1-05 そーまっそー
委員長に案内されたカフェは、西口から歩いて三分くらいのビルの一階だった。
というかこれ、
「喫茶店……」
「違うよ、ほら」
委員長が指差す看板には、「カフェ・ド・マスキュラー」と書いてあった。
「美味しいんだって、ここのプロテインタピオカ」
は?
え?
初耳過ぎる。
普通のタピオカを体験する前に、訳わかんない変化球を味わってしまうの?
あとイケメン浮遊霊。
空中でボディビルのポーズとるのやめろ。ウザい。
『肩にちっちゃい戦車乗っけてるのかーい』
戦車どころかヒヨコすら乗らないだろ。霊なんだから。実体無いんだから。
『てへぺろ』
……危機感の無い霊だ。
成仏する気、あんのかね。
『無いね。友達100人作るまでは』
ちなみにあと何人だ?
『霊になって振り出しに戻ったから……いや、あと99人かな』
……まさかそれ、俺はカウントされてないよね?
『もちろんだよ、マブダチカズキ♪』
はぁ、キモい。
そしてめんどくせぇ。
「ほらほら行くよ、カズキくん」
「へいへい」
一瞬、委員長に下の名前で呼ばれた気がしたけれど、気のせいだろう。
委員長の後をついて、店内に入る。
どうやらここは、ダイエットを売りにしている女性向けのカフェのようだ。
その証拠に。
「いらっしゃいませー」
「二名サマですかぁ?」
やけに甘ったるい声で接客している店員さんは、全員スタイルの良い女性だ。
しかも皆さん、腹筋まる見えヘソ出しタンクトップにショートパンツ。
引き締まったボディを存分に見せつけている。
いかん、これは目の毒だ。
肌色、いや小麦色率が多すぎて困る。
『うわー、これはすごいね。生まれ変わったら来てみたいね』
イケメン浮遊霊まで浮かれて、来世の希望とか語ってやがる。
その間に委員長が席を決めたようで、何も知らぬままに俺はドナドナされることとなった。
「どれにする?」
こちら向きにメニューを開いて見せるのは、四人がけテーブルの向かいに座った委員長だ。
ふむ、各メニューにカロリーや栄養素の表示がある以外、メニュー自体は普通の喫茶店っぽい。
お、ピラフやパスタもあるのか。
「ふむ」
とりあえず注文を決めて、メニューを委員長に向ける。
「私はね、もう決まってるんだ」
にこにこと笑いながら、委員長はメニューを閉じた。
「お待たせしました〜」
目の前には、およそダイエットカフェとは思えないような料理が並んでいた。
「なんだこれ……」
「パンケーキだよ」
「いや、大きさがね」
大きめの白い皿に、大きなパンケーキが3枚重ねで載せられている。
その上にはクリームが渦を巻き、フルーツがぶっ刺さっていた。
「これで300キロカロリーしかないんだって」
いやいや充分なカロリーでしょ。
つか、今日は飲み物をご馳走する約束だった筈だけど、委員長はこのパンケーキを飲み物として認識しているのん?
「あ、飲み物代だけ奢ってくれたらいいから」
委員長は笑顔で言いながら、パンケーキを切り分けていく。
「はい、これは飲み物のお礼」
目の前に差し出された取り皿には、パンケーキの半分が載せられていた。
「……パンケーキの方が高くない?」
「いいのいいの、私が無理に付き合わせちゃったんだから」
唖然とする俺を尻目に、委員長はパンケーキを口に運び、タピオカドリンクを飲む。
「んー、おいしい」
ドキリと鼓動が跳ねた。
俺の人生において、女子と同席して食事なんて経験は皆無だった。
ましてやこんな可愛い子と、ひとつの物をシェアするなんて。
「……あり得ない」
『あり得なくなんてないさ。現にこうして、キミは女の子との食事を楽しんでいるじゃないか』
楽しんでいる?
俺が、か。
「うんうん。これで300キロカロリーなんて、あり得ないよねー」
目の前、パンケーキを食べては綻ぶ笑顔を、俺はぼんやりと見つめていた。
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