召喚初心者スキルでも竜を倒しながら、少女異世界旅行
楽しんで頂けたら幸いです。
「汝、我の契約の元、応え給う。神妙に姿表したる異界の住人。名を紫翠と申し、我の願いを叶えたり。」
リナ・アンドレア・ヒベルティアは、印を結びながら地面に手を着いた。前方に5階建てのビル位の大きさの火竜と、前線に立つ魔術師の女性のオリビアがいる。
地面に魔法陣が刻まれると、中心から赤黒い光が円を覆う。血の契約なら、致し方ない。リナは少女ながら肝が座っていのだ。
短パンにハイソックスを纏い、ネックまでのブーツを履いている。足を開き、体重を両手に乗せた。
岩しかない広域の洞窟には、天井に穴が空いている。
「ああ、もう。召喚させるなら、戦っている火竜に氷竜を当てる前に避難させてよ。」
火を吹いている竜の前から、オリビアの悲鳴が聞こえた。
黒魔術師の服装に、大きな魔女帽子。胸が張裂けんばかりの服にスリットが入っている。
火竜の火が裾に付いてしまい、必死に氷の魔法を掛けて、全身に回るのを防いだ。
「魔術師が前線に立つのが悪い!」
「剣士がいないんだから、仕方ないでしょ。パーティを増やしなさいよ!」
「初心者に好んで付いて来たのは、オリビアだけでしょい!集中させてよ。紫翠が答えてくれない!」
「能力値の差でしょうが……。こっちは魔法消費が激しくて、回復薬がなくなりそうよ。煎じ薬でいいから投げて!」
リナが回復薬を巾着から出し、前にいるオリビアに思いっ切り投げた。火竜の爪が届く直前に、キャッチしてオリビアは地面に転がった。彼女は一気に飲み干すと、胸の谷間から護符を出し、詠唱もせずに氷の柱の防御壁を建てた。
一時しのぎの壁だ。オリビアは体力を回復している。
「紫翠!頼み申す!」
リナが叫ぶ。火竜の攻撃で流れ出る汗を拭く暇さえない。
地面が割れて、波打つ地面。詠唱した魔法陣が黒光りする。氷竜がリナの頭上に現れた。大きさは火竜と同じ位だ。召喚された彼は、二度とリナの周りを旋回してから、【目的は?】と聞かれた。
「火竜の討伐。」
【半殺しか……。皆殺しか……。】
「人型は狙って駄目!火竜のみ半殺し!」
【あい。分かった。】
翡翠が火竜の前に飛び立ち、先手攻撃で火を吹いた火竜。
翡翠は顎を開くと、氷を凄まじい勢いで出している。火竜は勢いに負け、首を捻り逃げようとした。翡翠は顔面目掛けて、氷を吐いた。火竜の体にヒットする。
凄まじい轟音にリナとオリビアが耳を塞ぎながら、後退する。
「算段は?」
「このまま翡翠に任せる。アネモネ怪我は?」
「先に私の心配をしなさいよ!詠唱終わるまで前線にいたのよ!」
岩の後ろに隠れていた猫の獣人の少女が顔を出す。
目の前から竜の攻撃の熱風が背中を通る。二人は慌てて、アネモネの後ろに下がった。
「火傷を治したら、火竜の力を削ぐよ。壁一体を凍らすから、アネモネも手伝って……。」
「回復要員の私に出来るでしょうか……。護符を使っても4回に一回は失敗するのに……。」
猫の耳が下がっている。指先の肉球をオリビアの赤くなっている場所に当てて、回復の息吹を吹いている。
「気にしないの!今は、火竜の寝蔵にいるのよ。誰も助けてはくれないわ。相性の良い紫翠が頑張ってくれてるから、私達も手助けしないと!オリビアは氷の魔法を地面に打って凍らせてよ。」
「リナ!あんたね。黙って聞いてたら、力技ばかりじゃないの!私の魔力では足りないわ!氷の護符をもっと寄越しなさいよ。」
「たんと量産したから、使って!」
オリビアに巾着ごと渡すと、リナは空中に飛び出した。躊躇いはない。翡翠が戦ってくれてるのだ。怖くないと言えば嘘になる。膝が笑って小刻みに震えている。
リナの契約した翡翠が戦ってくれてるのだ。リナは助力でも、助けたい一心で今出来る事をする。額に流れ出る汗を拭い、遠い反対側の壁を目掛けて、印を結ぶ。
「氷の精霊に恐こみ恐こみ願い給う。古の技、氷の壁。古き名、ダイヤモンドダスト。我が力に宿りし給え。」
リナが頭上高くに両腕を差し出した。手の甲から水が吹き出し、天井の穴目掛けて、噴出した。
冷たい風が吹くと、水が霧散する。そして、氷の結晶が降り注いでくると、結晶に触れた部分が氷になって行く。
その光景を見たオリビアとアネモネが悲鳴を上げた。
「技を発動する前になんか言え!私達も凍るだろが!馬鹿!」
「ダイヤモンドダストは積もるだけだから、生き物は凍らないわよ。長時間放置しなければね……。」
オリビアが両手に火の玉を出した。アネモネが魔力を補助する光を起こして火の玉を大きくしているが、周りが凍る中、地面だけ氷が溶けて行く。
「火口が近い!紫翠!地面に潜らせないで!」
【あい、分かった。】
紫翠が頭部を凍らせた火竜の脊椎に噛み付こうとしていた。
「息の根を止めるのは、もっと駄目!半殺し!」
【五月蝿い主人だ……。】
紫翠が火竜の頭を頭突きする。ガンと鈍い音と共に、火竜の頭が地面に垂れた。
リナが二竜の側に走って行く。
「アネモネ!スモールの魔法をお願い!」
オリビアとアネモネが立ち竦んでいる。二竜の隣に行くのは、自殺行為だ。
リナは走りながら、印を結ぶ。
「紫翠離れて!」
火竜の頭の前にリナの両手を乗せる。
「我はリナ・アンドレア・ヒベルティアは問う。祖は何んぞ。」
火竜がギギギと悲鳴を上げた。
「我はリナ・アンドレア・ヒベルティアは問う。祖は何んぞ!」
火竜が片目を開いた。
【愚問なり。人間無勢に名を明かすか。愚か者め。】
胸元から短剣を取り出し、火竜の目玉を貫く。火竜の首が痛みで脈打った。リナは火竜に跨り、左手は竜の額から離さない。
「我はリナ・アンドレア・ヒベルティアは問う。祖は何んぞ。」
リナと火竜の契約の儀式である。火竜が答えているだけ、勝敗はある。
【なら人間に問う。我を使役する目的は何ぞ。】
「私の故郷に帰る為に、貴方方の御力が必要なのです。」
【国とは何処か……。】
「東京……。」
【転生元か……。ならば、我が得られる物は何か?】
「完全な消滅。」
火竜の顔色が変わった。
【承諾した。使役されようぞ。祖は炎。名は、朱翠。共に長き旅路へと向かおう。】
「感謝致します。朱翠。」
火竜の瞳から短剣を抜き、悶える頭部からリナは降りた。
左の掌に持っていた短剣でバツの字に自分の手を切る。もう一度、火竜の額に手を当てて詠唱する。
「主、祖の名はアンドレア。我はリナ・アンドレア・ヒベルティア。従、祖の名は炎。名は朱翠。主従の契約を持って、答え馳せ参じる。」
ジュウと言う掌の痛みに耐えたリナ。血の付いた手を置いた場所。火竜の額に暖かさを感じる。掌を退けると紫翠と同じ場所に宝石の様な赤い石が埋め込まれている。
紫翠が火竜を仲間だと認め、空に向かって吠えた。
リナは耳を塞いで、立っている。後方に、オリビアとアネモネが氷の護符を握りしめて、耳を塞いでいる。
【契約は完了だ。】
紫翠は納得して、空に旋回する。
「紫翠はこのまま、戻る?ヒールを掛けた方が良い?」
【うむ。我も回復してからが良い。】
「アネモネ!スモールの魔法を掛けて!後、ヒールも!」
リナは遠くにいるオリビアとアネモネに手を振る。手負いの竜が二人を見る。岩の影に居た二人は、怖ず怖ずと出て来て、リナの側に走った。
「使役したの……?」
アネモネが火竜と氷竜の鼻先にスモールの魔法を掛けると、二竜は手のひらサイズになった。
「契約は完了したよ。氷が紫翠。炎が朱翠。契約は失われた文明の魔法だから、詠唱が必要だけど力強いでしょ?」
「詠唱が今の時代までに途切れたから、失われた文明になるのでしょう?何故、リナが読めるの?護符も失われた文明のものでしょ?」
リナが苦笑いをした。
小さくなった竜が溜息を漏らした。竜は長寿である。だから、この世界の殆どの理を知っている。
だから、リナが転生者で有る事も理解していたのである。
リナ・アンドレア・ヒベルティアは2000年の日本で自殺して、少女の魂を召喚されて生まれてきた。異世界者である。
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