張られながら森の中へと引きずられていく。


 凛は呆然とした表情で全身の力が抜け落ちていた。

目の前で行われたあっさりとした会話で自分の死刑が下された現実を受け入れるのにはまだ脳の処理が追いつかないのだ。

冗談でしょ? と心が困惑する。


 こんなにも簡単に死刑が言い渡されるなんてどうかしてる・・・。

この世界の命の価値はこんなにも軽々しいの?

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