第4話 天から降りたる光
アルカイド・ノイエ帝国 北辺 ノヴァルーシ辺境伯領
領都 ノヴァシビルスク近郊
「はぁはぁはぁ‥‥!!」
1人の少女が森の中を駆けていた。
額からは珠のような汗が流れ、美しい金髪は落ち葉や土にまみれ、
恐らく上質なものであったであろう白いワンピースは汚れ、所々が破れている。
「探せー!遠くには行っていない筈だぁ!」
「見つけたら叫べ!」
遠くからは野太い男達の声、
彼女が追われている何よりの証だ。
「はぁ……はぁ……お父様……お母様……きゃっ!……」
少女は木の根に躓いて転倒する
そしてそのまま斜面を転げ落ち、開けた場所へと投げ出される。
それがこの少女の運の尽きであった。
「何をそんなに急いでいらっしゃるのですか、お嬢さん?」
「ひっ‥‥!来ないで」
転げ落ちた先は、街道。
そこには乗馬した30名程度の山賊が待ち構えていたのだ。
「あっしらも嫌われたもんですねぇ……オリガお嬢様ぁ……貴女がお持ちの【アンジェリカの護符】を渡して頂ければ丁重にお送り致しますのに」
山賊のリーダーとおぼしき男は下卑た視線を少女に向ける。
彼が約束など守らない気なのは見ていて明らかだ。
「渡すものですか、もうすぐイザークが応援を呼んで来るでしょう。あなたたちなど今に騎士団が討ち取ります。」
少女は気丈に男を睨む。
しかし……
「はて……応援を呼んで来るイザークとやらはもしかして……」
山賊の男が部下に命じて馬から荷物を下ろさせた。
否、荷物ではない。鎧を着た人間の男性だ
しかし、彼女の記憶にある凛々しい護衛隊長では無かった。
兜は無惨に割られ、頭部からはかなりの出血。
全身に火傷や切り傷、地面に引きずられたかのような傷がみられる。
「っ!!イザーク……嘘でしょう……」
少女は変わり果てた護衛の姿に先程までの気丈さが消える。
「ははは!『お嬢様は私が守る!』とか言ってた癖にこのざまだよ!弱い弱い」
「ゲハハ!何が『いざ、尋常に』だ。バーカ」
騎士をいたぶり罵る姿はまさに外道。
しかし、これは彼等の選んだ道なのである。
「ハハハ諦めるんだな」
下馬した山賊はじわりじわりと少女へとにじりよる。
護衛も居らず、援軍も期待できない少女の命運は尽きた。
……かに思えた。
因果応報
その言葉がふさわしいのかも知れない。
神は平等 肩入れなどしない
故に自分が与えた理不尽は理不尽として自分へと戻る。
その時が来ただけに過ぎない。
天から降りたる光が今まさに少女へと手を出そうとした山賊を弾き飛ばした
◆◇◆◇◆◇
「1名さま流れ星へとご案内~♪」
私はなるべく、ゆるーい口調を心がけながら箒から降りた。
「へ………?」
私の背後で少女が戸惑っているのが解る。
まあ、当たり前だろう。
本人からしてみれば『この状況から助かる√があるんですか!?』みたいな感じだから。
「リリー、どうする?私がやる?」
リルが、聞いて来る。
私が魔法を使いたくない事を察してくれているみたいだ。
しかし、大丈夫。
切り札はある
「野郎ふざけやがって!!たかだかガキが二人増えただけだ!!やっちまって売り飛ばしてしまえ!!」
おーおー怖いです。
でも私も怒っています。
少女相手に囲んで暴力をしようとしていたのだから。
(もしリルが気づかなかったら危なかった)
私は1枚の古びた札を取り出す。
札には燦然と輝く太陽と白馬に跨がる人物が描かれている。
私の即席魔法ではない。
その元となった古代遺物
「【バラバーノフの魔法札 19番 太陽】解放」
炎の奔流が札より迸る。
溢れた炎は交わり炎の柄を形成する。
そして私は札から突き出た炎の柄を握りしめ、一気に引き抜いた。
柄から刀身までが炎で作られたレイピアが現れる。
どうして柄まで炎でできているのに火傷しないのかは謎だ(さすが異世界ぱわー)
「強敵は私にどんなモノを見せてくれるのかしら?」
私は炎でできた剣を一振りして嗤う。
「やべぇ!!魔法札持ちだ」
「所詮はガキだ!!大した力は引き出せない!!囲め!!」
山賊達は各々の武器を構える
「ここは森だ!!迂闊に炎は使えない筈だ!やっちまえ!!」
そこまで頭は悪くないようだ、
しかし『太陽』の力は炎だけではない。
「うわっ!なんだ、植物がぁぁ」
「苦じい……足が動かない……」
太陽の恵みは植物を育てる。
異常に成長した植物は山賊達を絡め取り、行動の自由を奪う。
「騎士団が来るまで大人しくしておくところね」
一丁上がりっと……そう一息ついた時
「ふざけるなああああああああ!!」
怒鳴り声が聞こえた。
見ると山賊リのーダーらしき男が植物の拘束を無理やり破っている。
彼を見ると光る札のようなモノを持っていた。
こいつも魔法札持ち?
魔法札として純正なものは古代の賢者が作成した一点モノ、
複製品だとしてもそんなにポンポン存在しない
故に一介の山賊が入手できるようなものではない筈だが……
「ガキ1人にやられてたまるか!!」
怒声と共に筋肉が異常に肥大する、
メキメキと不快な音をたてながら……うわっキモっ!!
「8番 『力』の魔法札かしら? 」
あ、でもこれあかんやつ きっと粗悪な複製品だ。
本来の魔法札としての機能が逆転している。
トロールとオークのハーフのような風貌となった男は私に向かって豪腕を振り下ろす。
「きゃっ……!!」
レイピアで受け止めるものの、さすがに体格差からパワー負けした私は後ろに飛ばされる。
蔦を網目状に伸ばして着地の衝撃を緩和し、助走をつけて飛ぶ。
「魔法札を渡せぇぇぇ!!金になる!!」
おーおー狂ってる。
魔法札は……腕に埋まってる
魔法札を破壊すればなんとかなるか
「残念だけれど、腕は諦めなさい」
一足飛びで男の懐に入り込んだ私は龍○閃の要領で下から両腕を切り上げる。
「な"に"っ!!」
そして飛び上がった空中で反転し、レイピアの切っ先を下に向け左腕に埋まっている魔法札目掛けて落下する。
「はあああああああぁぁ!!!」
レイピアの切っ先は魔法札に突き刺さり、魔法札は炎に包まれて焼け落ちる。
「ウヴァアアアアアアアいでぇよおおおおお!!」
魔法札が焼け落ちると同時に凄まじい叫び声が聞こえた。
「落ち着きなさい。傷口は焼いてあるから死にはしないわ」
魔法札の力を失ったせいか、元の姿に戻った山賊のリーダーは痛みのせいかのたうち回っている。
我ながらなかなか残酷な事をしていると思うが、完全に自業自得なので麻痺の魔法で意識を奪うに留める。
欠損回復魔法を使えない事も無いが時間の巻き戻して回復させるタイプなので魔法札ごと回復させる可能性が存在するため使えない。
「ふう……これにて一件落着かしら?大丈夫?」
今度こそ逃げられないように山賊達を蔦で拘束した後、私は少女の元へと向かう。
負傷しているなら治療する必要があるからだ。
「あの……ありがとうございます」
水や土に汚れた上に草木に引っ掛かってボロボロになっていたワンピースは脱がされており、リルの着ていた上着を代わりに着ている。
「リル、ありがとう。とりあえずその格好は良くないわ……安物で悪いけどこれに着替える?」
多分私より年上なので私の着ている服ではサイズが合わないのでアイテムボックスの中に奇跡的に入っていたメイド服を渡す。
しゃーない、これしかまともな服が無いのだから。
「ありがとうございます……!!私はノヴァルーシ辺境伯家長女オリガ・ノヴァルーシと申します。このご恩は必ず……!!」
おおー思ったより大物だった!!
しかし、災い転じて福と為す
ちょうどノヴァルーシ辺境伯には用事があったのよ!!
「気にしないで、それよりお礼はリルに言って?貴女をたまたま見つけたのはこの娘よ、」
「気にしないで、私は言っただけ」
「いいえ、それでもこの度は命をお助け頂きありがとうございます。」
リルもこの娘もええ娘や、権謀術数渦巻く皇城に居た身が癒される……
とりあえずノヴァシビルスクの騎士団を探そう!!