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視覚透過装置  作者: 小川藻
8/19

08

 芳野は朋彦が持って帰った《視覚透過装置》を用いたいという。朋彦は「うお、なんでさ」とちょっと素が出つつ応答する。



 芳野は再び沈黙する。朋彦はしばらく待つことにした。



「いたずらをしている人が、どんな顔していたずらしているのか……同学年でいつも一緒に勉強したりする人たちが、一体どんな顔で……いたずらしているのか……見てみたい」


「《視覚透過装置》で覗くわけだ」


「うん。男子だし、サッカー部だし……面と向かってやめてって言えないから。だから覗く。……協力してくれる?」


「《視覚透過装置》は家に持って帰ってる。明日持ってくる」


「わかった。ありがと」



 そう言って芳野は立ち上がり、ちょっと髪を触っていたずらっぽく朋彦に微笑んで、口に手を当てる。



「荒木君が何を覗いたのかは、聴かないから」



 しばらくして、体育館の男子校更衣室はいつもの静けさに立ち戻る。ただ、森川芳野の残り香があるような、そんな気がして朋彦は立ち上がって部屋の中を少しだけうろうろして、そして練習の時間が近づいていることを理解した。



 練習では、ずっと主将の落合に言おうと思っていたことを、ついに告げることにした。


「落合、俺と落合とでペアを組んでいるわけだが」


「どうした」


「プレイスタイルからして、どうも俺たちは合わないような気がするのだが」


「ペアを変えたいのか」


「有り体に言えば、そう」


「荒木の言いたいことはよくわかる。……あんまり合わないよな」


「うん」


「だが、よく考えてみてくれ」



 そういって、落合は人気のないところへ朋彦を連れだして、部内のペアについて語り始めた。



 まず、絶対に反りが合わないやつがいる。そいつとそいつがそれぞれ、別の男とペアを組む。次に、団体戦で勝つためにシングルは誰が良いのかを考える。また、ペアの相性以前の実力の度合いを指し示す。



 これらを勘案すると、今のままのペア編成が良いのだ、と落合は説く。朋彦は、自分が新たなペアを組んだ時のチームとしてのリスクをすんなりと理解した。そして、落合が思った以上に周囲をよく見て部活をリードしているのだと理解した。



「落合、すまん。良くわかった。さっきの話は忘れてくれ」


「いやこっちこそすまんな。相対的に、今のがベストだと俺は思う。どうだろう」


「ああ。俺が身勝手だった」


「いやいや、これからも副主将としてよろしく頼む」



 落合がただの熱血ではなく、冷静に広い視点で物事を見ていたことがわかると、朋彦は落合との練習にもなぜだかより親和的になれる気がした。



 練習が終わり、片づけをしていると、女子の主将の山本晶が一台だけ卓球台を残していた。体育館の奥で片づけを終えて帰ってくると、山本晶が陸上部の浅尾と卓球で遊んでいるのが目に入った。浅尾は走るのだけでなく運動神経が良いのだろう。山本とそれなりに上手くラリーをしている。



 彼女たちはクラスで同じグループなのだ。友人と遊ぶ時でさえ、山本は踏み込みの音がやたらうるさい。踏みこみ音をかきわけて、楽しそうに山本は浅尾に話しかけている。寡黙な浅尾も、なにやら言い返している。



 家に帰ると、妹が居間で勉強していた。わからないところはないか、朋彦は尋ねる。ちょっとしてから、妹は英語の構文について尋ねてきた。夜に家族と、旅行について話をした。





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