1-09 夏風邪
七月。
梅雨明け間近の曇りの日。
期末テストが終わった。
ここからは、テストの返却と球技大会。
それが終われば、晴れて夏休みとなる。
しかし、懸念はある。
いかに球技大会に出ないか。
それを考えなければならない。
が、実際に打てる対策は無いのが辛いところだ。
最近なぜか委員長と放課後よく勉強したりしているが、その委員長を丸め込んで球技大会をやり過ごすのは、なんか違う気がする。
まあ、いざとなったら当日風邪でもひけばいいか。
「はぁ……38度、か」
と思っていたら、本当に風邪をひいてしまった。
てか早い。
風邪を引くなら球技大会のある来週だろ。
「ぶぇっくしょん!」
うむむ……やはりテスト終わりの解放感に浸って夜中まで読書とかしていたのが原因か。
『どう考えても、湯上がりにパンツ一丁の格好でチューペットを四本も食べるからだよ……』
上空で呆れるイケメン浮遊霊に何か物を投げつけてやろうと思ったが、その気力も無い。
まあどうせ、何を投げてもヤツの身体は素通りしてしまうけど。
いや待て。
神社の御守りやお札ならどうだろう。
うまく除霊できたりしないものか。
それよりも般若心経でもヘビロテする方が効果的か。
『……ひどい事を考えてるね、キミ』
「うるせぇ、さっさと成仏しないヤツが悪い」
ヤツが俺に取り憑いて、もう三ヶ月になる。
その間ヤツは自分の未練はおろか、自分の名前すら思い出せていない。
『まあまあ、もう少し長い目で見てほしいな』
当の本人は、お気楽に笑ってふよふよと浮かんでいるのが、また腹立たしい。
「つかさ、なんで俺に取り憑いたんだよ」
『それが判れば、未練のヒントくらい見つけられるかもね』
ダメだコイツ。
まるで緊張感が無い。なんなら現状で満足しちゃっているのではないか。
『うん、カズキとの生活は楽しいよ』
「……気持ち悪いことを言うんじゃねぇ」
『でも本音だよ。もしもボクとカズキが同じクラスで、同じ部活だったら……』
「やめてくれ。ただでさえ食欲が無いのに」
『それはいけない。早く治ってくれないと、からかう相手がいないじゃないか』
なるほど、そういう風に考えていたんだな?
よーく分かった。
風邪が治ったら神社へ直行だ。
『じょ、冗談だよカズキ、キミとボクの仲じゃないか』
「どんな仲だよ……」
『もちろん親友さっ』
うぜぇ。
霊のクセに歯を光らせて笑うなよ。あと親指立てんな。
まあいい。せっかく学校を休んだんだ。
熱もあることだし、とりあえず寝よう。
──良い匂いがする。
これは、出汁の香りか。
母さんが心配して、仕事を早退してきたのかな。
寝たらだいぶ楽になったけど……あれ、いつのまに氷枕が?
これも母さんか……ん?
なぜスマホなんて持って寝てるんだ。
あれ、通知が来てる。
──はぁあああ!?
なんで?
なんで委員長から、待っててね、なんてメッセージが来てるの?
えっと……え。
家に行くって、どういうこと?
てかなんでウチの住所が委員長とのトークに書いてあるの?
……俺が打ち込んだの?
なんで?
なんで?
訳が分からずに、必死に記憶の糸を辿ろうとする。
が、その糸の端っこを見つける前に、部屋のドアがノックされた。