肝試し
大学も夏休みに入り、優喜は、朝からグータラにすごしていたが、突然携帯から親友の武史から電話がかかってきた。「もしっ~今、暇~。暇なら今日の夜、みんなで、肝試しに行くから、行こうぜ~」優喜は、気だるそうに答えた。「いいよ。どこ集合?」飯食ってから誘いに行くから、夜8時ぐらいに迎えに行くから~着いたら携帯鳴らすから、そういうことだから、起きといてくれよ。んじゃバイビー」優喜は、夜に向けて準備しようと背伸びしながら服を着替え夕ご飯の準備にかかった。優喜の両親は相変わらずの留守なので大体一人で家事をしなければならないが、別にそれが苦にはならなかった。今日は目玉焼き丼にするかな。ご飯は、予め炊いていたので、目玉焼きを焼いて、黄身を半熟にして、あつあつのご飯に乗せてソースとマヨネーズをかけて、紅しょうがを乗せて青のりを振りかけて完成だ。簡単だが中々うまい。付け合わせは、味噌汁でいいか。早速、味噌汁を作る為冷蔵庫から、輪ゴムでとめている味噌を取り出し、鍋をセットし、乾燥ワカメと酒を多めに入れて煮だした。そうそう冷蔵庫に、ジャガイモと玉ねぎがあったからみそ汁に入れた。料理が出来、そそくさと食べ、今夜の準備をしなくては、懐中電灯は必須アイテムだから持って行くとして、何かいる物があるか思案した。武史ととりあえず、何人肝試しに、行くのか、どうやって向かうのか分からないので、荷物が増えるのは、好ましくないと思い、あとタオルぐらいでいいかなと思った。なにかいる物があれば、コンビニで買えばいいと思って懐中電灯に電池が切れていないか、数度点滅を繰り返しチェックをして、リュックの中に入れた。一応お守り入れとくかーと思い祖父の形見の数珠をかばんに入れた。
優は、大学で、出会った奈々の事を考えていた。あれから毎日図書室で会い、世間話をする仲になり、昔話などよくするようになった。最近は、良く笑う声を良く目にするようになって良かったと思った。主に話す内容は、本の事で話す事が多いのだが、友達である武史の事を話す事もあった。
友人の武史と、友人の明と敬介と隆と有名な心霊スポットに行くことになった。言い出したのは多分、ケンカ早い敬介かオシャレに敏感な隆だった。金子敬介は、地主の家で、金持ちで、オラオラ系で、その信条は、やりたいようにやればいいって思う人である。その行動によって、周囲に出来る、悲しむ人がいても全く平気で、自分に利があるなら迷わず進む性格だ。特に女性が絡むとオラオラモード全開である。身長は150くらいの狐目で、痩せていて明らかに見た目がヤクザ系でも喧嘩する。怖いもの知らずで、エッチな事が大好きなやつだ。女と見れば誰でも手を出すやつで、ナンパでは、家の近所であっても普通にするし、例え自分の母親より年上でも手が出せるならお持ちかえりしたりする。本人が言うには、かわいい子は、声をかけないと気が済まないみたいだ。そのくせ独占欲は強いみたいで、友達には、例え自分が、一度手に入れた女の子を一度も友達に紹介したりもしない。血液型はB型だ。仕事は何をしているのか分からないけど、危ない仕事をしているみたいだ。川上隆は、身長175のロン毛の左耳にピアスをして容姿端麗で目鼻立ちが整い、いかにもジャニーズにいている、いで立ちであり、ファッションに凝り某有名雑誌に載り、テレビにもオシャレなショップ店員の特集でインタビューされたこともある。流行にも敏感で女の子にモテモテで、職場の女性を全員手にかけた程のやり手だ。仕事はブランドショップの販売員で血液型はO型だ。彼にかかれば女なんてみんな一緒みたいだ。自分が欲しい物は必ず手に入ると思っている。複数の女性と付き合っているみたいだ。彼女を手に入らないでいる優や武史を不細工なのに、努力しないからだと思っている。啓介にも彼女はいないが、度々ナンパしているのを知っているので省いている。明は、長谷川明、身長が165くらいで、やせ型で、くっきりとした真ん丸の目をした人で、血液型はA型だ。仕事は料理関係の仕事をしているみたいだ。みんなのまとめ役で、以外と頭がきれてその場の空気をよみ、メリハリが使い分けるのが上手い。ちなみに同級生の彼女がいる。某冒険ゲームで例えるなら、敬介はHな武道家で、隆はシャレオツな魔法使い、明はメリハリがある賢者って所だろう。いつのまにか仲良くなった友人達だ。みんな地元の小学校が一緒だったので仲良くなったんだろう。これほど性格がバラバラのも珍しいだろう。
ある蒸し暑い夜に、涼しく過ごそうと思い、肝試しをしようって電話があった。誰が立案したのかわからないが、多分啓介だと優は思った。みんな物質として存在しない幽霊なんてこの世にいないから平気だと息を巻いて行くのだ。
その心霊スポットは地元でも幽霊がでると有名で、その場所は、元は精神病を患う患者が沢山入院していた精神科専門の病院で廃校になった今でも精神病患者の幽霊が徘徊しているとのことだ。川の側に建てられている廃病院で、ものすごく周りの空気や町並みとは外れていて際立って目立っていて、インターネットサイトにも載るぐらい有名な心霊スポットだ。ここらに住む人はみんな知っているいわくつきの廃病院だ。車で走らせる事1時間ぐらい、街頭がない川沿いの道路に車を停めて、みんなは、懐中電灯を片手にその廃病院の川沿いの道を歩きながら、入口らしき所を探すのだが見つからない。
その時、隆が声を上げた。
「うあああーーー・・・病院の3階辺り見てー・・」
みんながその声に驚き、恐る恐るその廃病院を見上げると窓を開けた1つの病室が目に入った。その瞬間みんな静かな沈黙の後一斉に声をあげた。「な・ なに・・・あれ」その病室だけ窓が開いていて、真っ赤な血に染まったような色をしたカーテンが風にたなびくように揺れていた。僕は誰かが、その病室から手招きしているように感じた。隆が言葉発した。「オレ絶対無理~、ここで待っているから、みんな行ってきてよ~」と続けて隆が「お腹痛いから辞めておくよ~」と言った。そして武史が「どうする?」「病院の中に入るの、ヤメる?」「十分ココだけで怖いし、隆お腹痛いみたいだし・・」そこで敬介が「せっかくここまで来てヤメるなんて、何しに来たの?」「隆は、ビビっているだけで、男なら引き返すのはどうかと思うよ」そして困り果てた時、みんな決心が行こうと決めた所で、明が「隆一人で、ここにいてる?」「そっちのほうが怖いよ」と言った。優喜は「どっちでもいいよ。行くにしても入口を見つけないとどっちみち入れないし」と現実的に答えた。隆は今では、オシャレでモテモテだが、昔は、ひょろひょろとした体で、度がきつい大きな眼鏡をしていたので、オタクでモヤシって周りの女子からいじられていた。そのギャップのせいか、今では、女をいじる側に入ったみたいだ。
結局みんなが入口を探してから決める事となった。入り口がなければただ帰るだけだから。
効率的に見つける為にグループに分けて、探す事にした。優喜と武史のグループ、隆と明と敬介のグループだ。入口を見つけて閉まっていれば、自分達は言い訳して帰れると思っていたからだ。
でもそれは、すぐに後悔することになった。
隆と明と敬介のグループが入口を発見したと知らせに来て、廃校の病院の入口が見える場所まで行ったとき、ものすごく異様な程、別の世界の入り口のような、暗くてどんよりした重たい空気をその場が支配していた。ところどころに、朽ちて錆びた鉄格子の門には、錆びて焦げ茶色く変色した鎖が何重にも巻かれており、所々に錆びた立派で大きな南京錠の鍵が掛かっている。その奥には病院の玄関の入口らしき扉が黒く重々しく存在していた。これを見たみんなは、いかにも入ったらやばいって思ったが、入口がこうも頑丈に締められているならば、入れないから帰れる言い訳になると思ったとき、敬介がもう一つ見て欲しいと笑顔でにやけた顔で言った。啓介に付いて行くと、そこには、工事現場で良く見かける、錆びた立ち入り禁止の鋼鉄製の網が、病院を囲むように並べられていた。
鋼鉄製の網の頭上には、有刺鉄線が幾重にも巻かれており、誰も入らせないようにしているのが、感じとれた。その網の所の一か所に穴の開いた部分があった。ニッパーでこじ開けた様な穴の様だった。その穴から覗くと、少し向こうの様子が見てとれる。みんな思い思いに懐中電灯を網の穴から照らすと、病院の丁度中庭にあたる部分らしき所のように見える。その立ち入り禁止の鋼鉄製の網の下部分には、誰かが無理やりこじ開けた部分が50センチぐらいがめくれあがっていた。人1人なら屈めば人一人入れるぐらいの穴が出来ていた。
恐る恐るみんなが腰を屈み、くぐり抜けた。みんなが中庭らしき所に入ったとき突然懐中電灯が2、3回点滅したかと思うと明かりが付かなくなった。それぞれがスイッチの切り替えをしてもつかないので故障したと思い、懐中電灯の底を叩いたり振ったりしながらスイッチを入れ替えたりしていたが、それでも明かりがつかないので、あきらめた。そうして真っ暗の中、目を凝らしてじっと病院の様子を見た。
おぼろげではあるが、病院の建物は、色は剥げて所々剥げ落ちているが、元が白のペンキで塗られていた事もあり、うっすらと奥の方に建物が見えた。先程病院の玄関にあったっていた南京錠が掛かっていた所の建物の中腹辺りとその向かい側にも建物が見えている。その建物間は遠く視界も悪い為、正確に判断できないが、50メートルぐらいの間隔であいていたと思う。その建物をつなぐ道にも見える。その中庭らしき所の地面は。コンクリートではなく土でボコボコと隆起しているかの様で、ところどころには、雑草が腰くらいまで生い茂っていた。どうやら病院の中庭らしき所のようだ。そして南京錠が掛かっていた玄関らしき建物は、L字型になっておりその別の建物と繋ぐところではない方には、松の木らしい木が5メートルぐらい先に見えた。松の高さは2から3メートルぐらいだ。その松の木らしき後ろには何か良く分からないが物が積み上げられているように見て取れた。机のような物だと思うが、乱雑に積まれているように見えた。みんなが辺りを思い思いに凝視していると、暗闇に慣れてきた事もあってか、なんか拍子落ちしたかのように、ビビって損したと口々に声を出した時松の木の後ろ辺りから、物音が聞こえてきた。「ガリ・・・
ガリッ・・・」気のせいだと思い周りを見渡した優喜は1人の顔が引きつっているのが暗闇の中であるが感じとれた。それは優喜にとって親友と呼べる武史だった。武史は何かに驚いた様子で瞳孔がひらいたかのような目で声にもならないような声で言った。
「あ・・あ・・あれ・・あ・あれ」
指を指してほかのみんなが指の方向を一斉に凝視した。緊張が走る。その方向には何か得体の知らない物が見えた。そうして音がはっきりと聞こえた。「ガリ・・・ガリッ・・バリッバリッッ・・」音の方に目を向けていた間、少しの沈黙が訪れた。ビックリして後にいるみんなの方に優喜が振り返ると、みんなの姿がその場所に誰も初めからいなかったようにいなくなっていた。嫌な汗が背中にながれた。慌ててその場所から逃げ出した。
工事現場の網の封鎖された穴から抜け出そうとするが服が何かに引っかかった。無理やり力をいれ強引に出た為か背中辺りに何か熱く感じる。多分何かに引っかかり擦りむいたと思った。Tシャツは、破れているのがわかった。出た所で友人達が待っていると思っていた優喜だったが、辺りを見渡しても姿見えない。物音も聞こえなかった。暗闇の中でいるとさっきの恐怖が襲ってきそうで、とりあえず川沿いの道まで足早に走っていった。そうして川沿いの道に辿りついた時
辺りに友人のみんながいないか優喜は見渡した。
だけど誰もいない。物静かで暗闇だけであった。
恐怖からか思考がまともに働いていなかったことに気がつき、ポケットに入れていた携帯電話を持ってきていることに気がつき、武史の携帯を電話してみた。trrrr―― trrrr----
出ない。他の友人達にも電話したが、出なかった。
自分を置いて帰ったのかと思い、帰ろうとして友人の武史の携帯に留守番電話のメッセッジーの録音に先に帰った事に対してメッセッジーを残そうとして電話した時、少し離れた所から着信音が聞こえるので、なんだと思い、呼び出し音の聞こえる方に目をやると、そこには・・・あの廃病院の3階辺りに真っ赤なカーテンが風に揺れていた部屋の方から聞こえてくる。まさか・・・・と思い、優喜は全身の毛が逆立つような激しい寒気が襲った。病院を眺め茫然と立ち尽くしている間にも時間がすぎていくばかりで、誰も帰ってこない。どうして、よりにもよって、あそこに携帯の音が聞こえるのかと思った。あそこまでみんな本当に行ったのかと思い優は、覚悟を決めて、あの見る限りおぞましい真っ赤なカーテンがたなびく所に向かう決意をした。