第1話 スローライフの破綻
はいどうも元第4皇女のルナーリリア・ラ・アルカイドことリリー(偽名)です。
あれから4日経過しました。
アルカイド帝国辺境にある精霊の森にて憧れのスローライフを始めたのですが、早々に問題が発生しました。
「うわー!!つまんなーい!!」
晴耕雨読、前世では憧れていましたがこんなに退屈だとは思わなかった。
畑を耕す・・・・土魔法で解決
畝を作る・・・・鉄腕!D○SHを参考
種まき・・・魔法
土に魔法で加護を与える・・・生産ブースト
いやもうこれ畑仕事じゃない。
作物できたら家を建てる。
魔法・・・わーべんりー
これ………スローライフする意味無くない?
そう悟った。
そして僅か4日で私のスローライフは破綻したのであった。
如月杏理
私のもう1つの名前
如月杏理としての人生は20年にも満たなかった。
ある日あっけなく終わった。
ある夏の暑い日に、大学のフィールドワークが終わり友人と遊びに行こうとした時、目眩と共に意識が暗転した。
おそらく熱中症だったのだろう。
昔から遺跡や古墳のフィールドワークが大好きで水分補給すら忘れて研究に熱中していた。
今思い返しても後悔しかない。
もっと学びたかったし友人と遊びたかった。
親より先に死んでしまったのも申し訳ない。
その分今世こそは親孝行したいと考えていたが…………
さすがにあんまりにあんまりな一族で……
もし私が前世の精神年齢を引き継いでいなければ精神崩壊もあり得る家庭環境なのだ。
祖父に感謝、南無。
いつまでもマイナスに考えていては得にならないので建設的な事を考えよう。
まず、私のしたいこと
探検・・・この世界の歴史や生物学・地質兎に角知りたい
それなら……
「んー?森の奥に行ってみようかなー」
異世界といったら冒険!!
今までずっと城に居て、皇女らしい行動を心がけていたので実は魔法が使えるのに冒険できないことに欲求不満だったのだ。
そうと決まれば善は急げ!!
私はアイテムボックスから一本の箒を取り出す。
見かけは普通の箒
「じゃじゃーん、試製箒型魔力噴流式飛行器11型」
皇女教育のストレス発散に開発した魔力を使わずに空を飛ぶ為のアイテム!!
緊急時の逃走手段だ!!
私は早速箒に跨がると、離陸の為の最終確認に入る。
「離陸補助動力装着ヨシ!慣性相殺装置ヨシ!!水平安定翼展開、トリム調整ヨシ!」
離陸補助動力は滑走路が短い際により早くVRに到達するため、爆発系統の魔法を仕込んだ魔法具だ。
あと空中での方向転換、ヨー方向でのコントロールも司る。
あとは体重移動でロールを制御すれば自由自在に操作できる。
そして空中での速度増減の際に箒から投げ出されないように慣性を魔力で制御することによって箒に安全に張り付いて居られるようにする魔法具が付いている。
「気温、28度、前方森林破壊500メートル、V1、50ノット、VR、70ノット、魔力噴流器、ブースター点火」
慣性制御によって幾分か和らいでいるものの、背後から突き上げる力は自分で飛ぶ場合の比ではない。
「魔法掲示板ON」
ステータスボードのようなものが私の前に顕れる。
前世の計器に相当するもので、大気速度・高度・降下率・残魔力・EMRなどの必要な情報が表示される。
「離陸推力、パーキングブレーキ解除。」
水平安定翼下部の重力制御機が収納されると共に箒は凄まじい速度で離陸滑走を開始する。
「V1………ローテート」
500メートルほどの森の開口部の半分も行かないうちに、箒は浮揚を始めた。
そしてそのまま機首を上げると
「よし!飛んだ!」
スルスルと箒は地面から離れる。
その光景はまるで前世の旅行で乗った飛行機のようで……
「ううん……駄目、私はもうあの世界の如月杏理じゃない、ただのリリー」
自分に言い聞かせる。
でも大丈夫、
この世界にはまだ私の知らない事でいっぱいだから。
未知の世界にワクワクしている間は
「私は私で居られる、目指せ!名も知らぬあの山へ!」
私は森の遥か先にある、雪解け間近の山へと機首を向けた。