甘さは控えめで
バレンタイン。世の男女が浮き足立つ、特別な日。その日の為に抜かりなく準備する乙女心を、彼は理解してくれるだろうか。そう、私にも、渡したい特別な人がいる。
「はぁ〜、どうしよっかなぁ。マドレーヌ、カップケーキ、はたまたポップキャンディとか?」
「美香、独り言」
「はーいっ」
母の注意も上の空に聞き流し、美香は渡す相手の事を思い浮かべる。
学校一と名高いクールイケメン「待宮 司」君。高校二年生になって初めて同じクラスになったが、噂通りとても静かで私も滅多に話さなかった。
でもあの日、いつも話さない彼が、私のちょっとしたドジに反応して笑ったあの笑顔に、恥ずかしい話一目惚れしたのだ。最近は女子と話しているところをよく見かける。
「尚更、張り切らなきゃ・・・なんだけど」
彼が喜ぶ様なお菓子と言って、思いつくものが何も無い。思い切って聞いてみるのも考えてみたけど、やっぱり恥ずかしいし。
何より、彼はモテる。女子を敵に回すような行動はしたくなかったし、同じ様に考えてる子も居るはずだ。それで待宮君を辟易させたら、バレンタインどころではない。
どこかで買おうにも、どうしても手作りを渡したい気持ちがある。買った物の方が良いという男子も居るそうだけど、私の贈り物を棄てられてでも、手作りがいいという思いが捨てられない。
キッチンに寄りかかり、もう一度スマホのサイトをスクロールする。色とりどりのお菓子の説明や作り方がズラっと書かれている。目星は着いているが、最後の一歩が踏み出せない。
優柔不断な私自身の状況にため息が出ると、不意に手が揺れた。しかし手では無くて、手に持っていたスマホが揺れたのだ。画面には知らない番号が。警戒心を持ちつつも、私はコールに出る。
「もしもし、どちら様ですか?」
「待宮司です。立川美香さん、で合ってるよね」
私は目を丸くして、危うくスマホを落としかけた。考えていた本人が出るなんて。
「待宮君!?え、えっと、どうしたの?」
「そんな慌てなくても。ただ、言っておきたいことがあっただけ」
相手は冷静で、淡々と話を進めていた。頭の整理が追いつかないまま、彼は言葉を繋げていく。
「俺、甘い物嫌いじゃないんだけど、甘過ぎるのは嫌なんだよね」
「え?」
「丁度、蜂蜜ぐらいの甘さ、かな」
「それってどういう・・・それに何で私の連絡先」
「それじゃ、また学校で」
待って、という暇もなく電話は切れた。
「蜂蜜入りマカロン、作ろっかな」