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1-08 委員長の追求

 



 委員長に連れて来られたのは、駅の東口に近いカフェだ。

 この前の、西口側にある筋肉カフェとは程遠い、ごく普通の、地元の高校生が多く集うカフェ。


 その隅っこの一角で、俺と委員長は向かい合って座っていた。


「来月、球技大会があるでしょ」

「その前に期末テストだけどな」


 あの時とは違う、普段と変わらない委員長の髪が揺れる。


「カズキくんは大丈夫でしょ、テストは」

「まあ、一応」


 何処で知ったのか、委員長は前回の俺のテストの点数を把握しているようだ。


「惜しかったなぁ。あとちょっとでカズキくんに勝てたのに」

「え」

「テストの学年上位二十人は、職員室の壁に掲示されるんだよ」


 知らなかった。


「カズキくん、職員室に行く機会なんて無いもんね」


 まあ、そうだけど。

 でも情報として知らなかったのは、なんか悔しい。


「で、球技大会なんだけど」

「あ、ああ」


 委員長の表情が心なし硬いく見える。


「体育の時、カズキくん本気でやってないって聞いて」

「え」

「特に走る時とか、手を抜いてるって」


 確かにそれは合っている。

 足の古傷に(さわ)らないように、体育の時間は加減して動いていた。

 つか誰だよ、その情報源。


「やっぱり、本当なんだね」

「いや、それには理由があってだな」

「理由って、どんな?」


 そこで俺の言い訳は止まる。

 足の古傷を話すということは、俺の過去を知られるということ。

 それは、自ら心を(えぐ)る、自傷行為。

 俺は、俯くしか出来なかった。


「ふう、言いたくないのね」


 委員長のひと言で、少しだけ空気が和らいだ。

 ふっと微笑んでバッグを開けた委員長は、一枚のプリントをテーブルに置いた。

 どうやら本題に入るらしい。


「で、球技大会なんだけど、カズキくんは大丈夫?」


 大丈夫とは、どういう意味だ。

 出なくていいなら出ないし、やる気を問われたら無いと即答するのだが。


「あ、いや……もしかしたらケガとか、してるのかなぁって」

「──いや、特には」

「そう、よかった」


 委員長の雰囲気は柔らかさを取り戻し、長ったらしい名前のコーヒーを飲む表情は少し笑っている。

 よかった。

 俺の咄嗟の嘘は、バレていないようだ。


「できればさ、カズキくんにも球技大会、楽しんで欲しいから」

「それは難しいな」

「どうして?」

「俺は、チームプレイが苦手だ」


 素直な気持ちを言葉で吐きつけると、委員長は笑い出した。


「あははは、なんかわかる」

「さいですか」


 苦笑する委員長を横目に、俺は抹茶ラテを啜る。


 しかし、なぜ委員長は俺なんかを気にかけるのだろう。


『カズキはそのへん、鈍感だよねー』


 あん?

 なんか言ったかイケメン女ったらしオバケめ。


『どんどん呼び方がひどくなる……』


 つか黙っていなさいよ。

 昼に活動的になる霊なんて、違和感しか無いぞ。


「カズキくんはさ、何に出たいとかある?」


 ん、ああ。

 まだ球技大会の話か。


「んー、サッカー以外なら何でも。補欠ならなおさら嬉しい」

「やる気はないんだね……」


 当たり前だ。



お読みくださいましてありがとうございました。

次回もこの場所でお会いできたら嬉しいです。

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