【短編】月下星夢~輝く命は月より尊い道を辿る~
「ああっ、月に行ってみたいよぉ……」
一人の少女が真夜中、真ん丸の月を下から見上げる。
十歳にも満たないような可愛らしい子供。
彼女が嘆く内容は、たった一人のちっぽけな自分では到底かなわぬ内容だ。
今思う彼女は今こそ実現したい夢。
大人になるまで待っている時間も躊躇もない。
明日になるときには月はすでに沈んで、新しい朝日が顔を出す。
そして、その日の夜には月は変わらず昇るのだが、そこで問題が発生する。
今日は満月、綺麗な満月なのだ。
このチャンスを逃すと最後、次にお目にかかるのは一か月ほど後になる。
下手すると一か月後に天候が悪く、そのまた先になってしまって更に遅くなってしまう場合もある。
だから今日、この任務を成功させなければならない。
『月を我が手で掴み取る』それが、本日の任務だ。
「よしっ! やるかっ!」
根気よく自分に気合を入れて自信を与える。
今、自分がいるのは自分の家の屋上。
夜空の星空を観察するにはかなり豪華な場所だ。
家族もみんな寝て、今はただ一人、いつも通りの星空観察。
そして今日、やっと満月に行くチャンスができた。
「えぇっとぉ、確か……」
少女は思い当たったように言葉を漏らすと、一度家に入り込む。
それは、月に行くための道具を取りに行ったと推測できる。
勿論、どこの家にもあるような物を、だ。
希望を抱く少女。
その心構えは実に素晴らしい。
でも、壮大な夢を持ちすぎるのは逆効果でもある。
この年齢で、一人で月に行くのは多分無理だ。
だけど、今の彼女の目には月と希望しか映ってない。
自分一人で月へと行ける――そんな希望を抱いて彼女は再び屋上へと戻ってくる。
「おっもぉー!」
彼女はある物を引きずって定位置へと持ってくる。
引っ張って来たのは重そうな脚立、ただそれだけだ。
これも全て月へ行くためだ、夜空に輝く星々の一つの為。
――そう考えれば、いくらでも頑張れる。
「よいしょっと」
寝そべっていた脚立をゆっくりと立てると、少女は一息つく。
そして、準備万端の少女はゆっくりと脚立に登り始めた。
一段一段を慎重に踏んで登る。
ここで踏み外したりなんてしたら、月どころでは無くなる。
別のかなえられたはずの夢も消え、親も深く悲しむ。
月に行くなど、数ある夢の中のたった一つに過ぎない。
しかし、それも夢。
絶対に叶えたい夢のうちの一つだ。
チャンスがあるのなら、躊躇いもなく実行する。
「ふんっ!」
脚立の上に立った少女。
月に向かって何度も手を伸ばす――が、全然届かない。
「何でっ? 何でっ!」
すぐ目の前に、近くにあるはずなのにギリギリで届かない。
脚立の高さのおかげて月との距離も短くなったはずなのに届かない。
なかなか掴むことの出来ないことを実感した彼女は、ついに最終手段へと移ろうとする。
最終手段。
それは――脚立から飛び降りること。
「えいっ!」
希望を失いかけた少女だが、これで本当に掴めると思ったのか、脚立をバネ代わりに月へと一直線に踏み切った。
今の彼女に恐怖など無い、あるのは夢と希望だけだ。
「――あと、少し……」
飛び立った瞬間、月と自分との距離が一気に詰められたような気がした。
だけど、本当にあと少しだった。
目の錯覚か何だろうか、それともただの幻覚か――
「――――」
気づいた時にはもう遅い。
彼女は、脚立から飛び降りたのだ。
ただ飛び降りただけなら軽傷で済むかもしれない。
だが、少女が飛び降りたのは屋上にある脚立から。
30m程下には、硬いコンクリートの地面が待ち構えている。
やば――い。
頭の中をよぎったのはそれが最後。
あとは、何も考えることが出来なかった。
――速い速度の中、重い頭を先頭に少女は真っ逆さまに地上へと落ちていく。
スピードのあまり叫ぶことも出来ない。
仮に叫ぶことが出来たとしても、少女の落ちる速度に敵う者はいない。
完全に、詰んだのだ。
彼女が風を切りながら落ちる姿を例えるなら、カバンから誤って落としてしまったトマト。
――それが今、中に詰まっている水分を地面に撒き散らして、潰れた。
夢も希望も、消えた。
ご清聴ありがとうございました。
終わったので、ブクマはどちらでもいいですが、評価をいただけると嬉しいです。
30分程度で書いた作品なので、誤字とかあったらごめんなさい。
ブクマと評価、1人で最大12ptも入れられるんですね。
次回作の励みになるので応援お願いします……。